サバゲニッポン昔話・第二部
第6話:再突入
晴れ渡った空の下。
とある工場入り口の前に3人の姿がありました。
ネコ田さん、ぬいぐるみネコのネコリン。そして青い帽子の男の子、ボコちゃん。
3人ともすでにゴーグルをかけ、手にはそれぞれの銃、ネコ田さんはワルサーMPL、ネコリンは南部14年式、ボコちゃんはシグプロSP2340を持っています。
「今度は大丈夫だよね?」
ボコちゃんが不安げに言いました。
「きっと大丈夫にゃん」
明るく答えるネコリン。
「急いでベコちゃんを止めないと……」
ボコちゃんが言う『とっても悪い事をしようとしている』ベコちゃんを止めるには、この工場の内部を突破しなければなりません。
内部にいるのは大量のロボット。そのロボットに撃たれてしまうと工場の外に強制排除されてしまいます。
「いくにゃ!」
ギィィィ……
工場の扉が開かれました。
そこに三つの人影。正確には二つのネコ影と一つの人影。
ネコ田さん、ネコリン、そして青い帽子の男の子、ボコちゃん。
「いくにゃん」
ネコリンが素早く中に入り込み、積み上げてあるダンボールの後ろに隠れました。
その後ろにネコ田さん、ボコちゃんと続きます。
工場の中は以前と同様に薄暗い状態。
電気は消えていて、窓から差し込む光だけが工場内を照らしています。
横幅は15mほど、縦幅はかなりあるようです。あちこちに無造作に置かれたダンボール、棚、テーブル、そして箱詰めをする機械などがあり、遠くまでの見通しは利きません。
「暗くてよく見えないよ」
ボコちゃんは目を凝らしています。
「明るい外からいきなり入ったからにゃ。しばらく目を慣らすにゃ」
ネコ田さんがアドバイスします。
とはいえ、ネコであるネコ田さんと、ぬいぐるみでありながらいちおうネコのネコリンに比べたら、ボコちゃんは暗さに弱いはずです。
ガガガガ……
遠くから音が聞こえてきました。
「来たにゃん」
ネコリンが言って、横に移動しました。
「一つのバリケードに固まるのはよくないにゃ」
ネコ田さんは右に移動し、となりのバリケード、積み上げられたプラスチックの箱の後ろに移動しました。
ゥィパンッ☆パンッ☆
正面から緑の光の弾がネコ田さんに向かって飛んできます。
ネコ田さんはしっかりとバリケードの影に隠れているため、当たりはしません。
ガシャバンッ☆ガシャバンッ☆
ネコ田さんがバリケードの横から顔を出して反撃します。
カシャッ☆
ネコリンは南部14年式の後部を引きました。メインスプリングの圧縮です。
しかしまだ打ちません。
ダンボールの脇から顔を出し、銃を構えました。
正面、10メートル弱の位置に敵の姿が見えます。
女の子のデザインのロボット。
ロボットは手にサイレンサー型発光装置の付いた電動ブローバックハンドガンを持っていました。対象年齢10歳以上の。
ゥィパンッ☆パンッ☆パンッ☆
ネコ田さんに攻撃を仕掛けている敵に、ネコリンはフロントサイト、リアサイトを合わせます。
パンッ☆
落ち着いてトリガーを引きました。
カチンッ☆
弾はロボットの固いボディを捉えました。
「ヒット!」
コンピューターボイスでヒットコールをし、ロボットは動かなくなりました。
「すごいにゃ、一発だにゃ」
右側のバリケードから、ネコ田さんがネコリンに言いました。
「えへへ〜。焦らずに狙って撃てばあたるにゃん」
ガガガガ……
「また来てるにゃん」
「今度は一匹じゃないみたいだにゃ」
ネコリンは正面を見ました。
4体のロボットのシルエットを確認しました。
ゥィパンッ☆ゥィパンッ☆
緑に光る弾が飛んできました。
すかさず体を積み上げられたダンボールの影に隠します。
敵の放った一発はダンボールに弾かれました。
もう一発はダンボールの横を抜け、ネコリン後ろの壁で跳ね返りました。
「インドアじゃ後ろに壁を置いたらダメにゃ!跳弾が当たるにゃ!」
ネコ田さんが左側のネコリンに向かって叫びました。
「了解にゃんっ!」
ネコリンは右側にいるネコ田さんとは反対側、左側に移動し、積み上げられたプラスチックの箱の影へと走り込みます。
ゥィパンッ☆ゥィパンッ☆ゥィパンッ☆ゥィパンッ☆
