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荻原 浩


『ハードボイルド・エッグ』 荻原 浩(双葉社)
笑い4.5点 涙3.0点 恐怖0点 総合5.0点
 フィリップ・マーロウにあこがれ私立探偵になってみたものの、舞い込んでくるのは、ペットを探してくれという依頼ばかり。 マーロウを気取った発言や行動もことごとく空回りしてしまう。秘書募集の張り紙を出してみたものの、来たのはなんと・・・。
 そんな彼にもついに念願の刑事事件に関わるチャンスがやってきた。

 最高に笑えるハードボイルド。著者の笑いのセンスはかなり高いようだ。図らずも動物専門の私立探偵になってしまった主人公や、 シックでおしゃれなバーを目指していたが、奥さんの圧力でおでんを置くようになったマスター「J」、など理想を追い求める 男が、現実を思い知る姿が笑いを誘う。そして、笑っているうちにいつの間にか、ハードボイルドらしくなり、ついには ホロリとさせられてしまう。非常にうまい小説だと思う。
 ハードボイルドが好きな人はもちろんのこと、あまり読んだことない人にも、お薦めの一冊である。


『噂』 荻原 浩(講談社)
笑い2.0点 涙1.0点 恐怖1.0点 総合4.5点
「女の子を殺して足首を切り落とすレインマンっていう殺人鬼がN.Y.から日本に来たらしいよ。でもレインマンは、ミリエル の香水をつけてる子はなぜか狙わないみたい。だからN.Y.の若い女の子はみんなミリエルの香水つけてるんだって」 こんな噂が渋谷を中心とした女子高生たちに広まっていた。
 企画会社コムサイトの女社長・杖村が、ミリエル社の依頼を受けて企画したのが、WOM(Word Of Mouth)いわゆる口コミを 利用し、ミリエルの香水を買いたくなる噂を作り出すことだった。
 しかし、作られた噂のはずだったが、現実に足首を切り落とされた女性の死体が発見され、残酷な連続殺人事件となっていく。

 高校一年の娘を持つ所轄所の刑事・小暮と、彼よりも若い本庁捜査一課の女刑事・名島のコンビが主人公の推理小説。
 警察の捜査の様子や人間関係や会話などが、結構細かくリアルに書かれている。リアルといっても『踊る大捜査線』と同じ くらいレベルであって、実際に警察内部がこうなっているかは定かではない。
 渋谷を中心とした物語で、渋谷にいそうな今どきの若者が何人か登場する。彼女らと中年の小暮刑事のやりとりがなかなか楽しい。 捜査とはいえ大変ですね、と同情したくなる。
 読んでる途中は4点くらいの面白さだな、と思っていた。ところが、ラストのどんでん返しと最後の一行を読んでビックリした。 特に最後の一行は、いろいろ推理できる含みのある言葉で、読後に余韻の残る一冊だった。


『オロロ畑でつかまえて』 荻原 浩(集英社文庫)
笑い4.0点 涙1.0点 恐怖0点 総合4.5点
人口わずか300人。主な産物はカンピョウ・ヘラチョンペ・オロロ豆。 超過疎化にあえぐ日本の秘境・大牛郡牛穴村が、村の起死回生を賭けて立ちあがった。ところが手を組んだ相手は倒産寸前の プロダクション・ユニバーサル広告社。この最弱タッグによるやぶれかぶれの村おこし大作戦『牛穴村 新発売キャンペーン』が、 今始まる――。(本書あらすじ引用)

 第10回すばる新人賞受賞作。
 ”同じ日本にありながら、言葉が理解できないほど方言が強いド田舎”というのは日常生活を描写するだけでも ほのぼのとした感じがして笑えるものだ。本書はその田舎の持つ笑いを最大限に引き出し、そこに社員3人バイト1人という 超零細広告会社が手がける村おこしプロジェクトという笑いを加えている。必笑のユーモア小説である。
 この著者の小説はこれで3冊読んだが、ユーモア小説、ハードボイルド、ミステリとどれも違うジャンルで しかもどれも面白かった。どれもジャンルは違うのだが、その根底にはセンスのいいユーモアがある。
 このユーモアをまだ経験していない人はぜひこの本を読んでください。


『誘拐ラプソディー』荻原 浩(双葉社)
笑い4.0点 涙2.5点 恐怖0.5点 総合5.0点
伊達秀吉38歳、妻子なし。あるのは320万円の借金と前科だけ。死のうと思い人のいない公園へ行ったものの、 なかなか決行できずにいた。そんな時、金持ちそうな子供を見つけたのだ。次の瞬間、獄中でシゲさんに教えられた 「完全な誘拐の法則」を思い出した秀吉は、この子を誘拐することにした。法則どおりにすべて順調にいっていると思われたのだが、 秀吉が知らないところではとんでもない事態が進行していた。

 やはり荻原浩は面白い。毎回いっているがユーモアのセンスが抜群だ。それと、たとえ悪役でもどこか 間抜けで憎めない部分を持たせたりと、人間の描き方がうまい。また、誘拐犯の秀吉と人質の少年デンスケの コンビが絶妙。さんざん笑わせて最後に泣かせられた『ハードボイルド・エッグ』のときと同じく、 今回も著者の術中にはまり、泣かされた。
 笑い、スリル、感動が詰まったおすすめの一冊。


