過去の人間の意識と自分の意識をつなげることで、過去を見られるという「過去幻視効果」。
その効果を得られる新薬の被験者となった大学生・香坂明。彼の意識は明治時代に飛び、若き日の折口信夫とつながった。
折口信夫は、柿本人麻呂の子孫に伝わる古歌の秘密解明に取り組んでいた。複雑な暗号に挑むうち、背後に人麻呂と伝説の歌人・
猿丸大夫のある関係が浮かび上がる。さらにその先には悲劇的な事件が待ち受けていた。
第26回江戸川乱歩賞受賞作。
この26回乱歩賞には、島田荘司の『占星術のマジック』が最終候補となっていた。『占星術~』は、選考委員の受けが悪かったらしく、
本書が受賞となったようだ。
「奥山にもみじ踏み分け鳴く鹿の・・・」という歌で知られる猿丸大夫は、実在するかどうかも不明なほど正体のわからない謎の
歌人なのだそうだ。本書はその猿丸大夫の正体を究明している歴史ミステリである。そして、古歌やいろは歌に隠された暗号を
解き明かす暗号小説(?)でもある。
すべてが「猿丸大夫は誰なのか?」ということに重点が置かれているため、途中で発生する殺人事件のトリックには、目新しさはないし、
幻視というSFチックな設定も何か中途半端な感じになっている。それでも、その欠点を補って余りあるほどの面白さがあった。
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