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戸梶圭太


『溺れる魚』戸梶圭太(新潮文庫)
笑い2.5点 涙0点 恐怖1.0点 総合4.0点
 万引きと横領の罪でそれぞれ自宅謹慎中の二人の刑事は、監察官に罪のもみ消しと引き替えに、公安刑事の内偵を するよう命じられた。その刑事は、ある企業から脅迫事件の犯人割り出しを依頼されていたのだ。『溺れる魚』と名乗る その脅迫犯は、企業の幹部社員に珍奇な恥ずかしい格好で繁華街を歩かせろ、と脅迫したのだ。いったい犯人の真意とは? そして事件は思わぬ展開に・・・。

 普通の人がほとんど出てこないかなり普通じゃない小説。とくに後半はドタバタハチャメチャで目が回ってしまう。 ここまで滅茶苦茶だと逆に壮快感がある。ただ、拒否反応を示す人もいるかもしれない。
 この小説は映画化されたらしく、キャストも窪塚洋介、IZAM、椎名桔平など結構豪華だったようだ。いったいこれを どう映像化したのかちょっと気になる。


『なぎら☆ツイスター』戸梶圭太(角川書店)
笑い3.0点 涙0点 恐怖1.5点 総合4.0点
 群馬県の田舎町・那木良まで一千万円を運ぶように命じられた2人のヤクザが、金と共に行方不明になった。 そこで暴力団・井波興業の社長は、消えたヤクザの兄貴分である桜井を那木良に向かわせ、5日以内に真相を調べ 金を見つけるよう命じた。

 地元の前時代的な田舎ヤクザと大卒の東京ヤクザのギャップや、町全体が死んでいるような田舎で繰り広げられる スピード感のあるドタバタ劇、次の展開が全くよめないストーリーなど見所いっぱいのエンタテイメント小説。
 だが、相変わらず表現が結構過激で、かなりブラックなユーモアがふんだんに使われている。堅く言うと公序良俗に反する 小説。平たく言えば、エログロ小説。といった感じだった。
 今まで読んだ限りでは、これが戸梶圭太の持ち味なのかもしれない。実際、メチャクチャな話運びに思えてもラストは とてもきれいにまとめられているから、筆力は申し分ない。ただ、生理的に受け付けないという人もいるかもしれない。


『赤い雨』戸梶圭太(幻冬舎文庫)
笑い0点 涙1.0点 恐怖3.0点 総合4.0点
 赤い雨が降った日を境に、いじめ、やくざ、詐欺商法などに泣き寝入りしていた市井の人による「私刑」ともいえる 残虐な暴力事件が激増。私刑はエスカレート、遂に未成年犯罪者がテレビカメラの前で無残に処刑され、日本中が狂喜する。 穏やかな生活を望む主婦、志穂は、嬉々として私刑に参加する夫に怯え、逃亡を謀るが――。(本書あらすじ引用)

 度を越えた勧善懲悪。過剰な暴力による正義の実現。それは、恐ろしくて異常なのだが、読み始めた最初のころは なぜか爽快だった。まわりに迷惑をかけている人に注意や文句も言えず、我慢することが多く、逆に勇気を出して注意した人が 相手に危害を加えられるという異常な社会になりつつあるのが今の日本だと思う。だから、今まで我慢していた善良な市民が、 「私刑」という方法は悪いが、悪を懲らしめるというのが、ちょっと痛快だったのだ。
 しかし、それも長くは続かず、次第に恐怖と不快感が募っていった。
 心理的な恐怖、こんな社会になったら怖いなというホラー小説だった。


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