敵の攻撃がネコリンを襲います。
「そうはさせないにゃ!」
ネコ田さんがネコリンに攻撃を仕掛けている敵にむかって撃ちました。
「ヒット!」
コンピューターボイスのヒットコールをあげ、一匹が作動停止しました。
他の敵もネコリンへの攻撃をやめ、バリケードの影へと隠れます。
その間にネコリンはバリケードの後ろへと駆け込みました。
「やっぱりネコ田さんはサバゲ経験豊富にゃん」
バリケードの影で南部14年式を構えながらネコリンが感心したように呟きました。
サバゲの経験で言えばネコ田さんはネコリンよりも先輩です。
工場の横幅は15メートルほど、その中央より右よりにネコ田さん。
中央より左よりにネコリンがつき、中央のやや後ろ側にボコちゃん、逆三角形の布陣になりました。
ゥィパンッ☆ゥィパンッ☆ゥィパンッ☆ゥィパンッ☆
ガシャバイーン☆ガシャバイーン☆ガシャバイーン☆
敵の光る弾とネコ田さんの光らない弾がフィールドを激しく飛び交います。
「10禁の銃の光る弾なら見てから隠れても間に合うにゃ。焦らずやるにゃ!」
「了解にゃん!」
普段使用している18禁止のエアガンの弾に比べ、10禁のエアガンの弾は遅く、また、発光弾のおかげで弾道が見やすくなっています。
そのため、相手が撃ってくるのを確認してからバリケードに隠れても敵弾を回避できます。
カンッ☆
ネコリンの南部14年式が甲高い音を立てました。
弾が切れてカラ撃ちになったのです。
「弾が切れたにゃんっ!」
その瞬間、バリケードのすぐ近く、反対側から敵のロボットが現れました。
ネコリンとの距離は1メートルほど。
「にゃんっ!?」
ギギギ……
ロボットの持つハンドガンの銃口がネコリンに向きます。
ゥィパンッ☆
「ヒット!」
コンピューターボイスの声が上がりました。
ネコリンの目の前でロボットの動きが止まります。
「にゃんっ!?」
ネコリンが右後方を見ると、そこにはSP2340を両手で構えたボコちゃんがいました。
数日前、ネコリンが教え込んだように、両手で銃を保持し、しっかりと狙いをさだめて構えているボコちゃんが。
今日までの空いていた2日間、ボコちゃんもやはり練習をしてきたのでしょう。
「覚えが速い子供にゃん」
ネコリンは嬉しそうに言い、一つ後ろのバリケードへと後退しました。
そして、バリケードの後ろで南部のマガジンを抜きました。ジッパー付きのウエストポーチから弾を取りだし、南部のマガジンを流し込んでいきます。
マガジンに最後まで弾を入れると、マガジンを南部のグリップへと入れます。
マガジンスプリングの開放されるパチンという音を響かせ、装填が完了しました。
ガシャバイーン☆
「ヒット」
ネコリンが弾を補充している間にネコ田さんがさらに敵の一体を倒しました。
ネコ田さんのMPLは装弾数が南部の倍以上あるため、給弾無しでも戦闘を続けられています。
これで残りは一体だけ。
ゥィパンッ☆ゥィパンッ☆ゥィパンッ☆
最後の一体がネコ田さんに向けて攻撃をしかけます。
しかし、ネコリンが別角度から銃口を向けます。
相手が一体になった事で容易に多方向からの攻撃ができるようになりました。
パンッ☆
「ヒット」
やってきた4体全ての動きが止まりました。
「これで最初に倒したのとあわせて5体倒したにゃん」
「案外楽勝かもにゃ」
ネコ田さんはMPLのマガジンを抜くと、新しいマガジンに差し替えました。
今外したマガジンには、ポケットから小さめのBBローダーを取りだして弾を流し込みます。
「でもまだまだだよ」
ボコちゃんが言いました。
「ロボットはもっとたくさんいるんだ。何十も……」
「にゃ、そんなにいるのかにゃっ」
驚くネコ田さん。
「でもきっと大丈夫にゃん。今の戦いを続けられれば」
「そ、そうだにゃ……」
ネコ田さんはやや自信なさげです。
「行くにゃん」
言って、ネコリンが慎重に前進していきます。
その後にネコ田さん、ボコちゃんの順番で続きます。
「ちょっと待つにゃ」
後ろからネコリンを呼び止めるネコ田さん。
「どうしたにゃん?」
ネコリンは立ち止まって後ろを見ました。
「振り返らなくていいにゃ。前を見たまま聞くにゃ」
