グリ夫は自宅にこもってました。
東京に借りた安いアパート、四畳半風呂無し、築35年、家賃28000円、駅まで徒歩9分のアパートです。
その狭い部屋でグリ夫は一人、
「あのウサギ、許さない……だが……」
グリ夫は愛銃のコルト.25ポケットを握りしめていました。
「……この銃ではいささか力不足だ……」
「そうだ、銃を買いに行こう……」
と、一瞬顔に元気が浮かびましたが、またすぐに落ち込んでしまいます。
「……だが俺には金がない……」
その時、部屋の片隅に置いてある赤い14インチテレビ(ダイヤルチャンネル式)に映った白いチワワを見て……
「よし、これだっ!」
グリ夫はアイ*ルに立ち寄った後、ガンショップへと向かいました。
「オヤジ、武器だ。武器をくれ」
店員のオジサンは困惑した様子で、
「はあ?」
「ああ、すまない、少しばかり説明が足りなかったようだ。俺は強力なエアガンが欲しいのだよ」
「は、はあ……」
「いいか、手短に言う」
「はあ……」
「この店で一番強いエアガンは、どれだ?」
グリ夫は家に帰ってきました。
手にはデ*コンのターゲッ*ハンター30インチを持っていました。
グリ夫は銃を持ち、
「これさえあればあのウサギなど……」
マガジンを外そうとしました。
しかし……
マガジンが見あたりません。
「むっ、これはどこに弾を入れるのだ?」
考え、いじくりまわすこと30分。
なかなかマガジンは見つからず、グリ夫は説明書を読むことにしました。
そしてやっと、この銃にはマガジンがなく、単発式であることに気づきます。
「なにーーーーーーーーー!?単発だとっ!装弾数が1発だとっ!?」
こんな物ではうさぴょんに勝てないと思ったグリ夫は、今度は別なガンショップに向かいました。
「オヤジ、銃をくれ、連射ができて弾がたくさん入る奴だ」
再びグリ夫はエアガンの箱を持って家に帰ってきました。
「AK47、あのクマのと同じ奴か……」
グリ夫は買ってきたばかりのその銃に弾を入れて、撃ってみました。
ぅぃん……ぱぱぱぱぱぱぱん☆
部屋の中に置かれたマトに向かって弾が飛んでいきました。
ゆっくりと、黄色い弾が……
「な……なんだ……パワーが無いぞ……」
箱には「ミニ電動ガンAK47」と書かれていました。
グリ夫は今日3件目のエアガンショップへと足を運びました。
「オヤジ、エアガンをくれ、サバイバルゲームで有利な奴だ」
「有利っていわれてもねぇ……マ*イの電動ガンでいいんじゃないですか?」
「そうか、それにしよう。それをくれ」
「たくさん種類ありますけど」
「一番強い奴だ」
「どれもあんまり変わらないんですよ」
「く、そうなのかっ」
「だからお客さんの好きな銃を選んでいいんじゃないですかね。どれでもあんまり変わらないですし」
「そ、そうか……」
グリ夫は店内の電動ガンを見渡して……
「オヤジ、これだ!」
M4RISを指さしました。
「これがゴツゴツしてて一番強そうだ!」
「それを撃つためには充電器とバッテリーも必要になりますよ。それとサバイバルゲームで使うなら多弾数マガジンもあったほうがいいですね」
「おう、ならそれらをくれ。そうだ、バッテリーの電圧は連射速度に関係するんだな?」
「まあ、そうですが」
「なら一番電圧の高いバッテリーをくれ」
「え、でも壊れてしまいますよ」
「口出しするな、俺は客だぞ!」
グリ夫は家に帰ってきました。
早速、外付け12ボルトバッテリーの充電を始めました。
電動ガンの通常のバッテリーの電圧は8.4ボルトですから、12ボルトとなるとなかなか強力です。
充電が終わるとグリ夫はバッテリーと弾をM4RISにセットしました。
そしてうさぴょんのイラストが書かれたターゲットペーパーに銃を向け、
「死ねーーー!ウサギーーー!」
ギュガァァァァァァァ……バキッ☆ウィーン、ゥィーーーン。
ターゲットにうさぴょんのイラストに穴は空いたものの、途中から弾が出なくなってしまいました。
「な、なんだ!?壊れたとでもいうのか!?」
いくら引いてもモーターとギアの音がするだけで、もう弾は出ませんでした。
グリ夫は壊れたM4RISを持って、購入したお店に戻ってきました。
「オヤジ!もう壊れたぞ!不良品を売りつけたな!」
「だから言ったじゃないですか、あのバッテリーでは壊れますよ」って
「オヤジ、責任とって直せ」
「はあ、でも修理費はお客さん持ちですよ……トホホ」
「まあ、そのぐらいいいだろう」
店員さんがM4RISを分解すると、スパーギアが欠けていました。
「スパーギアが壊れていますね、ピストンのラックギアもかなり削れています」
「ならその二つのパーツを交換だ。ノーマルより耐久性の高いものはあるだろう?」
