海外文学
『ブラウン神父の童心』G・K・チェスタトン(創元推理文庫) |
涙0.5点 愛1.0点 難解0.5点 総合4.5点 |
「青い十字架」:パリ警察の主任で、名探偵でもあるヴァランタンは、犯罪界の大物・フランボウ
を追い、イギリスにやってきた。そこでヴァランタンは、行く先々で奇妙な行動をとっている二人組の神父がいることを知る。
目撃証言から、どうやらその片方がフランボウらしいとわかった。ヴァランタンは早速二人を追う。
「秘密の庭」:ヴァランタンの自宅の裏庭で、首が切断された死体が見つかる。しかし、
彼の邸宅は警備が非常に厳しい。では、一体この死体の人物はどうやって侵入したのか。
「飛ぶ星」:アフリカ産の有名なダイヤ≪飛ぶ星≫を狙い、フランボウはある貴族の家に
侵入した。しかし、たまたまその家にいたブラウン神父の活躍によりフランボウは犯罪から足を洗うことになる。
「神の鉄槌」:頭蓋骨をつぶされた死体が見つかる。近くにあったハンマーが凶器らしいが、
それはキズに見合わないごく小さなハンマーだった。
「折れた剣」:「賢い人間なら小石をどこに隠す?」ブラウン神父のこの問いかけにより、
歴史上名高い将軍のある伝説に隠された驚くべき真相が明らかになる。
以上の他、「奇妙な足音」「見えない男」「イズレイル・ガウの誉れ」「狂った形」「サラディン候の罪」
「アポロの眼」「三つの兇器」の計12編からなる短編集。
丸い顔・丸い鼻・小柄な体・大きな帽子・こうもり傘。とても印象的なビジュアルのブラウン神父は一応探偵役なのだが、
その姿同様かなり変わった探偵だ。大犯罪者のフランボウを改心させて、私立探偵にしてしまったり、犯人を法の裁きに
ゆだねずに、犯人の良心にまかせたりする。さすが神父といった感じだ。
心理の盲点をついたような鮮やかなトリックもあるが、読了してトリックだけ抜き出して考えてみると”平凡だな”
というものも結構ある。ところが、チェスタトンに味付けされるとかなり面白い推理小説になる。舞台や人物の設定もいいが、
特に言葉による味付けがいいと思う。言葉のセンスが良く、レトリカルな表現や色彩豊かな表現が多いのだ。
『必読書150』のリストの中に本書が含まれていたのも納得ができる。
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『オイディプス王』ソポクレス(岩波文庫) |
涙1.0点 愛2.0点 難解2.0点 総合4.0点 |
太古のギリシア・テバイの王ライオスは、アポロンの神託によって、やがて生まれる子供に殺される運命にあることを告げられる。
これを恐れたライオスは、男児が生まれるとすぐに遠くの山に棄ててしまう。その十数年後ライオスは旅先で賊に殺される。
そして、テバイの次の王になったのは、コリントスの王の息子オイディプスだった。オイディプスは、先王の妃イオカステを
妻とし、幸せに暮らしていたのだが、再びアポロンの神託は恐るべき運命を告げる。
ギリシア悲劇の傑作。
この「オイディプス王」の話がもとになって、「エディプス・コンプレックス」という心理学用語ができたようだ。
最初は、”オイディプス”と”エディプス”は別人を指しているのかと思っていたが、両方とも「Oedipus」と表記されていたのを
見て初めて同一人物だとわかった。
劇のシナリオのような形式で書かれた非常に薄い本だけど、結構面白かった。アポロンの神託によって告げられた運命から
逃れたつもりで、実はすでに運命の輪の中に入ってしまっていることを知るのだが、そこに至る過程が緊迫感にあふれている。
言わないほうがいいことを言い、聞かないほうがよいことを聞き、次第にオイディプスは自分の正体を知る。
考えてみれば、かなり無理のある設定のようにも思えるのだが、なにせ古代ギリシアが舞台だから、現代の感覚で
考えてはいけないのかもしれない。
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『外套・鼻』ゴーゴリ(岩波文庫) |