その言葉を聞いて前方に顔を戻すネコリン。
そのネコリンにネコ田さんは後ろから話を続けます。
「何か発射音があったらすぐ伏せるにゃ。発射音と同時にしゃがめば最初の一発から逃げられるかもしれないにゃ」
「了解にゃん」
ネコリンは前を向いたまま返答しました。
「不安なら俺が先に行くにゃ」
ネコ田さんの提案。
「大丈夫にゃん」
ネコリンはそう言って、再びゆっくりと前進していきました。
「本当に大丈夫かにゃ〜」
MPLを構えながら、ネコ田さんはネコリンの後をついていきます。
工場を奥に進んでいくと、壁が見えてきました。
「なんだにゃ、もう終わりかにゃ?」
20メートルほど先の壁を見ながらネコ田さんが呆気にとられたように言いました。
「違うよ。この工場エリアを突破しても、まだ先があるんだ」
後ろからボコちゃんが答えました。
「扉が見えるにゃん」
前方からはネコリン。
ガガガ……
「来たにゃん」
扉の左右から2体ずつ、合計4体のロボットが動き出してきました。
「扉を守ってるってところにゃん」
ネコリンは左に寄り、壁際に置かれたロッカーの壁へと隠れました。
壁際のバリケードは動きが妨げられる反面、警戒角度が少なくてすみます。
ネコリンが左端についたことで、ネコ田さんはそれより右側やや後方、左右位置でいうと真ん中位置ほどにつきました。
ボコちゃんはネコ田さんよりもやや左に移動します。
ゥィパンッ☆
やはり緑に光る弾が飛んできました。
「当たらないようにするにゃ」
ネコ田さんがボコちゃん、ネコリンに声をかけます。
「分かったにゃんっ」
左前方からネコリンの返答。
ガシャバイーン☆ガシャバイーン☆カンッ☆
ネコ田さんの攻撃が、ネコリンに向かって不用意に前進してきた敵の側面を捉えました。
「ヒット!」
ロボットがヒットコールをあげて作動を止めました。
「やっぱりロボットは頭が悪いみたいだにゃ」
ネコ田さんが言った通り、一般のサバイバルゲーマーよりも、このロボットたちは弱いようです。
さらにネコ田さんの正面に2体のロボットが向かってきました。
「来たにゃ」
ガシャバイーン☆ガシャバイーン☆
ゥィパンッ☆ゥィパンッ☆ゥィパンッ☆ゥィパンッ☆
ネコ田さんの攻撃が敵に襲いかかります。
しかし、敵も反撃しながら手近なバリケードの影に隠れました。
ネコ田さんにも敵の放った緑の発光弾が飛んできます。
ネコ田さんはバリケードの棚の影へと隠れました。
パンッ☆
「ヒット!」
ネコ田さんに正面から攻撃をしかけていた敵を、ネコリンが側面から仕留めました。
「ネコリンもなかなかやるにゃ〜」
ネコ田さんがバリケードから顔を出して反撃しようとしたその時。
「敵!右だよ!」
ボコちゃんが叫びました。
「にゃっ!」
とっさにバリケードに隠れるネコ田さん。
ゥィパンッ☆
同時に緑の弾が右方向から襲いかかり、ネコ田さんのすぐ脇を抜けていきました。
ネコ田さんの正面に敵、そして右側にも敵。これではバリケードに完全に隠れる事は不可能です。
ネコ田さんはバリケードに隠れ続けず、立ち上がって走り出しました。
後方へと。
二方向から攻撃を受けた場合、無理せず後退したほうが安全なためです。
ゥィパンッ☆ゥィパンッ☆ゥィパンッ☆
ネコ田さんに敵の攻撃が襲いかかります。
しかし弾速の遅い10禁の銃、そしてバリケードがあちこちにあるこのフィールドを素早く走るネコ田さんをとらえる事は出来ません。
パンッ☆
「ヒット!」
ネコリンがネコ田さんの前方にいた敵を倒しました。
「あと一体にゃんっ!」
ネコリンがバリケードから出て前進します。別なバリケードに張り付きました。
最後の一体、ネコ田さんの右側から周りこもうとしていたロボットがネコリンに向きます。
ゥィパンッ☆ゥィパンッ☆
バシッバシッ☆
ネコリンの隠れているバリケードが緑の発光弾を弾きました。
「ネコ田さん、頼むにゃんっ!」
バリケードの後ろで叫ぶネコリン。
バイーン☆ガシャバイーン☆
「ヒット!」
再び前進してきたネコ田さんが敵を仕留めましたにゃ。
「倒したにゃ!」
喜ぶネコ田さん。
ネコリンはバリケードに隠れたまま、慎重に周囲をうかがいます。
まだ隠れている敵がいないかどうか。
