パチンコ


 大阪に向う列車の窓から刈入れのすんだ北陸の風景をぼんやり眺めていたら、後座席の二人連の話が聞くともなく耳に入ってきました。内容はパチンコに関することで年配の出張途中らしい方が最近のマイコンを使ったパチンコ台の遊び方やら、一日の内で何時ごろ出玉がよくなるかなどの体験談、旅先でのパチンコ店めぐりとその見聞録、一発逆点の大勝負(?)など若い方が適当に相槌を打ってくれるのをいいことに、楽しい事件の連続といったふうに次々と興にまかせて話していました。

 僕も知らない土地に行った時、ついパチンコ店に入ってしまうくせがあります。理由の一つは中に必ずトイレがあるからです。余談中の余談ですが、友人の一人に外に出た時には駅のトイレなどは絶対使わず我慢しても一流デパートのものしか利用しないという男もいます。ふだんはなんとなく時間つぶしに玉をはじいていますが、二三パチンコについて思い浮かぶことをあげてみます。

 東京など大都会では店内を見廻っているのは大抵若いオニィサン風で、景品交換所にはオネエサンといった組合せですが、小さな都市では交換所にはオジサン(店の所有者か?)あとはオバサンだけといったのが多い様です。店の規模あるいは需要と供給といった因子によって決まるのでしょうが、客の方からみると同じパチンコ店でも土地土地でかなりちがった雰囲気を味わえることになります。以前、旅先で換金場所がわからず景品の味の素に似た手垢でよどれた粉袋を持ち歩き東京へもどってから処分した苦い経験もあります。

 景品を現金に換える窓口ではいろんな人種をみかけます。両手に持ちきれない程の景品(2〜3万円相当か)をかかえて、仲間と情報交換している連中。おそらく仕事を休んで(あるいはパチプロ)開店と同時に飛びこみ目星をつけた機械との悪戦苦闘の結果と想像されます。それにしても換金窓口は大抵ちよっと奥まった路地裏にあり、お互いの顔が見えない様になっていて無言の内に作業が進み何か悪事でもやっているようでちよっとゾクゾクした気分にさせてくれます。このあたりにもいろんな賭け事に共通した魔力の一つがあるのかもしれません。(『轍』1983 より)

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