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司馬遼太郎


『竜馬がゆく (一)』 司馬遼太郎(文春文庫)
笑い2.5点 涙0.5点 恐怖0点 総合4.5点
 12歳になっても寝小便をし、泣いてばかりいた竜馬も19歳になり、まるで別人のようにたくましい青年に成長した。 通い続けた日根野道場では、19歳という若さで目録をもらうまでになった。しかし、さらに腕を磨くため、竜馬は江戸へと旅立った。

 幕末の英雄・坂本竜馬の生涯を中心に描いた、いわずと知れた傑作である。
 今まで真田幸村を中心に、戦国時代の小説ばかり読んできた。幕末は、当然のことながら戦国時代とは違った面白さがある。 幕末に登場する人々は、みな明るく何となくほのぼのしている。しかし一方では黒船が来たり、長きにわたった徳川政権が揺らぐ大動乱期でもあった。 そんな幕末の面白さは、二巻・三巻と読むうちにドンドン大きくなっていくと思う。早く続きが読みたくなること間違いなしのシリーズ一作目だ。


『竜馬がゆく (二)』 司馬遼太郎(文春文庫)
笑い1.0点 涙0.5点 恐怖0点 総合4.5点
 黒船の出現以来、猛然とわき上がってきた勤王・攘夷の勢力と、巻き返しをはかる幕府との抗争は、次第に激化してきた。 先進の長州・薩摩に遅れまいと固陋な土佐藩でクーデターを起こし、藩ぐるみで勤王化して天下を押しだそうとする武市半平太のやり方に、 限界を感じた坂本竜馬は、脱藩を決意した。

 安政5年〜文久2年の竜馬が脱藩するまでが書かれている。
 この間には、桜田門外の変や永福寺門前事件・吉田東洋暗殺事件など血生臭い事件が発生している。これらの事件により、剣一筋だった竜馬も、 自分の人生や乱世における自身の役割などについて考えはじめ、ついには当時としては大罪である”脱藩”を決意するに至るのだ。


『竜馬がゆく (三)』 司馬遼太郎(文春文庫)
笑い1.0点 涙0点 恐怖0点 総合4.5点
 土佐藩を脱藩し、浪人となった竜馬は、幕府の要職にある勝海舟と運命的な出会いをする。勝との触れあいによって、彼は どの勤王の志士とも違う独自の道を歩き始めた。生麦事件など攘夷熱の高まる中で、竜馬は逆に日本は開国して、海外と交易しなければならない、 とひそかに考える。そのためにこそ幕府を倒さなければならないのだ、とも。

 武市半平太・岡田以蔵・桂小五郎・勝海舟など、竜馬に出会った男は、皆、不思議な魅力を持つ竜馬にほれてしまう。」男に惚れられるくらいだから、 当然、女性にも好かれる。北辰一刀流の皆伝を持つ千葉家のさな子、土佐藩の家老・福田家のお田鶴、そして楢崎将作の遺子・おりょう、 といずれも竜馬に惚れた美しい女性である。石田三成が、いくら才能があっても人徳がなかったために家康に敗れてしまったように、 日本を変えるほどの力を持つ人には、人徳というのは必須の才能なのだろうと思った。


『竜馬がゆく (四)』 司馬遼太郎(文春文庫)
笑い2.5点 涙0.5点 恐怖0点 総合4.5点
 志士たちで船隊を操り、大いに交易をやり、時いたらば倒幕のための海軍にする――竜馬の志士活動の発想は奇異であり、 ホラ吹きといわれた。世の中はそんな竜馬の迂遠さを嘲笑うように騒然としている。反動の時代――長州の没落、薩摩の保守化、 土佐の勤王政権も瓦解した。が、竜馬はついに一隻の軍艦を手に入れたのであった。

 竜馬という男は、ほんと時の動きを読む能力が優れていたのだなと思う。いくら自分で、「まだ倒幕の時ではない」と思っていても、 薩長や武市半平太らが、それぞれの主張のものとに動き始めたら、自分もなにかしなきゃと焦るものだと思う。でも、竜馬は そんなときも自分の考えを信じ、海軍造りに専念している。やはり凡人には及びもつかない人物だ。