気配はありませんでした。
「いないかにゃん……」
ネコリンたちは慎重に扉の前まで前進しました。
金属製の扉。
「これでこのエリアは終わったよ」
ボコちゃんが言いました。
「まだ先はあるのかにゃん」
第7話:見捨てられたにゃっ
青い帽子の男の子、ボコちゃんの頼みを受け、ボコちゃんと食品工場に突入したネコ田さんとネコリン。
多くの防衛ロボットを倒し、最初のエリアである工場エリアを突破した3人ですが、まだ先はありました。
がちゃり。
ネコリンが扉を開けます。
ゆっくり、少しずつ扉を開け、向こう側を覗いていきます。
扉の先は廊下でした。
工場ではなく、オフィスの廊下。
「なるほどにゃん。工場エリアの次はオフィスエリアかにゃん」
3人は扉を抜け、長い廊下に出ました。
廊下の長さは30メートルほどで、突き当たりに扉が見えました。
途中、左右にもいくつかの扉があります。。
また、廊下に入ってすぐの場所、右側には上り階段。そして、廊下の終わり部分の場所も右に行けるようで、おそらく上り階段があるようです。
「とりあえず突き当たりまで行ってみるにゃ」
3人は廊下を歩き、その突き当たりの扉まで着きました。
途中、左右の扉は全て閉まった状態。
何事もなく扉にたどり着きました。
「開くかにゃ」
ネコ田さんがドアノブを掴んで回してみました。
しかしドアノブが回りません。
「開かないにゃ」
ネコリンが扉の横にある機械に気づきました。
「これって何にゃん?」
「にゃ?」
ドアの右側には、何かの機械がありました。
カードを差し込むような場所があります。
「カードキーが無いと開かないよ」
ボコちゃんが答えました。
「カードにゃ?」
「うん」
「なるほどにゃん。カードキーを手にいれてからまたここに来ないといけないみたいにゃん」
その時。
ガガガガ……
後方から音がしました。
「にゃ?」
ガチャリ、ガチャリ。
ここまで来る途中の扉のいくつかが開きました。
そして中からはロボット。
確認できるだけで5、6体。さらにもっと出てきています。
「にゃにゃ。いっぱいでてきたにゃ!」
「ここじゃバリケードがないにゃん!」
ここは一本道の通路。そこをロボットたちが近づいてきます。
「階段に逃げるにゃん!」
横道にある階段に向かいました。
階段は上り階段しかありません。
ゥィパンッパンッパンッ☆
敵弾が3人に向かって飛んできます。
3人は無視して階段を駆け上りました。
踊り場でターンして2階に出ます。
2階も1階と似たような作りの廊下になっています。
やはり廊下の左右には扉が並んでいます。
ここからの上り階段は無く、この2階が最上階になるようです。
「あの足だと階段は上ってこれそうにないにゃん」
ネコリンは階段の下を見ながら安心して言いました。
ロボットは足が動きません。
位置的に確認できませんが、足の下にある車輪か何かで動いているのでしょう。そうだとすると階段を上ってくる事は不可能と考えられます。
実際、下の階からロボットの移動音はするものの、階段を上ってくる気配は有りません。おそらく階段の下で立ち往生してるのでしょう。
「助かったにゃ。かなりいたからにゃぁ」
「どうするにゃん?下には戻れそうにないにゃん」
1階に下りたら、あの大量のロボットから集中攻撃を受けるのは明白です。
「とりあえずこの階から調べるにゃ」
そう言って、ネコ田さんは近くの扉に近寄りました。
扉の前に立ち、ワルサーMPLを構えます。
左手でドアノブを掴み、慎重に回しました。
がちゃり……
少しずつドアを開け、中の様子を伺っていきます。
その様子を、ネコリンとボコちゃんが見守ります。
部屋の中には誰もおらず、普通の事務室でした。
5メートル四方ほどの広さ。
事務机が8つ置かれていて、電話、ファックス、コピー機、棚などがあります。
「普通の会社って感じだにゃ」
入り口とは反対側には窓があり、外の風景が見えます。
「どこかにカードキーが無いかにゃ」
ネコ田さんは机に近寄り、引き出しを開けました。
「ネコリンも頼むにゃ。あ、ボコちゃんは廊下で外を見ててにゃ。一人は警戒してないと危ないにゃ」
「分かったにゃん」
