ホラー
『想師』灰崎 抗(学習研究社) |
笑い1.0点 涙0.5点 恐怖2.0点 総合4.0点 |
「旋視」と「転視」と呼ばれる能力を使い、この世界の姿を自分の想像通りの姿に変えることができる術者を”想師”と
呼ぶ。800歳の天承老師の弟子である草薙は、暗殺や不治の病の治療など様々な依頼を受ける想師だ。彼はある日、
暴力団組長を暗殺した帰りに、巨大な恐竜と出会う。それは、破壊と殺戮専門の凶悪な想師・九鬼凍刃の姿だった。
著者も内容もよくわからなかったけど、何となく面白そうだったので図書館で借りてみたという一冊。この世界観を理解するまで
に少々時間がかかるけど結構面白いエンタテインメント小説だった。
植物人間を回復させたり、死者と話したり、核ミサイルをつかんで投げ返したり、津波を消したり、想師は何でもできてしまう。
あまりの破天荒ぶりにちょっと笑えてしまう。
キャラクターがかなり豊富で、草薙の師匠と弟子の他にも、カバラ魔術をあやつるカバリストや、呪術に長けた呪術者、
そしてしゃべるサボテンなんていうのまで出てくる。シリーズ化もできそうなほど個性的なキャラクターが揃っているのだ。
なかなか掘り出し物の一冊だった。
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『ダブル』久綱さざれ(学習研究社) |
笑い0点 涙1.0点 恐怖1.5点 総合2.5点 |
戌井泰蔵の死にともない顧問弁護士の倉崎駿介は泰蔵の遺言執行者となった。莫大な遺産を相続するある一人の少年を
探していた倉崎は、その少年が今、殺人の容疑で留置所にいることを知る。弁護士として接見した倉崎に対してその少年は、
”俺は誰も殺していない。俺のダブル―ドッペルゲンガーがやったんだ”とつぶやいた。
ミステリー色の濃いホラー。もしくはホラーの要素が入ったミステリー。
それほど面白いというわけではないが、つまらなかったというわけでもない。可もなく不可もない普通の小説という印象だ。
ドッペルゲンガーとか後半に出てくるあるテーマとか、この手の小説では割りとよく使われるので目新しさはない。
むしろ中途半端に使っている感じがした。
それとラストがややこしすぎる。何がどうなっているのかよくわからない。著者に、無理矢理納得させられた気がする。
まあ、フィクションだからどんな結末もありうるのだが、何か都合のいい解釈だなぁと思った。
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『死国』坂東眞砂子(角川文庫) |
笑い0点 涙2.0点 恐怖2.5点 総合3.5点 |
20年ぶりに故郷である高知県の矢狗村を訪れた比奈子は、幼馴染の沙代理が18年前に事故死していたことを知った。
そのうえ、彼女を黄泉の国から呼び戻すべく、母親の照子が禁断の”逆打ち”を行っていたのを知り、
愕然とする。四国八十八箇所の霊場を死者の歳の数だけ逆に巡ると、死者が甦るというのだ―。
そんな中、初恋の人・文也と再会し、恋におちる比奈子。だが、周囲で不可思議な現象が続発して・・・。(本書あらすじ引用)
映画にもなった伝奇ロマン小説。
近年、四国八十八箇所巡礼をする人が増えているという。昔は、徒歩で巡るしかなかったが、
今はバスツアーまであるくらいで、結構気軽に巡礼できるようだ。とはいえ、徒歩による
巡礼のほうが何となくご利益がありそうな気はする。かくいう僕も、
「歩き遍路」に本気でチャレンジしようと思ったことがある。いや、今もチャレンジしたいと言う気持ちは
あるのだ。時間と体力が十分あれば是非やってみたい。
本書は、その四国巡礼が題材に出てくるのだが、荒唐無稽なホラーという感じは
しなかった。白装束で霊場を巡るなんていう修行のようなものがこれほど根付いている
四国には、「何かある」と思わせる雰囲気がある。
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『山妣(上下)』坂東眞砂子(新潮文庫) |
笑い0点 涙3.0点 恐怖2.5点 総合4.5点 |
赤子を喰らう山妣が棲むといわれている狼吠山。その山の麓にある越後の小さな村は、小正月と
山神への奉納芝居の準備とで活気づいていた。その村に、芝居指南のために東京から招かれた二人の旅芸人―扇水と
涼之助。準備は着々と進んでいたが、涼之助と地主の嫁・てるとの密通がきっかけとなり、
悲劇の幕が開いていく。
直木賞受賞作。
「ホラーが読みたい!」という思いに駆られて手にした本書だが、読んでみたらホラーではなかった。
いろいろなタイプの人間の感情や性格や行動を描くことで、人間の怖さは堪能できるが、ホラーとは
別物かなという気がする。むしろ、泣ける小説の部類に入るかもしれない。とにかく山妣の人生は
悲しすぎるのだ。
ハッピーエンドにしようと思えば、できないことはなかったと思う。しかし、ハッピーエンドにつながりそうな
分岐点をことごとく悪い方に進んでいき、ハッピーのかけらも見つからないような悲しくて重苦しい展開に
なっていく。まあハッピーエンドにしたら、平凡な小説になって直木賞は取れなかったのかもしれない。
村での日常を描いた上巻の方は、展開も遅く、ちょっと退屈だが、下巻に入ると俄然面白くなって、
読む手が止まらなくなる。なかなかオススメの一冊。
ちなみに本書は、「やまんば」ではなく「やまはは」と読む。
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