歴史・時代小説
『真田幸村−真田十勇士−』 柴田錬三郎(文春文庫) |
笑い☆☆☆☆☆ 涙★☆☆☆☆ 恐怖☆☆☆☆☆ 総合★★★☆☆ |
「真田大助」「後藤又兵衛」「木村重成」「真田十勇士」「風魔鬼太郎」「山田長政」「徳川家康」「大阪夏の陣」の計8作からなる短編集。
「真田大助」:真田幸村の子を宿した女忍者・眉花は、その子供を「大助」と名付け、一流の忍者に仕立て上げる。15歳になると、大助は一流の兵法者と
戦って自分の力を試したいと言い、次々と名のある兵法者を打ち倒す。が、大助は、一人の老人に、悔やみきれない痛手を負うこととなる。
「真田十勇士」:慶長19年秋ついに徳川方と豊臣方が相対することとなった。猿飛佐助を始めとする真田十勇士の力を借り紀州・九度山を脱出した真田幸村は、大阪城に入城する。
大阪冬の陣を前に幸村は家康の一団に奇襲をかけることを決心する。その奇襲は、自ら志願した十勇士の三好清海入道が実行する事となった。しかし、家康の側近には服部半蔵が控えているのであった。
「徳川家康」:大阪夏の陣を前にしたある日、真田幸村の前に、一人の老人が現れる。その老人は「自分は家康の影武者をやっていたが、訳あって家康に恨みを抱くことになった」という。さらにその老人は、徳川秀忠は
影武者である自分の息子であり、家康の実子ではない、という秘密を打ち明ける。そして次に、家康暗殺のための秘策を幸村に打ち明けるのだった。
大阪冬の陣の直前から、大阪夏の陣の終結までの真田幸村そして真田十勇士などの活躍を記す短編集。本書の著者・柴田錬三郎は、徳川末期に存在した五味錬也斎という人物が空想をもとに記した『兵法伝奇』という本を参考にして本書を書いたのだそうだ。
そのため、猿飛佐助・霧隠才蔵といった実在していないであろう人物も縦横無尽に活躍していて、非常にエンターテイメント性に富んでいる。しかし、これまで僕は『真田太平記』を読んできたため
若干、本書の設定に入り込めず、十分に堪能できなかった。しかし、面白いことは確かなので、読んでも損はない。 |
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『真田三代記』 土橋治重(PHP文庫) |
笑い☆☆☆☆☆ 涙★★★☆☆ 恐怖★★☆☆☆ 総合★★★☆☆ |
武田信玄に仕えた真田幸隆の三男・真田昌幸。昌幸の次男・真田幸村。幸村の長男・真田大助。この真田三代の活躍を書いたのがこの『真田三代記』である。この本のもとになる『真田三代記』は、徳川の時代に書かれたものであるが、中身が完全に反徳川体制のものであるため、
江戸時代には、日の目を見ることはなかった。そして著者も、「はじめに」のところでも断っているように、本書は、明治31年に発行された『校訂真田三代記』によって抄・意訳した歴史小説である。幸村の祖父に当たる真田幸隆の活躍から、大阪冬の陣・夏の陣の顛末までの長期間が、
フィクションや誇張を交えながら、とてもコンパクトにまとまっている。
「大阪冬の陣・夏の陣」が、本書の半分以上を占めている。当然、真田幸村の活躍と登場が一番多くなっている。やはり、幸村は、昔から国民のヒーロー的存在だったのだろう。ただし、池波正太郎の『真田太平記』とは、結末が異なる。本書では、大阪の陣で死んだのは、幸村の影武者で、
本人は、豊臣秀頼と薩摩の島津氏のもとへ逃亡した薩摩逃亡説を取っている。また、本書には、猿飛佐助・霧隠才蔵は出てこない。草の者(忍者)自体が、大きく取り上げられていないのだ。あくまでも、真田三代が主人公となっている。その点、忍者好きの僕は、不満だった。また、
真田三代という長い期間を、300ページ弱の文庫で収めているため、『真田太平記』などと比べると、非常に中身が薄っぺらい。まあ、弱者の味方である真田幸村が、強者の徳川家康を翻弄する痛快な戦闘シーンが、メインなのだろうから、仕方ないのだろう。 |