「うん」
ボコちゃんは部屋の入り口で顔を出し、廊下の左右の警戒にあたりました。
ネコリンは棚をあさっていきます。
「ないにゃぁ」
「ないにゃん」
出てくるのは書類などばかり、まるで普通の会社です。
しばらく事務室の中をあさり……
「ダメにゃ、それっぽい物は見つからないにゃ……」
「こっちもダメにゃん」
引き出し、棚、全て探してみましたが、カードキーらしき物は出てきませんでした。
しかし、2階だけでも他にいくつかの部屋があるのを確認しています。
「他の部屋行くかにゃ」
3人は部屋を出ました。
廊下には左右合わせて5つの部屋が見えます
右側に3つ、左側に2つ。
ネコ田さんたちは次の部屋の扉を開けました。
この部屋も、やはり誰もいません。部屋の中身も先ほどの部屋同様に普通の事務室。
ネコ田さんたちは再び手分けして部屋の中をあさりました。
「あったにゃ!」
机の引き出しから、ネコ田さんが一枚のカードを見つけました。
ネコリン、ボコちゃんがネコ田さんのほうに集まります。
「きっとこれにゃ〜」
ネコ田さんが自慢げにカードを掲げて見せました。
「それっぽいにゃん」
「たぶんそうだね」
その時……
ピピピピピピ♪
ピピピピピピ♪
机の上の電話が鳴りました。
「電話にゃん」
電話の方を見てネコリンが言いました。
「受け取ってみるにゃ」
ネコ田さんが受話器を取りました。
「ネコ田にゃ」
自分の電話でも無いのに、普段の電話のように名乗るネコ田さん。
「オフィスまで行けたみたいね」
電話の向こうから聞こえてきた声は、小学生ほどだと思われる女の子の物でした。
「誰にゃ!?ベコちゃんかにゃ?」
「そう、あたしがベコちゃんよ。ネコ田さん」
「な、なんで俺の名前を知ってるにゃ!?」
さっき自ら名乗った事も忘れてるネコ田さんでした。
「あなた達はあたしの所までは来れない。ボコちゃんはあたしの邪魔をしたいみたいだけど」
「何言ってるにゃ。この俺を誰だと思ってるにゃ?俺はサバニポカップ準優勝チームのチームリーダーのネコ田様だにゃ」
ネコ田さんが言ってる事には若干の誇張が入っているようです。
「楽しみにしてる」
がちゃ。ぷー……ぷー……
電話が切れました。
「ベコちゃんからだよね?」
ボコちゃんの問いかけ。というより確認。
「だにゃ。どうせ自分のとこまではやってこれないだろう……だってにゃ」
「でも困ったにゃん。カードキーは手にいれたけどにゃん」
不安そうなネコリン。
「なんでにゃ?」
「カードキーを使うのは一階にゃん。さっき見たにゃん?一階にはロボットが大勢いるにゃん。これじゃ降りられないにゃん」
「にゃ……」
固まるネコ田さん。
「少なくても10体以上……たぶん20体ぐらいのロボットがいたにゃん……」
「なんとかしないと」
「危険だけど囮作戦でもするにゃん?」
ネコリンが提案しました。しかし、言い出したネコリン自身も不安を抱えたような言い方。
「囮にゃ?」
「にゃん。一階から二階に上がる階段は二カ所あったにゃん。一つはこのオフィスエリアに入ってすぐの右側にゃん。もう一つは廊下の最後、カードキーで開ける扉の近くの右側にゃん」
「だにゃ」
「さっきはカードキーの扉のすぐ近くの階段から上がってきたけど、その反対側の階段から下りるように見せかけるにゃん」
「で、敵がいっぱいやってくるようにするのかにゃ?」
「そうにゃん。その隙に反対側、カードキーの扉と、その付近の階段が手薄になるかもしれないにゃん。そこが空いてれば、階段を下りてすぐに扉を開けて駆け込めば逃げ切れるかもしれないにゃん」
「危ないにゃ〜」
「でも他に方法が無いにゃん」
「手前の階段から撃ち合った後、二階を走って奥の階段、カードキーに近い階段を下りるんでしょ?」
ボコちゃんの質問。
「そうだにゃん」
「二階を走っているうちにロボットの配置が戻るかもしれないよ……」
下を向きながらボコちゃんが言いました。
「そうだにゃん……」
「俺が手前階段で最後まで撃ち合ってるにゃ」
「最後までにゃん?」
「だにゃ。二人は先に二階を走って奥階段まで行っていいにゃ」
「ネコ田さんはどうするにゃん?」
