HOME 著者名 タイトル ジャンル

ミステリー(国内)



『頼子のために』 法月綸太郎(講談社文庫)
笑い0点 涙2.0点 恐怖1.0点 総合3.5点
 17歳の娘・頼子を何者かに殺された父親は、変質者による通り魔事件として片づけようとする警察の対応に疑念を抱き、 自分の妻にも気づかれないよう密かに独自の捜査を行い、犯人を突き止め殺害、美塚らも服毒自殺をする、という手記を残していた。 その手記を読んだ名探偵法月綸太郎は、不審を抱く。

 娘を殺された父親の復讐劇というさほど珍しくはない設定。また、ミステリとしても、派手さはなく、真相も推理できうる範囲。 しかも、最期は、名探偵あるまじき処理だと思う。しかし、これは、ミステリとして読んだ場合の評価である。でも、本作は、ミステリと言うより ハードボイルドに近い気がする。そう思って読めばまた評価も違っただろう。


『雪密室』 法月綸太郎(講談社文庫)
笑い0.5点 涙0点 恐怖0.5点 総合3.0点
 仕事中毒の法月警視のもとに「篠塚真棹」という女性から、招待状が届いた。それを読んだ彼は、即座に1週間もの休暇をとって、 招待状に書かれた場所「月蝕荘」へと急行した。ところが、彼が到着した夜「篠塚真棹」が死亡する。周囲を雪で囲まれ、入り口はもちろんすべての窓の鍵が かかっている完全な密室状態の離れで、首をつって死んでいたのだ。誰もが自殺を思う中、法月警視は、殺人であると主張する。

 完全な密室。周りは雪で、犯人の足跡はない。という平凡な設定。トリックも、それほど奇異ではないし、著者自身もあとがきで書いているように 少々「人物造形が薄っぺらい」感じがした。それでも、「読者への挑戦」もあるし、気軽にミステリを読みたいという人には、よいかも。


『殺戮に至る病』 我孫子武丸(講談社ノベルス)
笑い0点 涙2.0点 恐怖4.0点 総合3.0点
 惨殺、そして陵辱――。何ものかに憑き動かされるように次々と猟奇殺人を重ねていった男の名前は 蒲生稔。
 冒頭の”エピローグ”で示される事実が、最終章であっと驚く意外な変容を遂げる。異常犯罪者の心の軌跡をたどりながら、 想像力の欠如した現代人の病巣を抉る、衝撃のサイコ・キラー。<本書あらすじ引用>

 ”ネクロファイル(死体愛好者)とそれを取り巻く人々の日記”風にストーリーが展開する。その至る所に読者をおとしめる穴が 広がっていて、最後の数ページを読み終えたとき、自分が作者の意図する通りに、穴に落ちていたことがわかった。 というように、確かにあらすじにあるように最終章であっと驚かされる。しかし、その驚きを得たいがために読むのには、 少々ヘビーすぎる内容だ。僕は、読んでいて、吐き気を覚えたほど残虐描写の連続だ。そんなかなりの残虐描写に耐えうる人には、 薦められるが、そうでない人は読まない方が、いいかもしれない。


『パズル崩壊 WHODUNIT SURVIVAL 1992−95 法月綸太郎(集英社)
笑い0.5点 涙0.5点 恐怖0点 総合2.5点
 「重ねて二つ」「懐中電灯」「黒のマリア」「トランスミッション」「シャドウ・プレイ」 「ロス・マクドナルドは黄色い部屋の夢を見るのか?」「カット・アウト」の他、探偵・法月綸太郎の外伝的短編を含めた 計8編からなる短編集。
 「トランスミッション」:推理小説家である”僕”のもとに、ある日一本の電話が入った。それは、 「子供を預かったから、返して欲しければ身代金を用意しろ」という内容の脅迫電話であった。しかし、なんとそれは間違い電話だった。 一方的に切られた”僕”は、仕方なく、犯人一味がかけるはずだった電話番号をダイヤルし、自分が犯人に言われた文句をそのまま伝えたのだった。 そこから、彼は誘拐事件へ引き込まれていく・・・。

