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ミステリー(国内)



『生ける屍の死』 山口雅也(創元推理文庫)
笑い1.0点 涙2.0点 恐怖2.0点 総合4.5点
 死者がよみがえる、そんな怪現象が相次ぐアメリカの片田舎で、霊園を経営するバーリイコーンの一族。腹中に一物を持つ者が多い その霊園で、殺人事件が発生する。事件の中、自らも死者となってしまったパンク青年・グリンは、自分の死を隠しつつ、捜査を始める。 はたして肉体が崩壊するまでに真相にたどり着けるのか?

 まず本の厚さに驚く。次に登場人物の多さに驚く。そして彼らが皆、外国人で舞台も外国というまるで翻訳小説 のような様相に驚く。そして何よりも、頭を割られた死者でさえもよみがえるという、推理小説とは思えないその設定に驚く。 と、驚かされっぱなしの本書は、山口雅也氏の長編デビュー作だそうだ。
 だいぶ前に買ったのだが、文庫で650ページというけっこうな厚さに尻込みしてしまい、今まで読んでいなかった。 読了した今となっては、「もっと早く読んでいればよかった」と思える。僕と同じように、読まずに避けている人は、 是非読むことをおすすめする。
 それにしても山口雅也氏というのは、ホントに日本人なのだろうか。


『UNKNOWN』 古処誠二(講談社ノベルス)
笑い0.5点 涙0.5点 恐怖0点 総合3.5点
 窓もなく、人の出入りのチェックが厳重な警戒監視隊の隊長室から盗聴器が発見された。侵入不可能な密室に、 誰が何のために仕掛けたのか?防諜のエキスパート・防衛部調査班の朝香二尉とその補佐を命じられた警戒監視隊の 野上三曹がこの謎に挑む。

 第14回メフィスト賞受賞作。と書いてもこの賞がどれだけ知名度や権威があるか分からない。少なくとも僕は、 江戸川乱歩賞と違い、メフィスト賞受賞作だからといって、読む前から過度な期待は抱かない。
 本書は、自衛隊、それも基地内という閉ざされた空間でストーリーが展開する。首なし死体も連続殺人もおよそ 本格ものによくある凄惨なシーンはない。「完全密室の部屋に誰がどのように盗聴器を仕掛けたのか?」という 謎があるだけである。しかし、舞台が自衛隊という珍しさもあり、最後まで興味深く読めた。僕としては、 次回作で真価が分かると思うので、それに期待したい。  作中、自衛隊員を軍人と表記しているのが、僕としては印象的だった。


『ハサミ男』 殊能将之(講談社ノベルス)
笑い1.0点 涙0.5点 恐怖0.5点 総合4.5点
 絞殺したあと死体ののどにハサミを突き刺すという残虐な手口で、連続して美少女ばかりが殺害された。その手口から「ハサミ男」と 命名されたシリアル・キラーは、新たな標的を見つけ、殺害する機会を待ていた。しかし、自分の犯行を真似た殺人者に、 その標的が殺されてしまう。先を越された本物の「ハサミ男」は、自らの手で偽物の「ハサミ男」を捜すことになるのだった・・・。

 第13回メフィスト賞受賞作。
 完全に著者の仕掛けた罠にはまってしまった。偽物の「ハサミ男」の正体は、早くに見当はついたが、もう一つの大仕掛けには 気づかなかった。果たしてこの仕掛けが許されるのか、微妙な感じもする。読者を驚かすための執念と悪意を感じるが、 僕としては面白かったし、完全に騙された心地よさを感じたので高評価を付けた。


『クール・キャンデー』 若竹七海(祥伝社文庫)
笑い1.0点 涙0.5点 恐怖0点 総合3.5点
 もうすぐ誕生日と夏休みだというときに、兄貴のお嫁さんが死んだ。ストーカーにつきまとわれたあげくの悲劇だった。 そして時を同じくして、そのストーカーも変死した。こともあろうにストーカーを殺す動機を十分持っている兄貴が、 警察に疑われている。兄貴は無実だ、それを証明すべく、あたしは行動を開始した。

 長すぎず、短すぎない「中編小説」に挑んだ、祥伝社文庫創刊15周年記念の特別企画で、書き下ろし中編小説が 400円で読めるのがウリらしい。中編というのは、悪くはないが、やはり中途半端な感じがする。
 ラスト一行のためにあるといっても過言ではない本書は、その点中編小説だから良かったと思う。 長編にするには、衝撃度が少ない。もしかすると最近「ハサミ男」を読んだばかりだから、あまり驚かなかったのかもしれない。
 一時間とかからず読めるので、通勤通学の際に読むのにちょうど良いと思います。


『虚無への供物』 中井英夫(講談社文庫)
笑い1.0点 涙1.5点 恐怖0.5点 総合4.5点
 氷沼家初代当主がアイヌ狩りをした祟りのせいか、それ以後の氷沼家の人間は相次いで無惨な死を遂げている。 祖父の光太郎は函館大火で焼死、長女の朱美は広島の原爆で爆死、そして長男と三男の両夫婦は、昭和29年の洞爺丸沈没事故で水死。 そして、氷沼家に残っている蒼司・紅司・藍司そして橙二郎の4人のもとにも、死神が訪れようとしていた。

 完成まで10年を費やしたという1200枚の超大作。著者自ら、本書をアンチ・ミステリー、反推理小説といっているが、 僕には何をもって「アンチ・ミステリー」と呼ぶのかよくわからない。読んでみた印象では、最近多い「新本格ミステリ」に近い小説だと 感じた。ただし、雰囲気や重厚さ、内容の濃さなどは、「日本三大アンチミステリー」として、長年読み続けられているだけの説得力はある。
 内容は、密室と死体→推理発表会→密室と死体→推理発表会→以下続く、といった感じである。非現実的なものから論理的なものまで、 様々な推理が展開され、同時に様々な知識――薔薇・五色不動・シャンソン・麻雀・時事問題・不思議の国のアリス等々――が盛り込まれている。
 新世紀の1冊目として読んだのだが、何かそういう読み始めるきっかけがないと、なかなか手を出せなかったのだ。でも、読んでみると、 思っていたよりは難しくなくて読みやすかった


『冥王ハーデースの花嫁』 奥田哲也(講談社ノベルス)
笑い0.5点 涙0点 恐怖1.5点 総合4.0点
 首を切断し、その首が巨大な人面疽のように腹に埋め込み縫いつけられている女性の死体が発見された。 ギリシア神話に出てくる女面鳥体の怪物ハーピイを連想させるその死体は、その後連続して発生する猟奇的殺人事件の 始まりにすぎなかった。
 いったい犯人は誰か、そしてなぜ死体の首を切り、腹に埋めたのか?

 思わず吐き気がこみ上げてしまった。とくに、真相が明らかになったときの気持ち悪さは尋常ではない。 しかし、ただグロいだけの悪趣味小説というわけではない。密室もアリバイも孤島もしゃれたトリックもないが、 なぜ犯人はそうしたのかというホワイダニットとしては、抜群の推理小説だった。
 しかし、フィクションとはいえ、かなりリアリティがあり、いつか本当にこんな事件が日本で発生するのでは? と空恐ろしい気分になった。


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