絵師を目指し狩野派に入門した桜田久之助(のちの下岡蓮杖)は、ある日、ダゲレオタイプ(銀板写真)なるものを見た。
絵筆では表現できない写実性を目の当たりにし、新しい時代の到来を予感した久之助は、日本で最初の写真師となる決心をする。
写真機を手に入れるため、故郷の下田や浦賀など外国船をよく見る地で働き、手に入れるチャンスを待っていた。ペリーやハリス、
プチャーチンらが次々に来航し、写真師を志してから18年目、ようやく写真機を手に入れた。その頃、長崎では上野彦馬という
青年が同じく写真師を目指していた。
日本で最初ということにこだわるも、日本で最初にダゲレオタイプを成功させた名誉は薩摩藩に、日本で最初にコロジオンタイプ(ガラス写真)
を成功させた名誉は上野彦馬に、それぞれ先に取られてしまった。しかし、蓮杖は職業写真師、つまり写真を生業とするプロカメラマンとしては
日本第一号になったのだ。
龍馬の写真を撮ったことで有名な上野彦馬にくらべると、今ひとつ知名度に欠ける下岡蓮杖だが、彼はかなりの苦労と努力の末に
プロカメラマンの地位を確立したようだ。なにしろカメラを手に入れるだけでも18年かかり、最新の外国技術であるために、
攘夷派からは命を狙われ、それでも写真を極めていったというから立派である。さらに弟子も育ち、自分の時代が終わったなと思ったら
すぐに身を引く潔さと、次々と新分野に進出し日本で最初を目指していった行動力は見習うべき所であった。
下岡蓮杖の人生を通して幕末を描き、高杉晋作、徳川慶喜、勝海舟、小栗上野介ら幕末の有名人も登場させているため、
幕末好きにはお薦めの一冊である。
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