ピカチュウ＜ＰＩＫＡＣＨＵ＞
属性・電気 平均体重・６㎏ 平均身長・４０ｃｍ
主食は木の実。電撃で木の実を食べやすくする知恵は持ち合わせている。
両頬に電気袋を持つ。ピンチのときに放電する。
基本的に温厚な性格と言われている。
初心者向けではないと言われているが、
昔話。―ＰＩＫＡＣＨＵ＆Ｂｏｙ―
１、Ｓｔａｒｔ！
檻が並べられていた。檻の中には黄色いポケモンが押し込められていた。
「ほうら、トワ。見てみろよ。おまえの欲しがっていたピカチュウだ！」
スーツを着た男が自分の隣りに居る少年に向かって誇らしげにいった。一方、少年はどこか浮かない顔をして俯いていた。
「オスもいるし、メスもいる。色違いだっているんだぞ！どいつでも好きなヤツを選ぶといい。」
「そんな事……」
トワは小さな声で呟いた。
「ああ。選びきれないんだな。いいぞ。全部お前のポケモンだ！そうだ。それがいい！」
「だから……父さん、ボクが言いたいのは……」
言い終わる前に父親のポケギアが鳴り出した。
「すまん、トワ。……そうか。そっちでどうにかできないか？…………分かった。今すぐそっちへ行く。」
ピッ！ ポケギアの電源を切ると父親はトワに向き直り、心からの言葉を告げた。
「悪いな、父さんは仕事が入ったんだ。いいかい？家から出ないで大人しくしているんだぞ。薬はテーブルの上にあるからな。」
「うん！頑張ってね！！」
トワが嬉しそうに返事をすると、父親は駆け足で去っていった。
父親が居なくなったのを確認すると、トワはピカチュウ一匹一匹を覗き込むようにして見て行った。どのピカチュウも酷く怯えていた。
「それにしても酷い事したな……ごめんね。」
本当に悲しそうな顔をして呟いた。
「君達は神経質なんだ……森の中で暮らしていたかっただろうにね……」
トワは１つの檻に手を伸ばしたが、弱い電撃で弾き返された。
「本当に……ごめん。」
昨日の晩、トワは特に深い意味もなく「ピカチュウって可愛いよね……仲良くなれたらいいのにな。」
と呟いていたのを過保護な父親に聞かれてしまったのだった。
その父親がただの過保護ならよかったのだが、もの凄い財力を持つ大手会社の社長だったのだ。
一晩のうちに大量のポロックと罠を仕掛け、これだけのピカチュウを捕まえてきたのだった。
トワはあの時、改めて金の力を思い知った。
「お？」
周りでは不安に駆られ、弱々しく鳴き声を上げているピカチュウすら居るというのに、今トワの目の前に居るピカチュウときたら、気持ちよさそうに眠っている。
「図太いなぁ～。ははは。ヘンなヤツ。」
思わず檻の鍵をあけ、（ちなみにピッキング）そのピカチュウを抱き上げてみた。
「コイツ……なんだか重いぞ？太りすぎだね。」
突然ピカチュウはトワの胸ポケットの匂いを嗅ぎ始めた。
「あ……これ？野菜ビスケット……欲しいの？」
ピカチュウは当然だとでも言いた気に首を縦に振った。トワは苦笑いをして、ビスケットを１つ渡した。
それをサッと奪い取ってかじり始めたが、すぐにペッと吐き出した。
「緑色……ほうれん草嫌い？」
ピカチュウはビスケットの袋の中をガサガサと漁って、赤いビスケットだけを選び取って食べ始めた。
「ああ。トマトがいいんだね。うん。もっとあげるよ。」
「ピッカァ！」
とても嬉しそうな顔をして大喜びをした。
「かわいいなぁ。うん、決めた！君は”トマト”だ！」
「チュ？」
トワは全てのピカチュウを森に放した。
「トマト……君は……どうしたい？」
「チャァ～」
トマトは、体をトワの足に擦り付けた。
「ありがとうね。ボク、病気で学校休んでばっかりだったから、友達居ないんだ……よろしく、トマト。」
トワがしゃがみこみ、トマトの前に手を差し伸べた。トマトは不思議そうに首をかしげていた。
「これは、よろしくって事。わかる……かな？」
暫く考えていたが、分かったと言うようにトマトはトワの肩に登り、電気袋から本当に僅かな電気を出してトワの頬に擦り付けた。