「まあ、ありますけど、また壊れますよ」
「馬鹿か?耐久性の高い物に交換したら壊れないはずだ。あんまりウダウダ言ってるとインターネットでこの店に対する悪評をばらまくぞ!」
グリ夫は修理したM4A1を持って家に戻ってきました。
スパーギアとピストンはカスタムパーツで耐久性の高いものに交換してあります。
「さて、今度こそ快調かな」
グリ夫はマトに向かってM4RISを撃ちました。
ギュガァァァァァァァ。
やや異音を立てているものの、銃は快調に作動しました……
初めだけですが……
しばらくすると……
バキッ☆ゥィーン、ウィーン……
「ま、また壊れた!」
グリ夫は、またまたM4を持って購入店にやってきました。
「オヤジ、また壊れたぞ!不良品を売りつけやがって!」
「だから言ったじゃないですか、また壊れますよ……って」
「このクソオヤジ!とっとと直せ」
店員さんはM4RISを分解しました。
今度はベベルギアが破損していました。
「ああ〜、こんどはベベルの歯が破損ですね、3枚壊れています」
「ならこのギアも耐久性の高い物に交換だ。心配するな、金は出す」
「こういうのは原因から断たないといけないんですけどねぇ……」
「うるさい!俺のすることに間違いなどない!」
翌日……
「オヤジ、また壊れたぞ!」
「は、はあ……」
店員さんがM4RISを分解すると……
「はあ、軸受けが割れていますね」
「なら軸受けを耐久性の高い物に交換だ」
そしてその日の午後。
「オヤジ、また壊れたじゃないか!」
「はあ、こんどはどこが……」
分解すると。
「ああ、ピストンが壊れてますね」
「馬鹿言うな!ピストンは耐久性の高い物に交換したはずだ!」
「それでも壊れる時は壊れるんですよ。そもそもこの電圧にノーマルスプリングって組み合わせでは」
「ん?ノーマルスプリングが良くないのか?」
「一番良くないのは電圧ですけどね」
「そうか、ノーマルスプリングが良くないのか」
いまいち話がかみ合っていませんが、グリ夫は気づいていませんでした。
「オヤジ、この店にある中で一番強いスプリングを組み込んでくれ」
「危険性増しますよ、それに、やっぱり壊れやすいですよ」
「ん?なんだ、逆らうのか?客に向かって逆らうのか?えぇ?なんとか言ってみんかい!?」
「って言われても……」
「あぁ?俺が本気になったら、どうなるか分かってるんかい!?毎朝店の前で野糞したるぞコラァ!それでもいいんかいボケェ!」
グリ夫はまたまた家に戻ってきました。
スプリングを強い物に交換したM4RISは連射速度は遅くなったもののパワーがありました。
バババババババババ☆
「快調だ。これは素晴らしい銃だ。もうレギュレーションなんてこの際無視だ。パワーオーバーがバレたらバレたでその時考えるさ」
そしてしばらく撃っていると……
マガジンに弾が残っていてもカラ撃ちになりました。
「ん、また壊れたのか、あのオヤジめ」
「オヤジ!壊れたぞ!」
「はぁ……」
またまた分解すると……
「メカボックスが割れてますね」
「な、なんだとっ!」
「スイッチもかなり痛んでいますし、メカボックスが割れても撃っていたせいでチャンバーにも負担が掛かっていますね」
店員さんは電卓を叩くと、
「これ全部直すと、このぐらいかかりますかね……」
「おいオヤジ、今まで俺がこの銃にいくらつぎ込んだと思ってるんだ!?」
グリ夫は頭に血が上っています。もともと上っていたも言えるのですが……
「カスタムパーツだけでギア三つ、ピストン二つ、スプリング、軸受け、それからメカボックスにスイッチにチャンバーだと!?この店は詐欺だろ!?」
「そんなこと言われても、ねぇ……もともと無理なんですよ。このパワーでは負担が大きいですから」
「だったら耐久性が一番高いカスタムってのは何なんだ?」
「……それはノーマル状態ですかね」
「はあ?ノーマルが一番耐久性が高いだと?」
「そりゃそうですよ、何も無理なことしてないメーカー設定のままなんですから。マ*イの電動銃なんかは特にそうですよ」
「なら俺は、わざわざ金をかけて高いカスタムパーツを使って、銃を壊れやすくしてたというのか?」
「まあ、そうなりますね」
「何で止めなかったのだ!?」
「止めたじゃないですか!」
グリ夫は力無くその場に崩れ、ひざまずきました。
「お……俺は……俺は無駄なことをしていたのか……」
グリ夫の目から涙がこぼれ落ち、頬をつたいました。
「アイ*ルのチワワからお金を借りて、やっとここまでカスタムしたというのに……」
グリ夫は拳を強く握りしめ、奥歯をかみしめました。
「く、くそう、悔しい……悔しい……」
そして顔を上げると……
「そしてこうなったのも全て……あいつのせいだ……」
再び復讐を誓ったのです。