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歴史・時代小説


『真田軍記』 井上 靖(角川文庫)
笑い0.5点 涙3.0点 恐怖0点 総合4.0点
 「真田軍記」「篝火」「高嶺の花」「犬坊狂乱」「森蘭丸」の計5作からなる短編集。
 「真田軍記」:この短編(中編?)は4つの短編からなっていて、それぞれ真田一族に関わったいわば脇役的な 人物の物語が収められている。中でも「真田影武者」は、大阪夏の陣で討ち死にしたはずの幸村と その子幸綱が、実は生き延びているという話である。
 「森蘭丸」:織田信長の近習であった蘭丸は、18歳になっても初陣を果たせないでいた。 そんな頃、織田軍に武田討伐の気運が高まりつつあった。一方蘭丸は、偶然であった一人の娘に恋をしてしまっていた。

 全編を通して、有名無名を問わず戦国の時代に生きた人々の戦い、生き様、死に様そして儚い恋いが書かれている。 どれもこれも、ごく少ない資料と史実をもとにして短編にまで仕上げられている。資料が少ないのもそのはずで、 ”どこそこ村の某”というような普通時代小説の主人公にはなり得ないような人物を主人公にしているのだ。しかし、 戦いの大多数を占めたそういう一兵士の視点から、大阪の陣をはじめとする様々な戦いを見ることが出来て、大変面白い。 とくに森蘭丸の話は、長編で読んでみたい。それくらい魅力的なストーリーだった。


『霧隠才蔵』 火坂雅志(祥伝社ノンポシェット)
笑い0点 涙0.5点 恐怖1.0点 総合4.0点
 関ヶ原の合戦後、徳川家康は幕府を開き、その地位を不動のものにしたかに思えた。しかし、 その徳川の天下を崩壊させるだけの力を持つ巻物『愛宕裏百韻』の存在が明らかとなった。幕府に仕える伊賀忍者・ 霧隠才蔵はその巻物探索を命じられた。一方、家康により九度山に蟄居させられている真田幸村も、 豊臣家再興のために、巻物を手に入れようとしていた。その探索のため、幸村は甲賀忍者・猿飛佐助を放った。

 痛快忍者エンターテイメント小説。架空の人物とされる霧隠才蔵を主人公にして、様々な忍法を使い、立ちはだかる 敵を倒していくという典型的忍者小説である。しかし、まるで超能力者のような設定の忍者ではなく、文献から 訓練法や取得法などを引用し、当時の忍者はこうであったのだろうな、という様子をリアルに書いている。
 まあ、傑作とまではいかないが、誰が読んでもそれなりに楽しめる一冊だろう。


『霧隠才蔵 紅の真田幸村陣 火坂雅志(祥伝社ノンポシェット)
笑い0点 涙1.0点 恐怖1.0点 総合4.0点
 九度山の真田幸村は、徳川家康が天下取りの仕上げにかかる前に、豊臣恩顧の武将達を豊臣軍の味方に引き込もうと考えた。 そこで、幸村は十勇士の霧隠才蔵に、秀頼の密書を各武将に届けるように命じた。同じ頃、徳川の隠密を務める柳生兵庫助は、真田十勇士の皆殺し を命じられていた。

 シリーズ2作目となる小説。今回は大阪の陣までが書かれているが、あくまでも才蔵が主人公であるため、才蔵の行動を中心にして見た大阪の陣なのである。 よって、幸村やその他の十勇士の活躍はほとんど見られない。
 著者は、様々な資料を参考にしているらしく、途中何度か資料からの引用などを交えている。それは、わずか数行の記述だが、その記述から想像を膨らませ、 その背後に才蔵を登場させているのだ。読み進めるうちに、才蔵は架空の人物ではないのではないか、と思えてくるほどであった。


『忍者の謎』 戸部新十郎(PHP文庫)
笑い0点 涙0点 恐怖0点 総合3.0点
 「忍者とは何か」という章から始まり、忍者の源流や忍術にはどのようなものがあったかなどを検証している。そして、 次に「戦国期に活躍した忍者の実態」「忍者の横顔」と題された章では、伊賀者と甲賀者についてや、服部半蔵・百地丹波・風魔小太郎など 実在した忍者、記録に残っている忍者について、様々なエピソードとその実態を記している。
 全体的に忍者の研究書という感じがした。忍者について、より詳しくより深く知りたいという人にはお薦めだが、忍者が出てくる小説を 読むのが好きなだけの僕のような忍者ファンには、あまり面白味はない。ただ、時代小説を読むときの参考書として持っていれば、 何かの時に役立つかもしれない。


『「軍師」の研究』 百瀬明治(PHP文庫)
笑い0点 涙0.5点 恐怖0点 総合3.0点
 戦時において、大将を影で支え、時には巧みに操る参謀型武将、それが軍師である。本書は、その軍師にスポットを当てている。 タイトルに「研究」などとついているから何だか小難しい感じがしたが、実際はそう難しいことはなかった。
 本書で取り上げられている軍師は「楠木政成」「高師直」「竹中半兵衛」「島左近」「直江兼続」「黒田如水」「真田幸村」「大石内蔵助」の計8人である。 彼らの軍師としての活躍を中心にして、人間像や考え方を簡潔に書いている。
 これだけの名軍師を揃えているのに、本書は230ぺージという薄さなのだ。当然各武将にさくページ数も少なく、それほど内容も濃くなく、 有名なエピソードをいくつか書いているにすぎない。ただ、楠木政成や大石内蔵助など意外な人物も取り上げているのは興味深かった。