『竜馬がゆく (五)』 司馬遼太郎(文春文庫)
笑い2.5点 涙0.5点 恐怖0点 総合4.5点
 池田屋ノ変、蛤御門ノ変と血生臭い事件が続き、時勢は急速に緊迫する。しかし幕府の屋台骨はゆるんだようにも見えない。 まだ時期が早すぎるのだ・・・。次々と死んでゆく同士を想い、竜馬は暗涙にむせんだ。竜馬も窮迫した。心血を注いだ 神戸海軍塾が、幕府の手で解散させられてしまい、かれの壮大な計画も無に帰してしまった。

 一巻から読み進めるうちに、必然的に竜馬側に立って幕末の時代を見るようになってきた。すると、京で反幕派の志士たちを 暗殺し、池田屋ノ変で長州の志士たちを殺害した新撰組がとても憎らしくなってきた。まあ、僕は何にでも影響されやすい方なので、 新撰組の小説を読めば、また新撰組大好き人間になってしまうと思うけど・・・。
 やっぱり歴史というのは、いろいろな角度で見ないといけないなと実感した。


『竜馬がゆく (六)』 司馬遼太郎(文春文庫)
笑い0.5点 涙2.0点 恐怖0点 総合4.5点
 幕府を倒すには薩摩と長州が力を合わせれば可能であろう。しかし、互いに憎悪し合っているこの両藩が手を組むとは 誰も考えなかった。奇跡を、一人の浪人が現出した。竜馬の決死の奔走によって、慶応二年一月、幕府の厳重な監視下にある京で、 密かに薩長の軍事同盟は成った。維新への道はこの時、大きく未来に開かれたのである。

 ”1866年薩長同盟が結ばれた”。と、学校の授業では、まるでいともたやすく、結ばれるべくして結ばれたかのように簡単に教えられる。 しかし、一巻からこのシリーズを読むと、その真実がわかる。冷戦時代のソ連とアメリカが、日本の提言によって同盟を結ぶような、 ほとんど不可能なことだったのだ。多くの犠牲の末とはいえ、竜馬はそれを成し遂げたのだから驚きだ。
 学校の授業も、ただ事件や年号を暗記させるだけではなく、こういう小説など読ませて、より深く日本の歴史を学ばせればいいのにと思ってしまう。


『竜馬がゆく (七)』 司馬遼太郎(文春文庫)
笑い0.5点 涙1.0点 恐怖0点 総合4.5点
 同盟した薩摩と長州は着々と倒幕の態勢を整えてゆく。が、竜馬はこの薩長に土佐を加えた軍事力を背景に、思い切った奇手を案出した。 大政奉還――幕府のもつ政権をおだやかに朝廷に返させようというのである。これによって内乱を避け、外国に浸食する暇を与えず、 京で一挙に新政府を樹立する――無血革命方式であった。

 300年も続いた徳川幕府に政権を朝廷へ返せと提言するなんて、現代人が考えても無茶な策だ。だから当時とすればなおさらだろう。 しかし、一方で、一滴の血を流すことなく新政府を樹立できる唯一の手なのだ。奇跡としか思えないこんな策を実行したのだから、やはり竜馬という人は、 英雄であり偉人なのだ。
 また本書では、日本近代海運史上、最初の事故「いろは丸事件」が登場する。竜馬は、加害者である紀州藩に賠償金を支払わせるために、 長崎である唄を流行させ、世論を味方につけ、多額の賠償金を勝ち取ったのだ。


『竜馬がゆく (八)』 司馬遼太郎(文春文庫)
笑い0.5点 涙3.0点 恐怖0点 総合5.0点
 慶応三年十月十三日、京は二条城の大広間で、十五代将軍徳川慶喜は大政を奉還すると表明した。ここに幕府の三百年近い政権は 幕を閉じた。――時勢はこの後、坂を転げるように維新にたどりつく。しかし、竜馬はそれを見とどけることもなく、歴史の扉を未来へ 押し開けたまま、流星のように・・・。