 はっきり言って、ミステリとしてはあまり面白くなかった。理由は、@トリックがいまいち。A小難しい理屈が多い。B翻訳ミステリが好きな人で なければ楽しめない(意味の分からない)内容の短編がある。C最後に付された著者による自作解説が、自嘲的で、それでいてどこか自慢げなので、 ちょっとイヤな感じがする。以上のようなワケで、本作は好きになれなかった。


『トリック交響曲』 泡坂妻夫(文春文庫)
笑い1.5点 涙0点 恐怖0点 総合3.5点
 本書は、エッセイである。ただし、泡坂妻夫らしくトリックに関するエッセイが大半を占めている。その内容は 「トリックの時代」「トリックと奇術」「探偵小説と奇術」「トリックのある話」「ちょっとトリックを離れて」「トリックの交響曲」 の六部構成になっている。中でも「トリックの交響曲」は面白い。
 奇術のトリックを始め探偵小説や賭博師のトリックも含めたあらゆるトリックを蒐集分類したのが 「トリックの交響曲」である。15年以上も昔の分類表だが、今でも十分通用するものだ。とにかく分類項目が細かく、これを参考にすれば 推理小説が何冊か書けてしまいそうな気がする。ただ、トリックの羅列に近いのでエッセイとして読むには、少々退屈である。だから 「トリックの交響曲」に関してはトリック辞典的な利用をした方がいいと思う。


『西南西に進路をとれ』 鮎川哲也(集英社文庫)
笑い0.5点 涙0点 恐怖0点 総合3.0点
 「ワインと版画」「MF計画」「濡れた花びら」「猪喰った報い」「地階ボイラー室」 「水難の相あり」「西南西に進路をとれ」の計7編からなる短編集。
 「MF計画」:間宮カントと上杉ヘーゲルは、”カント・ヘーゲル”という 漫才コンビを組んでいた。しかし、ヘーゲルはカントの無能さに嫌気がさし、コンビを解消して役者になろうと思っていた。 ところがカントの方は、絶対に解消しないと言い張り、もし解消するならヘーゲルの過去の悪事を暴露する、と脅してきたのだ。 これを聞いたヘーゲルはカント殺害を決意する。完全と思われた殺害計画だったが、意外な落とし穴が・・・。

 最初の3編は倒叙ミステリである。これは著者の言によると、きちんとした本格ものを限られた枚数で書くための手段なのだそうだ。 つまり、犯人の視点で進めることにより、犯人探しの捜査が省かれ、犯人のミス探しを主に書けばよいのだ。だから短編向きのようだ。
 後半は、アリバイトリックや犯人消失トリックなどがでてくるが、近頃の新本格ものを読み慣れている人には、かなり物足りない内容である。


『ミステリー食事学』 日影丈吉(教養文庫)
笑い2.0点 涙0点 恐怖1.0点 総合3.0点
 フランス料理の大家であり、推理作家でもある著者が記したエッセイ。
 題名のとおり、古今東西のミステリーに登場する食事風景を取り上げ、掘り下げたエッセイが中心となっている。 中心となってはいるものの、扱うミステリーは、シムノン・ルブラン・ルルーといった一部の海外物に偏っているため、 それらの海外ミステリーを読んだことのない人には魅力に欠ける
 さらに前半は、紅茶・コーヒーなどの歴史やフランス料理の蘊蓄などが大半を占めている。もう少し ミステリーと食事に関するエッセイが多いと思って読んでいた僕には、ちょっと期待はずれの一冊であった。 ただ、チェスタートンがルブランとルルーを同一人物であると思っていた、というエピソードを取り上げ、 著者がそれについて著者流の解釈を加えている所は興味深かった。


HOME 著者名 タイトル ジャンル