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原 宏一


『穴』
原 宏一(実業之日本社)
笑い2.5点 涙0.5点 恐怖0点 総合4.0点
 リストラされベンチャーにも失敗した負け組サラリーマン、玉の輿に乗り損ねた女性秘書、罪をすべてかぶせられ トカゲのしっぽ切りに遭った代議士秘書。彼らは、死に場所を求め富士山の樹海に入った。そこで彼らは、 洞穴に住み縄文人のような暮らしをしているロクさんとう初老の男性に出会う。
 ここから元・自殺志願者たちの奇妙な共同生活が始まる。

 図書館で手にして、面白そうだったので借りてみたのだが、なかなか面白かった。
 富士山麓の樹海が舞台で、登場人物は死を覚悟した人ばかり。死ぬ気になれば、人間なんでもできるとは よく言ったもので、後半になるとストーリーは大胆で破天荒な展開になっていく。ただ、 ラストが少しあっさりしていて、個人的にはかなり物足りなかった。もっと話を広げてほしかった。
 「勝ち組負け組」という言葉はすっかり普及して、大人たちは生き残り競争に必死だ。しかし、 一方で、小学校では運動会で競争がなくなったり、勝ち負けをなくす方向になっていると聞く。 日本はもう経済的には成長しきった感じもするから、これ以上、仕事やお金のために、競争して 勝ち負けに必死になるより、精神的にゆとりをもって、金銭だけではなく時間的豊かさなどを 求めて生活したほうが僕は幸せだと思う。
 それにしても、お金は魔物だなと本書を読んで思った。


『かつどん協議会』
原 宏一(幻冬舎文庫)
笑い3.0点 涙0点 恐怖0点 総合4.0点
 「かつどん協議会」:行きつけの大衆食堂のご主人に代わって、全食連の会合に 出席することになった蓑田。そこは「カツ丼推進キャンペーン」という名目のもと、肉、卵、パン粉、米などの関連団体 が集まり、激しい主導権争いを繰り広げている会合だった。
 「くじびき翁」:日本の政治がよくならないのは、多数決で物事を決めているからである。 よって、すべて政治はくじびきで行なうべきである。そう熱弁を振るう爺さんに会ったフリーライターの話。
 「メンツ立てゲーム」:謝罪の専門家である謝罪士という肩書きを持つ男に出会った妹尾。 彼は、仕事でミスをし、クビどころか、会社自体をも潰しかねない事態をまねいてしまう。このピンチに彼は、 謝罪士に助けを求めることにした。
 以上の3編からなる短編集。

 こんな設定よく思いつくな、と感心する短編集だ。くじ引きで行なう政治をロトクラシーと名づけたり、 弁護士、会計士、などと同列に謝罪士を作ったり、謝罪の本質はメンツ立てゲームだと言ってみたり、 設定だけでなくネーミングも面白い。コピーライターを本業としているだけのことはあると思った。
 ネーミングや設定だけでなく、表現力の申し分ないと思う。「かつどん協議会」を読めば、それがわかる。 読み始めると、あっという間に口の中はだ液でいっぱいになり、カツ丼食べたい!という気持ちになること間違いなし。
 本書を読んで、作風が清水義範に似ているなと思っていたら、本書の初刊本に清水さんが―たぶん帯にだと思うが、 推薦文を書いているのを知った。だから、清水義範の本が好きな人は、原宏一も面白く読めると思う。


『床下仙人』
原 宏一(祥伝社文庫)
笑い2.0点 涙1.0点 恐怖0点 総合3.5点
 「床下仙人」:通勤するのに片道1時間50分かかるが、念願のマイホームを手に入れた。 毎日忙しいが家族のためと思いがんばっていた。そんなある日、妻が「家の中に変な男が棲んでいる」と訴える。 はじめは信じていなかったが、おれも見知らぬ男が床下に入っていくのを見てしまった。
 「戦争管理組合」:海外から一ヵ月半ぶりに自分のマンションに帰ってきたおれは、 玄関に入ったとたん見知らぬ女に猟銃を突きつけられた。彼女は「組合員証を見せろ」と言う。
 「派遣社長」:『一ヶ月お試し社長キャンペーン』中なので是非とも、という営業マンの トークに押され、「山崎デザインプロ」は派遣社長を雇うことにした。翌日、まるで居酒屋の店長のようなオヤジがやってきた。 一ヶ月の辛抱だと皆がまんして働いていたが・・・。
 以上のほか「てんぷら社員」「シューシャイン・ギャング」の計5作からなる短編集。

