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ハードボイルド


『私が殺した少女』 原 りょう(ハヤカワ文庫)
笑い☆☆☆☆☆ 涙★☆☆☆☆ 恐怖★☆☆☆☆ 総合★★★★☆
 私立探偵・沢崎は、ある依頼人に電話で、「相談したいことがあるので自宅まで来てくれ」と言われた。この電話が、すべての不運の始まりだった。 彼が言いつけ通りに依頼人の自宅を訪れてみると、そこには警察が待っていた。いつの間にか、彼は思いもかけない誘拐事件に巻き込まれていたのである。

 この作品は、直木賞受賞作だそうだ。ちなみに「原りょう」の「りょう」は、「寮」という字のウカンムリがない漢字だ。うちのPCでは、出なかったので 平仮名にした。
 この主人公・沢崎は、僕のイメージするハードボイルドの主人公像とピッタリだ。酒を飲む・煙草を吸う・警察と仲が悪い・あまり感情的にならない・単独で事件を追う、まさに理想的な主人公だ。 煙草は吸わない、酒は苦手、感情的になりやすい僕のような人物は、とうていなれそうもないクールな主人公に、なんだか憧れてしまった。 文庫サイズで430ページ弱あるが、テンポよくストーリーが展開していき、途中全く飽きることなく、一気に読めた。逢坂剛のように、死体がゾロゾロ出る小説も、 それはそれでいいのだが、今回のように、ほとんど死者が出ず、ただひたすら犯人を追うという小説もいいもんだ。ただ★5つをあげることはできなかった、もうちょっと 死者が出る方が僕の好みなのだ(^^;


『天使たちの探偵』 原 りょう(ハヤカワ文庫)
笑い☆☆☆☆☆ 涙★★☆☆☆ 恐怖★☆☆☆☆ 総合★★★★☆
 「少年の見た男」「子供を失った男」「二四〇号室の男」「イニシアル”M”の男」「歩道橋の男」「選ばれる男」の計6作からなる短編集。
 「少年の見た男」:沢崎の探偵事務所に、10歳の少年が訪ねてきた。彼は、沢崎に「ある女の人を守って欲しい」と依頼し、一方的に5万円を置いて消えてしまった。 仕方なく調査を始めた沢崎は、その女の人を尾行中に、思いもかけず銀行強盗に遭遇してしまった。
 「イニシアル”M”の男」:夜中の1時過ぎ、沢崎の事務所の電話が鳴った。渋々電話に出てみると、間違い電話だった。沢崎が探偵だと知った電話の主は、「今から自分は自殺するが、 その前にちょっと話し相手になってくれ」と言う。本気で自殺するとは信じていない沢崎に、電話の主は「明日の新聞を見ればわかる」と言い残し、切ってしまった。そして、翌日の新聞に、16歳の少女歌手が自殺したという記事が載っていた。

 日本冒険小説協会大賞最優秀短編賞受賞の連作集だそうだ。長い名前の賞を取るだけあって、かなり面白い短編集だ。
 やはり主人公の沢崎がよい。クールで、冷たい態度を取りながらも、思いやりがあり、頭がきれる。やはりハードボイルドの主人公はかっこいいなぁ。
 原さんの小説は、なんかフィクションとは思えない雰囲気がある。なぜなら、登場する固有名詞に、実在の名前を使っているからだ。たとえば、「少年の見た男」に出てくる銀行強盗に襲われるのは<第一興業銀行>だったり、他にも<NTT><井の頭公園><山口組><中森明菜>などなど。 ただ、後記で著者が書いているように、その実在のものに迷惑がかからないようになっているようだ。


『不夜城』馳 星周(角川書店)
興奮★★★★☆ 笑い☆☆☆☆☆ 涙★★★☆☆ 総合★★★★☆
 殺し・ドラッグ・裏切り・カネ・・・この世のあらゆるアンダーグラウンドな部分が染みついている新宿・歌舞伎町、そこが舞台である。 主人公は、台湾と日本の半々(ハーフ)であり、日本人・高橋健一の顔と、台湾人・劉健一の顔を持ちながら、どちらにもなりきることの許されない男である。 歌舞伎町の台湾人のまとめ役の長老・楊偉民。精神異常のチンピラで、健一の元相棒・呉富春。呉富春に右腕を殺され激怒している上海勢力のボス・元成貴。 上海勢力に対抗する北京勢力のボス・崔虎。これら危険な人間関係の中、生と死の境ギリギリで生き抜いていく主人公。

