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ミステリー(国内)



『美濃牛』 殊能将之(講談社ノベルス)
笑い2.0点 涙0.5点 恐怖1.0点 総合4.0点
 岐阜県にある小さな集落・暮枝。そこには不治の病も治ってしまう奇跡の泉があるという情報が、ある雑誌社に持ち込まれた。 町田と天瀬は、その情報を持ち込んだ石動戯作という奇妙な男とともに、渋々暮枝に取材に行くことにした。しかし、のどかな 村で待っていたのは、首なし死体に始まる、名門一族が次々と殺されていく凄惨な連続殺人事件だった。

 『ハサミ男』で衝撃のデビューをした殊能将之の2作目。一発ネタだった前作とは異なり、今回は、少々 ふざけた名探偵を登場させシリーズ化を狙っているようだ。
 『美濃牛』というまるで畜産専門書のようなタイトルだが、MINOTAUR(ミノタウロス)とかけた著者のユーモアらしい。 さらに舞台が暮枝―くれえだ―クレタ島とかけてあるようだ。そのほかにも、思わず笑ってしまうようなユーモア もいろいろ散らばっている。
 ノベルスで530ページという結構な厚さだったけど、推理しながら楽しんで読んでいるうちにいつの間にか読み終わっていた という感じだった。


『黒い仏』 殊能将之(講談社ノベルス)
笑い1.5点 涙0.5点 恐怖2.0点 総合2.5点
 名探偵・石動戯作のもとに宝探しの依頼がもちこまれる。9世紀に天台僧が唐から持ち帰ろうとした秘宝で、その宝は 福岡にある安蘭寺のどこかにあるはずなのだという。助手の徐彬(アントニオ)とその寺に調査に行った頃、 別の場所では指紋ひとつ残されていない部屋で、身元不明の死体と黒い数珠が発見されていた。

 「ミステリ新世紀の幕開け」と帯に書いてあるが、もしこれがミステリ新世紀なのだとしたら、ちょっとガッカリだ。
 これは、本当に殊能氏が書いたのかと、疑いたくなる小説だった。2000年の時事ネタをやたらと使い、時代設定だけは しっかりしているのだけど、肝心のトリックやストーリーが荒唐無稽すぎる。ミステリとしての許容範囲を超えている。なぜこれを 石動戯作のシリーズにしたのかわからない。どうせ書くなら、名探偵なんて出さずに、徹底的にやればよかったのに。なんか中途半端で、 薄っぺらい印象を受けた。
 一部の人には受けるかもしれないけど、僕はミステリとしては好きになれなかった。


『MISSING』 本多孝好(双葉社)
笑い0点 涙2.0点 恐怖0.5点 総合4.0点
 「眠りの海」「祈灯」「蝉の証」「瑠璃」「彼の住む場所」の計5編からなる短編集。
「眠りの海」:海辺の崖から飛び降りたものの、一人の少年に助けられ自殺できなかった私は、 その少年に自殺しようとした訳を話すことにした。
「祈灯」:兄妹で暮らすアパートに、ある日、妹の友人の真由子がやってきた。”ユウレイちゃん” というあだ名を付けられている彼女は、幼い頃、目の前で妹の典子を交通事故で亡くした。それ以来、自分は典子だと思うようになってしまった。

 この著者は、「眠りの海」で第16回小説推理新人賞を受賞し、本書がデビュー作なのだそうだ。
 全体的に、会話文が多く、長々しい文は少なく、割とシンプルだなという印象を受けた。
 内容は、「MISSING」のタイトルの通り、何かを失った人物ばかりが多く登場していて、ちょっと気が重くなってしまった。 読んだあと、元気が出るような類の本ではない。暗い話は嫌いという人には、おすすめできない。


『六枚のとんかつ』 蘇部健一(講談社ノベルス)
笑い1.0点 涙0点 恐怖0点 総合1.5点
 保険調査員の小野由一が遭遇した難事件(?)の数々。
「音の気がかり」:ある富豪のひとり息子が誘拐された。犯人の電話の背後に「ガッツ石松、ガッツ石松」という 気になる声が・・・。
「六枚のとんかつ」:ある社長が殺された。容疑者は6人の息子。しかし彼らにはアリバイが・・・。
など計15編+αからなる連作短編集。