「隙を見て俺も二階を走って奥階段から下りるにゃ」
「じゃあ決まりにゃん」
3人は先ほど上がってきた階段とは反対側の階段まで歩きました。
廊下の横には下り階段。
踊り場で折り返しており、二階からではその先の様子は分かりません。
3人は顔を合わせて、ゆっくりと階段を下りていきました。
それぞれの銃口を階段下に合わせながら、ゆっくりと、静かに。
踊り場でターンする場所で、一階にロボットの姿が見えました。
バイーン☆カチン☆
ネコ田さんの放ったショットがロボットの側面をとらえました。
「ヒット!」
ロボットの一台が作動を停止します。
ぅぃーん……ぅぃーん……
下の階が騒がしくなりました。
今の一発に気づいて他のロボットが移動してきているのでしょう。
さらにロボットの姿が見えてきました。
案の定、こちらに気づいているようです。
その数、2台、3台……と増えていきます。
もっとも狭い廊下ですから、渋滞に近いように混雑しています。
ぅぃぱんっ☆ぅぃぱんっ☆
下の階からの発砲が来ました。
三人は踊り場を曲がった場所へと隠れ、敵弾を回避します。
「俺はしばらくここで撃ち合うにゃ。先に行って扉を開けるにゃ!」
ネコ田さんが言いました。
「わかったにゃん!」
踊り場から二階へと階段を駆け上がるネコリン、ボコちゃんもそれに続きます。
二階に上ったネコリンは、廊下を駆け抜けます。
先ほどとは反対側の階段に達すると、下の様子を確認し、銃口を構えながら慎重に降りていきました。
案の定、ロボットの姿は一つもありません。
「しめたにゃん……」
踊り場を越え、完全に一階へと下りました。
階段を下りてすぐ右にはカードキーを使うであろう扉。
左には廊下が延びていおり、その先にはロボットの大軍の背中が見えました。
やはりもう一つの階段のほうに全てのロボットが向かっているようです。
「今にゃん」
ネコリンは扉の横にあるカード読みとり装置に先ほど手にいれたカードを通しました。
ピーーーーーーーーー☆がちゃっ☆
大きな音に続いて、鍵が開いたような音がしました。
ネコリンが扉を開けました。やはり鍵が開いており、扉が開きました。
すぐに扉をくぐるネコリンとボコちゃん。
しかし、廊下の先からはロボットがこちらに向かって移動してきているのが見えました。
「扉を開けた音が気づかれたにゃんっ!」
扉を越えた位置で、ネコリンとボコちゃんは左右に張り付きました。
「撃つにゃん!」
「わ、分かった!」
パンッ☆ゥィパンッ☆ゥィパンッ☆
パンッ☆ゥィパンッ☆ゥィパンッ☆
扉の影に猛烈に連射する二人。
「ヒット!」
ロボットをヒットさせました。
しかし、次々とロボットがこちらに向かってきます。
「キリがないにゃんっ!」
「ネコ田さん、早く来てにゃんっ!!」
一方、ネコ田さんも一階のロボットの動きに異変を感じました。
先ほどまでは全ての敵がネコ田さんに向かって攻撃を仕掛けてきていたのですが、敵が別方向へと動いていくようになったのです。
「扉を開いたにゃっ!」
ネコ田さんは踊り場から撃ち合うのをやめました。
二階に上がり、廊下を全力で駆けました。
ゥィカンッ☆
「弾が切れたよっ!」
ボコちゃんのSP2340の発射音が変化しました。
「にゃんっ!」
カンッ☆
ネコリンの南部も、弾切れの発射音になりました。
「こっちもにゃんっ!」
目のまえには作動停止したロボットが5体。
しかし、10体以上の動くロボットがこちらに向かってきていました。
「ど、どうするの!?」
慌てふためくボコちゃん。
「し、しかたないにゃん!ネコ田さん、ごめんにゃんっ!」
ばたんっ☆
扉が閉められました。
ネコリンの手によって。
「にゃっ!やっとたどり着いたにゃっ!」
奥の階段を降りたネコ田さん。
急いで扉を開けようてしますが……
開きません。
「にゃっ!!?開かないにゃっ!?」
ドアノブを掴み、壁に足をかけて思いっきり引っ張ります。
しかし開きません。
「にゃにゃっ!?見捨てられたにゃっ!?」
ふと後ろに気配を感じ、振り返ると……
10体以上のロボットの群れ。
「にゃぁぁぁっ!!」
第8話:ママの味
「にゃっ!やっとたどり着いたにゃっ!」
