雪獅子と若者
鳥獣と人、等しく互いに入り交じりて暮し居りし頃、或る邑 腕の良き狩人なれど巡り悪しく目に留まる鳥獣とて影も無し。 何にても獲らずば帰らじと深き山奥に分け入りて、遂に黒玉 尾根に駆け谷に追ひ詰め、終 然 見事なり、弓取る丈夫 我が皮なりと肉なりと取りて汝を待つ炉辺に疾 然れど若人否 太刀佩 雪獅子涼やかなる声音で問へり。 逞しき若人よ、されば汝 若人答へて曰く、 雪白の衣纏 然れば雪獅子、我既に汝 (ミオ市立図書館 民俗学資料室蔵 神奥 |
(現代語訳) ――昔、ポケモンと人とが隔てなく暮らしていたころ。 ある村の若者が弓を持ち狩りに出かけた。腕の良い狩人だったが、その日はどうしたことか、獲物がさっぱり見つからない。 何か獲らずには帰れない、と若者は山奥に入り、ついに真っ黒な角と真っ白な鬣の見事な若いアブソルを見つけた。 懸命に追いかけ、後は仕留めるばかりにまで追い詰めたが、若者は深くため息をつき、弓を持つ手を下げ矢を収めた。 しかしアブソルは逃げることなく、頭を垂れひざまづいて若者に言った。 「お見事です、弓を持った強い男よ、私はもう貴方の獲物です。どうぞ私の皮でも肉でも取って、貴方を待つ家に早く持ち帰ってあげてください。」 しかし若者は首を振った。 「剣を持つ雪の獅子よ、私の望みはもはやそこにはない」 するとアブソルは涼やかな声で尋ねた。 「たくましい若者よ、それでは貴方は何が欲しいのですか」 若者は答えて言った。 「雪のような白い衣をまとう乙女よ、私の望みはあなた自身です。どうぞ私の妻になって、ずっと共に暮してください」 するとアブソルは、「私はもうすでに貴方のものです」とにっこりと笑い、毛皮を脱ぎ乙女の姿になって、若者と共に村へ帰り、若者の髪が乙女と同じく真っ白になるまで永く共に過ごしたという。 |
……この物語には、時代・話者・地方によりいくつかの異なる形の結末が存在する。 例えば、巫(かんなぎ)地方の古伝承ではこう語られる。
「娘は山の幸森の幸の採れる時を良く知り、獲物を捕らえるに巧みで、災害の兆しがあればそれを知らせたので、若者の一族は安楽に暮らした。 二人は、若者の髪が乙女と同じく雪のように白くなるまで長年共に村で人として暮したが、その後共にアブソルとなって山へ去り、そこから子孫たちの繁栄を見守っているという」
この形は、おそらくこの物語の最も古い形態を残していると思われ、自然(ポケモン)と人との原初のアニミズム的交流が素朴な形で描かれている。 しかし現在この物語は、シンオウの多くの地方では次のように語られることが多い。
「娘により若者の一族は安楽に暮らしたが、いつのまにか一族はそれに慣れ切り、娘を粗末に扱ったため、娘は再び毛皮をまとってアブソルの姿となり山へ帰ってしまった。しかし、アブソルは残してきた子孫たちを今でも気に掛けており、災いがあれば警告しに山を降りてくるのだという」
このように、時代が下るにつれて、大らかで素朴な神話的交流から、多くは悲劇的結末に終わる近世的異類婚姻譚への移行が見られることが多く、時代による人とポケモンとの間の心理的距離の変化を見て取ることができる。……
(ミオ市立図書館 民俗学資料室 蔵 『シンオウ民話研究』第四巻第三号 論文「民話における人とポケモンとの関係性の歴史的変化」より抜粋)
はい、毎度読みづら〜い文章をごらんいただき、大変お疲れさまでした。(^^;)
怪しい古文シリーズ、「鴻鵠女房」に続き、今度は「アブソル女房」でございます。 文字通り、アブソルは俺の嫁!(笑)
皮を脱いで人のすがたになったり、人と結婚したり、ミオ図書館でシンオウむかしばなしを読んで萌えまくった人は多いはずだっ!!(笑)(笑)(笑) なんせ公式ですからね、公式!!!(ふんすっ!( ̄ー ̄)=3)
例によって、「実際の文献から引用したような雰囲気」を狙ってみました。ただし、「鴻鵠女房」は中世ごろ成立の昔話を江戸末期の人が書き留めたもの、という想定、こちらはもっと古い、古事記あたりの雰囲気を狙ってみたんですが、……難しいですねー(^^;)
ところで前回「豊縁」はズバリ当たったんですが、「新奥」(「深奥」とか?とも)と当ててみたら違いましたね〜(^^;) 今回調べてみたら、増田氏情報では「神奥」だそうで、本文はそのように訂正させていただいてあります。 残念!!