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服部真澄


『龍の契り』 服部真澄(祥伝社)
笑い0点 涙1.0点 恐怖1.5点 総合4.5点
 アジアの要地となった香港について、1982年当時、イギリスは全く返還する意志はなかった。しかし、その2年後、 急にイギリスは弱腰になり、あっさりと香港返還を決定してしまった。この背景にはある一通の<極秘文書>が介在していた。香港返還まで あと5年と迫った1992年、イギリス・中国・アメリカ・日本の四国はそれぞれの利益のため、<極秘文書>争奪戦を繰り広げることになった。

 服部真澄のデビュー作。10年に1人の新人といわれるだけあって、一級品の面白さだ。香港をめぐる各国の争いというスケールの大きい国際謀略小説であり、 その出来はデビュー作とは思えないほどである。
 本書はとにかく登場人物の関係が複雑で、メモをとるか一気に読むかしないと混乱してしまう。CIA・外交官・オスカー女優・大企業社長・記者・天才ハッカーなど、 登場する職業も様々で、より一層混乱に陥ってしまう。もう少し人物関係がシンプルだったら、ハードカバー2段組430ページという厚さも 苦にならずに読みやすかったと思う。
 世界史にうとい人でも知っている「香港返還」という史実をテーマにしているだけに、誰でも楽しめる一冊だろう。


『ディール・メイカー』 服部真澄(祥伝社)
笑い0点 涙0.5点 恐怖0.5点 総合4.0点
 企業買収、それは正確で豊富な情報が鍵を握るビッグ・ディールである。アメリカの巨大ハイテク企業「マジコム」 は、長年のライバルがCOOに就いている巨大メディア企業「ハリス・ブラザース」の買収に着手した。スパイ・罠・偽情報・裏取引、 ありとあらゆる手を尽くし、ビッグ・ディールを成立させていくのだった。

 10年に1人の新人といわれた服部真澄の3作目。今回は、企業買収・株取引・著作権などに関する専門用語が頻出するので、それらに関する知識があると 読みやすい。
 今回登場する2つの企業は、明らかに誰もが知っているアメリカのある有名企業をモデルにしたと思われる。そのおかげで、具体的なイメージが 浮かべやすかった。
 服部さんの作品はとにかく登場人物が多く、人物関係図が複雑なのが特徴的だが、今回はわりとハッキリとした構図になっている。その分、 一人一人にしっかりとした役割があり、誰が主人公なのかわからなくなる。また、主要登場人物にはそれぞれ何らかの秘密や計画・悪巧みを持っていて、 その情報が読者に小出しに提供されるため、続きが気になり、いったん読み始めたら止まらなくなる。手に取ると本書は、分厚くて難しそうに思うかもしれないが、 決してそんなことはない。是非、一読をお薦めする。本書を読むと、世界経済が少し面白くなるかもしれない。


『バカラ』 服部真澄(文藝春秋)
笑い0点 涙0.5点 恐怖0.5点 総合4.0点
 「週刊エクスプレス」の記者、志貴大希は、アンダーグラウンドの店でバカラにはまり多額の借金を抱えていた。 そんな彼はある日、国内にあるロビア大使館がアングラ・カジノになっているという特ダネをつかむ。さらにそこには、有名芸能人や財界の大物も 通っていた。
 一方その頃、同誌の契約記者である明野えみるは、秘密裏に情報交換を続けている警視庁公安部の福田からあることを依頼された。 それは、「週刊エクスプレス」に”カジノ合法化”を援護するような記事を書いてくれというものだった。

 服部真澄の久々の新作だったので、かなり期待して読んだ。しかし、ちょっと期待はずれだった。決して面白くなかったわけではない。 ただ、服部真澄というと、「国際的でスケールの大きな手に汗握る小説」を期待してしまうのだ。本書も最初は、国際的な事件に発展して いくのかと思っていたのだが。
 合法カジノは、都知事も提案しているほどタイムリーな話題で、さらに本書では政治家の裏金も絡んでくるので、まったく現実世界と一緒という 感じすらした。だから、余計に目新しさがなくて、エンタテイメント性が低いと感じたのかもしれない。また、本書の登場人物はルビなしでは読めないような 珍しい名前が多い。僕が思うにこれは、あまりにもリアリティがある内容なので、名前だけでも非現実的なものにしないと特定の人を想起される恐れが あるからではないだろうか。
 ところで「バカラ」というのはどのようなギャンブルなのだろう。賭け事はまったくやらない僕には、それが最後まで気になった。


『GMO(上・下)』 服部真澄(新潮社)
笑い0.5点 涙1.5点 恐怖1.5点 総合4.0点
 アメリカで暮らす翻訳家・蓮尾一生の隣人であり、唯一の親友であるアダムが殺された。その深い悲しみを吹っ切るように蓮尾は、 ワインジャーナリストの翻訳兼助手の仕事も手がけるかたわら、世界的科学ジャーナリストであるレックスの最新刊の 翻訳権をほとんど全財産をつぎ込んで獲得した。ところがその直後、レックスは音信不通になり、その本の執筆に貢献したある男も 不運な死を遂げていた。
 レックスはその本で、遺伝子組み換えという「神の手」を自在に操るアメリカの巨大企業「ジェネアグリ」のえげつない戦略や その内情を暴露しようとしていた。