奥の階段を降りたネコ田さん。
急いで扉を開けようてしますが……
開きません。
「にゃっ!!?開かないにゃっ!?」
ドアノブを掴み、壁に足をかけて思いっきり引っ張ります。
しかし開きません。
「にゃにゃっ!?見捨てられたにゃっ!?」
ふと後ろに気配を感じ、を振り返ると……
10体以上のロボットの群れ。
「にゃぁぁぁっ!!」
「ヒットにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
閉まった扉の向こうから、ネコ田さんのヒットコールが聞こえました。
ネコリンとボコちゃんの前にあったのは下り階段でした。
今いる場所は一階。
つまりこの階段は地下へと降りていくようです。
階段の奥は明かりが少なく、薄暗くなっています。
二人はそれぞれの銃のマガジンを取り出し、弾を詰め始めました。
「行くにゃん」
慎重に階段を下りていきました。
しばらく階段を下りると、部屋に出ました。
横幅、奥行きともに10メートルほどの部屋。
部屋のあちこちにはダンボールが積み上げられています。
地下の倉庫なのでしょうか。
「何のダンボールかにゃん?」
ネコリンがダンボールの一つを見てみました。
箱には『賞味期限切れ牛乳10リットル』と書かれていました。
「何にゃん?これ」
ボコちゃんに聞きました。
「材料だよ」
あっさりと答えるボコちゃん。
「材料にゃん?」
ネコリンはまた別のダンボールを見てみました。
そのダンボールには『鹿の糞8kg』と書かれていました。
さらにその横の箱には『ゲジゲジ10kg』
「食品工場だからね。いろんな材料があるんだよ」
「なるほどにゃん」
引きつった顔で納得するネコリン。
さらに他の箱も見てみたいという衝動と、見てみたくないという衝動の両方にかられました。
部屋の反対側には扉がありました。
二人は扉の前までやってきます。
「開けるにゃん」
「うん」
ギギギギギ……
ゆっくりと扉を開けました。
そこは薄暗い明かりのある部屋でした。
15メートル四方ほどの部屋。天井は高く、鉄骨で組み上げられたキャットウォークと呼ばれる中二階の廊下が張り巡らされています。
「ここは……にゃ……にゃん?……何か聞こえてくるにゃん」
「……ミルキーは……ママの味……ミルキーは……ママの味……ミルキーは……」
ぶつぶつと呟くような声が聞こえてきます。
「……ベコちゃんの声だよ」
小声でボコちゃんが言いました。
「近いにゃん……」
二人は低い姿勢で、積み上げられた荷物や棚に身を隠しながら静かに進んでいきます。
部屋の中央付近に大きな鍋がありました。
直径は1メートルをゆうに越える、業務用の大きな鍋です。
その前で踏み台に乗っている女の子の後ろ姿が見えました。
女の子は、長い棒で鍋の中をかき混ぜているようです。
「……ミルキーは……ママの味…………誰っ!?」
女の子が振り返りました。
舌を出した女の子。
今までさんざんみてきたロボットにとてもよく似た女の子です。この女の子があのロボットたちのモデルになっている事は一目で分かりました。
その表情は暗く、まるで何かにとりつかれたような恐ろしい目をしていました。
「……ボコちゃん……」
女の子はボコちゃんの名を呼びました。
「うん……来たよ。ベコちゃんを止めにここまで来たよ」
「……まだ言ってるの?あたしを止めるなんて」
「うん。だってベコちゃんはいけないことをしようとしてるから。だから!」
ベコちゃんはクビを横に振りました。
「ううん、違う。違うよ。しようとしてるんじゃないもん」
「……えっ?」
ベコちゃんは鍋の中に視線を落とし……
「もうしたもん」
ベコちゃんは踏み台から降りると、近くの棚からゴーグルを手にとり、装備しました。
そして、その棚からもう一つ何かを手にとりました。
「隠れるにゃんっ!!」
ネコリンが叫んでとっさに近くの調理器具の影に隠れました。
ボコちゃんもそれに続きます。
パパパ☆
ベコちゃんが撃ってきました。
「電動ボーイズのMP5にゃん。10禁の中では最強クラスのウェポンにゃん」
「ぇぇぇ!?」
「……ミルキーはママの味、そうでしょ……?ママの味じゃないといけないでしょ……」
