ミステリー(国内)
『本陣殺人事件』 横溝正史(東京文芸社) |
笑い0点 涙0.5点 恐怖2.5点 総合4.0点 |
「本陣殺人事件」「黒猫亭事件」の2篇からなる中編集。
「本陣殺人事件」:本陣(江戸時代の諸大名公認の宿所)の末裔である名家・一柳家の長男である
賢蔵が結婚することになった。そして、その結婚式の夜、琴を乱れ弾く音ともに、離れの方から絶叫が聞こえた。
驚いた家族が離れに行ってみると、血の海の中に新郎新婦の死体があった。現場は、密室であり、その日は大雪だったにもかかわらず、
犯人らしき足跡は見つからなかった。この謎に金田一耕助が挑む。
横溝正史の金田一耕助シリーズはよく2時間ドラマで放送されるが、意外にも僕はその原作である小説を一冊も読んだことがなかった。
だからというわけではないが、今回は本作を読んでみた。
登場人物から設定まで和風で妖しい魅力に満ちているが、それ以上に本作は、密室トリックがすばらしい。まあ、今の新本格の作家は、
あまり機械的トリックを使わないから、単に珍しいだけかもしれない。でも、日本ならではのものを多用し、ごく自然に密室を作り上げたというのは
さすがだと思う。 |
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『催眠』 松岡圭祐(小学館文庫) |
笑い0.5点 涙3.0点 恐怖2.0点 総合3.5点 |
インチキ催眠術師・実相寺則之の元に、ある日一人の女性が訪ねてきた。
おっとりして暗い感じのその女性は、雷鳴を聞いたとたん、甲高い笑い声で自分は宇宙人であると叫びだしたのだ。
実相寺は、そんな彼女が持っているある能力をネタにして、彼女をテレビ出演させてしまった。その番組を見ていた
【センター】の催眠療法科長・嵯峨敏也は、彼女のある病状を見抜き、単独にカウンセリングを試みようとしていた。
はっきり言って驚いた。数日前、レンタルビデオで映画版の『催眠』を見たのだが、原作である本書は、映画とは全く別物と
言っていいくらいの小説なのだ。一応、原作なので、登場人物の名前や話の中心である女性の特徴など、大まかな部分は
似かよっているものの、結末はもちろん、あらゆるところが違っている。本書は、どちらかといえばミステリー色が濃く、
様々な人間ドラマを散りばめた感動的な物語になっている。だが、映画版では、やたらと人が死に、ショッキングな映像と
催眠をエンタテイメント的に表現した完全なホラーになっているのだ。さらに、本書は、オカルト的で、見せ物的だと誤解されている
”催眠”について、正しい認識を与えようとしているのに、映画では、いたずらに催眠に対する恐怖心をあおり、ますます誤解させている
ように感じた。
まあ、本書の著者自身、よくテレビに出てた催眠術師だから、”正しい認識”といっても説得力に欠けるのだが・・・。
それにしても、よくぞここまで原作から離れたものだ。このぶんだと、これから映画化される『ホワイトアウト』や『クロスファイア』
が原作の良さを、損なわれてしまいそうな気がしてならない。
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『探偵小説の「謎」』 江戸川乱歩(現代教養文庫) |
笑い1.0点 涙0点 恐怖0.5点 総合3.5点 |
探偵小説の巨匠、江戸川乱歩が国内外の探偵小説を読みあさり、800余りの各種トリックを項目別に分類した
「類別トリック集成」。本書は、その「類別トリック集成」の一部を抜き出し、詳細な解説を加えたものである。
本書を読むと、ホントにもうトリックは出尽くしたのではないかと思えてくる。密室一つとっても、「機械的な装置によるもの」
「室外よりの遠隔殺人」「密室内で他殺を装う自殺」「室内における人間以外の犯人」・・・ほか、細かな項目にわけて
数え切れないほどの類例をあげて、解説しているのだ。その他にも、「凶器」「犯人」「動機」「隠し方のトリック」「暗号」など、
様々な観点から、トリックを分類し解説を加えている。
ミステリを書く人にも、読む人にもためになる面白い本だが、注意すべきことがある。それは、様々なトリックがその作品名と共に
載せられていることがあるため、未読の作品のトリックや犯人がわかってしまう、という恐れがあることだ。ただ、例に取り上げられているのは、
ほとんど海外の探偵小説なので、海外ミステリを読まない人にはそれほど気にすることはないかもしれない。 |
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『BATTLE ROYALE バトル・ロワイアル』 高見広春(太田出版) |
笑い1.0点 涙 2.0点 恐怖4.0点 総合4.5点 |
圧政・総統への絶対服従・思想教育・準鎖国政策とファシズムの典型である大東亜共和国。この国では、毎年、
全国の中学3年生のクラスを50組を選び、”プログラム”と呼ばれる戦闘シミュレーションを行わせていた。それは、
同じクラスの生徒同士が武器を手にし殺し合い、最後の一人のみ生きて帰ることが出来る、という最悪の殺人ゲームだった。
そして今年、七原秋也のクラスが、楽しい修学旅行から一転、地獄の殺人ゲームの対象に選ばれたのだった。
プロレス好きの僕は、テレビで「バトルロイヤル」というのを何回か見たことがある。同じ最後の一人を決めるゲームでも、
