サバゲニッポン昔話


うさぴょん「今回は更新タイミングの関係でお便り紹介なしでいきなりの本編ぴょん」

第58話:成田への道

 景色が流れていました。
 窓の外を、左から右に。
 窓ガラスにはうっすらと映るクマノフの顔。
 いつも通り無表情に近く、それでいながら少し悲しく。
 クマノフは成田へ向かう特急電車、スカイライナーに乗っていました。
 右の窓側の席。
 そのすぐ左、通路側にはトラ吉。
 その向かい側にはトラ吉。
 椅子を回転させた4席のボックスシート。
 クマノフ一人だけが窓側。
 そして一言も発せず、ただ外を流れる景色を眺めるクマノフ。
 グリ夫もトラ吉も、いつものように馬鹿騒ぎできる雰囲気ではありませんでした。

 クマノフは一人、考えていました。
 もしクマーニャが飛行機に乗る前に会えたとしても。
 そこで何が出来るのか。
 ただ最後に一言の別れの言葉を言うだけ。
 それだけが出きることなのか。
 それとも……それとも……
 一緒に空港でコサックダンスを踊るのか。
 たくさん人がいる中で。
 そんなみっともないマネでさえ……今はできる気がしました。

 クマーニャを引き留め……そして……
 そんな考えも。
 けれどそれは危険な事。
 自分にも、そして、自分よりも周囲の人間にとって。
 さらには何より……クマーニャ自身にそんな思いをさせることがあれば……それが一番つらいこと。
 しかしそれ以前に、もうクマーニャには会えないことを、クマノフは知っていました。
 日暮里発11:25分発のキップを手に……

「……なぁ、クマノフ……」
 重々しくトラ吉が口を開きました。
「どうしたクマ?」
 窓の外を向いたまま、クマノフは振り向かずに答えました。
「言いづらいんやけど、この電車の到着時間な」
「……クマ……」
「12時17分なんや……」
 クマーニャの乗る飛行機の出発時刻は12時ちょうど。
 多少の遅れがあったとしても間に合わない時間。
 クマノフは驚く様子もありません。
 そして静かに答えました。
「……知ってるクマ……さっき駅で確認したクマ」
「知ってたんか……」
「……クマ……」
「まあ、予定時間より早くつくかもしれへんしな。まだわからん」
 トラ吉があり得ないことを言いました。
「……間に合わないのか?」
 グリ夫が言いました。
「もういいクマ……」
 振り返ったクマノフ。
「そもそも再び会ったところで何も出来ないクマ」
 あきらめを口にしたクマノフの前、突然グリ夫が立ち上がりました。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 どがしゃんっ☆

 びゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!

 突然の空気の流れる音。
 窓から空気が入ってきているのです。
 なぜなら……
 グリ夫が窓ガラスを蹴り割ったからです。
 トラ吉もクマノフも、呆然としてしまいました。

「電車を降りろクマノフ!」

 グリ夫が叫びました。
「クマ?」
「どないしたんや!?グリ夫」
「いいから降りるんだ!」
「危ないクマ。それにその後どうするクマ?」
「大丈夫だ。それしか手がない」

 グリ夫が飛び降りました。
 クマノフも安全そうな草むらに向かって飛び降ります。

 線路脇の草むらに二人がいました。
 トラ吉を乗せたままのスカイライナーはその横を走り去っていきます。
「これからどうするクマ?スカイライナーは行ってしまったクマ」
 問いかけたクマノフに対して、グリ夫は余裕の表情です。
「任せろ。スカイラナーより速い物がある」
「クマ?」
 グリ夫は近くの道路を指さしました。
「あれだ」
 指さした先にあるもの……それは……

 自転車です。
 普通のママチャリです。

「あれを奪う」

 二人は自転車のところまで駆け寄りました。
 自転車の前輪には鍵がかかっています。
 前輪の車輪を横から押さえるタイプの鍵です。
「カギがかかっているクマ」
「こんなの楽勝だ」

(倫理上の理由があるため編集でカットいたしました。ご理解をお願います)

 鍵が外れ。前輪が回るようになりました。
「子供の頃何度も試した技だ。この程度はちょろいもんだ」
「なかなか悪人クマ」
「後ろに乗れ!クマノフ!」
「自転車で行くクマ?これではスカイライナーのほうが速かったクマ」
「そのぐらい軽く追い抜いて見せるさ!」
 グリ夫はポケットからキャラメルの箱を取り出しました。
 そして……
「父さん、俺、今から走る……」
 箱の中身を全部口に入れました。
 一箱の中身全てを。
「クマ!?そんなことをしたら死んでしまうクマ」
「大丈夫だ。任せろ」
 後を振り向いてウインクして見せるグリ夫。
「行くぜ!しっかり捕まってな!」
 ペダルを蹴りました。

