ある真相
最終更新日 :2010/07/22
(以下は、とある事件に関する証拠物件として保管されているICレコーダーに記録された音声の内容である)
―― ―― ―― ―― ――
新ポケモンについて取材に来た? どこから聞いてきたのかね?
何? シルフカンパニーの……ああ、ポナヤツングスカの。まったく……。
まあ、学会での発表の後でなら、ニュースにするのはかまわんよ。 今まで注目されなかった研究だが、これで日の目を浴びるだろう。
――これが私の研究成果の新ポケモンだ。
「新ポケモン」と言ったが……確かに、「今までに存在しなかったポケモンを人間の手で作り出した」には違いないが、一から全て新しく創り上げたというわけではない。 むしろ「作り変えた」とか、いっそのこと「削り出した」とかいう方が当たっているかもしれん。
少し前に「人工細菌を作り出した」というニュースが報じられたが、知っているかね?
要するに、単純な細菌のゲノムと同じDNAを人工的に合成し、他の細菌のゲノムと置き換えて、それがきちんと働くことを確認した、という研究だ。あれも、天然のものと基本的には同じものを作り、他の細菌の細胞質を使っているのだから、新しいものを完全に人工で創り上げたとは言えないわけだが、それはさておき。
この実験の成功で、将来的には有用な物質を作る生物を人工的に作り出せるようになる、と言う期待が持たれている。
しかしこの手法を逆に応用すれば、塩基対をどんどん減らしていくことにより、生物はどれだけの遺伝情報が必要なのか、を調べることが可能なのだ。
――私がポケモンを実験台として行ったのも、まさにそれだ。
データ化しコンピュータに取り込んだポケモンのデータを、どんどん削っていったのだ。
通常生物の場合、その遺伝情報の改変にはDNAの合成や細胞質への挿入といった困難を伴う手順を踏まなくてはならないが、自己データ化能力を持つポケモンという生物を材料に使うことにより、まさにプログラムのデータを扱うのと同様に、遺伝情報の改変を行うことが可能なのだ。
しかし、脳や心臓といった重要器官のデータを削除すれば、当然そのポケモンは「死んで」しまう。
何百回と失敗を重ね、ポケモンの体構成データの規則性を把握した上で、重要性の低い部分からデータを削除していき、最終的にもはや情報を削れない段階まで達したのが、この実験体だ。
これにはもう、羽毛も爪も翼もなければ、性別すらない。行動パターンまでも、非常に単純化してしまっている。
そうそう、データ削減の副次的な結果だが、極めて興味深いことに、こいつはコンピュータの電子回路上でも行動が可能だということが判明した。
通常のポケモンならば、もちろんそんなことはできない。そのままの形で保存や転送はできても、データが重すぎて、リアルタイムで”動く”ことなどできないのだ。
だが通常のポケモンに比べ、圧倒的に情報量の少ない――軽い――こいつなら、電子回路上でも自由自在に行動することができる。
まったく意図しなかった効果だが、これは極めて有用な能力だ。さまざまな利用法が考えられるだろう。
何? これを他にも作れるか、と?
当然だ。再現性のない実験結果など何の意味もない。今までの分析結果はすべてここに記録してある。このとおりの手順で作業を行えば、結果は完璧に再現されるだろう。
それをよこせ、だと? 何を馬鹿なことを。これはきわめて重要な研究結果で……
……な、なんだ、お前たちは!
私の研究になにをする! ……やめろ! やめるんだ!
うわああああああぁ!
(破壊音の後、録音は途切れている)
―― ―― ―― ―― ――
後に、ポリゴンと呼ばれる新ポケモンが某所スロットの景品に登場。新種のポケモンを手に入れようとゲームに有り金を注ぎ込んだあげく、所持金を大幅に失うトレーナーが大量に発生し、一時社会問題化したという。
以上は、No.017さんのサイトピジョンエクスプレスで開催中の「気軽に小説を楽しもう!」という企画、ポケモンストーリーズ!に参加して、8拍手+α(一度ログが飛んだので(^^;))をいただいた作品に若干の推敲をほどこした作品です。
ここに描かれた考察アイデア(ポリゴンは普通のポケモンの遺伝子を削減していくことで造られたもの)自体は、ずっと前からあたためていまして、そのうちポケモン学研究所にアップしたいと思っていたのですが、本文中でも触れている、人工細菌作成成功のニュースを聞きまして、先にこのネタを使われないうちに、と急いで書き上げたものです。
最後までごらんいただき、ありがとうございました。