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『服部半蔵』 寺林 峻(PHP文庫) |
笑い☆☆☆☆☆ 涙★★★☆☆ 恐怖★☆☆☆☆ 総合★★★★☆ |
伊賀衆の頭目・服部保長は、息子・半蔵に、槍術だけを教え、他界した。そこで、忍法の使えない忍者・服部半蔵は、槍で身を立てることを決心する。
ところが、半蔵が仕えていた徳川家康は、伊賀衆をまとめ、忍法ではなく、間諜と斥候によって、諜報の威力を槍以上に磨き上げるように命じたのだった。
「服部半蔵」と聞くと、忍者ハットリ君のように、人間離れした、様々な忍法が使える忍者というイメージを抱く。しかし、この本では、全く異なる。
派手な忍術合戦や、伊賀vs甲賀というものも一切ない。半蔵が、伊賀の頭目から、徳川軍団十六将の一人にまでなり、江戸に半蔵門を築くまでの人生が
書かれている。名うての忍者を扱っている割には、地味な小説である気もするが、信長・秀吉・家康というビッグ3が活躍した時代というだけでも、十分読み応えがあるので、
半蔵ファンならずとも、読んでみてはいかがだろうか。 |
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『真田忍侠記 上・下』 津本 陽(毎日新聞社) |
笑い1.0点 涙3.0点 恐怖0.5点 総合3.5点 |
信州・上田に城を構える真田昌幸・幸村。彼らの配下には、猿飛佐助と霧隠才蔵という2人の忍者がいた。彼らは、徳川家康のもとに
服部半蔵に並ぶ実力の持ち主である。そんな彼らの活躍を、二度にわたる上田合戦と、大阪冬の陣・夏の陣を通して描いていく。
この本では、佐助と才蔵がクローズアップされているが、そんな彼らの能力は、もう忍者というより超能力者に近い。まるで透明人間のごとく
敵に見つからなくなる「隠形の術」や、いわゆる分身の術である「一身多現術」さらに、敵の魂を入れ替える「人格変換の術」、他にも「読心察相の術」
「無形の神剣」「天眼通力」など、様々な忍術や忍者道具が登場する。しかし、総合点が低いのには理由がある。それは、幸村をはじめ
総ての登場人物が、『〜だんべ』『〜だっちゃ』『〜ずら』などのような、その土地の方言で会話しているのである。そのため、全体に何となく締まりがなく、
ちょっと間抜けですらある。でも一方でこれが本来の時代小説の書き方なのかなとも思ってしまう。しかし、僕はその方言形式がちょっと好きにはなれなかった。
それと、佐助と才蔵が主役だからなのか、彼ら以外の重要な人物の死や重要な出来事が2行くらいでサラッと書かれてしまうところなどがあり、ちょっと不満だった。 |
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『日本史探訪 12 関ヶ原と大阪の陣』 角川書店編(角川文庫) |
笑い0点 涙0.5点 恐怖0点 総合3.0点 |
秀吉の死後、政権奪取を企む徳川家康と、豊臣家を守ろうとする石田三成が関ヶ原で相まみえた。この天下分け目の決戦は各地の武将にも
多大な影響を及ぼした。本書は、その関ヶ原の戦いから大阪の陣までに表舞台に登場し活躍した武将たちの生涯をたどったものである。
本書は、その昔NHKで放送されていた【日本史探訪】という番組をまとめたものだそうだ。そのため、小説というより、資料もしくは歴史の教科書のような印象が強い。
しかし、登場する人物は、真田幸村をはじめ、伊達政宗、黒田如水、加藤清正、直江兼続、石田三成などそうそうたる顔ぶれである。
そして、彼らの生涯をたどっていくのが、池波正太郎、司馬遼太郎、海音寺潮五郎、山岡荘八、松本清張など豪華な面々なのだ。ただし、
全体的に対談形式になっているため、せっかくこれだけの作家を揃えた意味が半減してしまっている気がする。テレビ番組を本にまとめたものだから
それも致し方ないのかもしれないが。 |
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