 きゅぃぃぃぃぃん……

 ぃぃぃぃぃぃん……

 ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお☆

 自転車が走り出しました。
 レーシングカーのような勢いで。
 時速100kmを越えているでしょう。
 二人の乗った自転車は高速道路に入りました。
「間に合ってみせるさ!」
「クマ」
 景色が流れていきます。
 周囲の車も、次々と後方へと流れていきます。
「どうだ!俺は誰よりも速い!」
 自信満々に言うグリ夫。
 しかし、その時でした……

 ふぉんふぉんふぉんふぉんふぉん。

 後から一台のパトカーが迫ってきたのです。
 猛スピードで。

「そこの自転車!二人乗りはやめなさい!」
 パトカーがスピーカーで注意をしてきました。
 たしかに二人乗りは悪い子がすることです。
 良い子のためのサバゲニッポン昔話では許されざれぬ禁断の行為。
「ここで止まる時間などない」
 グリ夫はスピードをゆるめません。
 パトカーもかなりの速度を出して追いかけてきます。
「二人乗りはやめろ!危ないぞ!死にたいのか!やめないと撃つぞ!」
 パトカーから怒りの声が聞こえてきます。
「撃たれそうクマ」
 荷台に載っているクマノフが言いました。
「二人乗りごときで撃ってくる奴はいないさ」

 ばんっ☆

 二人の横を銃弾が抜けていきました。
 目が点になるクマノフとグリ夫。
「……撃ってきたクマ……」
「くそう!こんな所で死ねるか!」
 グリ夫はスピードを速めました。

 ばんっ☆ばんっ☆
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
 左右に動きながら回避するグリ夫。
 幸運にも弾は当たりません。
 ばんっ☆ばんっ☆
 ばんっ☆ばんっ☆
 ばんっ☆ばんっ☆
 ばんっ☆ばんっ☆
 自転車が加速したため、次第に距離が離れていくこともあり、射撃は当たりません。

「このまま引き離すぞ!」

 パトカーとの差は次第に開いていきます。
 もはやパトカーは100メートル以上も後方。

「振り切ったぞ!」
 グリ夫は喜びました。


「俺から逃げられると思っているのか……」
 パトカーの中で不気味に呟く男。
 オレンジの肌に、頭には水色のアンテナ。
 助手席の上にはたくさんのリボルバータイプの拳銃。ニューナンブが置いてあります。
「法を破る物は許さん!」
 彼は運転席の片隅にあるスイッチに手を伸ばしました。
「今まで俺から逃げられた奴はいない!俺は正義の為にがんばるピーボくんだ」


BGM スタート(flash形式)

 ぽちっ☆
 スイッチを押しました。

 きゅぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん。

 パトカーの後部トランクが開き、モーターの力で中からなにか出てきました。
 円柱状の2本の物体。
 ジェットエンジンです。

 ひゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……

 どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!

 二基のエンジンが後方に勢いよく炎を吹き出しました。

 パトカーが一気に加速します。


「後ろを見るクマ」
 自転車後部に乗っているクマノフが言いました。

「どうした?」
 グリ夫が後を振り向くと……

 パトカーが近づいてきています。
 一度は引き離したパトカーが、距離を詰めてきているのです。
「俺より速いのか!?」
 グリ夫は必死にペダルをこぎます。
 しかし、パトカーとの距離は縮まり続けています。
 だんだんとパトカーが迫ってきます。
「くっ!」
 ついにパトカーが真横、すぐ左側までやってきました。
 運転席のオレンジ色の男とグリ夫の目が合い……
 ピーボくんがニヤリと笑いました。
 そして……
 突然、ピーボくんはハンドルを右に切りました。
「体当たりするつもりクマ」
 パトカーの車体が急激に迫ってきます。

 キィィィィィィィィ!

 間一髪、グリ夫はブレーキをかけました。

 グリ夫の自転車はピーボくんのパトカーの後方に下がりました。
 もうちょっと遅れていたら自転車はパトカーにぶつけられていたでしょう。

 ピーボくんもアクセルをゆるめ、やや減速します。
 グリ夫の目に、パトカーの後部が迫ってきます。
「どうしても潰してくるつもりか!?」
 グリ夫はペダルをこぎながらハンドルを左に切りました。
 パトカーの左側から追い抜くつもりです。
 自転車がパトカーの左側へと回り込みました。
「一気に加速するクマ」
「ああ!」
 しかし、パトカーの側面が近づいてきます。
 またぶつけてくるつもりなのです。
「抜いてやる!」
 グリ夫は自転車を必死にペダルをこぎ、自転車を加速させます。
 自転車はパトカーの左側を抜き去り、前に出ました。
「追い抜いたぞ!」


