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池波正太郎2


『真田太平記』(十)大阪入城 池波正太郎(新潮文庫)
興奮★★★★☆ 笑い☆☆☆☆☆ ★★☆☆☆ 総合★★★★☆
 徳川方が難癖を付けて、強引に豊臣との開戦に持ち込もうとしている動きを見て取った真田幸村は、密かに九度山を抜け大阪城に入城する。大阪城には、その昔見た秀頼とは似てもにつかないほど 変わってしまった豊臣秀頼と淀君そして多くの牢人達がいた。勝ち目がないと知った幸村は、幸村の武名そして真田の戦い方を世に知らしめるということのみを目標にして、大阪城の外れに真田丸という砦を設ける。 そして、ついに開戦した大阪冬の陣において、幸村はその名を轟かせ、恐れられる存在となった。

 幸村の軍が縦横無尽に駆けめぐり、徳川方をさんざんに掻き回すシーンは爽快だ。僕は『真田太平記』の魅力は、草の者の活躍と真田家独自の戦いにあると思う。しかし、幸村もとことんついていない武将だ。 信之が徳川へ、幸村が豊臣へ別れた時からその運命は決まっていたのだろうけれども、幸村ほどの武将が、正当な評価されずに扱われ、思うままに戦できないというのは、どれほど悔しいことだっただろう。


『真田太平記』(十一)大阪夏の陣 池波正太郎(新潮文庫)
興奮★★★★☆ 笑い☆☆☆☆☆ 涙★★★★☆ 総合★★★★☆
 冬の陣が終わらないうちに、徳川は秘密裏に和平工作を進めていた。少しでも、豊臣家を存続させたい豊臣方は、和睦を承知してしまう。これを受けて徳川は、大阪城の要である外濠はおろか内濠までも埋め立てさせ、 大阪城を裸同然にしてしまう。さらに、真田丸までも潰されてしまう。そんななか、幸村を味方に取り込もうとする家康の計略により、信之と幸村が京都で会見することとなる。

 ついにあの幸村が、あの佐平次が最期の時を迎えてしまう。そのシーンは、涙なしには読めません。また、信之と幸村の会見も、どことなく寂しく、同じ真田でありながら敵味方に別れ 戦わなくてはならないという厳しさ、勝ち目はないと知りながら豊臣に味方する幸村の哀れさ、どこ見ても悲しいことばかりだ。


『真田太平記』(十二)雲の峰 池波正太郎(新潮文庫)
笑い☆☆☆☆☆ 涙★★★★☆ 恐怖☆☆☆☆☆ 総合★★★★☆
 大阪の陣も終わり、真田信之は沼田に帰国することになった。そんな中、徳川の天下を確信した徳川家康が死亡する。跡を継ぐことになった秀忠は、関ヶ原の戦いの折りの屈辱を 晴らすべく、信之の真田藩潰しに取りかかった。秀忠は、隠密を使い真田家潰しを画策するが、ふとしたことからその計画を知ることになった草の者がいた。ただ一人生き残ったお江であった。

 いよいよ最終巻だ。幸村も佐平次も佐助もこの世を去り、いったいどんな結末が待っているのかと思いきや、最後の最後まで気が抜けない展開だった。関東方の隠密と真田の草の者の対決がここに来て 読めるとは思わなかった。さらに佐助の最期を見とったという農夫が、佐助の遺品を届けに来たり、お通が幸村の遺髪を届けたりと、信之は否応なく現実を突きつけられる。読むのがつらいほど悲しい現実だ。
 しばらく時間をおいて、また1巻から読み直してみたい作品だった。


『武士<オトコ>の紋章』 池波正太郎(新潮文庫)
笑い★☆☆☆☆ 涙★★☆☆☆ 恐怖☆☆☆☆☆ 総合★★★★☆
 「知謀の人−黒田如水−」「武士の紋章−滝川三九郎−」「三代の風雪−真田信之−」「首討とう大阪陣−真田幸村−」「決闘高田の馬場」「新選組生き残りの剣客−永倉新八−」「三根山」「牧野富太郎」の計8作からなる短編集。
 「武士の紋章−滝川三九郎−」:関ヶ原の戦いのあと、真田幸村の実妹を娶り、夫婦ともに長寿を全うした滝川三九郎が主人公。彼は、身に降りかかる運命に決して逆らわず、それでいて自己を捨てず、戦国の世の中を 悠然と生きた自由人である。

 黒田如水を始めとして、ここに取り上げられている男達は、みな自分の信じた生き方を貫き通し、激動の時代を生き抜いた。自分もそういう生き方がしたいものだ。まあ、無理だろうが。 「決闘高田の馬場」の主人公は、今ちょうど旬(「元禄繚乱」)な、新潟が生んだ有名人、堀部安兵衛だ。ぜひ読むベシ。


『男の作法』 池波正太郎(新潮文庫)
笑い2.0点 涙0.5点 恐怖0点 総合3.5点
 鮨・そば・天ぷらなどを食べる場合の食卓の礼儀作法といった話題から、男の服装、男の生き方、はては嫁姑問題や浮気そして生死までと様々な物事を題材にしたエッセイ。