 ついに、読み終えてしまった。歴史的事実として竜馬が暗殺されるのは、知っているものの、やはり最期を読むのはつらかった。 司馬氏も言っているように、本当に天からの使者として、大政奉還という奇跡を起こし維新を成功させ、そして天にかえっていった、 としか思えないような人物だと思う。
 今日の僕らが抱く坂本竜馬のイメージというのは、この『竜馬がゆく』によるところが大きいと思う。坂本竜馬も素晴らしい人物だが、 彼を歴史の一ページから取り上げ、ここまで魅力的な男として、そして近代日本の英雄のように書き上げ、現代に残した司馬遼太郎という人物もまた、偉大である。
 天からの使者のような竜馬になれとは言わないが、日本を愛し、日本のために命を尽くし、維新を成し遂げても栄達を望まなかったという竜馬の姿勢を、 今の日本を動かしている政治家をはじめとする”偉い人”にも見習ってほしいと思う。
 この小説は、日本人として後世にまで遺すべき大作だろう。


『酔って候』 司馬遼太郎(文春文庫)
笑い0.5点 涙0点 恐怖0点 総合4.0点
 「酔って候」「きつね馬」「伊達の黒船」「肥前の妖怪」の計4篇からなる短編集。
 「酔って候」:土佐藩主・山内豊惇が急死した。嗣子も養子の届け出もしていなかったため、 山内家はにわかに廃絶の危機に陥った。その危機を乗り切るため、血縁の薄い山内容堂が一躍、藩主にまつりあげられた。 のちに四賢侯のひとりとして、天下の志士に期待された山内容堂の生涯をつづる。
 「肥前の妖怪」:天下騒乱の幕末で、どの藩とも接触を拒み続け、諸侯に、 本性のわからない「妖怪」として恐れられた肥前の鍋島閑叟。彼がいかにして「妖怪」となり、どのような 生涯を送ったのかをつづる。

 幕末の混迷期、その優れた知識や才能・行動力などから四賢侯として世間の期待を集めていた4人の男。土佐の山内容堂・ 薩摩の島津斉彬・越前の松平春嶽・伊予宇和島の伊達宗城。その中から本書では、山内容堂、伊達宗城そして島津斉彬の死後、 実質上の藩主となった島津久光の3人に、鍋島閑叟を加えた計4人にスポットをあてている。
 幕末の情勢をそれぞれ藩主の視点で読むとまた面白い。そして、それぞれが大酒飲みだったり、潔癖性だったり、 人一倍権力欲が強かったりと、個性豊かで人間くさい。でも、そんな彼らも大なり小なり幕末という時代に影響を与えていたのだ。
 幕末を別の視点から見られる面白い一冊だった。


『対談集 日本人への遺言』 司馬遼太郎(朝日新聞社)
笑い0点 涙0点 恐怖0点 総合3.5点
 歴史小説家・司馬遼太郎が6人の著名人と日本について語った対談集。それぞれの主なテーマは以下のようなものだった。
 経済評論家の田中直毅氏とは「土地と日本人」について。
 アニメ映画監督の宮崎駿氏とは「創造と自然」について。
 経営コンサルタントの大前研一氏とは「土地と国際化と文化」について。
 榎本守恵氏とは「北海道の歴史と魅力」について。
 衆議院議員の武村正義氏とは「琵琶湖とそれをとりまく文化」について。
 イリノイ大教授のロナルド・トビ氏とは「異国と鎖国」について。
 それぞれ対談されている。ロナルド・トビ氏との対談が、司馬さんにとって最後の対談となり、まさに日本人への遺言となってしまった。
 対談で再三にわたって、このままでは日本は滅びるということをおっしゃっている。だいぶ下がったとはいえ、異常なほど高い地価や、 開発の名のもとに破壊される自然と文化など、確かに滅ぶわけないとは言いきれない。
 歴史小説家だけに、随所に歴史上のエピソードを織り交ぜた知的な会話が印象的だった。


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