日本文学
『にごりえ・たけくらべ』樋口一葉(岩波文庫) |
涙2.0点 恋愛3.5点 難解1.5点 総合4.5点 |
「にごりえ」:銘酒屋「菊の井」の酌婦、お力。看板娘であるお力に入れ揚げ、財産を
失いすっかり落ちぶれてしまった蒲団屋の源七は、妻子とともに貧乏暮らしをしていた。一方お力は、お客としてきた
結城朝之助という身分の高い男と恋仲になっていく。
「たけくらべ」:竜華寺の息子、信如。質屋の息子、正太郎。姉の勤める遊女屋の寮で暮らす
美登利。彼らを中心に、下町の祭り、喧嘩そして幼い恋を描く。
五千円札の顔としてデビューする前に、ぜひとも一葉の著作を読んでおきたかった。
これはまさに名作、傑作と呼ぶにふさわしい。文語体で書かれているため、最初はとても読みにくかった。
しかし、読み進めるうちに味わい深くなり、リズムを感じるようになり、あっという間に読み終わってしまった。
文語体なのに、まるで映像が見えてくるようなリアルさがあり、人物も舞台設定も表現もとても良い。
新札の顔に一葉と聞いたときは、正直言って”何で?”と思った。しかし、本書を読みそれも納得がいった。
これを機に、25歳で夭折した一葉の傑作が多くの人に読まれるといいなぁと思う。
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『小僧の神様』志賀直哉(岩波文庫) |
涙1.5点 恋愛2.5点 難解1.0点 総合4.0点 |
「小僧の神様」:秤屋の小僧・仙吉は、思いきって寿司屋の屋台に入ったものの、
仙吉には手の届かない値段だったので一度手に取った寿司を置き出て行くしかなかった。それを一人の若い議員が見ていた。
見ず知らずの彼が、不自然には思われない方法でなんとかその小僧に寿司を食べさせたいと思ったのだが。
「正義派」:電車が女の子を轢き殺した。それを見ていた線路工夫は、運転手にも鉄道会社にも
不利になるが、自分が目撃した真実を巡査に告げることにした。
「赤西蠣太」:酒も飲まず、女遊びもしない、お菓子好きの侍・蠣太が、ある日、切腹未遂をした
という噂が立つ。
「母の死と新しい母」:33歳の若さで母は死んだ。2ヶ月ほどして父は新しい母と結婚した。
母を亡くしたばかりの私は新しい母を複雑な気持ちで待っていた。
「城の崎にて」:養生のため但馬の城の崎温泉に来ていた著者が見た小さな生き物たちの生と死。
「流行感冒」:娘の左枝子を病気にさせないように私たちは細心の注意を払って育てていた。
ある日、流行性の感冒が近くの町で広まっていることを知る。
以上の他「清兵衛と瓢箪」「ハンの犯罪」「好人物の夫婦」「たき火」「真鶴」の計11作からなる短編集。
あとがきによるとどの短編も、志賀直哉が実際に見たり聞いたりした話や、実体験を題材にして書かれているらしい。
そのため、とても現実的で、どこか素朴な感じがした。傑作だ!という印象は受けなかったけど、読後しばらく余韻が残るものが結構あった。
非常に薄い本で、各話も数ページしかない。「城の崎にて」という、有名な名作だって10ページもないのだ。
だから、僕のようにハッタリ教養人を目指す人にはオススメの一冊だ。
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『浮雲』 二葉亭四迷名(岩波文庫)
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涙0点 恋愛2.5点 難解1.0点 総合3.0点 |
父を亡くし、叔母の家で暮らすことになった内海文三。文三と、叔母の娘のお勢は互いに恋心を抱く。しかし、
世才に乏しい文三は、役人を免職になる。それを機にお勢の心は、文三のかつての同僚で世渡り上手な
本田昇へと傾いていく。
明治時代に出版された本書は、言文一致という文章改革を試みた小説だとは知っていたが、作中に
英単語や英文が出てきたのには驚いた。ただ、新しいことを何でもやってみようという心意気はいいけど、
何だか悪ノリしている感じもしたことはたしか。
