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村上 龍


『希望の国のエクソダス』
村上 龍(文春文庫)
笑い0.5点 涙1.0点 恐怖0.5点 総合4.5点
 2002年秋、80万人の中学生が学校を捨てた。
 経済の大停滞が続くなか彼らはネットビジネスを開始、情報戦略を駆使して日本の政界経済界に 衝撃を与える一大勢力に成長していく。その後、全世界の注目する中で、彼らのエクソダス(脱出)が 始まった―。

 1998年〜2000年に連載されていた近未来小説。
 今の日本が尋常ではないほどの大不況ということは、小学生でもイメージとしてわかっているだろう。 中学生ならなおさらだ。本書はそんな中学生たちが、学校を捨てネットワークを作り、ネットビジネスを 発展させていく。だが、彼らは、お小遣いがもらえないからとか、親の収入が減ったから、とかいうような 「お金を稼ぐため」という動機や、「お金が欲しい」という欲望も感じられない。そもそも仕事という 感覚でネットビジネスを展開していないのではないかと思う。
 昇給がなくなって、ボーナスはカット、挙句の果てにリストラ。そんな目に遭うサラリーマンには なりたくないと、フリーターになる若者は増えるばかり。本当に、日本は夢も希望も持てない 国になってしまったと思う。
 こんな状況でも小泉首相は相変わらず口先だけは達者で、先日も首相就任二年目を迎えて、 ご機嫌な様子で記者たちになにやら語っていたっけ。


『5分後の世界』
村上 龍(幻冬舎文庫)
笑い0点 涙1.5点 恐怖2.0点 総合4.0点
 オレはジョギングしていたんだ、と小田桐は意識を失う前のことを思った。だが、今は硝煙の漂うぬかるんだ道を行進していた・・・。 五分のずれで現われたもう一つの日本は、人口二十六万に激減し地下に建国されていた。駐留する連合国軍相手にゲリラ戦を 続ける日本国軍兵士たち――。(本書アラスジ引用)

 読む前に想像していたのとはだいぶ違うストーリーだった。もっとSF要素のある小説かと思っていた。 読んでみたら、戦記物といっていいくらい、ひたすらリアルでグロテスクな戦闘シーンが続くのだ。 5分ずれた日本はこうなっていたという歴史シミュレーションとも違う。この小説は何なのだと 思ってしまった。
 この「5分後」ということにもっとスポットが当たるかと思っていたが、とても軽く流されていた。 まあ、要所要所にこの「5分後」というキーワードは出てくるが、主人公の小田桐は、あまり5分前の 世界にこだわらず、突然巻き込まれることになったキツイ強行軍や、ヒドイ戦闘にも割りとすんなり 順応している。小田桐は「生き延びる」ということを最優先に考え行動しているから、順応も 早いのかもしれないが、僕がこの世界に放り込まれたらまず最初の強行軍の時点で死んでるな。
 そう締めくくるか、という意表をついたラストで、読後に余韻の残る一冊である。


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