「うわあ！びっくりした……これって、ピカチュウ流の握手……なの？」
「ピカチュ！！」
トマトは肩の上で頷いた。
「じゃあ。改めてよろしくね！」
「ぜ、全部逃がしただって！？」
夕食時、テーブルの上には美味しそうにケチャップを舐めているトマトと、オムライスが二人分のっていた。
「うん。ボクにはこの子だけで充分だしね。ねートマト。」
「チャイ～」
「う～ん……お前がそう言うのなら……だが、なんでよりによって……一番太ってるヤツを……」
父親は本気で頭を抱えている。
「いーのいーの。人それぞれ、十人十色。ごちそうさま。トマト。」
トワはトマトをつれて二階へ上がっていった。歯を磨いているのだろう。水の音が聞こえる。
「……半年…か。」
父親は悲しそうに呟いた。
２、Ｔｉｍｅｌｉｍｉｔ
「トマト……ボク、旅に出てみたい。」
「チャウ？」
ベッドの中で、トワが突然言い出した。
「ボク、もうすぐ死んじゃうかもしれないって。だから……」
「チャイィ？」
トマトには「死」の意味が分からないらしい。トワにも充分それは伝わったが、その意味を教えなかった。
「それに、トマトも太りすぎ！ダイエットもかねて、旅に出てみようよ！ね！」
「ピッカァ！」
二人は盛り上がったが、同時に父親のことを思い出した。
「……父さんの事だ……ボクが家を出るなんて言ったら、どんな反応をするか……」
シュミレーション
「父さん！ボク、旅に出るよ！」
「なんだって！？何を言っているんだトワ！？お前は病気なんだぞ！？ウダウダ……ブツブツ……」
シュミレーション終わり。
二人は思いっきり深い溜息をついた。
「ボクを心配してくれてるのはよくわかってるんだけどね。それにしても……やりすぎだよ。」
絵を描くための紙は無いか、と聞いてみれば水彩画から油絵までの道具一式を揃え。
伝説のポケモンについて尋ねれば、一日中部屋に閉じこもり、古代の文献から最新情報をかき集め、
何百枚ものレポートに書き換えたものを渡された事もある。
「……。」
早くに妻を無くした父親にとってトワは何にも変えられない大切な家族である。
その一人息子の余命が後半年なのだ。過保護になるのもしかたがないといえるが、本人にとっては……
これはとても失礼な事かもしれないが……自分が子供のころ落書きで埋め尽くしたスケッチブックの余りを
譲ってくれれば良かった。親たちから聞いた昔話を聞かせてくれれば嬉しかった。
「ボクって我侭だよね……トマト？……もう、寝ちゃったか。おやすみ。」
「そこだ！トマト！１０万ボルト！！」
「ヂュゥ！！」
トマトの電気袋から放出された強い電撃が、相手のピジョットを撃墜した。
「父さんのくれた技マシンのおかげで強い技も覚えられたし、だいぶ動きも軽くなってきたね。」
トマトは出会った時とは比べ物にならないくらい体重を落としていた。
「ピィッカア！」
「トマト……今晩にしよう。」
「ピ？」
「準備はこの１ヶ月の間に出来てる。残りの５ヶ月……思いっきり楽しまない？」
「ピッカチューウッ！！」
残りとは何の残りかは分からなかったが、トワの瞳が輝いていたのを見ると、トマトは乗り気になった。
「おやすみ、父さん。」
「ああ。おやすみ。」
トワとトマトは二階に上がって行った。
「…………。」
父親はその後ろ姿をじっと見つめていた。
「地図、良し。傷薬、良し。食料、オッケー！！準備は万全だ！」
「ピカ！」
トマトを自分の頭の上にしがみ付かせ、窓から垂らしたロープをつたって降りていった。
「着陸っと。……父さん、いってきま……」
トワが言いかけたとき、玄関に明かりが灯った。
「待ちなさい。」
「と、父さん…………」
トワの顔が青ざめた。……発作ではない。
「あの……今日、忘れ物をして、それを取りに……」
「そうか。そこまで行くのならどうせ寄り道もするだろう。そうだ。これで好きなものでも買ってきなさい。