 服部真澄の久々の新作。
 服部さんの小説には、世界が舞台であること。ちょっと難しいけど興味深いテーマであること。一見関係のないような事件や 出来事が複雑に絡み合って真相に至っていくこと。などなどいくつもの魅力がある。今回のテーマは、タイトルにもなっている 「GMO」だ。「GMO」とは「Genetically Modified Organism」の略であり、遺伝子組み換え作物のことである。
 たまに納豆などに「遺伝子組み換え大豆は使っていません」といったのを目にする程度で、あまりその実態をよく知らない。 だが、本書を読んで、人間はまさに「神の手」と呼べるほどの技術を手にしてしまったのだと驚かされる。除草剤でも枯れない 大豆、魚のカレイの遺伝子を持つジャガイモなど、自然には存在するはずのない未知の生物、植物を作ることが可能になっている そうだ。
 だが、倫理的な問題が目立っていて、GM作物を食べるとどんな問題が起こるのかがよくわからない。わからないからこそ 怖いのだろうが、じゃあ「品種改良」された作物なら安全なの?といった疑問も出てくる。少々難しくて消化不良の感じもした。
また、上巻は面白かったのだが、下巻に入るとちょと失速した気がする。僕としてはもっと「GMOと食」に関して深く掘り下げて 欲しかった。ワインなんか飲まないから、正直なところ「どうでもいい」と思ってしまった。しかし、GMOの持つ無限の 可能性と危険性が多少なりとも理解できたのはよかった。


『清談 佛々堂先生』 服部真澄(講談社)
笑い2.0点 涙2.0点 恐怖0点 総合4.0点
 「八百比丘尼」:”椿の絵なら関屋次郎”と言われるほど椿の絵を得意とする彼だが、近頃自分の絵に 行き詰まりを感じていた。そんな時、とある美術誌の取材を受け、彼は現在の悩みや椿と出会ったきっかけを語り始めた。 その昔、彼に「百椿図」を描かせ、椿と出会うキッカケを作ったのは、「佛々堂先生」と呼ばれる諸芸に長けた関西の数寄者だったという。
 「雛辻占」:観光客も少ない小さな島で店を構える「もろたや菓子舗」。ある日、一人の客が 立ち寄り、店の人気商品である「蛤辻占」という、おみくじの入った菓子を、計800個を売って欲しいという。ただし、 条件があり、3月1日に店主であるしげ子が届けにくること、そしておみくじの中に一枚だけ「大々吉」を入れてほしいということ。 指定された日、しげ子が届けに行った先は、「佛々堂先生」の屋敷で、そこでは盛大な雛祭りが始まろうとしていた。
 「遠あかり」:飛騨高山の料亭『かみむら』の新米の主である上村寛之は、ある日、 酒も飲まず一人で料理を吟味するお客の相手をすることになった。そして、和服の似合う風流なその男に、寛之は和服の 着付けを習うことになる。和服や小物を出すために蔵から骨董品を出していたところ、その男が一つの印籠に目を留めた。 そして、7月になろうかというある日、その男は、あの印籠をしばらく貸してくれと頼んできた。
 「寝釈迦」:山奥で、山の手入れをする”山守”をしながら小さな民宿『わだ』を営んでいた 嘉文だが、近く山守をしている山が売られるという噂を聞いてからスッカリ意気消沈し、いまでは息子の克明が『わだ』を 任されていた。嘉文の届けてくれる贈り物を何よりも楽しみにしていた佛々堂先生は、そんな状況を嘆き、ある一計を案じた。
以上、計4編からなる短編集。  

 世界を舞台にしたサスペンスを得意とする服部真澄が書いた「ええ話」。
 同じ人物が書いたとは思えないほど作風が違う。最初、同姓同名の作家が書いた新刊かと思ったくらいだ。 でも、確か服部さんは骨董品関係の本も書いていた気がしたので、やはりあの服部真澄が書いたのだろう。
 佛々堂先生は、関西弁を話す浮世離れした数寄者だが、その関西弁の雰囲気と風流・粋・数寄という要素がとてもよく 合っていて、様々なうんちくを嫌味に感じることなく、スッと読んでいける。
 本書は、「平成の魯山人」と呼ばれる佛々堂先生が、若手のアーティストの才能を開花させたり、後世に残したいような 骨董品の保存に尽力したりする短編集だが、どれもがとても読後感が良い。ただ単に、佛々堂先生が誰かを助けるというのではなく、 実はちゃっかり佛々堂先生も得をしてたりするところが、関西人らしくて面白い。
 これからシリーズ化を考えているかもしれないが、結構面白いシリーズになりそうな気がする。


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