 本書は、若い男性必携の一冊である。もし、本書を成人式の記念品として成人男子に配り、もらった人全員がきちんと読み「男の作法」を 学んだとしたら、日本も変わるのではないだろうか。少なくとも、中性的で頼りない男は減るに違いない。
 また本書は全編、池波先生が語った口調のままに書かれている「語りおろし」形式なので読んでいると、まるで池波先生ご自身に「男とは・・・」 と教えられているような気持ちになる。さらに、文庫版でわずか210ページという薄さなので、とても読みやすくなっている。だから、普段は本を読まない 若い男性諸君も騙されたと思って一度読んでみて下さい。もちろん女性が読んでもためになる。


『真田騒動 恩田木工』 池波正太郎(新潮文庫)
笑い1.5点 涙2.5点 恐怖0点 総合4.0点
 「信濃大名記」「基盤の首」「錯乱」「真田騒動」「この父その子」の計5編からなる短編集。
 「錯乱」:上は藩主から下は足軽に至るまで、誰にも敵意も悪意も抱かれず、皆に好かれる男・堀平五郎。 ある日、その彼が暮らす松代藩の藩主・真田信政が急死した。順調にいけば、信政の愛児・右衛門佐が家督を継ぐことになるはずだった。 しかし、分家である沼田の領主・真田信利が、徳川の家老の力をバックにして、本家乗っ取りを企んでいたのだった。
 「真田騒動」:松代藩五代目藩主・真田信安のもとで、勝手掛に抜擢された原八郎五郎は、 政治の実権を握り、藩の財政をかえりみず豪奢な生活を送っていた。そんな原に怒りを抱く家老・恩田木工は、原を倒し藩の財政を立て直すべく 尽力したのだった。

 本書は、短編であるが、ここの舞台はすべて信州松代藩であり、登場する人物の系譜がつながっているため、一つの長編として読むことが出来る。
 本書は、真田信幸とその子孫の治政(治世)が中心に書かれている。よって、百姓一揆をのぞけば、 本書には合戦・戦は登場しない。時代小説に合戦を求める人には物足りないかもしれないが、池波正太郎氏の大作『真田太平記』を読んだ人、 またはこれから読もうという人は、必読の一冊だと思う。
 関ヶ原の戦いで、徳川方についた信幸(信之)は、生涯、戦いに生きた昌幸・幸村と比べ、今ひとつ魅力が感じられなかった。 しかし、本書を読みその思いは改められた。松代藩を豊かにし、領民の幸せを常に考え、政事をおこなっていた信幸は、幸村とは違う魅力があり、 現代の政治家に見習わせたいくらい立派な人物であったと思う。


『忍者群像』 池波正太郎(文春文庫)
笑い2.0点 涙2.0点 恐怖1.0点 総合4.0点
 「首」「鬼火」「やぶれ弥五兵衛」「寝返り虎松」「闇の中の声」「戦陣眼鏡」「槍の忠弥」の計7篇からなる短編集。
 「闇の中の声」:天正十三年夏、西尾仁左衛門は、徳川家康が信州上田城攻略にさし向けた征討軍の一員 として参加した。この戦で、仁左衛門は真田幸村の首級をねらっていた。そして、ついに幸村を馬から落とし、あと一歩のところまで追いつめた。 ところが、次の瞬間、弥五兵衛という忍者に傷を負わされ、幸村には情けをかけられ命を救われるという屈辱を受けた。それ以来、 仁左衛門は、打倒・弥五兵衛に執念を燃やすのだった。

 全編、戦国時代末期から江戸時代までの忍者の生き様が描かれている。裏切り・寝返りが日常茶飯事であり、味方といえども時には殺し合う。 しかし、そんな忍者といえど情報収集のため、スパイとして家来になったはずの武将を尊敬したり、カモフラージュのために結婚し子供を育てたものの、 情が移ってしまい味方忍者を裏切ってしまったり、というような人間味あふれる一面も持ち合わせていた。だが、そんな忍者は掟破りにより、 一生味方に追われる身となってしまうのだ。本書は、忍者を題材にした小説にありがちなエンタテイメント性に富んだものではないが、 上記のような非情な世界にいきる忍者の無常を書いている深い小説であると思う。


『西郷隆盛』 池波正太郎(角川文庫)
笑い0点 涙1.0点 恐怖0点 総合3.5点
 嘉永六年(1853年)ペリー来航から一気に火がついた激動の幕末時代。その10数年後に達成される明治維新に偉大な役割を 果たした西郷隆盛の波瀾に富んだ半生をつづった伝記小説。

 西郷隆盛が島津斉彬のもとで働きはじめてから、西南戦争でその生涯を終えるまでの激動の半生を、わずか240ページほどで まとめているため、一つ一つのエピソードがとても短い。しかし、幕末から維新という近代日本の夜明けまでを、ギュッと 圧縮していることで、改めて”歴史の面白さ”を感じることができた。つまり、日本を変えるために奔走した志士や偉人も、 ひたすら自分の名誉と私腹を肥やすために暗躍した悪人も、結局「歴史」を動かす駒の一つでしかない。その役割の大小はあるが、 その役を果たしたら暗殺されたり、戦死したり病死したり、歴史の流れからはずされるのだ。というようなことを考えた。
 やっぱり歴史は面白い。とくに、激動の幕末は戦国時代に並んで読み応えがある。普通はミステリしか読まないという人も、 一度は、こういった小説を読んでみるのもいいモノですよ。


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