プロレスのそれは、お祭り的要素が強い。しかし、この「バトルロワイアル」は、あまりにも凄惨すぎる。吐き気をもよおすような
描写の連続。仲のいい友達も、恋人も互いに疑い合い、殺し合い、次第に減っていく生き残り。”坂持金発”というふざけた役人。
何もかもに不快感がつのる一方だ。しかし、666ページ(皮肉にも悪魔の数字だ)もある殺し合いを読むうちに、「死」に対する
感覚がマヒし、徐々に「次は誰だ?」「あと何人だ?」と悪魔的思考になっていってしまうのだ。
読み終えた今、果たして僕は正常な人間の神経を保っているのだろうか。 |
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『多重人格探偵サイコ 雨宮一彦の帰還』 大塚英志(講談社ノベルス) |
笑い0点 涙0.5点 恐怖1.5点 総合3.5点 |
「ルーシー7の七人目を捜して。そしてその者の左目に見たことのない痣があったら
ためらうことなく殺して」
1972年、軽井沢の山荘で暴発した「革命」運動の最後の生き残り、焔妖子が警察庁キャリア・笹川徹に残した奇妙な遺言。
十数人の犠牲の血を必要としたアジトでの聖宴が、眼球にバーコードを穿たれた殺人者の原点なのか?(本書あらすじ引用)
本書は、シリーズ3作目なのだろうだ。あとがきによれば、前の出版社と何かトラブルがあったようで、
今回は講談社になったとか。読む方としてはどうでもいいことだが・・・。
内容はというと、いきなりシリーズ3作目から読んでしまったため、よくわからないことだらけだった。
「多重人格探偵」言っておきながら、「この小説は、ミステリーではない」と述べている。実際、これを探偵小説や推理小説として、
見ることは出来ない内容だったので、一応は納得した。どうやら中高生くらいの子が読むと、面白くて夢中になる類の小説だと思う。
あまり僕の好みの小説ではなかった。
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『ミステリーのおきて102条』 阿刀田高(読売新聞社) |
笑い0.5点 涙0点 恐怖0点 総合4.0点 |
ミステリー作家・阿刀田高のミステリーの関するエッセイ集。
「江戸川乱歩賞」「推理小説のあらすじ」「さりげなさの研究」「良識の範囲」「アイディアの類似性」などを始め計102のエッセイが収められている。
古典ミステリーを紹介したり、ミステリーの本質を語ったりと、面白いだけじゃなく、今後ミステリーを読むのに役にエッセイ集だ。
また、ミステリーを書きたいと思っている人や、新人賞などに応募しようと思っている人なども一読することをおすすめする。 |
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『千里眼』 松岡圭祐(小学館) |
笑い0.5点 涙1.5点 恐怖1.5点 総合4.0点 |
全国各地で、恒星天球教という新興宗教の信者によると思われる爆弾テロが相次いでいた。そして信者の一人が、米軍基地に
侵入し、ミサイル制御室を乗っ取ってしまった。さらに首相官邸に照準を定め、暗証番号を変えてしまった。ミサイル発射まで一刻を争う
この事件に、相手の心を見通す「千里眼」の異名を持つカウンセラー・友里佐知子と岬美由紀が派遣された。しかし、これは、
これから始まる大事件の一端にすぎなかったのだった。
『催眠』の続編。といっても映画版「催眠」の続編らしい。小説版とはあまり関連はなさそうだ。
臨床心理士の著者だけに、随所に人の心理を読みとるための豆知識が出てくる。ただ実際どれほど有効なのかはわからない。
映画化を想定して書かれたかはわからないが、前作とは違って、かなりエンタテイメント性に富み、細かい描写もよく目立った。
それが、いい方に転がっていて、後半などスピード感があって、一気に読まされた。ただ、メインの一つである、ある謎については、
想像通りでちょっと驚きにかけた。とはいえ、なかなか読み応えのある作品だった。
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『消失!』 中西智明(講談社文庫) |
笑い1.0点 涙0点 恐怖0点 総合2.5点 |
伝統的に赤毛の血筋が多い高塔市。そこで連続して不思議な事件が起こる。その事件に共通するのは、見事な赤毛と
死体の消失。さらに、密室や袋小路から犯人までもが消失してしまうのだった。
最近、数年前の「このミス」を読んだのだが、そこでこの本が酷評されていた。どんな本なのかと、逆に興味をひかれて
読んでみたくなった。読んでみて納得した。推理小説だから何でもあり、読者をアッと言わせられれば手段を問わない、
というような感じを受けた。あとがきで、著者自身も「自信作だ」と、それを裏付けるようなことを言っている。
本書には、3回ほど、著者がアッと言わせようとしているポイントがあるが、メインとなる1つ目のポイントは、
40ページくらいでわかってしまった。注意を促すための傍点をこれほど連発すれば、誰が読んでも遅かれ早かれ
わかると思う。
まあ、どんな方法でもいいから、アッと言ってみたいという人はためしに読むと良いでしょう。その時は、図書館か
古本屋で手に入れた方がいいかもしれません。
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