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荒俣 宏



『ワタシnoイエ シム・フースイ ver.1.0 荒俣宏(角川ホラー文庫)
笑い0点 涙1.0点 恐怖2.5点 総合4.0点
 小林夫妻は、結婚してすぐ一戸建てを買った。幸せなはずの新婚生活は、他ならぬその家のために、最悪なものとなった。 家中いたる所にカビが異常繁殖し、ついに妻はノイローゼになる。そして、この異常事態は、最近加入した生命保険会社が始めた 占いサービスによって予言されていた。困った夫は、黒田龍人という風水師に相談する。彼と彼のパートナーのミヅチの調査により、 夫が加入した保険会社の背後に恐るべき邪悪な存在があることを突き止める。

 風水ホラー小説。
 本書を読むと、風水の基本的な知識がつきそうな気がする。数年前からちょっとした風水ブームだが、ほとんどの人は、根拠や 仕組みもわからず、「西に黄色で金運UP」などといわれたら、その通りに従っているだけだと思う。まあ、結果がよければ 「風水とは?」なんて知る必要もないかもしれないが、風水にちょっとでも興味のある人は、一度本書を読んでみてはどうだろうか。
 ホラー小説としては、場面の切り替えと時間の経過が唐突で、怖さを感じるよりストーリーを追うのに精一杯になってしまった。 それと、主人公の黒田がクールそうでパニックに陥ったり、博学そうでいてそうでもなかったり、万能そうでいて万能じゃなかったりと、 何となく人物像がつかみにくい中途半端な感じがした。まあ完璧な人などいないから、逆に人間らしくてよいかもしれないが、 少し気になった。


『二色人ニイルピトの夜 シム・フースイ ver.2.0 荒俣宏(角川ホラー文庫)
笑い0点 涙1.5点 恐怖1.5点 総合3.5点
 石垣島の白いビーチに面して建てられた川平リゾートホテル。東京から来た鉅賀くみ子は、楽園を求めそのホテルに泊まった。 しかし、彼女がそこで出会ったのは、美しいビーチに突如現れた腐臭を放つサンゴの塊だった。メデューサの首を思わせるその塊の上には、 三本足の鶏が苦しげに立っていた・・・。

 沖縄を舞台にした、風水ホラー第2弾。
 本書を読むと、沖縄は本当に日本とは独立した存在なのだと思わされる。風水が根付いた文化や風習、そして言葉。 石垣島を舞台にした本書だけ読んで、沖縄の歴史や文化をすべて知った気になるつもりはないが、沖縄はやはり 昔そうだったように、日本とは独立した国家であった方がよいような気がした。
 本書の内容だが、ver.1.0で出ていた風水師・黒田龍人と有吉ミヅチが出ているから、シリーズ2作目には違いないと思う。 しかし、前作については全く触れてないし、後日談のようなものもない。そして、ストーリーは今ひとつつかみ所のない後味の悪い、 すっきりしないという印象だった。ヤマ場のようなものが、いくつかあるようだけど、どれも中途半端で、どこに一番チカラを入れているか わからない。特に、黒田がホテルのオーナーと対峙するあたりは、もっと盛り上げてもいいのにな、と思った。読解力不足といわれれば、 そうかと思うしかないが、僕としてはよい印象はなかった。


『新宿チャンスン シム・フースイ ver.3.0 荒俣宏(角川ホラー文庫)
笑い0点 涙1.0点 恐怖1.5点 総合3.5点
 新宿で双頭の高層建築・新都庁舎を建てる工事が始まった。その現場で、人骨と「地下女将軍」と書かれた一本の棒杭が掘り出された。 その棒杭は、韓国で「チャンスン」と呼ばれている魔除け・鬼神封じの柱だった。それからというもの、工事中に地下水が噴出したり、 事故が続発したり、ついには作業員の一人が現場で消息不明になった。
 事態収拾のため、風水師・黒田龍人とミヅチが”魔”に挑む。

 新宿を舞台にした風水ホラー第3弾。
 今回は風水がメインではない。ストーリーの根底には風水があるのだが、表面的にはエクソシストのような悪魔払い、鬼神封じといった 感じのホラーになっている。ただ、全体的にイメージしにくくて、あまり恐怖は感じなかった。それと、シリーズ3作を読んできたが、 主人公黒田龍人とミヅチの関係が今ひとつ理解できない。
 シリーズものだが、順に読まなくても大丈夫だと思うので、興味を持った人はご一読を。


『闇吹く夏 シム・フースイ ver.4.0 荒俣宏(角川ホラー文庫)
笑い0点 涙1.0点 恐怖1.0点 総合4.0点
 その年、岩手県の花巻市は、3年連続の冷夏にみまわれ、農家に甚大な被害が及んでいた。事態を重く見た地元の青年団は、 東京にいる風水師・黒田龍人に助けを求めた。しかし、その時、ある人物が暗黒の帝都建設にむけて花巻に到着した。

 風水ホラー第4弾。  今まで続いてきたシリーズの集大成ともいえる作品。よって本書を楽しむには、「ワタシnoイエ」から始まるシリーズを 読んでいることが前提になると思う。
 今回は、前作と違って風水色が濃くなっている。それと、今までと違って、とても規模の大きな風水が行われ、後半は 結構スピード感があり、手に汗握ってしまった。ただ、やっぱりどこか中途半端な気がする結末だ。とくに、黒田の敵は どうなったのかというのが、曖昧なまま終わってしまった。これは、次回作への布石なのだろうか。


『夢々 陰陽師鬼談』 荒俣 宏(角川書店)
笑い1.0点 涙0.5点 恐怖1.0点 総合4.0点
 陰陽師。神秘的でいて古めかしく、しかも頼もしいひびき――。
 これからお話しするのは、今をさかのぼる千年前、平安の夜で活躍した陰陽師・安倍晴明の秘められた物語である。 それでは、長い占術の歴史をひもといていくことにしよう・・・。
 陰陽道、そして占星術にたいする膨大な知識を駆使して綴られた、安倍晴明の一大物語。(本書アラスジ引用)

 ここ数年、安倍晴明ブームで、ドラマ化されたり、映画化されたりするくらいの盛り上がりを見せている。 基本的に僕は、ブームに乗るのは好きではない天の邪鬼な性格だけど、図書館で偶然本書を見つけ、面白そうだったので借りてみた。
 むかし読んだ『陰陽師』(夢枕獏)の安倍晴明とはずいぶんイメージが違った。本書の晴明は、妻に弱く、小心者で ずる賢いという、あまり魅力的ではないキャラクターになっている。それと、本書自体も、全体的に淡々と語られている ため、小説というより伝記や古文書を口語訳にしたもの、という印象を受けた。
 聖徳太子があやつった方術の話から、阿倍仲麻呂と吉備真備の物語、俵藤太こと藤原秀郷の物語を経てようやく 安倍晴明の物語がはじまる。長編小説というより、連作短編集に近い小説だった。


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