「このピーボくんより速い奴は許さない」
 パトカーの中で不気味に呟くピーボくん。
 ピーボくんがさっきとは別のボタンを押しました。

 すると……

 パトカーの屋根の上が開きました。
 ぅぃぃぃぃぃん……
 中から現れてきたのは軽機関銃。
 M60マシンガンです。

「撃ち殺してやる」


「後を見るクマ。パトカーの屋根にM60クマ」

 ガガガガガガガガガガ☆

 M60が火を噴きました。
 当然のように実弾です。

 グリ夫たちの自転車のそばの地面が火花を上げます。

「横に逃げるクマ!」
 グリ夫はハンドルを右にきり、射線から離れました。
 M60射撃角度を横に向けますが、あまり横には向かないようです。

「まさかあいつは!俺達を殺す気か!?」
「さっきからそのつもりクマ」
「奴より前にいるのは危険だ」
 パトカーの前方、角度にして30度に入り込めば確実にM60の射撃をうけてしまうことでしょう。
「側面にいけば体当たりを受けるクマ」
「ならどうする?」
「右につけるクマ」
「体当たりされるぞ」
「その時はその時クマ」
 グリ夫はペダルをこぐ足を止め、次第にに減速していきました。
 パトカーと自転車が横に並びます。

 クマノフは左を見ました。
 パトカーの運転席を。
 運転席の中の男、オレンジ色の肌で青いアンテナを持つ男もこちらを見ています。
 目が合いました。
「左に寄せるクマ!」
「なぜだ!?」
 疑問を抱きながらグリ夫は自転車を左に寄せました。
 もうパトカーまで手が届く距離です。

 パトカーの窓が開いていきます。
 窓が開くと、運転手が右腕をつきだしてきました。
 その手には拳銃が握られています。
 回転式のニューナンブ拳銃。
「そうくると思ったクマ」
 クマノフは左手を伸ばしました。
 ピーボ君が拳銃のハンマーを上げます。
 ガシッ。
 クマノフの手が拳銃を掴みました。
 それと同時にピーボ君の人差し指がトリガーを引きます。

 ガチン☆

 ハンマーが落ちました。

 しかし弾がでません。

「なにっ!?」
 驚きの表情のピーボ君。
 クマノフの指がハンマーに挟まっているのです。
 そのせいでハンマーが落ちきらず、弾が発射されなかったのです。

 クマノフは力強く拳銃を引っ張りました。
 ピーボ君の手から拳銃が抜けます。
「くそっ!」
 クマノフの手で拳銃が半回転し……
 その回転が止まった時、クマノフの手はしっかりと拳銃のグリップを握っていました。


 バンッ☆

 ピーボ君のパトカーのタイヤを撃ち抜きました。

 きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ☆

 スピンを始めるピーボ君のパトカー。

「うああああああああああ!!!!!!」

 ピーボ君はスピンするパトカーの中で叫びました。
 時速300kmでのスピン。もはや車はコントロール不可能です。

 きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ☆

 車は道路を外れ、側壁に激突しました。

 どぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!

 大爆発を起こしました。


「やったか!?」
 グリ夫は一瞬だけ後を振り返りました。
 遙か後で炎と煙が上がっています。
「倒したクマ」
 クマノフはいつもどおり平然としています。
「これはもういらないクマ」
 橋にさしかかったところで、クマノフは拳銃を川に投げ捨てました。

「邪魔者は追い払ったが……くそっ……」
 グリ夫が苦しそうに言いました。
「どうしたクマ?」
「……だめだ、キャラメルが切れてきた……あれだけ食ったのに……さすがに成田までは……」
 自転車の速度がしだいに落ちていきます。
 後部荷台のクマノフからも、すぐ前のグリ夫の必死の状況が伝わってきます。
「悪いなクマノフ……」
 後方の車が自転車を追い抜いて行きました。
 それほどまでに速度は落ちています。
 グリ夫の足は完全に止まった状態。
「もういいクマ。ここまで来れただけで私は満足クマ」
「……俺としたことが……」
「初めから無理だと分かっていたクマ……間に合わないことは分かってスカイライナーに乗ったクマ」
 あきらめのクマノフ。
 グリ夫も疲れ果て、どうしようもならない状態……

 ……しかし。

 その時、クマノフは気づきました。
 風景の流れる速度が速くなっていること。
 二人を乗せる自転車が加速している事を。
「クマ……?速くなっているクマ」
 視線を落としてグリ夫の足を見るクマノフ。
 グリ夫の足も、ペダルも動いていません。
 しかし自転車は確実に加速しています。
「スピードが……上がってる……?」
 グリ夫も驚いています。

−−−もしかするとさらに続くかもしれない−−−

あまりにあきれたのでメッセージを送ってみる。

なまえ(なまえ公開の許可/不許可も書いてください。無記入だと勝手に公開されちゃいます)
※例:「クマノフ なまえ公開許可」

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