 第3回メフィスト賞受賞作。なのだが、いったいどの辺が評価されての受賞なのかわからない。
 笑える「アホバカミステリ」らしいが、出てくるのはオヤジギャグと下ネタとテレビのネタのパクリなど、ユーモアのセンスが 感じられないものばかりだ。
 一例を挙げると
 「〜大船に乗ったつもりでいたまえ。豪華客船タイタニック号にでも乗ったつもりで・・・」
 「沈むよッ」

こんな三流芸人のような背筋の凍る笑いが、満載だ。また、ひどいことに「あとがき」でことこまかに自作解説・ネタバラシを披露していて、 もう目も当てられない。と、ほめるところが見つからない本書だが、唯一ほめるとすれば、これを出版した勇気と、 この出来で顔写真付きプロフィールを堂々と公開している著者の度胸をほめたい。
 ブックオフで450円で買ったのだが、100円になるまで待っていればよかった・・・。


『ドッペルゲンガー宮 <あかずの扉>研究会流氷館へ 霧舎巧(講談社ノベルス)
笑い2.0点 涙0.5点 恐怖1.0点 総合4.0点
 大学生になったら推理小説研究会に入ろうと決心していた「ぼく」は、ちょっとした好奇心でその扉を開けてしまった。そのせいで、 <あかずの扉>研究会の一員となっていた。入会して早々、ただのサークルにすぎない<あかずの扉>研究会に、人捜しの依頼が持ち込まれた。 その先に待っていたのは、残虐な連続殺人事件だった・・・。

 第12回メフィスト賞受賞作。島田荘司氏の推薦を受け、さらにペンネームまでつけてもらった霧舎巧のデビュー作。
 本書にも書かれているが、まさに「ミステリフェロモン100%」の新本格推理小説だ。怪しげな館、連続殺人、密室、首なし死体、 さりげない伏線の数かず・・・などミステリファンのための小説だ。ご都合主義なところや現実味に欠けるなど不満もあるが、 それは新本格ミステリだから、謎解きを楽しむだけの小説だから、と思えば許せてしまう。
 まだ、デビュー作ながら、明らかにシリーズ化をにらんで書かれたと思われる、様々な特徴を持った主要キャラクターの数々。 あまりキャラクターばかりにこだわられるのも考えものだが、本書は、キャラクター以上に論理的謎解きや大がかりなトリック、 巧みな伏線にこだわっている小説のようだった。
 「新本格ミステリ」好きには、お薦めの一冊だった。


『ALONE TOGETHER』 本多孝好(双葉社)
笑い0点 涙2.5点 恐怖1.0点 総合5.0点
 3年前に医大を辞めた僕のもとに、教授から連絡があった。その教授は、講義を6回ほどしか受けていない、アカの他人に近い 僕にある頼み事をした。それは、「私が殺した女性の娘さんを守ってほしい」というものだった。

 登場人物ひとりひとりが、それぞれの悩みをもち、一人で抱え込み、苦悩する。「ALONE」と「TOGETHER」という相反する 矛盾したタイトルの意味も、なんとなくわかった気がした。
 長編である本書を読み、改めてこの著者の独特の文体と巧さを実感した。どことなくニヒルでキザッぽい印象も受けるが、 別にそれがいやみになるわけではなく、むしろ心地よい感じがした。
 とにかく、僕の拙い書評で予備知識を仕入れる暇があるなら、早く本書を手にとって読んだほうが良いですよ。


『火蛾』 古泉迦十(講談社ノベルス)
笑い0点 涙0.5点 恐怖0.5点 総合4.0点
 12世紀の中東。聖者たちの伝記録編纂を志す作家・ファリードは取材のため、アリーと名乗る男を訪ねる。男が 語ったのは、姿を顕わさぬ導師を4人の修行者たちだけが住まう山の、閉ざされた穹廬(きゅうろ)の中で起きた 殺人だった。(本書アラスジ引用)

 第17回メフィスト賞受賞作。
 ミステリというより宗教小説である。仏教やキリスト教なら無宗教無信仰の僕でも少しはイメージできるが、イスラム教と なるとちょっと理解しにくい。しかし、そのイスラム教の世界と殺人事件の組み合わせは、違和感なく受け入れられた。 それはやはり、文章のうまさと全体を漂っている不思議な雰囲気のためだと思う。
 かなり限定された世界での話のため、いったい次回作はどうするのだろうかと余計な心配をしてしまう。


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