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ミステリー(国内)


『失踪の果て』松本清張(角川文庫)
興奮★★☆☆☆ 笑い☆☆☆☆☆ 涙☆☆☆☆☆ 総合★★★☆☆
 この本は、古本屋で100円で売っていたので、衝動的に買った本だ。100円にしてはそこそこ楽しめたかな。 いくら松本清張といえども、すべての作品が、面白いとは限らない。むしろ、松本清張ほど多くの作品を書いた人なら 当然つまらない作品も多くなるだろう。
 この本が、つまらないというわけではないのだが、少しもの足りない。最近の作家の推理小説などと比べると ちょっと読み応えに欠けた。

 6本の短編推理小説からなるこの本は、各話の主人公が、大学の教授・弁護士・医者・代議士など、いわゆる【先生】と呼ばれる 人達である。しかも、彼らはことごとく何かしらの不正を働き、それが発覚するか、または死亡してしまう。松本清張は、【先生】 に何か恨みがあるのだろうか。
 特におすすめの本というわけではないけど、たまにはこういう本を読んでみると、現代の作家の作品がまた新鮮に読めるのではないだろうか。


『破線のマリス』野沢 尚(講談社)
興奮★★★★☆ 笑い☆☆☆☆☆ 涙★★☆☆☆ 総合★★★☆☆
 敏腕編集ウーマン・遠藤瑤子。彼女は、人気ニュース番組の1コーナーである『事件検証』を任される。その5分間のコーナーで、彼女は「大学助教授一家惨殺事件」の検証を試みる。 彼女は編集技術で、あたかも助教授の夫人が真犯人であるかのように編集してしまい、話題となる。しかし、数日後、その婦人が自供したことにより、事件は解決した。そんな時、遠藤のもとに 春名と名乗る男が現れ、その人から郵政省の内部告発のビデオを受け取る。彼女は、それを巧みに編集し、ある一人の男をあたかも犯人であるかのように仕立てた。そして、ここから悲劇は始まった。

 タイトルにある「破線」とは、テレビの走行線つまりテレビ画面をあらわし、「マリス」とは「悪意」を意味するようだ。つまり、「テレビの悪意」とでもいうのだろうか。著者自身が テレビ業界の人であるため、報道の裏側や、偏向報道(いわゆるヤラセ)の実体が細かく描写されていて、この本を読んだあとは、ニュース番組でさえも疑惑の目で見てしまうそうだ。
 この本は、第49回江戸川乱歩賞に輝いた作品で、なるほど受賞するだけの面白さはあった。しかし、結末がちょっと納得できない。確かに意外性は十分あるが、あまりにも急展開で しかも、真犯人は、ご想像にお任せといった感じなのだ。まあ、この作品は真犯人が誰かというのはそれほど重要ではないのかもしれないけれど、それにしても釈然としない終わり方だった。 そういった意味で、総合★★★にした。


『ロートレック荘事件』筒井康隆(新潮社)
興奮★★★☆☆ 笑い★★☆☆☆ 涙☆☆☆☆☆ 総合★★★★☆
 ロートレック荘と名付けられた洋館に招待された人たちは、楽しく時を過ごしていた。そんな時、2発の銃声が洋館内に響きわたる。その時から惨劇が始まった。

 この殺人事件の犯人と、そのトリックが明らかになったとき、自然と笑いがこみ上げてきてしまった。筒井さんだから書けたトリックなのではないか。解決に至るまでの課程や、事件そのものは大して面白くないし、 それほど難解なトリックを使っている訳ではないのだけど、うまく盲点を突かれたような気がする。ちなみにこの本の表紙には次のように書かれている「映像化不能。前人未到の言語トリック。読者に挑戦するメタ・ミステリー。 この作品は二度楽しめます。書評家諸氏はトリックを明かさないようにお願いします。」


『殺しの双曲線』 西村京太郎(講談社文庫)
笑い☆☆☆☆☆ 涙★☆☆☆☆ 恐怖★★☆☆☆ 総合★★★★☆
 差出人不明の招待状をもらった男女6人が、東北の雪山の山荘に集まった。彼らは皆初対面だったのだが、招待した主人によると、呼ばれた人は皆ある共通点があるのだという。そして、『そして誰もいなくなった』に酷似した殺人事件の幕が開ける。

 この本は、前述した『有栖の乱読』(有栖川有栖)で、「有栖が語るミステリ100」に入っていた本だ。僕は、トラベルミステリは嫌いなので、西村京太郎は敬遠していた。しかし、有栖川さんはこの本を「読まなければミステリファンの名がすたる傑作」とまで言っていたので、 まるで洗脳されたかのように、すぐに手に入れ読んでみた。推理小説家がそこまで言うだけあって、確かに面白かった。ただ、★5つあげるほどの傑作でもなかった。犯人・トリックともに、途中でわかっちゃったし、魅力ある登場人物が出てこないし。しかし、冒頭で著者が「双生児のトリックを使う」と宣言するアイディアは、 斬新だった。


