宮部みゆき原作『堪忍箱』に収められている30ページほどの短編「十六夜髑髏」を、前進座の女優で構成された
「花みづきの会」が舞台化。
台風一過で快晴なった日曜日、吉祥寺にある前進座劇場に行った。
開場の時刻となり、劇場に入ると、パンフレットとともに、
何とヘチマコロン(化粧水)をいただいた。「十六夜髑髏」ではヘチマ水は涙を誘うアイテムの一つだから、それにちなんでのプレゼントのようだ。
予期せぬプレゼントはうれしいものだが、僕のような男性が使ってもお肌がきれいになるのかしら…。
人生で初の観劇ということで、出番が来るわけでもない僕もなぜか緊張気味。そんななかついに舞台が始まった。
主人公のふきが本所の大火事で母と姉を亡くすという悲しい導入部。赤い照明と煙、ふきを呼ぶ叫び声、母と姉を呼ぶふきの声、と
目の前で繰り広げられる惨事を見て泣きそうになり、あっという間に舞台に引き込まれていった。
その後、ほぼ原作どおりに進んでいくのだが、原作とは違う要素もいくつかあった。
その一つめは、≪無≫という役。
ふきたちを見守る影のような、小原屋にかけられた呪いが実体化したかのような、不気味な存在だった。黒衣に白い仮面という
衣装で、セリフは全くない。なのに、この役があると無いとでは舞台の雰囲気がかなり変わっただろうと思うほど存在感の
ある役だった。
二つめは、≪おバカな女中三人娘≫。彼女たちは、宮部みゆきの原作に、笑いの要素を吹き込んだ。
特に三人の中で最もおバカな(?)「おたつ」は、北陽の虻川のような、
若干女を捨てたぶっ飛んだキャラクターで、彼女たちの掛け合いにかなり笑わせてもらった。
三つめは、≪ダンス≫。これにはかなり驚いた。宮部みゆきの原作でダンス!ふきも女中も”無”も入り乱れてダンス!
時代劇でダンスとは、なんとも斬新な展開だった。
以上のほかにも原作には無いエピローグがあったり、女優中心の配役にするためか伯母や姉という役があったり、
変更点はあったものの、原作の良さを損なうことなく、全体的には非常に面白い舞台で、あっという間の2時間だった。
初めての観劇だったが、非常に面白かった。小説は、活字を読み、すべてを自らの想像力だけで映像化するところが醍醐味だと思う。
これが映画化やドラマ化などされると、想像力が固定されてしまいガッカリすることがよくある。ところが、舞台というのは、
ステージの広さの中だけで物語が展開していくためか、見る人に想像する余地が残されていると思う。なおかつ音楽や照明によって、
活字で味わうのとは違う幻想的で神秘的な効果が味わえるところがよい。もちろん、役者さんたちが、目の前で真剣に演じているのを
見るのが舞台のよさであるのは言うまでも無い。
初観劇のキッカケを作ってくれたお内儀役の明日香さんと脚色のmoguさんに感謝。
|