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村上春樹


『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド(上・下)』
村上春樹(新潮文庫)
笑い1.0点 涙1.5点 恐怖0.5点 総合4.0点
 〔世界の終わり〕
 高い壁に囲まれ、外界との接触が全くない街で、<僕>はそこに住む一角獣たちの頭骨から古い夢を見る<夢読み> として暮らしていた。
 〔ハードボイルド・ワンダーランド〕
 <計算士>として暮らす<私>は、老科学者によって意識の核にある思考回路を組み込まれていた。その回路に 隠された秘密を巡り、<私>はもめごとに巻き込まれていく。
 そして、次第にこの2つの世界の真相が明らかになる。

 〔世界の終わり〕〔ハードボイルド・ワンダーランド〕という2つのストーリーが交互に語られていく形式。
 「村上春樹のメッセージが君に届くか!?」なんて文庫のあとがきに書いてあったから、一体どんなメッセージが こめられているのかと、注意深く読んだ。しかし結局メッセージは僕には届かず…。
 僕は、村上龍と角川春樹と村上春樹を時々間違うほどの初心者だ。そのためか、商品名や人名、曲名などなど固有名詞が やたらと出てきたり、<やみくろ><記号士><夢読み>などよくわからない言葉を使ったり、主人公がキザだったり、 とにかく”村上春樹ワールド”というのか、この作風にいまいちなじめなかった。しかし、もっと著作を読んで、 ”春樹ワールド”を把握し、堪能できるようになりたい。


『羊をめぐる冒険(上・下)』
村上春樹(講談社文庫)
笑い1.5点 涙2.5点 恐怖0.5点 総合4.5点
 妻と離婚した後、広告コピーの仕事を通して、僕は耳専門のモデルをしている女性と知り合った。 ある日、僕の会社に奇妙な男がやってきた。その男は、僕が羊と雲と草原という平凡な北海道の風景写真を使って 製作したPR誌の発行を、即刻中止せよと命令した。そして、その写真に写っているある一匹の羊を探し出して欲しいという。 その写真を送ってきた行方不明の友人≪鼠≫と、その一匹の羊を探しに、僕と彼女は北海道に旅立った。 こうして羊をめぐる冒険が始まった。

 とても切なく哀しい読後感だった。
 本書で村上春樹の小説を読むのは2作目だが、僕としては前回読んだ『世界の終わりと〜』より、本書のほうが好きだ。
 あいかわらず主人公はキザだが、あまり鼻につかない。また、彼はどこか冷めていて、運命を冷静に受け止め、 あまり感情の起伏が激しくない。だから読むほうも、アドレナリン出まくりで、ワクワクドキドキということもなく、 一歩引いた感じでストーリーを追ってしまう。それでも、読む手を止められないくらい面白かった。
 それにしても、あの男の登場にはびっくりして笑えたなぁ。


『風の歌を聴け』
村上春樹(講談社文庫)
笑い0.5点 涙1.5点 恐怖0点 総合4.0点
 1970年の夏、帰省した<僕>は、3年前に知り合った友人の<鼠>と、ジェイズバーでビールを飲んだり、 介抱した見知らぬ女性と親しく過ごしたりしていた。

 群像新人賞受賞作で、村上春樹のデビュー作。
 なんともあらすじの書きにくい小説だ。帰省した<僕>のひと夏(具体的には18日間)の生活を書いているわけだが、 特に盛り上がりを見せる場面や、続きが気になるようなドキドキする展開もない。それでも、ビールと女と<鼠>と 作家<デレク・ハートフィールド>などなど、様々な要素が絡み合って、軽快で心地よい小説になっている。
 全編を通して、とにかくビールを良く飲む。<僕>と<鼠>は、車で公園の垣根に突っ込み、乗っていたフィアット600を 大破させてしまうのだが、無傷の彼らはその足で海辺まで行き、「ケガひとつない俺たちはツイている」と言って、 ビールを飲むのだ。こういうエピソードがなんとなく村上春樹っぽいなと感じる。
 『風の歌を聴け』は『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』と続く青春三部作の第一作目のようだ。僕は、 いきなり『羊をめぐる冒険』から読んでしまった。ちょっと失敗したな。
 以下ネタバレの恐れあり。読みたい人は反転させて読んでください。
 この本を読んでからネットで、「デレク・ハートフィールドは架空の作家だ」と知り、 びっくりした。こんな大仕掛けがあるとは思っても見なかった。あとがきにまで登場させているのだから、 並みのミステリよりも良くできた大どんでん返しだ。


『1973年のピンボール』
村上春樹(講談社文庫)
笑い1.0点 涙1.0点 恐怖0点 総合4.0点
 1973年の秋、友人と二人で翻訳事務所を開いていた僕は、いつの間にか僕の部屋に住み着いてしまった双子の姉妹と暮らしていた。 一方、<鼠>は一人の女性と出会い、彼女の温もりに沈み、同じような毎日を繰り返していた。
 ある日、大学生の頃に夢中になった3フリッパーの<スペース・シップ>というピンボール台の行方が気になり、 僕はそれを捜し始めた。

