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安部公房


『無関係な死・時の崖』 安部公房(新潮文庫)
笑い1.0点 涙1.5点 恐怖2.0点 総合3.5点
「夢の兵士」「誘惑者」「家」「使者」「透視図法」「賭」「なわ」「無関係な死」「人魚伝」「時の崖」の計10作からなる短編集。
 「無関係な死」:Mアパートの7号室に住むAが、ある日自宅に帰ると、そこには死体が一人 横たわっていた。しかし、それは全く見たことのない男の死体だった。自分にはやましいことはないのに、自分が疑われると思い死体発見を通報できずにいた。 そして、この状況をどうするかを考えるうち時が過ぎ、次第に彼は動かぬ死体に追いつめられていく。

 竹本健治『匣の中の失楽』の中で安部公房に関する記述がちょっとだけあり、読んでみようと思い至った。
 サラリーマンの1ヶ月の給料が3万7千円であったり、オート三輪が普通に走っていたりと、時代の古さは当然感じるものの、 ストーリーは全く古さを感じさせない。また、ジャンルも推理小説的なものから、SFやホラーの要素を含むものまで様々である。
 お気に入りの作家を極めるのもよいが、古典や名前は知ってるけど読んだことないという作家の小説を、たまには読んでみるのも良いと思う。


『砂の女』 安部公房(新潮文庫)
笑い0点 涙2.5点 恐怖3.5点 総合4.0点
 義務と妬みに満ちた灰色の日常生活から逃れるため、その男は新種の昆虫を採集すべく、とある砂丘へと出かけた。その砂丘には 小さな部落があり、彼はその中の一軒に泊めてもらうことにした。そこには、郷土愛あふれる従順な若い女性が一人で暮らしていた。 だが、その家は砂穴の底にあり、毎日”砂かき”をしなければ埋もれてしまうのだ。男は、村人たちの策略で砂かき要員としてその穴に 閉じこめられてしまったのだった。家を砂から守ろうとする女や村の存続のため脱出を妨害する村人たちに抵抗し、男は脱出を試みるのだった。

 本書は、20数カ国語に翻訳された名作だそうだ。解説を寄せているドナルド・キーン氏は、「これは二十世紀の人間が誇るべき小説のひとつである」 とまで言っている。またノーベル文学賞を取っても不思議ではないと言う人もいるくらいだ。
 あるはずのない設定だが、もしかしたら日本のどこかに、こんな地があるかもしれないと思わせるリアルな描写。男の脱出を妨害し、 砂かきを強制する村人たちの理不尽さと恐ろしさ。的確で豊富な比喩表現。など僕のように何気なく軽い気持ちで読んでも面白い。 さらに名作と思って深く読み込んだらより面白いのだろうが、一読しただけでは難しい。


『燃え尽きた地図』 安部公房(新潮文庫)
笑い1.0点 涙2.0点 恐怖3.0点 総合4.5点
 失踪した夫を捜して欲しいと依頼された興信所所員。早速、彼は依頼人に会い、失踪した夫についての情報や 心当たりを聞くが、まるで何かを隠しているかのような曖昧な発言ばかり。結局、失踪した夫を捜す手がかりとして与えられたのは、 一枚の写真とどこかの喫茶店のマッチ箱1つだった。少ない手がかりで追跡を進めるうち、彼は依頼人に 疑念を抱き、夫を捜すという目的を見失い、さらには自分さえも見失っていくのだった。

 本書は、推理小説であり、ハードボイルドでもあると思う。作中、それほどセンセーショナルな事件や、 『砂の女』のような非現実的なことが起こるわけでもなく、比較的に淡々と話は進んでいく。しかし、淡々としてはいるものの、 著者の表現力のすばらしさや、豊富な比喩表現、流れるように展開していくストーリー等を追っていくうち、 次第に引き込まれ、意表をつくラストへと終着する。まさに傑作だと思う。本書を読むと、新本格と呼ばれている近頃のミステリーが、 やけに薄っぺらいものに思えてきてしまうのだ。
 取っつきにくい所もあるが、是非とも多くの人に読んでもらいたい一冊である。


『箱男』 安部公房(新潮文庫)
笑い0点 涙0.5点 恐怖1.0点 総合3.0点
 ダンボール箱を頭からすっぽりとかぶり、都市を彷徨する箱男は、覗き窓から何を見つめるのだろう。一切の帰属を捨て去り、 存在証明を放棄することで彼が求め、そして得たものは?贋箱男との錯綜した関係、看護婦との絶望的な愛。輝かしいイメージの連鎖と目まぐるしく 転換する場面。
 読者を幻惑する幾つものトリックを仕掛けながら記述されてゆく、実験的精神溢れる書下ろし長編。【本書あらすじ引用】

 はっきり言って難解すぎて訳がわからない。使われている言葉や表現などが難解なのではなく、ストーリーというか用いられている手法 が難解なのだ。『ドグラ・マグラ』の用に頭が混乱してしまいそうな難しさだ。一度読んだくらいでは理解できないので、感想文も このくらいしか書けない・・・。


『カンガルー・ノート』 安部公房(新潮文庫)
笑い2.0点 涙0.5点 恐怖1.5点 総合3.5点
 ある朝、足がむず痒いので目を覚ますと、なんと足のスネに【かいわれ大根】が密生していた。その男は、すぐに病院に行ったが、 そこでは硫黄の温泉に行くとよいといわれ、麻酔を打たれ意識を失った。次に目覚めると、男は、自走式のベッドにくくりつけられていた。 硫黄温泉行きの彼を乗せ、そのベッドは、ひとりでに動き始めた・・・。

 SF的であり、ホラー的でもある破天荒な設定の前衛文学である。
 安部公房の最後の長編である本書は、「死」をテーマにした小説である。
 <かいわれ大根>が足に生えた主人公は、賽の河原で死んだ母に会い、とある病院では、安楽死を考える患者がいたり、事故を誘発するような 信号を設置している「交通事故死研究家」がいたり、と様々な角度から「死」を扱っている。
 こう書くとなんだか難しそうと思うかもしれないが、決してそんなことはなかった。破天荒すぎて理解に苦しむ所もあるが、全体的には 読みやすくて面白い小説だった。


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