著作権法


● 著作権法 第32条1項
 公表された著作物は、引用して利用することができる。
 この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、
 かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

● 東京地方裁判所 平成11年8月31日判決例
事件名  著作権侵害差止等請求事件 (平成9年(ワ)第27869号)
原 告  小林善範
被 告  上杉聰 今東成人 東方出版株式会社

事案の概要
 原告は、漫画家であり、「ゴーマニズム宣言」など(以下、原告書籍)を著作した。
 被告は、「脱ゴーマニズム宣言」(以下、被告書籍)を著作した。
 本件は、原告が、被告書籍には原告書籍の漫画のカットが採録されているが、 原告書籍の漫画のカットを無断で採録したことは、著作権者の複製権を侵害するものである、 と主張して、被告書籍の著者、発行者、発行所を相手として、出版や販売などの差止めと損害賠償を請求しているものである。

主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

判決理由の要旨
 著作権法32条1項は一定の場合に公表された著作物の引用を認めているが、 同項にいう引用とは、報道、批評、研究等の目的で他人の著作物の全部又は一部を自己の著作物中に採録するものであって、 引用している著作物と引用されている著作物を明瞭に区別して認識することができ、 かつ、引用している著作物が「主」、引用されている著作物が「従」の関係にあるものをいうと解するのが相当である。
 被告書籍における原告書籍の漫画のカットの採録は、原告書籍の漫画に対する批判を目的にしていると認められる。
 被告書籍の中で、被告の論説と原告書籍の漫画カットは、明瞭に区別して認識することができる。
 引用されたカットは原告書籍の漫画のごく一部に過ぎず、それ自体が独立の漫画として読み物になるものではなく、 引用されたカットのいずれもが、被告の論説の対象を明示し、その例証、資料を提示するなどして、 被告の論説の理解を助けるものとなっていることからすると、 被告書籍の中で、被告の論説が「主」、原告の漫画のカットが「従」という主従関係が成立している。
 したがって、被告書籍において原告書籍の漫画のカットを採録したことは、 著作権法32条1項の適法な引用にあたり、複製権侵害という原告の主張は認められない。

● 東京高等裁判所 平成12年4月25日判決例
事 件 名  著作権侵害差止等請求控訴事件 (平成11年(ネ)第4783号)
控 訴 人  小林善範
被控訴人  上杉聰 今東成人 東方出版株式会社

引用に関する裁判所判断の要旨
 控訴人書籍が「意見主張漫画」として、漫画という表現形式によって意見を表現したものであり、 被控訴人書籍は、意見に対する批評、批判、反論を目的とするものであること、 及び、被控訴人書籍に引用された控訴人カットは、控訴人漫画のごく一部にすぎず、 批評、批判、反論に必要な限度を超えて、控訴人漫画の魅力を取り込んでいるものとは認められないことを考慮すれば、 被控訴人書籍においては、被控訴人論説が主、控訴人カットが従という関係が成立しているというべきである。
 控訴人カットに独立した鑑賞性があることは認められるけれども、控訴人書籍と被控訴人書籍の関係に照らせば、 そのことによって、被控訴人論説と控訴人カットとの主従関係が失われるということはできないのである。




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