『七回死んだ男』 西澤保彦(講談社ノベルス)
笑い★★☆☆☆ 涙☆☆☆☆☆ 恐怖★☆☆☆☆ 総合★★★★☆
 特異な体質の持ち主・大庭久太郎。その体質とは、「1ヶ月に3〜4回ほど”時間の反復落とし穴”に落ちる、つまり彼だけが同じ日を何度も繰り返す」というものなのだ。そしてお正月早々、彼はその落とし穴には落ちてしまった。しかも、祖父の零治郎が殺されるというオマケ付で・・・。 この殺人を防ぐべく、一人で9回同じ日を過ごせる久太郎が、孤軍奮闘する。

 設定が凄すぎる。果たしてこれは、なんというジャンルなのか?SFミステリとでもいうのか。宮部みゆきがよく使う超能力者の話は、「こういう人もいるかも」という気になるが、これは、現実離れしすぎている気がする。でも、破綻することなく、うまく最後までいくから凄い。でも、その同じことが繰り返されるという設定のために、 途中で、次の予測がついたり、飽きてしまうところが多少ある。読む人によって、評価が異なる作品だろう。それと、読んでいて一つ気が付いたことがある。 それは、「読点【、】がほとんど使われてない」ということだ。普通なら読点【、】を使うところも、句点【。】を使っている。気にしなければなんともないが、気にし出すと止まらない。なぜ作者は、読点を使わないのか。ただの拘りかなぁ。誰か知っていたら教えて欲しい。


『亜愛一郎の狼狽』 泡坂妻夫(角川文庫)
笑い3点 涙0点 恐怖0点 総合3.5点
「DL2号機事件」「右腕山上空」「曲がった部屋」「掌上の黄金仮面」「G線上の鼬」「掘り出された童話」「ホロボの神」「黒い霧」 の計8作からなる短編集。
 「DL2号機事件」:とある人物が乗っているDL2号機を離陸30分後に爆破するという予告電話が 離陸直前に空港に入った。ところが、結局、爆破はされず、DL2号機は無事着陸した。いったい犯人は誰か?そして、その目的は? この謎に、頼りないカメラマン亜愛一郎が挑む。
 「掘り出された童話」:76歳になった実業家・池本銃吉は、自費で、童話を出版した。 その童話は、いくつかの誤字や不自然な点があったが、本人の頑なな希望により、そのまま出版された。その奇妙な童話を読んだ 亜愛一郎は、暗号が含まれていることを発見する。
 しっかりと殺人があり、きちんとしたトリックがあり、論理的推理も展開される立派なミステリーなのだが、ちょっとフツーではない 感じがする。まず、ネーミングがフツーではない。探偵役の奇妙なカメラマンは、姓が亜で、名が愛一郎。そのほか、ヒップ大石、バスト浅野、 藻湖刑事、緋熊五郎など、ひと味違うネーミングが多い。そして、どの話にも「三角形の顔をした洋装の老婦人」という謎の人物が脇役で登場する。 さらに、「黒い霧」のように、現実離れしたトリックの数々。どこをとっても変わっている。そのため、読む人にとって 評価がわかれそうだ。


『匣の中の失楽』 竹本健治(講談社ノベルス)
笑い1.0点 涙1.5点 恐怖2.0点 総合4.0点
 無類の推理小説好きのメンバーが集まり、いつものように会合を開いていた。その席上で、片城成こと”ナイルズ”は、メンバーの実名を 用いた推理小説を書くことを宣言する。そんな矢先メンバーの一員である曳間が何者かによって殺害された。しかも、その発見された現場は奇妙な 密室の様相を呈していた。そして、これが果てしのない連続殺人へと発展していくのであった。

 これ一冊で、普通のミステリ4,5冊分くらいの内容が詰まっている。そう感じてしまうほど密室トリックや アリバイトリックなどが満載なのである。
 本作は、ある特徴的な構成になっていて、そのためにあらすじが非常に書きにくい。感想文もどこまで内容に 触れて良いのか分からないくらいだ。全体的に、殺人事件−メンバー各人による推理合戦−殺人事件−メンバー各人による推理合戦・・・ という展開なのだが、これが読んでいて苦痛になってくる。メンバー各人は、大学で様々な学部に所属しており、 専門的な知識が豊富であり、その上専門以外のことも詳しいいわゆる”博学揃い”なのである。よって、彼らの会話は、 小難しい用語・理論に満ちていて無知に読者である僕にとっては、甚だ読みにくかった。おそらく、何回か読まないと 本書は理解できない、と同時に面白さも堪能できないのではないかと思う。


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