それと、日射病になるといけないな。父さんはこう見えても元ポケモントレーナーだったんだ。この帽子をトワにあげよう。
トマトにケチャップやビスケットだけではいけないよ。あくまでもポケモンフードを主食にしなければね。
…………桜が見れるころには帰ってきなさい。」
「はい、行って、きま……す……ッ。」
俯きながら答えたトワの声は震えていた。
トマト。と小さく呟いた後、走り出した。すぐにトマトもトワを追い、走って後をついてきた。
「さあ。どんなふうに成長してくれるかな。」
暫くそこに突っ立っていたが、１つ呟いた後、家の中に入っていった。
３、ＴＯＭＡＴＯｓｔｏｒｙ
トマトはトワのトモダチ。ずっと前、トワといっしょにタビに出たでチュウ。
いえを出た日、なんでかしらないけど、トワはないてた。いくらなめてもナミダがきえなかったんでチュ。
そのうちにトワはねちゃったでチュウ。トマトもねむたかったから、すぐねたでチュウ。
トワは「タビに出る」て言ってたけど、タビって言うより、リョコウって言ったほうがしっくりくると思う。
いろんなところへ行って、おいしいものをいっぱい食べて、おもしろいのや、こわいものいっぱいあったよ。
でも、どれもぜーんぶ、たのしかったんだ！でも、さいきんトワはカオイロがわるいんだ。シンパイでチュ。
４、Ｈｏｍｅｃｏｍｉｎｇ
「トマト、もうすぐ桜が見れるよ。……桜って言うのはね、プクリンみたいな色をした花で、とっても綺麗なんだ。……すぐ、散っちゃうけどね。」
「ピカ？」
トマトには、最後の一言を言うトワの顔がとても悲しそうに見えた。
「気にしないで。ねえ。父さんの顔を見に行こうよ！」
「チャーウ！」
家は少し暗く見えた。人の気配がしない。
「父さん、居ないのか……な？」
「ピィ。」
トワはドアノブを握り、ひねった。ドアは
「え？」
動かなかった。慌てて力を入れて、ガチャガチャ回したが、動かない。
「あ、そっか。居ないんだから、鍵がかかってるのは当然だよね。ははは。」
トワは言い聞かせるように言った。
「トマト、ここで待ってよう。」
「チャー……」
待ってる間もトワは、しきりに「出かけているだけなんだ」と呟いていた。
トマトは人の匂いが薄くなっている事に気が付いた。庭には一本の桜の木が植えてある。桜はまだ、咲きそうに無かった。
「あら？もしかして……トワちゃんかい？」
「あ……おばさん！」
トワは近くのおばさんに尋ねた。
「あの、父さんは、どこに行ったんでしょうか……」
おばさんは、かなり、困った様子で言うのを躊躇っていた。トワは心の底にあった、最悪の状況を確信した。
「お亡くなりになったよ。……一ヶ月ほど前に肺の病気で……」
「そう……ですか。」
トワは泣かなかった。でも、もしこの場におばさんが居なかったら泣き崩れていたかも知れない。
「お父さんに鍵と……あと、手紙を預かっているわ……ちょっと待っててね。」
おばさんが足早に走り去った後、トワはしゃがみこみ、トマトに言った。
「トマト……聞いたよね。父さんはもう居ないんだって……」
「チャー……」
トマトはよく事情を飲み込めなかったが、「元気を出せ」と言いたかったのだろう。
弱い電撃をトワにぶつけた。
「さよなら。トマト。」
「ピ！？」
「木の実の取り方。覚えてる？」
トマトは強く首を縦に振った。
「じゃあ、一人でも生きていけるね。さよなら。」
「ピカ！？ピカピィ！！ピカピカ！」
なんで急に突き放されるかがトマトには分からなかった。もしかしたら、さっきの電撃が悪かったのかと謝った。
「…………。」
トワはトマトに一瞥もくれなかった。
「ごめんね、手紙をどこにしまったか忘れちゃって……はい、これ。」
おばさんがトワに手渡したのは素っ気無い茶色の封筒と、金色の鍵だった。
「困った事があったら、何でも言ってね。おばさん、力になるから。」
「はい、お願いします。」
トワは家の鍵を開けて中に入った。トマトも家の中に入ろうとしたら、突然トワが大声を上げた。
「出ていけ！！」