 毎日の平和な生活になれている僕にとって、実際、日本にこんな世界はあるのだろうか、と思ってしまうほど衝撃の一冊でした。また、全体的に短文で構成されていて 描写も細かく、リアルで、非常に読みやすく、久々に徹夜で読んでしまいました。日々の平和な暮らしに慣れた人にとっては、いい刺激となる一冊だと思います。 また、この本は、96年の週刊文春「傑作ミステリーベストテン」の第一位に選ばれた本なのだそうです。
 さてと、次は、『不夜城』の続編『鎮魂歌』でも読もうっと。


『鎮魂歌−不夜城U−』馳 星周(角川書店)
興奮★★★★☆ 笑い☆☆☆☆☆ 涙★☆☆☆☆ 総合★★★★☆
 タイトルにあるとおりこれは、不夜城の続編的存在だ。ということは、不夜城で出てきた主要メンバーが再登場するわけだが、 今回の主人公は、劉健一ではなく、犬好きのプロの殺し屋「郭秋生」、そして、元悪徳警官で今は、北京勢力のボス・崔虎の手下になって いる「滝沢」の2人が主人公となっている。ただし、ストーリーの中心人物は相変わらず「劉健一」である。

 今回は、前作ほど人間関係は複雑ではない。さらに、前作ほど息を飲む展開、手に汗握る展開は多くなく少しもの足りない気がした。 それと、今回は、劉健一の復讐編的なストーリーであるはずなのに、その部分があまり書かれぬまま終わってしまったのがちょっと不完全燃焼気味で 不満である。とはいえ、相変わらず、新宿のアンダーグラウンドな部分が色濃く出ていて、スリリングであり、ますます新宿を歩くのが恐くなりそうだ。


『ホワイトアウト』 真保裕一(新潮文庫)
笑い☆☆☆☆☆ 涙★★★★☆ 恐怖★★★☆☆ 総合★★★★★
 日本最大の貯水量を誇るダムが、凶悪なテロリスト達に占拠された。彼らは発電所の職員と下流の住民を人質にし、24時間以内に50億円を用意しろ、と要求する。 かつて、自分の過失により同僚を失った一人の男が、今度は、亡き同僚のフィアンセを救うため、荒れ狂う吹雪の中、テロリスト達に一人で立ち向かう。

 和製ダイハード2。大ざっぱに言うとそんな感じの作品。しかし、ダイハード2と大きく違うのは、『ホワイトアウト』の主人公は、警察官でも、自衛隊でもなく、 単なるダムの運転員というところだろう。その他にも、舞台が飛行場と雪山のダムという違いもあるが、それ以上に、主人公の違いは大きい。いくら主人公が、占拠されたダムと雪山を 熟知していたとしても、銃も持ったことのない素人一人vs武装グループ、という構図は、普通無理がある。しかし、そんな無理を感じさせず、最後まで リアルで、緊張感たっぷりの展開が続き、飽きることなく一気に読ませられる。織田裕二主演で、映画化されるという噂もあるし、男女を問わず、多くの人に一読してもらいたい。


『盗聴』 真保裕一(講談社文庫)
笑い☆☆☆☆☆ 涙★★☆☆☆ 恐怖☆☆☆☆☆ 総合★★★☆☆
 「盗聴」「再会」「漏水」「タンデム」「私に向かない職業」の計5作からなる短編集。
 「盗聴」:縦横無尽に大空を駆けめぐる電波の中から、違法電波をすくい上げ、発信源を追いつめる「狩り」のような仕事をする、盗聴器ハンターたち。 そんな彼らはある日、「狩り」の途中で、偶然、殺人現場の音を拾ってしまう。

 真保さんの著作は、まだ2作しか読んでないが、何となく彼は、長編向きの作家なのかなぁ、と思った。やはり最初に読んだ 『ホワイトアウト』の印象が強烈だったため、短編といえども、過大な期待を抱いてしまったのかなぁ。


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