『戦国武将の食生活』 永山久夫(河出文庫)
笑い0点 涙0点 恐怖0点 総合3.5点
 平均寿命30歳代といわれる戦国時代。そんな時代でも、日々命がけで戦う武将たちには、60歳以上まで生きたものが少なくない。 例えば、豊臣家を滅亡させ、75歳まで生きた徳川家康は、現代に置き換えると、120歳くらいまで生きたことになるのだという。
 戦国時代の武将がそれほど長生きできたのは、食生活に秘密があったようだ。本書を読むと、長生きした武将は、みな質素なものを 食べていたようだ。質素といっても、贅沢三昧というイメージのある武将にしては質素という意味である。その食事は、 みそ・玄米・ゴマ・大豆など健康にいいものが中心で、それらをバランスよく食べていたようだ。飽食の現代人が見れば、 確かに質素だが実に理にかなった長寿の法だった。
 本書を読んで、現代人も少しは食について考え、改善していくべきではないだろうか。


『剣豪はなぜ人を斬るのか』 峰隆一郎(青春出版社)
笑い0点 涙0.5点 恐怖1.0点 総合3.5点
 戦国時代以後、宮本武蔵・塚原卜伝・伊藤一刀斎・柳生十兵衛など、剣豪と呼ばれる人々が名をはせた。 武蔵は500人、十兵衛は300人、卜伝も300人それぞれ斬ったといわれる。彼らはなぜ人を斬るのか、 それをテーマにして時代小説の大家が書いたエッセイ。
 著者は、このテーマの答えを「斬り覚えよ」の一言で言いあらわしている。つまり、斬るための剣術は、剣道と違って実際に 人を斬っていき、その中で体得するしかないという意味だ。そのため剣豪と呼ばれる人は、悪党や盗賊を見つけては 斬り殺していったという。それは人助けのためではなく、自らの腕を磨くため、そして助けた人に恩を売ってしばらく世話になるため だった、と書いている。また、剣豪を含めた”武芸者”は「武士とは死ぬことと見つけたり」という武士をは違って、死んだら終わりだった。だから生き延びるために 腕を磨き、時には卑怯な手を使ってでも勝ち、危ないときは逃走してでも生き残った。
 本書を読むと剣豪のイメージが下がる。やはり僕としては、華々しく散っても名を残す武士のほうが、魅力があるし男らしい気がする。 また本書は、段落がやたら多くて読みにくかった。そういう点で評価を少し減点した。


『大江戸商売ばなし』 興津 要(PHP文庫)
笑い2.5点 涙0点 恐怖0点 総合3.0点
 「季節の物売り」「日々の物売り」「修理・廃品回収業」「江戸の名店」「街角の芸人」「縁日の見世物」の 6つの章にわけて、江戸に実在した数々の商売を紹介している。
 小咄や落語そして当時の川柳などを引用して、わかりやすく説明しているので、普通の読み物としても面白い。 とはいえ、時代小説などを読むときの資料・辞典的な価値の方が強いので、高評価はできなかった。
 江戸時代には、珍しくて面白い商売がたくさんあったようだ。初夢を見るための宝船の絵を売る「宝船売り」、 猛毒の砒石を売る「石見銀山鼠取り売り」、古傘を買い取って再利用する「古傘買い」、行司と2人の力士の役を1人で こなし芸を見せる「ひとり相撲」など。そこには今では少なくなった売り手と買い手との触れあいや、モノを大切にする心、 人情、季節感・・・などが当然のように存在していた


『西郷盗撮』 風野真知雄(新人物往来社)
笑い1.5点 涙2.5点 恐怖1.0点 総合4.5点
 明治9年12月、東京府浅草にある井上銀杖写真館に、警視庁の川路大警視がある依頼を持ってやってきた。その依頼とは、 不穏な空気が漂っている鹿児島に行き、西郷隆盛の写真を盗撮してこいというものだった。極度の写真嫌いなため、西郷の写真は 一枚もないのだという。密命を受け、写真師・志村悠之介は、鹿児島へと向かったのだが・・・。

 上野に銅像まである西郷隆盛だが、その姿をとらえた写真は、意外にも一枚も現存してないという。西郷ほどの英雄の写真が なぜ一枚もないのか。写真嫌いというだけでは片づけられない何かがあるのではないのか。そんな疑問から、著者はこの小説を 書いたのだそうだ。
 写真・ガス灯・ザンギリ頭・人力車などの文明開化の雰囲気が、読んでいてとても新鮮に感じた。そして、主人公をはじめとする 登場人物も魅力的で、ストーリーも引き込まれる上手さがあった。(ちょっと褒めすぎかな?)
 普段、時代小説を読まない人にもお薦めできる一冊である。


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