トマトは今まで聞いたことが無い大声だった。
「もう……来ない方がいい……っ！」
トワは泣いていた。
５、ＴＯＭＡＴＯｓｔｏｒｙ・ＳＯＮＯＮＩ
トワがトマトをキライになったでチュウ。かなしいでチュウ……なんでか分からないのに……
きゅうにサヨナラなんて、できないでチュ！今日はダメでも、明日はいいって言ってくれるかもしれないし！
かわりやすいのはオカマ心と柿の空！（乙女心と秋の空）でチュ！！ファイト！トマト！！
６、Ｓｏｌｅｓｉｎｇｌｅ
トワはトマトが居なくなってから、すぐに掃除を始めた。埃はあまり無かった。こまめに履き取ってくれていたのだろう。
ここは感謝しなければ。おかげですぐに夕食を作ることが出来た。
つい、二人と一匹分作ろうとしていた自分に苦笑いを浮かべた。
結局今までに作り慣れていたオムライスを作って食べた。材料はおばさんの差し入れだ。
あまり、美味しくなかった。
虚しくなって歯を磨いて寝た。
その間、一言も喋らなかった。
朝、起きるとトマトが窓にガッシとしがみ付いていた。トワと目が合うと嬉しそうに笑った。
ここは二階なので苦しそうだったが、それよりもトワと会えたことが嬉しかったようだ。
トワは今すぐにでも駆け寄って窓をあけ、その短い毛を撫でたかったが、見ないふりをして一階に降りた。
食欲が無かったので何も食べないでいようと思ったらカタンと音がした。窓の隙間から木の実が投げ込まれた音だった。
「ありがとう。」
この家に着いてから初めてあげた声だった。
７、Ｕｎｄｅｒｓｔａｎｄ
トマトは毎日木の実を運んだ。トワは朝に弱いのでハッカの実を差し入れしたら、とても辛かった様だ。
もうハッカの実には手をつけなかった。そんな中、日に日に桜のツボミは大きくなり、トワの顔色は悪くなっていった。
ある日、桜の花が一斉に咲いていた。トマトは悪いなと思いながらも、桜の小枝を一本折って口にくわえた。
そのまま窓へ向かった。最近はなぜか一階を寝室にしているようだった。
窓を少し開けようと覗き込んだら、トワがとても苦しそうな顔をしていた。
慌てておばさんを呼びに行こうと思ったら、トワが久しぶりに自分の名を呼んだ。
「トマト、行かないで……」
「！？」
トマトはすぐに窓際に座った。
「今まで、ごめんね。実は……」
トワは、休み休み、ゆっくりと喋りだした。
「ボクは、肺の病気だったんだ。父さんも、肺の病気で死んじゃったんだ。本当は父さん、
ボクより体弱かったんだよ。……おばさんが、父さんは肺の病気で死んだ・って言ってたよね。
あの時、もしかしたら、この病気はポケモンにも移るんじゃないかって思ったんだ。
怖かったんだ。もし、ボクより先にトマトが居なくなったら・って。」
「ピカ……」
「そんな顔しないでよ。で、ちなみに手紙の方は、生活費の足しにしろ・って金庫の番号が書いてあった。
でも、けっこうお金余っちゃったから、募金に出しちゃった！もちろん全額！あはは！」
「ピ……。」
ふと、トマトの足元にある枝に目をやった。
「ボクに見せたかったの？」
「ピッカァ！」
強く頷いて嬉しそうに声をあげた。
「すぐに散っちゃうけど、いや、だから……かな？……綺麗だよね。ねえ。トマト。もう一眠りしよう。
久しぶりに、一緒に、ね？」
「ピッカッチュウ！！」
大喜びでトワの腕の中に飛び込んだ。トワは痩せていたが、温かさは前と一つも変わらなかった。
「まーた、太ってきたね。」
「ピィカァ？」
「オヤスミ。トマト……」
朝から昼頃まで寝続けていたのだろうか、日は高く登っていた。
「ピカ、ピカチュウ！」
トマトはトワの体をゆすって、起こそうとした。トワは目を開けない。体が冷たい。
息も、無い。
トマトにも異常が分かったのか、急いでおばさんの家へと走っていった。
今思えば、そうだ、トワはとても苦しそうだったのではないか。なにを呑気に眠りこけていたのだろう……
今更後悔の波が襲ってきた。
