Sniper's Field

ラストスナイピング

１２月２０日　猫の場合

　世間ではクリスマスムードに染まりつつある中、私は今年最後のゲームに望んだ。むろん、最後のゲームである。前日の銃の調整にも熱が入った。
私の銃は０．２ｇ弾使用で２０～２５ｍ先の敵ゴーグルを狙う。当然、１Ｊ以下のパワー設定だ。これは私のポリシーと共にゲーム全体のルールである。またエアコッキングの銃にかぎり０．２５ｇ弾の使用が許されているが、そんなものには何の意味もなさない。あくまで、同じ条件でなければならない。そして同じ条件の中で敵を倒さなければならない。ましてや弾の重量規制やパワー規制に泣いてるようでは、スナイパー失格である。

　　先ほど敵のゴーグルを狙うと話したが、スナイパーは一発必中である。２発目はない。そう言う意味で敵に被弾を知らせるためにも相手のゴーグルを狙うのである。

　　スナイパーライフルに気を遣うのと同様、サイドアームにも気を遣った。サイドアームは小さければ小さいほどよい。私はワルサーＰＰＫ／ｓをオススメする。私のこだわりで革製のホルスターを利き手側の腰に装着している。これは匍匐姿勢をとれる事とその状態で銃が自然に抜けるからだ。

　１２月２０日、太陽が出ているが風が強く、そして冷たかった。私は着弾が分かる程度に迷彩服の下にいつもより多めに重ね着をした。ゾンビのレッテルだけは受けたくない。ゲームの規模は６０人ほどだ。ただ弾数制限がないためか、Ｍ６０を装備した米軍が目立つ。たとえ相手がベトナム装備で背中には通信機、頭には例の煙草の箱を巻いたヘルメットを被っていようともその煙草を狙うぐらいの心構えをもってゲームに望んで欲しい。彼らもゲームを楽しみたいのだ。

　　ややあってゲームは開始された。

　　フィールドは起伏が激しくお世辞にもスナイパー向きのフィールドとは言えない。また、チームの中では新兵である私はチーム内での発言権はない。開始早々にブッシュの濃いポイントまで走らさられた。当然、そこからの狙撃は不可能だ。私は自然を味方に付けるためにメンバーの目を盗みその場から離脱し、与えられた任務を破棄した。
私は敵にもそして味方にも気付かれないよう、風に紛れて各ポイントを転々とし、狙撃の機会を伺った。

　　太陽がじりじりと私の背中を照らしている。１２月の末だというのに熱い。じっとりと汗が背中やタートルネックで覆われた首からにじみ出る。そのくせ足の先や指の先は死人のように冷たい。

　そんな時、私は自分の左５メートルの所にＭＰ５を装備した味方がいるのに気が付いた。彼は私と同様にチームで新兵として扱われており、変に私と気が合った。彼の周囲には敵が３人確認できた。お互い膠着状態にあり太陽に照らされている。地形は見通しが利き、やや背の低いススキが生えている。そして私の後の方には小さな丘がありこれもススキで覆われている。それを越えれば味方のフラッグは目の前だ。急がなくては！その瞬間、あのＭＰ５の軽快な発射音が聞こえた。

　敵が手を挙げてフィールドから去っていくのが見えた。私は周囲に注意しながら彼の所まで近づいた。彼は喜びを含んだ口調で後の二人は丘の方に逃げたと言う。なるほど、ススキの中に１人いる。後の１人はどこだろうか。私が丘の上に目をやった瞬間。もう１人の敵が既に丘のてっぺんにいるのが目に飛び込んできた。丘の上の敵はフラッグ周辺に守備隊がいるのではないかと慎重になっているのが私にもわかった。まずい。早く残りの二人を始末しなければ。幸い丘の上の敵は私に気づいていない。だが丘の下にいる敵には気付かれてしまった。私は急いで狙撃のポイントまで走った。相手も走って丘の上に登ろうとしている。そこに間髪入れずにＭＰ５が敵を撃った。慌てた敵は、丘を背に仰向けになる感じで隠れたが、そのゴーグルは私のスコープの中にあった。

　　相手との距離は３０ｍほど、当たらない距離ではない。私は考える時間を自分に与える事なく引き金を引いた。弾はスゥーとのび、相手のゴーグルにヒットした。私は驚いた。がそれ以上に相手が驚いたのだろう。私はやや遅れてヒットコールをした敵を横目に丘の上に目をやる。今のヒットコールでの敵の動きを見るためである。敵に動きはない。私はＰＰＫ／ｓを抜き、急いで丘の下まで走った。音を立てずにそしてなるべく早く、その丘を登った。敵に銃口を向けたその瞬間、ゲーム終了の笛が１回、２回と聞こえた。相手は私に気づいて手を挙げているが、すぐに私は銃口を下ろした。そして軽く手を振りセーフティーゾーンまで戻った。

　　ＭＰ５の私の友人は私の狙撃を「Ｏｎｅ　Ｓｈｏｔ　Ｏｎｅ　Ｋｉｌｌしてましたよ！」と他のメンバーに誇らしげに話してくれた。だが私はただ苦笑いをして、なにも話さなかった。そしてそれが今年最後の狙撃になった。

投稿者：猫