[ラブひな]赤松 健さん
インタビュー
東大生の偶像性はネタになる!!
「なんで漫画には、こんなにいっぱい東大キャラが出てくるんだ?」 この人類七不思議の一端を解明すべく、 現在『ラブひな』(週刊少年マガジン連載中のラブコメディ)にて、 東大受験生を描いている漫画家の赤松健先生に話を聞いた。 |
赤松 健(あかまつ けん)
1968年7月5日中央大学文学部卒/
週刊少年マガジン『AIが止まらない』(94年)でデビュー。
98年10月より、週刊少年マガジンにて『ラブひな』連載中。
『ラブひな』UHR・http://www.ailove.net/
●作品中に東大受験生を登場させた経緯は?
出発点にギャルゲー(ギャルゲーム)があります。
いろんなタイプの女の子に主人公がもてるといった(笑)、
ギャルゲーの要素を漫画に取り入れようと思いまして。
そんなわけで主な登場人物は一人を除いて全員女性になっています。
その次に、読者に共感が得られ易い現実的なものとして舞台を「旅館」に設定し、
最後に「受験」を筋書きに加えました。
後は一般的なイメージを利用して、受験するなら東大、東大なら文Ⅰという感じで決めていきました。
設定の重要度的には、美少女・旅館・東大受験はほぼ同じくらいですね。
●設定に東大を使うメリットは?
世間には東大に対したくさんのやっかみや非難があって、
その中で東大や東大生はものすごく偶像化されていますよね。
例えば「将来に備えて勉強ばかりしている」といった感じに。
この点で漫画としては、他のどの大学よりも異常なほどネタにしやすいんです。
偶像を利用しない手はありませんよ。
空想上の大学を持ち出すと、話がファンタジーになって共感が得られにくくなるし。
大学受験を舞台にするなら、やっぱり東大がベストだと思いましたよ。
偶像によって、東大は形容詞的な使われ方をされます。
「東大卒の~」というだけで、そのキャラの性格を説明できるんですよ。
例えば『金田一少年の事件簿』の明智警視とかって、自動的に「東大卒」になりますよね。
●東大女子に対してはどのような偶像が?
東大に受かるような女性は、自分をちゃんとコントロールできる、というイメージがあります。
しかも、「眼鏡をかけていて美形」という印象は絶対ありますよ。私も感化されています(笑)。
●実在の大学である東大を使うリスクは?
作画する時に資料が必要で、実際に東大へ足を運んで何百枚も写真を撮りました。
最初、駒場と本郷の区別もつかなくて。
東大のホームページで調べるうちに、東大のことがだんだんとわかってきました。
また、私がネット上で東大の情報を求めると、東大生の方がすぐに反応してくれるので助かります。
●東大生や東大受験生からの反応は?
私のホームページの会議室に東大生や東大受験生の方からの書き込みがよく来ます。
受験生からは「読んでいてキツい」という反響を時々いただきます。
受験が終わった方からは「ああ、あったあった」という反応がありますけど、
当事者の受験生にはちょっと読んでいて辛いかもしれないですね。
二人(※1)を落としたことに対しても、「ショックです」というメールを多数いただきました。
●『ラブひな』の今後のストーリーは?
主人公にしてもヒロインにしても、東大は「約束」でしかないんですね。
もし東大に入学できても、そこで何をやるかは全く考えていないんです。
今回二人とも落ちたんで、とりあえずゴールは一年先に遠退きました。
「入った後にどうするのか」を、二人はこの一年間で考えていくんでしょうね。
もともと、景太郎の場合「東大受験」と「約束」ってのがあまりにもかけ離れていて、
そこからもう漫画的じゃないですか。
二人とも東大に合格することだけが目的で、入ってから続くものがない。
そういうところが漫画としては面白いところだし、笑えるところだと思うんです。
目的のはっきりしない二人を笑う、いわば「受験を笑う」というテーマが企画段階からありました。
景太郎にはっきりとした意志が生まれれば、その時はもう東大を目指していない、
ということもありうるかも知れませんね。
●先生ご自身の受験の思い出を教えて下さい。
私も『ラブひな』の主人公と同じく二浪してるんですよ。
大学で映画が撮りたくて日大芸術学部映画学科とか受けて、
一次は通ったんだけど面接で落とされまして(笑)。
シナリオばかり書いて勉強もしないで、結局二年間ふらふらしてました。
私立だと一発勝負だから、幾つか受験して、運良く合格したところに入りました。
映画とか漫画とか、入ってからやりたいことが決まっていたので、大学はどこでも良かったんです。
哲学的に内面描写をする作品よりも面白さを重視した作品を作りたい、
という姿勢は当時から変わってません。
●「フィクションの中の東大生」は、これからどうなっていくのでしょう。
『東京大学物語』では、東大生を特殊な位置付けで使っていましたよね。
決まりきった東大生の扱われ方は飽きられてきてるんで、
今後はもうちょっと違う使われ方がされていくかも知れませんね。
※1 主人公の浦島景太郎と、ヒロインの成瀬川なるを指す。
東大キャラ図鑑
夢みる東大浪人生
浦島景太郎
『ラブひな』受験生ラブコメディ
彼は三年続けて東大受験に失敗し、現在浪人生活三シーズン目。
外見ダメ、勉強ダメ、運動ダメと、三重苦に陥っている。
「大きくなったらふたりで一緒にトーダイ行こーね ♥」。
幼い頃の約束を実現させた先にあるもの、
東大に入学した後にあるはずの女の子との明るい大学生活こそが彼の受験勉強の原動力となっているのだろう。
とは言っても、偏差値48からの東大受験。
匹夫の勇と言いきってしまえばそれまでだ。
「東大が救済してくれる」という『東大神話』にとり憑かれているうちは、
現実の東大へはたどり着けない。
現実を見つめ等身大の東大に価値を見出せた時、
東大はその門を景太郎に開くことになるのではなかろうか。
努力型天才美少女
成瀬川なる
『ラブひな』受験生ラブコメディ
やきもち焼き、おせっかい、見栄っぱり、素直じゃない、しっかり者そうで意外と弱虫、
こんな言葉で説明できるオーソドックスなラブコメヒロインだ。
ひなた荘の住人で、東大文Ⅰ合格を目指し日夜受験勉強にいそしむ。
全国統一模試でトップを取るほどの努力型天才美少女だが、
勉強する時は眼鏡にみつあみ&無表情のガリ勉三点セットで完璧に武装している。
意図的に「ガリ勉」を演じることで、
周囲からの誘惑(恋愛、部活、おしゃれ等)をシャットアウトし、
「自分には勉強しかない」と自己暗示をかけているのだ。
なぜか東大に落ちてしまった彼女だが、頑張って、今年度こそは合格してほしい。
今度はなるべく自分を追い込まないでね。