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ハードボイルド


『T.R.Y.』 井上尚登(角川文庫)
笑い2.0点 涙1.5点 恐怖0.5点 総合4.5点
 1911年、上海。服役中の刑務所で暗殺者に命を狙われた日本人詐欺師・伊沢修は、同居の中国人・関に助けられる。 その夜、伊沢は革命家である関からある計画への協力を要請される。それは、革命のための武器の調達。それも、 騙し、奪い取る。そのターゲットは日本陸軍参謀次長――。暗殺者から身を守ることを交換条件としてこの企てに加担した 伊沢は、刑務所を抜け出し、執拗な暗殺者の追走を受けつつ、関たちとともに壮大な計画を進めていく。(本書あらすじ引用)

 第19回横溝正史賞受賞作。
 映画化されるという話を聞いたので読んでみた。
 1911年という時代設定は、時代小説でない小説としては珍しいと思う。そのリアリティ、時代感を出すために、 孫文や田中義一など実在の人物や史実を巧みに登場させている。
 裏の裏のそのまた裏まで読んでいても確実に騙される小説だ。ただ、主人公の伊沢修は、現代日本にいるような弱者を 騙して搾り取るというという詐欺師ではないから、いくら騙されても「ひどい奴だな伊沢は」とは感じない。
 本書はスリルとサスペンスそしてスピード感を味わえる小説だが、他にも違った一面がある。それは犬好きのための小説 という面だ。伊沢の愛犬・武丸は、登場人物紹介のページにも出ているくらい随所に登場する。他にも伊沢が騙す過程で 別の犬を使うのだが、その犬と武丸の関係が面白い。映画化するならぜひとも武丸を登場させてほしいなぁ。


『初秋』ロバート・B・パーカー/菊地光ニ訳(ハヤカワ文庫)
笑い1.5点 涙3.0点 恐怖0.5点 総合5.0点
 離婚した夫が連れ去った息子を取り戻して欲しい―スペンサーにとっては簡単な仕事だった。が、問題の少年ポールは、 対立する両親の間で駆け引きの材料に使われ固く心を閉ざし何事にも関心を示そうとしなかった。スペンサーは決心する。 ポールを自立させるためには、一からすべてを学ばせるしかない。ボクシング、大工仕事…スペンサー流のトレーニングが始まる。 (本書あらすじ引用)

 テレビ以外は関心事のない15歳の少年ポールは、誇りも、得意なことも、やりたいことも何一つない。私立探偵のスペンサーは 「探偵」という職を超え、友として人生の先輩としてポールを自立した大人にすべく行動を始める。
 最初ポールは、「なぜ?」「どうして?」そして肩をすぼめるばかりだった。だが、スペンサーはそんなポールに優しく、 それでいて厳しく接し、次第にポールも心を開いていく。
 洒落たセリフも多く、とても感動的なハードボイルドだ。しかし終盤、スペンサーがポールの両親(とくに父親)に下した処遇は ”あれでよかったのだろうか”とちょっと疑問に思ってしまう。ポールのためにはあれが一番なのか。
 とはいえ、とにかくおすすめのハードボイルドだ。


『半落ち』横山秀夫(講談社)
笑い0点 涙3.5点 恐怖0点 総合4.5点
 妻を殺した、といって自首してきた梶聡一郎は、W県警の現職警察官だった。取調べにあたったのは、「落としの志木」の 異名を持つW県警捜査一課の志木和正だ。
 動機もはっきりし、自首してきている梶は「落とす」必要のない「完落ち」のはずだった。しかし、梶は妻を殺してから 二日後に自首をしている。梶は、この空白の二日間、どこで何をしてきたかについては、完全な黙秘をつらぬく「半落ち」の状態だった。

 けっこういい評判を聞いていたので読んでみた。高評価に違わぬ面白さだった。刑事、検事、記者、弁護士など梶警部の事件に かかわる男たちをそれぞれ独立した章の主人公とし、彼ら各々の視点から事件の顛末が語られていく。そして、その中で 梶警部の「半落ち」の真相が解明されていくのだ。
 自分の正義、良心、信念などを胸にそれぞれ男たちは行動しようとするが、巨大な組織を前に思いどおりにいかず、もがき苦しむ。 組織があれば、必ず一匹狼的な組織になじまない人が出てくると思うが、本書はそんな人たちに焦点をあてた小説だと思う。
 法廷の様子や、警察、検事、弁護士らの日常などかなりリアルで、とても読みごたえがある。ラストも感動的で、 読後感も良かった。


『泥棒は選べない』ローレンス・ブロック(ハヤカワ文庫)
笑い2.0点 涙0.5点 恐怖0点 総合3.0点
 アパートに忍び込み、青い小箱を盗み出してくれれば五千ドルの報酬を支払う。紳士的な泥棒・バーニイには簡単な依頼だ。 しかし、家捜しを始めるとタイミングよく二人の警官がやってくる。しかも、まだ足を踏み入れていない寝室からは死体が 見つかってしまう。殺人犯として、追われることになったバーニイは、容疑を晴らすため真犯人を見つけることにした。

 泥棒探偵バーニイ・ローデンバーシリーズ第一作目。
 泥棒で探偵と言うと、ついアルセーヌ・ルパンと比べてしまうのだが、やはりルパンのほうが面白い。バーニイも女性に弱くて、 鍵開けの名人でなかなか面白いが、スケールが小さい。もっとサスペンスフルで手に汗握る展開になると思っていたのだが…。
 また窮地に陥った時、ルパンのように知恵を絞って脱出するのではなく、金で解決しようとするのだ。つまり、警察を買収しようと したするのだ。そんなことがまかり通ってしまうのが、何ともアメリカ的だなという感じがした。


『極大射程(上・下)』スティーヴン・ハンター(新潮文庫)
笑い0点 涙1.5点 恐怖1.0点 総合4.5点
 ベトナム戦争で87人を狙撃した伝説の名スナイパー、ボブ・リー・スワガー。退役した今は、愛犬とライフルを 友にひっそりと暮らしていた。そんな彼のもとに、精密加工を施した新開発の弾薬を試射してほしいという依頼が舞い込む。 弾薬への興味からボブはそれを引き受け、1400ヤードという長距離狙撃を成功させた。しかし、それはボブにある汚名を 着せるために、ある組織が仕組んだ罠だった。

 一匹狼の名狙撃手ボブ・リー・スワガー、彼にある汚名を着せ抹殺しようと企む秘密組織、周到に仕掛けられた罠により 全米を敵にまわすことになったボブを追うFBIという三者が繰り広げる緊迫感に満ちたアクション大作。
 伝説のスナイパーが主人公だけあって、銃や弾薬に関する記述が詳細なのだ。しかし、銃の知識がまるでない僕には イメージがわきにくかった。冒頭に銃の構造図や各部の名称などが図解してあったら、わかりやすかったのに。
 また、ボブやその後登場する敵側のスナイパーが得意とする1000ヤード級の狙撃。正直言って「ヤード」で表されても そのすごさがピンと来なかった。そこで調べてみると1ヤード=3フィート=約91.4cm。つまり1000ヤードは だいたい1kmといってもいいようだ。1km先の標的を一撃でしとめる。メートル法にすると、その超人ぶりがいくらか 理解しやすくなる。


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