 『風の歌を聴け』の続編。
 前作に続いてまた今回も、<僕>が目を覚ますと隣に見知らぬ女性(しかも今回は双子)が寝ていたという展開になっている。 そんなによくあることではないはずだ。少なくとも僕にはそんな経験はない、残念ながら。そういえば、<僕>も<鼠>も よく見知らぬ女性とベッドをともにしているが、全くいやらしい印象はないなぁ。青春時代は何でも爽やかに見えるのか。
 村上春樹を読んできて、いつも思っていたのだが、展開もしくは登場人物の行動が唐突な気がする。しかし、それがまた良い。 どうやらすっかり村上春樹にはまってきているようだ。どの作品も、読むたびに新たな感想を抱き、新たな発見がありそうで、 是非とも再読していきたいと思う。


『ノルウェイの森(上・下)』
村上春樹(講談社文庫)
笑い0.5点 涙3.5点 恐怖0点 総合5.0点
 僕の親友であり、直子の恋人であるキズキは、17歳で自殺した。キズキを亡くし、深く傷ついた僕と直子は、 その後、東京の大学に進学し、毎週のように会い、東京を散歩して過ごした。そして直子が20歳を迎えたその日、 僕と直子は結ばれた。しかし、その日を境に、直子は僕の前から姿を消した。
 しばらくして僕は、直子が精神の療養のための施設で暮らしていることを知る。

 村上春樹の恋愛小説であり、上下巻合わせて400万部以上という、今では上下巻が200円で手に入るほど爆発的に売れた本だ。
 読了して思ったのは、もっと早くこの本を読んでおけば良かったということだ。かなり大げさな言い方だが、 学生時代に読んでいたら、その後の人生変わったんじゃないか、という気すらした。ミステリとかホラーとかSFも いいけど、若いうちにこういう本をたくさん読んだほうがいいと思う。
 本書に出てくる人物は皆、個性的で魅力的だ。主人公のワタナベ君はもちろん、直子、キズキ君、永沢さん、 ハツミさん、小林緑、レイコさん、突撃隊・・・皆、印象に残るシーンがある。
 本書は恋愛小説だが、たびたび「これは官能小説か?」と思ってしまうほど、直接的で刺激的な性描写が出てくる。 しかし、どれも意味ある性描写だと思うので、そこが官能小説とは違う。
 村上春樹の小説を読むと、作中で語られる本や料理や音楽などさまざまなものに興味が波及していく。今回は、 『グレート・ギャツビイ』を読みたくなり、ビートルズの「ノルウェイの森」を聴きたくなり、誰かに 手紙を書いてみたくなった。


『夜のくもざる』
文:村上春樹 絵:安西水丸(新潮文庫)
笑い2.0点 涙0点 恐怖0点 総合3.5点
 雑誌のシリーズ広告に私用するために書かれた超短編ばかりを集めた短編集。あまりにも短いのでアラスジも書けない。
 一文字一文字が大きく、行間も広めに取られているため、速読の練習用教材にピッタリという感じがした。また、 短編ごとに安西さんの絵が使われていて、まるで絵本のような印象だった。
 内容は、とにかくシュール。もうこの一言に尽きる。海亀の攻撃から身を守るためにフリオ・イグレシアスのレコードを かけるとか、恋人がドーナツ化したとか、伯父がアンチテーゼ採りにボルネオに行ったとか、インド屋さんがやってくるとか、 とにかくわけがわからないものばかり。たぶん意味とか考えて読むものではないのかもしれない。
 不思議でシュールな一冊。


『ねじまき鳥クロニクル 第1部 泥棒かささぎ編
               第2部 予言する鳥編
               第3部 鳥刺し男編
村上春樹(新潮文庫)
笑い1.0点 涙3.0点 恐怖2.0点 総合4.5点
 僕と久美子飼っている猫(ワタヤ・ノボル)が、いなくなった。失業中の僕は、裏の路地を歩き、猫を探す。 そこで僕は、その路地に面した家に住む笠原メイと知り合う。一方、久美子は、不思議な能力を持った加納マルタと いう女性に猫のことを頼んでいた。久美子に頼まれて僕は、マルタと会うことになった。その席で、マルタは 妹のクレタが久美子の兄・綿谷昇に汚されたことを打ち明け、さらにこれから僕の身に起こるであろう出来事を あいまいに予言し去って行った。

  途中まで5点満点の面白さだったのだが、後半になってどんどんわけわからなくなっていき ちょっとついて行けなくなってしまったので、0.5点減点した。空白も少なく文字がギッシリ 詰まっている文庫が全3巻というかなり読み応えのある小説だが、その長さも気にならない、 というよりむしろ終わって欲しくないと感じる面白さだった。
 加納マルタ、加納クレタ、笠原メイ、赤坂ナツメグ、赤坂シナモンなど、変わった名前の キャラクターが多数出てくる。しかも、それぞれのキャラクターは、その名前よりもずっと 変わった人物設定になっている。でも、正直言って、脇役である彼女たちの方が、主人公よりも 魅力的だったり、印象深かったりする。
 今回の小説は、年代や舞台が異なるエピソードが断片的に入っているので、一度読んだだけでは 頭の中でうまく整理しきれなかった。謎めいたエピソードも多く、一体これはどんな意味があるのか というのがわからなかったりした。もう一度読んで、スッキリしたい気分だ。
 


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