トワの葬式はマサラに住んでいた家族が済ませた。
葬式の日、大雨が降った。その雨は容赦なく満開だった桜の木にも降り注いだ。その木の下でトマトはただ立っていた。
その日、トマトは、トマトからピカチュウになった。
あさ、目を覚ますと桜の花は一つ残らず落ちていた。
――ああ。散るってこういうことなんだ。
『もうすぐ死んじゃうかも』
――死ぬって、散るのと似てるね。トワ。
『いや、だから……かな？』
――トワも、綺麗だったよ。あんまりカッコよくなかったけど。
『ありがとう。』
――こちらこそ、ありがとう。
『さよなら。×××』
――トワ？なんて言ってたっけ……。とりあえず、本当に、さようなら。
８、Ｓｔａｒｔ！
一匹のピカチュウは南へと向かった。なんとなく、北よりも、南の方が暖かそうだったから。
それとも、南から吹く風が、花のいい香りを運んだからか。
とにかく、ピカチュウは南へ歩いていた。その間、一度として「名前」で呼ぶものは居なかった。
『×××もうすぐ桜が見れるよ』『そこだ！×××！十万ボルト！！』『×××、行かないで……』
「オーキド博士～。どこっスか～？」
――トワ！？トワの声だ！！
「草むらに入っちゃいかん！！」
――トワっ！！
「ピカチュウだ！！」
――ちが……
「モンスターボール！！」
――う。
「このポケモンをあげよう。」
――……トワがいい。
「え！？いいんスか？」
――こっちはよくないの！！
「まあ、ボールの中を嫌うやつはいるだろう。」
――しかたないだろ？このかた入ったこと無いんだから。
「よろしく。」
――『よろしく、×』
「えーと、ピカ！！」
――ちがうっ！オレは……おれは？
「くっそー。お前のポケモンにすりゃあよかった！！」
――おれは、ピカ。その前は？
「なぁ、ピカ……仲良くしようぜ？」
「……。」
ピカチュウ……ピカは、そっぽを向いている。
『こぉらあ！なーにやってんのさ。』
「！？」
ピカは弾かれた様に顔をあげた。
『もう、昔の君じゃないんだ。……もう少し心を開いたら？』
――オレッ！トワがいいっ！！
『……ボクは居ないよ。最後の命令。その子……サト……えーと、とにかく、その子の言う事を我侭言わずに聞いてあげること！
……あと、これを言いに来た。先に逝っちゃってごめんね。×××。』
「ピカピィ！！」
「ピカ？なんだよ！いきなり」
振り向くと、心配そうな顔をした少年が立っていた。涙で潤んだ瞳でぼやけて見えたが表情は読めた。
「どうしたんだ？」
『その子と、仲良く、ね。』
ピカは涙をぬぐうと、電気袋から本当に僅かな電気を出して少年の頬に擦り付けた。
「うわぁ！びっくりした！……よろしくって事……なのか？」
「ピカチュ！！」
ピカチュウ＜ＰＩＫＡＣＨＵ＞
属性・電気 平均体重・６㎏ 平均身長・４０ｃｍ
主食は木の実。電撃で木の実を食べやすくする知恵は持ち合わせている。
両頬に電気袋を持つ。ピンチのときに放電する。
基本的に温厚な性格と言われている。
初心者向けではないと言われているが、
ピカチュウと共に旅立ち、深い友情を築いた少年たちも大勢居る。
「ピカ。きっとコレ、オレたちのことだぜ？すっげー有名人！」
「ピッカー。」「チョゲピー。」「キュゥーン。」「チィー。」「グオ。」「ニューム。」
目の前に居るピカチュウとエアームド、ラプラス、メガニウム、リザードン、オオタチが一斉に
あきれたような声を出した。
「なんだよ！皆！！その冷たい眼は！！オレたちの事だから、誕生日プレゼントでもらえたんだろ？
この参考文献。……言いおくれたな。ハッピーバースディ。ピカ！！オレからのプレゼントは……
これだぁ！」
少年の手に握られているものは「ビタミンＯＫ！野菜ビスケット！＜カロリー控えめ＞」だった。
――……懐かしいでちゅう。
「どうしたよ……ピカ？」
「ピイッカァ！！」
ピカは勝手に少年の手からサッとビスケットを奪い取り、赤いビスケットだけをぺろりと平らげてしまった。
ＥＮＤ