ラストがやけに唐突だなぁと思って、巻末の解説を読むと、本書は未完の作品だという。ただ、
遺作というわけではなく、二葉亭四迷自身の意思で書くのを辞めたようなのだ。どおりで
中途半端だと思った。
本書の登場人物の誰もが、現代にもいそうな人ばかり。プライドが高く優柔不断で世才に乏しい文三。
上司に取り入る世渡り上手で軽薄な昇。文三がリストラされた途端に昇に傾いていくお勢、などなど。
それにしても、うじうじくよくよした文三の性格にはイライラさせられる。サッと叔母の家を出て
一人暮らしはじめればいいのにと思うのだが、これは現代の考えなのだろうか。また、昇も
なかなか嫌味な奴でイライラさせられた。
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『冥途』 内田百けん(ちくま文庫)
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涙1.0点 恋愛1.5点 難解2.0点 総合3.5点 |
ぜんめし屋で亡き父(?)らしき男を見かける(「冥途」)、山東京伝の書生になる話(「山東京伝」)、花火の見える
土手で会った見知らぬ女にどこかに連れて行かれる話(「花火」)、からだが牛で顔は人間の化け物になる話(「件」)、
生まれる前に死んだという兄に、「一度でいいから兄さんと呼んでくれ」とせがまれる話(「道連」)、
豹に追いかけられる話(「豹」)、わけもわからぬまま”尽頭子”という号をつけられ馬にお灸をすえねばならなくなる話(「尽頭子」)、
狐が化けるところを見届けようとする話(「短夜」)、熊が牛を喰う見世物小屋に行く話(「蜥蜴」)、
どこに行くにも山高帽子をかぶっている変な男の話(「山高帽子」)。
以上の他「白子」「梟林記」「大宴会」「旅順入城式」「遣唐使」「昇天」「蘭陵王入陣曲」「夕立鰻」など
計33編からなる短編集。
何だこれは?というのが第一印象。とても不安になるくらい意味のわからない短編ばかり。全体的にショートショートのような
長さの短編が多い。だから、長々とした説明もなく、唐突に場面が変わったり、話が展開したりする。
「夢」を描いた作品が多いそうで、言われてみればたしかに、この不気味でぼんやりしていて不条理でわけのわからない
雰囲気は、目覚めと共に忘れていく夢に似ている。でも、毎日こんな夢が続いたらたぶん発狂するだろうなぁ、僕は。
ちなみに僕が最も印象に残った面白い短編は「山高帽子」だ。
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『人間失格』 太宰治(新潮文庫)
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涙1.5点 恋愛2.5点 難解2.5点 総合3.5点 |
「恥の多い生涯を送ってきました」。そんな身もふたもない告白から男の手記は始まる。男は自分を偽り、
人を欺き、取り返しようのない過ちを犯し、「失格」の判定を自らに下す。でも、男が不在になると、
彼を懐かしんである女性は語るのだ。
「とても素直で、よく気がきいて(中略)神様みたいないい子でした」と。
太宰治の代表作の一つ。
本書は、太宰が心中を遂げたその歳に執筆が始まり、その死後に出版されたという、太宰の最晩年の小説だ。
人生の総決算のつもりで書いたのか、自殺未遂、心中未遂、ヤク中などなど、まるで太宰の自伝のようなストーリーで、
どうしても主人公=太宰と思って読んでしまう。
実生活では結局心中を遂げた太宰だが、近頃は太宰のようなタイプの心中事件は耳にしない。借金を苦に一家心中とか、
親子の無理心中とかくらいだ。
それにしても、今の時代には太宰のような不健全で、スキャンダラスで、危うい作家はいない気がする。
(見た目はかなり差があるが、中島らもなどは不健全で危うい感じかな。)まあ、作家の私生活や性格はどうであれ、
作品が面白ければそれでいいのだが。
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