『母恋旅烏』萩原浩(小学館文庫)
笑い3.5点 涙2.0点 恐怖0点 総合4.5点
 大衆演劇役者をやめて父さんがまた新しい仕事を始めた。今度はレンタル家族という仕事だ。ぼくら家族も一生懸命がんばったけど 、借金はふくらむばかり。そして父さんはレンタル家族もやめ、僕らは昔お世話になっていた旅回りの大衆演劇一座に加わることになったんだ。

 小学生のような無邪気さを残す17歳の寛ニを主な語り手にして進んでいく。
 ごくたまに「家族みんなが役者」というような旅回り一座にスポットをあてたドキュメンタリータッチの番組がテレビで放映されるが 、この寛ニの一家はまさにあんな感じ。(あんな感じ、といってもその番組は番宣しか見たことないんだけど…) 笑いあり、涙あり、トラブルあり、ケンカありの賑やかな日常。
 本書は大きく分けると、レンタル家族篇と旅回り一座篇になっているといっていいと思う。寛ニがたくましく成長する旅回り一座篇 も、もちろん面白いが、家族それぞれにスポットが当たるレンタル家族篇も負けず劣らず面白い。特に寛ニと兄ちゃんの太一が二人で 営業に出る話はおすすめです。♪ロンロンロン、ロンドンパリ〜。
 今回もユーモア満載。


『なかよし小鳩組』荻原 浩(集英社)
笑い2.0点 涙1.5点 恐怖1.5点 総合3.5点
 バイトを含めて4人しか従業員がいない「ユニバーサル広告社」は、倒産の憂き目にあっていた。そんな時、社長の石井が 新しいクライアントを見つけてきた。しかもCI(企業イメージ総合戦略)というかなりの収入が見込める大仕事だ。 しかし、そのクライアントは指定暴力団・小鳩組だった…。

 『オロロ畑でつかまえて』の続編。
 たっぷり笑えて最後に泣かせるのが荻原さんの持ち味だ。今回も、その持ち味が発揮されて入るが、ちょっと物足りない感じがした。
 ユニバーサル広告社の杉山が主人公。その離婚した妻のもとにいる娘の早苗がいい味出してる。いい味出してる子供とヤクザの組合わせ は『誘拐ラプソディー』を思い出させるが、本書は主人公である杉山がどちらかと言えばしっかり者・常識人であるため 少々面白味にかけた。ヤクザが出てくる小説は、浅田次郎や戸梶圭太など結構読んでいたから、 目新しさを感じられなかったのも評価が低い原因だ。


『コールドゲーム』荻原 浩(講談社)
笑い1.0点 涙1.5点 恐怖2.5点 総合4.0点
 高三の夏、地区予選でコールド負けし、光也の甲子園への夢は消えた。そんなある日、 高一のときに退学になった亮太から「至急会いたい」とメールが来る。 亮太は、近頃、中学時代の同級生が次々と災難に見舞われていることを話し、 その犯人は、トロ吉に違いないと言う。トロ吉こと廣吉剛史は、光也や亮太たちが 中学時代、クラス中のイジメの標的になっていた少年だった。あれから 4年経ち、トロ吉が復讐のために戻ってきたのだ。

 笑えて泣ける話が得意な荻原氏だが、『噂』のような本格的なミステリーも書いている。 本書はその『噂』に近いミステリーだ。
 イジメは悪いこと、いじめを無くそう。そんなことは誰でもわかっているのに、 小学校や中学校になるとイジメは発生する。いじめられた子の中には死ぬほど苦しんだり、 本書のように激しい復讐心を抱く子もいるだろう。いじめた方も時がたてば 罪悪感や自己嫌悪を抱くかもしれない。こんな互いに何のメリットも無いことが いつまでもなくならないのは、それが人間の本能として身についているからなのだろう。 なんだか読んでいてブルーになる小説だ。
 『噂』はラスト一行で驚かされたが、本書もラストまで読み終えてから、冒頭数ページを 読み返してみたら、思わぬ伏線がはってあったので驚いた。爆笑や大泣きはないものの、 荻原氏らしい小説だった。


『神様からひと言』荻原 浩(光文社)
笑い3.0点 涙2.5点 恐怖0点 総合4.5点
 「お客様の声は、神様のひと言」を社訓にかかげる珠川食品。その販促課に広告宣伝のスペシャリストとして中途採用された 佐倉凉平は、入社四ヶ月で問題を起こしてしまう。そのため、リストラ要員の強制収容所と噂される総務部お客様相談室へ 異動となってしまったのだ。

 苦情電話にひたすら謝り、ときには訪問謝罪までするつらい毎日。上司も役員も、長いものには巻かれろ的で、部下には デカイ態度。こんな会社辞めてやる!と言いたいけれど、家賃も滞納しているし…。不景気の今、辞めたくても辞める決心がつかない 佐倉のような人はたくさんいると思う。そういう人が読むと勇気が出る小説。……と、簡単には言えない気がする。 なぜなら、たしかに痛快で、気持ちがスッキリする話なのだが、読み終わって現実に戻ると、「まぁ、これは小説だからな」と 切ない気持ちになるからだ。現実は甘くない。
 笑いあり、涙あり、恋愛あり、様々な事件あり、個性的な登場人物多数あり、とこのまま連続ドラマにできそうなくらい よくできたストーリーだ。裏を返せば、連ドラで見たことあるようなストーリーと言えるかもしれないけどね。実際僕は、 本書を読んで二つほど頭に思い浮かんだ連ドラがあった。
 それでもオススメの一冊です。


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