涙1.0点 愛0.5点 難解1.0点 総合4.0点 |
「外套」:公文書を清書するより他に何ら能がない九等官のアカーキイ・アカーキエウィッチは、
≪半纏≫のようだと陰口をたたかれるほど、つぎはぎだらけで見苦しい≪外套≫を着ていた。そんな彼も、ついに外套を
新調することにした。その日から節約を続け、苦労の末に立派な外套を手に入れるのだが。
「鼻」:理髪師イワンが朝食にパンを食べていると、パンの中から「鼻」が
出てきた。驚いた彼は、鼻を捨てるため外に出た。同じ頃、八等官のコワリョーフは、目覚めてみると、自分の鼻がないことに気づいた。
警察に行こうと家を出たコワリョーフは、街なかで馬車に乗っている≪鼻≫に遭遇した。
何ともシュールで面白い短編二編。
ロシアの小説って、暗くて重苦しいというイメージがある。本書も曇り空のような雰囲気をかもしだしている。
だけど、ストーリーが笑えるためいくらか明るくなっている。
巻末の解説を見ると、≪霊魂の乞食≫とか”人道主義的な愛”とか”運命と人に辱められた不幸な零落者に対する
憐憫の吐露”というような、非常に堅苦しく難しい印象を受ける説明がなされている。古典を読んだら、
こういう難しいことを考えなくちゃいけないと思うと、非常に読むのが苦痛になる。だから、僕は、
できるだけ
現代小説と同じ感覚で読むようにしている。
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『グレート・ギャツビー』フィッツジェラルド(新潮文庫) |
涙1.5点 愛3.0点 難解1.0点 総合3.5点 |
豪奢な邸宅に住み、絢爛たる栄華に生きる謎の男ギャツビーの胸の中には、一途に愛情をささげ、そして失った恋人デイズィを
取り戻そうとする異常な執念が育まれていた・・・。
第一次大戦後のニューヨーク郊外を舞台に、狂おしいまでにひたむきな情熱に駆られた男の悲劇的な生涯を描いて、
滅びゆくものの美しさと、青春の光と影がただよう憂愁の世界をはなやかに謳いあげる。(本書アラスジ引用)
『グレート・ギャツビー』という本は、昔から古本屋でたびたび目にしていた。しかし、昔は手に取ることさえなかった。
そんな僕が、本書を読もうと思ったきっかけは、『ノルウェイの森』の中で本書のことが出てきたからだ。
巻末の解説を読むと、フィッツジェラルドは、タイトルをつけるのに迷ったらしく、「トリマルキオ(成り上がり者)」に
しようかとも思ったという。そのタイトルが示すように、本書は謎の男、ギャツビーの成り上がりの記録である。そして、
愛する者が住む邸宅の対岸に大邸宅を建てるという、一歩間違えばスケールの大きなストーカーのような行動を
とるほど一人の女性に深い愛情を抱くギャツビーの愛の記録でもある。そして、そんなギャツビーが辿る悲劇の生涯を
描いた記録でもある。ギャツビーの大邸宅の隣に住み、ギャツビーの親友になるニック・キャラウェイがそれらを記録
したという形式の小説になっている。
読了後、その豪華絢爛でセレブな日常とラストのギャップがあまりにも激しいので、思わずギャツビーに同情してしまった。
しかし、ギャッツビー自身には、あまり魅力を感じないし、友達になれそうにないタイプだなと感じた。まあ、
たびたびパーティーを開き、有名人やオーケストラをよんだりするようなこんな大富豪、友達になろうにも、周囲には
いないけれど。
今や日本は、出世や「勝ち組」「負け組」なんかに一喜一憂して、お金が何より大事というような風潮が無きにしもあらずだが、
たとえ金はなくとも、気のあう仲間や夢中になれるものなどがあれば幸せな人生は送れると思う。ギャツビーのように、
立身出世・成り上がりを目指して悲劇的な結末を迎えるよりは、貧しくとも幸せな人生を送りたいと思うな、僕は。
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