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ホラー



『玩具修理者』 小林泰三(角川書店)
笑い0点 涙0.5点 恐怖4.0点 総合4.0点
「玩具修理者」「酔歩する男」の計2篇からなる短編集。
「玩具修理者」:近所にどんな玩具も修理してくれる正体不明の人がいた、と彼女は言う。 幼い頃、彼女は弟をおぶったまま、誤って階段から落ち、弟を死なせてしまった。親に怒られると思った彼女は、 弟の死体をその玩具修理者に持っていったのだが・・・。
「酔歩する男」:血沼はある日、パブで奇妙な男に出会った。初対面のはずの小竹田と名乗る その男は、「あなたと私は、大学時代、親友だった」と言う。それから彼が語りだしたのは、一人の女性をめぐった狂気 の物語だった。

 「玩具修理者」は第2回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作である。
 その短編の中に恐怖が凝縮されている。「死体を修理する」という設定自体も怖いが、食事中には絶対に読めない ような表現の気持ち悪さもある。「酔歩する男」は、中編といっていいくらいの長さがある書き下ろし作品である。 こちらは、精神的に不安になる怖さがあった。


『そして粛清の扉を』 黒武 洋(新潮社)
笑い0点 涙1.0点 恐怖3.0点 総合4.0点
 高校の教師である近藤亜矢子は、暴走族に一人娘を殺され、天涯孤独の身となった。 平気で法を犯す問題児ばかりのクラスを担任している彼女は、娘の死を契機に、ある計画を決意を 心に秘めた。
 卒業式を翌日に控えたその日、あらゆる準備を整えた彼女は、29人の生徒を人質にして教室に 立てこもった。そして、ここから血の粛清の幕が開いた。

 第1回ホラーサスペンス大賞受賞作。
 一人の教師が、悪事の限りを尽くしている生徒たちを”これ以上の被害者を出さないための 緊急措置”という大義名分のもとに、次々と惨殺していく物語である。
 はっきり言って、私刑をおこなうこの教師の行動には共感できないし、読んでいて気分も悪いし、 読後感も良くない。また、彼女をここまでの凶行に駆り立てるキッカケが弱い気がする。それと 彼女の準備段階の記述が少なく、どのようにしてこの冷徹な制裁者ができあがったのかが、 ひまひとつわかりにくかった。
 とはいえ、よく練られた設定だし、身代金をめぐる親たちの騒動、警察の対応など細かいところも リアルに書けていて、面白くなかったというわけではない。
 読んですぐ連想される『バトル・ロワイヤル』ほどの面白さはないが、読んで損のない一冊だ。


『蟲』坂東眞砂子(角川ホラー文庫)
笑い0点 涙0.5点 恐怖3.0点 総合3.5点
 ある日、めぐみの夫・純一が、富士川のほとりで小さな石の器を拾ってきた。「常世蟲」と彫られているその器を持ち帰って 以来、めぐみは奇怪な夢に悩まされ続け、純一との穏やかで幸せな生活も徐々に崩れ始めていた。そしてある日、めぐみは、 夫の体から巨大な緑色の虫が這い出るのを目撃してしまった!

 第1回日本ホラー小説大賞佳作作品。
 虫好きな僕でも、読んでいてなんだか体の中に虫が巣食ってしまったような、むず痒い気分になった。 虫嫌いな人には、恐怖が倍増する小説かもしれない。
 良く言えば、じわじわと恐怖感がつのっていく感じが味わえる小説。悪く言えば、展開が遅くて、なかなか決定的な恐怖が 訪れない退屈な小説。どう感じるかは読む人次第である。


『妖都』津原泰水(講談社)
笑い0点 涙0.5点 恐怖3.0点 総合3.5点
 20世紀末の東京で、人間でも幽霊でもない”死者”が街を徘徊し、人間を襲い始めていた。その”死者”を見る能力を持つ 馨はある日、”死者”に襲われている一人の女性を助けた。鞠谷雛子というその女性は、その時自分も”死者”が見えることを知る。
 この数日前、ヴィジュアル系バンド「CRISIS」のボーカル、チェシャが自殺していた。両性具有とも噂されていた彼の ラストアルバム『妖都』の中には、暗示的で気になる歌詞が存在していたのだった。

 裏表紙に、綾辻行人、井上雅彦、小野不由美、菊池秀行による賛辞が載っている。4人とも読んでいて恥ずかしくなるほど 褒めちぎっているから、とりあえず借りて読んでみた。
 ルビをふらなければ読めない漢字を結構使っている。別に無理してそんな漢字使わなくても…と思うが、伝奇ホラーの怪しい妖しい 雰囲気を出すためのこだわりなのだろう。
 前半はそこそこ面白かったが、後半になると、著者が陶酔状態で書いているかのようで、ちょっと僕はついて行けなかった。 読み終わってみて「結局どういう事だったの?」と思ってしまった。