 会社、サラリーマン、新ビジネスなどを題材にした短編集。
 今までに読んだ著作と比べるとやや面白みに欠ける。設定はたしかに面白いのだけど、他の小説ほど突拍子もないものではないし、 おとなしめな感じがする。それでも、ブラックユーモアと、現代日本の風刺をミックスさせ楽しませてくれた。
 「派遣社長」を読んで思ったが、野球やサッカーの監督ってある意味、派遣社長っぽい気がする。これからはますます 正社員雇用が減って、パートや派遣などに頼っていく時代になっていくと思うから、派遣社長というのもあながち絵空事でも ないのかも。


『極楽カンパニー』
原 宏一(幻冬舎)
笑い1.5点 涙1.0点 恐怖0点 総合3.5点
 定年退職し、やることがなくなった須河内賢三は、図書館に通い日々暇をつぶしていた。ある日、彼はそこで 同じ境遇の桐峰敏夫という男に出会う。「会社勤め」という体に染み込んだライフスタイルを失ってしまった彼らは、 そのライフスタイルをもう一度味わうために架空の会社を作り「会社ごっこ」を始めることにした。 はじめは2人だけだった社員も次第に増え、いつしか「会社ごっこ」は一大ムーブメントとなっていき・・・。

 原宏一という作家は毎回、奇想天外だなぁ、よく思いつくなぁと感心させられる。だが、それだけでなく、 よく考えてみると、実現しそうないいアイディアじゃないのか?と思うことがある。本書も、いいアイディアなのだ。 まあ、机上の(紙上の?)空論かもしれないが、誰かがこれを実現させてもおかしくはない。
 内容的には、序盤から面白く、次の展開が気になってしまうくらいだったが、その後、徐々に失速していく感じだ。 もう少し違う展開を期待していたのだが。
 会社人間にオススメの一冊。


『ムボガ』
原 宏一(幻冬舎)
笑い2.5点 涙1.5点 恐怖0点 総合4.5点
 ムボガ――その発音しにくい外国人との出会いからすべてが始まった。平均年齢40歳のアマチュアバンド・コレステローラーズは、 招待された海外の音楽祭出演をキッカケにアフリカを席巻するスーパースターとなってしまった。有頂天で帰国した彼らは、 職を捨て家族を故郷に残し、日本でビューを目指すが、待っていたのは厳しい現実。一発逆転をはかる彼らは、 唯一の味方・外国人労働者を対象にしたライブを企画するが・・・。(本書アラスジ引用)

 アフリカらしき平原を背景に、「ムボガ」を大きくタイトルが書かれているだけというシンプルだけど、インパクトのある 表紙だ。ちょっと僕好みの装丁ではないけど。
 内容は今まで読んだ原宏一の小説の中では一番よかったと思う。原宏一はいつも、日本の社会が抱える問題を取り上げて、 笑える小説を書いている。本書で取り上げたのは「外国人労働者問題」。3Kと呼ばれるような仕事はかなりの部分を外国人に やらせて、中には不法滞在と知りつつも黙認して雇うところもあるという。しかし、一方でそんな外国人労働者の 権利は弱く、不法とはいえ長期にわたって定住している労働者たちは、健康保険にも入れなかったり、不当な解雇をされたり 賃金を払ってもらえないということもあるそうだ。
 こうして書いてくると、なにやら堅苦しい小説のようにも思うかもしれないが、どんな深刻なテーマでも、笑えてちょっと 泣けるエンタテイメント小説にしてしまうのが、この作家の持ち味だと思う。


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