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ミステリー(国内)



『猿丸幻視行』 井沢元彦(講談社)
笑い0点 涙2.0点 恐怖0点 総合4.5点
 過去の人間の意識と自分の意識をつなげることで、過去を見られるという「過去幻視効果」。 その効果を得られる新薬の被験者となった大学生・香坂明。彼の意識は明治時代に飛び、若き日の折口信夫とつながった。
 折口信夫は、柿本人麻呂の子孫に伝わる古歌の秘密解明に取り組んでいた。複雑な暗号に挑むうち、背後に人麻呂と伝説の歌人・ 猿丸大夫のある関係が浮かび上がる。さらにその先には悲劇的な事件が待ち受けていた。

 第26回江戸川乱歩賞受賞作。
 この26回乱歩賞には、島田荘司の『占星術のマジック』が最終候補となっていた。『占星術〜』は、選考委員の受けが悪かったらしく、 本書が受賞となったようだ。
 「奥山にもみじ踏み分け鳴く鹿の・・・」という歌で知られる猿丸大夫は、実在するかどうかも不明なほど正体のわからない謎の 歌人なのだそうだ。本書はその猿丸大夫の正体を究明している歴史ミステリである。そして、古歌やいろは歌に隠された暗号を 解き明かす暗号小説(?)でもある。
 すべてが「猿丸大夫は誰なのか?」ということに重点が置かれているため、途中で発生する殺人事件のトリックには、目新しさはないし、 幻視というSFチックな設定も何か中途半端な感じになっている。それでも、その欠点を補って余りあるほどの面白さがあった。


『ななつのこ』 加納朋子(創元推理文庫)
笑い1.5点 涙2.0点 恐怖0点 総合4.5点
 「スイカジュースの涙」「モヤイの鼠」「一枚の写真」「バス・ストップで」「一万二千年後のヴェガ」 「白いタンポポ」「ななつのこ」の7編からなる連作短編集。
「スイカジュースの涙」:本屋で衝動買いした『ななつのこ』を読んで感銘を受けた駒子は、 著者へファンレターを書いた。そこには感想のほかに、最近駒子の住む街を騒がせた”スイカジュース事件”のことも綴った。 驚いたことに数日後、著者から返事が届いたのだ。そしてその中で、”スイカジュース事件”の真相が推理されていたのだった。
「バス・ストップで」:”スイカジュース事件”の一件以来、著者と文通を続けている駒子は、 最近バス停で見るようになった奇妙なおばあさんの話を手紙に書いた。米軍居住区のフェンスとつつじの植え込みの間にしゃがみ込み、 ひょこひょこと謎の移動をしているそのおばあさんは、いったい何をしていたのか。

 本書一冊で、駒子が惚れ込んだ童話集『ななつのこ』と加納朋子の『ななつのこ』が一度に味わえる。童話など久しく読んでいなかった。 そのためか、「なぜ?」という疑問は抱いても、誰かに疑念を抱くことはない主人公”はやて”君の純真な子供ぶりを見ていると、 くすぐったいような、ほんわかとした気分になる。
 全体的に優しさ軽い驚きに満ちていて、読んでいてとても心地よかった。


『魔法飛行』 加納朋子(創元推理文庫)
笑い1.0点 涙2.0点 恐怖0点 総合4.0点
 「秋、りん・りん・りん」「クロス・ロード」「魔法飛行」「ハロー、エンデバー」の4篇からなる連作短編集。
「秋、りん・りん・りん」:いつものように短大に通う駒子は、幾つも名前をもっている 不可解な女の子に出会った。なぜか彼女は、駒子に敵対心を抱いているかのようにつらくあたってきた。
「クロス・ロード」:駒子は、幽霊が出るという噂の交差点へ行った。そこには、事故で 息子を亡くした画家が描いたという精緻でリアルな少年の壁画があった。しかし、翌日、友人とその壁画を見に行くと、 絵の中の少年は骸骨となっていたのだ。

 『ななつのこ』の続編の連作短編集。
 今回は前作のような<文通形式>とは少し異なっている。日頃、駒子自身が体験した不思議なことを物語として綴り、 それに対して前作で文通をしていた<ある人物>が推理と感想文を送る。さらに、今回は、謎の人物からの手紙 が各編の 間に挿入されていて、これが大きな謎を提示している。
 今回はメルヘンチックなミステリであり、ロマンチックな恋愛小説でもある。夢見る少女のような印象の駒子が書く物語は、 読んでいて何だか気恥ずかしくなってしまう。日常的なエピソードなのだけど、駒子の視点で見るとメルヘンチックに見えてくる。
 『ななつのこ』を読んでから本書を読まれた方がより一層楽しめます。


『日曜日の沈黙』 石崎幸ニ(講談社ノベルス)
笑い2.0点 涙0点 恐怖0点 総合3.0点
 密室で死んだ人気作家・来木来人(ライキ・ライト)の館を『ミステリィの館』というホテルとして 開館することになった。その開館前に、ミステリファンやミステリ作家・一般の人など十数人がモニターとして招待された。 集まった彼らに告げられたのは、これから行われるイベントを通して、来木来人が遺したという「お金では買えない究極のトリック」 を探ってくれ、ということだった。そう告げられた直後、テーブルに置かれていたパンを食べた女性が、突然苦しみながら倒れた のだった・・・。

 第18回メフィスト賞受賞作。
 「お金では買えない究極のトリック」などと書かれていたから、いったいどんなトリックなのだろうと、読む前に過剰な期待を寄せて しまったため、この結末には拍子抜けした。内容自体も、登場人物が無駄に多いとか、探偵役(?)の石崎幸ニが今ひとつパッとしない とか、発生する事件が中途半端だとか、不満な点が多かった。
 作中、『降霊術殺人事件』を書いた大門寺豪に見出されたのが、来木来人だという設定になっている。これはすぐに、 『占星術殺人事件』を書いた島田荘司を綾辻行人が思い浮かぶ。このほかにも、ミステリファン、特に講談社ノベルスファンだけに 受けるような笑いがいくつかあった。
 本書がデビュー作のようなので、次回作に期待したいと思う。


『あなたのいない島』 石崎幸二(講談社ノベルス)
笑い1.5点 涙0.5点 恐怖0点 総合3.5点
 断崖に囲まれた無人の島・古離島。その島に、限定心理学研究会という団体からの招待状により集められた 十数人の人々。彼らには参加するに際して、「持ち込める物は一つだけ」とう条件がついていた。しかし、 考えた末に持ち込んだノートパソコンは壊され、携帯電話も紛失、さらにCDやノベルスまでもなくなってしまった。 そんな中、悲鳴をのこして一人の女性が姿を消した。

 前作『日曜日の沈黙』に登場した情けないサラリーマン・石崎幸二と、彼を都合よく利用する、ミステリィ研究会所属の 女子高生・ユリとミリアが登場する。どうやらこの3人がレギュラーのシリーズものにしたいらしい。しかし、この3人が繰り広げる 会話がかなりくだらない。しつこいほどにこの3人の会話が続くので少々嫌になった。
 本格ミステリだからトリックや設定が面白ければいいのだろう。そう割り切って読まないと楽しめない。先日『模倣犯』を 読んだばかりのせいか、非常に本書が、内容的に薄っぺらいという印象を受けた。 もしかしたら、本格ミステリを受けつけない体質になりつつあるのかも・・・?


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