『蘆屋家の崩壊』津原泰水(集英社)
笑い0点 涙1.0点 恐怖3.5点 総合4.0点
「蘆屋家の崩壊」:大学の同級生だった秦遊離子を訪ねた猿渡と彼の友人で怪奇小説家の”伯爵”は、 そこで蘆屋道満にまつわる恐怖の体験をする。
「猫背の女」:とあるコンサートで一度だけ席を譲ってあげた女性から、翌日映画に誘われた 猿渡は、再び彼女と会って驚愕した。彼女は異常なほど猫背だったのだ。
「カルキノス」:まるで人の顔のような甲羅をもつグロテスクな紅蟹を、六道という網元に たらふくご馳走になった猿渡と”伯爵”は、その日、不可解な殺人事件に巻き込まれた。
「ケルベロス」:不幸なことばかりが続く山村を訪ねた猿渡と”伯爵”は、まるで狛犬のように 神社に置かれている二匹のケルベロスの像を発見する。
以上のほか、「反曲隧道」「埋葬虫」「水牛群」の計7作からなる連作短編集。

 ポオの『アッシャー家の崩壊』のもじりのタイトルを見て、コミカルな小説なのかと思っていたが、大間違いだった。 読んでいて恐怖と同時に不安に襲われるような幻想怪奇小説だった。
 津原氏自身がモデル(?)の猿渡とホラー作家の井上雅彦氏がモデルの”伯爵”のコンビが登場する連作短編形式なのだが、 いまいち2人のキャラがつかめなかった。
 『妖都』と同じく、「漢字」へのこだわりがうかがわれる小説だ。また今回は、古事記や神話、ケルベロス、蘆屋道満、八百比丘尼など いかにも怪奇小説に合う題材が多い。そんな中で僕が恐怖を強く感じたのは、どの題材も使っていない「猫背の女」と「埋葬虫」だ。 特に前者はストーカー物というか、サイコホラーというか、とにかくゾッとした。

『回路』黒沢 清(徳間書店)
笑い0点 涙1.0点 恐怖2.0点 総合3.0点
 工藤ミチが働く会社で、田口という一人の同僚が一週間も音信不通になっていた。心配になったミチが、田口の住むアパートへ行ったところ 真紅の粘着テープで縁取られた奇妙なパソコンがあった。しかしそれ以外は、何てことない普通の部屋だった。肝心な田口の姿は見当たらないな、 と思った次の瞬間、ミチは恐怖に遭遇した。そしてこの時、人類は終焉を迎えつつあったのだ。

 たしかこんなタイトルの映画があったなあと思い、図書館で借りてみた。でも、映画を見る気がうせる、あまり面白くない小説だった。
 淡々として説明くさい文章や、安っぽいセリフなどがちょっと好きになれなかった。しかも、前半で早々とネタばれしている ような記述があったり、すべて計算して書かれているのかもしれないが、個人的にはあまり良いとは思えなかった。

『ΑΩアルファ・オメガ小林泰三(角川書店)
笑い1.0点 涙0.5点 恐怖2.5点 総合4.0点
 諸星隼人を含む乗客500人を乗せた飛行機は、原因不明の事故のため、高度1万メートル上空から垂直落下した。 生存者ゼロ。人間の原型をとどめているものも皆無に近い。ところが、死体安置所には一体だけ、左腕がないことを除けば ほぼ無傷の遺体があった。遺族の一人として遺体の身元確認に来ていた隼人の妻・沙織が、その遺体を隼人だと確認した 次の瞬間…。

 プロローグはとても食事中には読めないようなグロテスクホラーになっている。そんなプロローグから第1部への 急展開ぶりにはかなり戸惑った。おそらく10人読んだら10人の人が戸惑うと思う。この著者は一体何を考えているんだ? と思ってしまう。しかし、読みすすめるうちに納得がいった。
 ホラーかと思っていたが途中からまるでコメディのような、おバカSF小説のような、トンデモ系のような印象になっていった。 (以下ネタバレのおそれがあるので、読みたい人だけドラッグしてください。)
僕の印象としては、ホラー版ウルトラマン。もしくはリアル版ウルトラマンだった。まちがいなく 著者もウルトラマンを意識しているはずだ。なぜなら主人公が「諸星隼人」という名前だから。この名前から 「モロボシダン」を連想してしまうのは僕だけではないはずだ。
 読みごたえ充分だが、万人受けするかどうかは微妙だなぁ、というわけで4.0の評価にした。


『コールド・ファイア(上・下)』ディーン・R・クーンツ/大久保寛訳
(文春文庫)
笑い0点 涙1.5点 恐怖2.0点 総合4.0点
 どこからともなく現れ、あわやの瞬間に人命を救い、ジムとのみ名乗って消えた男。驚くほど青い眼をした男。 目撃した女性記者ホリーが調べると、”奇跡の救出劇”は頻々と全米各州にわたって行われている。男はどうやって 危難を予知するのか?何が男をそうさせるのか?職業意識を超えてホリーは男の謎に魅かれてゆく。(上巻あらすじ引用)

 黒岩研の『ジャッカー』を読んでクーンツに興味を持ったのと、本書の解説を宮部みゆきさんが書いているのを知って本書を 購入した。
 上巻は、ジムが不思議な啓示に導かれ人命救助をする様子とそれを追うホリーの様子が書かれている。上巻まではちょっと 冗長で退屈だなぁと思っていた。が、下巻になってストーリーは意外な方向に展開していくのだ。
 「飛べないスーパーマン」みたいなジムが活躍するストーリーも面白かったし、読後感もよかったが、僕としてはこの小説自体より も、宮部さんの解説のほうが興味深かった。解説で宮部さんはキング論・クーンツ論や作家として「神」や「宗教」をどう考えるのか、 エンターテイメント小説はどうあるべきか、というようなことを解説としては異例の長さで語っている。
 クーンツファンだけでなく、宮部ファンにもオススメの一冊。


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