不気味に呟きながら、一歩一歩ベコちゃんが近寄ってきます。
「あたしが撃ち合うから、ボコちゃんは見つからないように後ろをとって。速くするにゃんっ!」
「うん、分かった!」
ボコちゃんは調理器具の影を姿勢を低くして移動していきました。
同時にネコリンは隠れていた調理器具から飛び出しました。
パンッ☆パパパパパンッ☆
ネコリンの攻撃もハズレ、ベコちゃんの攻撃もネコリンの少し後方を過ぎていきます。
ネコリンは近くの棚の影へと飛び込み、コッキングをしました。
「ここまで来て負けてられないにゃんっ!」
ネコリンは棚の横に顔を出して様子を見ます。
ベコちゃんがさらに近づいてきていました。
パパパパパパンッ☆
発射音と同時に咄嗟に隠れるネコリン。
「接近してきたにゃん。接近戦は不利にゃんっ」
走って逃げて距離をとるネコリン。
それを見たベコちゃんが撃ちながら追いかけてきます。
パパパパパパパパパパ☆
「逃がさない。逃がさない!あたしの邪魔をする奴なんて許さないもん!」
追ってくるベコちゃん。子供とはいえ、狂気に支配されたようなその表情は恐ろしさを漂わせます。
ネコリンは近くにあった階段を上りました。
鉄板の階段がカンカンカンという足音を響かせます。
階段を上りきり、鉄骨で組み上げられた中二階へと出ました。
幅は1メートルほどの廊下。その両側には鉄製の手すり。
高い場所なのでこの部屋全体が広く見渡せます。
パパパパパパパパパパ☆
後ろからベコちゃんが階段を駆け上がってきました。
ネコリンはさらに逃げ出します。
「……ここならどこからでも見通しが聞くから、きっとボコちゃんが狙撃できるはずにゃんっ」
通路を逃げるネコリン、そして、それを追いかけるベコちゃん。
その二人を姿にボコちゃんが気づき、見上げました。
「上?」
ゥィパンッ☆ゥィパンッ☆
ボコちゃんがベコちゃんに向かって撃ちあげるように発砲します。
しかし、高速で走っているベコちゃんに当てる事はなかなか出来ません。
「止まってくれないと!」
ボコちゃんも二人を追いかけるように一階を走りました。
「ボコちゃんは何してるにゃんっ!」
中二階を必死に逃げるネコリン。
その後ろを狂気に満ちた表情でベコちゃんが追いかけてきます。
パパパパカカカカ☆
ベコちゃんの発射音が変わりました。
弾が切れたようです。
「にゃんっ!?」
ネコリンは振り返りました。
「チャンスにゃん!」
ネコリンが南部をベコちゃんに向けようとしたその瞬間。
がしっ☆
ベコちゃんの両腕がネコリンの首を掴みました。
バタンッ☆
ネコリンは仰向けに倒されてしまいました。
ベコちゃんはネコリンの上に馬乗りになり、ネコリンの首を両手で押さえ込んでいます。
カラン☆
ネコリンの手から南部が離れ、廊下の床に落ちました。
「離すにゃんっ!サバゲで肉弾戦は反則にゃんっ!」
必死にもがくネコリン。
しかしベコちゃんの力は小学生の女の子とは強く、それに加えて非力で小柄なネコリンでは、振り払う事ができません。
ベコちゃんはネコリンを廊下の横の方に押し込んでいきます。
ネコリンが頭の下に何も無くなったのに気づきました。
鉄骨の廊下の横、手すりの下から頭が出てしまったのです。
さらに、下から熱気を感じました。
ふと下を見ると、そこには大きな鍋がグツグツとにだっています。
「ミルキーはママの味……でも今思い付いたの。ネコの味もいれようって……」
「にゃんっ!?」
2メートルほど下にある鍋の中にあるのは、まるで血のような赤い液体。これがキャンディーの原液となるのでしょうか。
「今日からミルキーにはママの味だけじゃなくてネコの味も追加されるの。もう他の企業はマネできない……絶対にマネできない……」
「ネコじゃないにゃん!ぬいぐるみにゃん!絶対おいしくないにゃん!むしろ消費者から異物が入ってたってクレームくるにゃんっ!」
必死に叫ぶネコリン。しかしベコちゃんは聞き入れようとはしません。
さらに力を入れ、ネコリンを廊下から落とそうとします。
必死に抵抗するネコリン、しかしその体はじょじょに廊下横へと押し込まれていきました。
「にゃっ!にゃんっ!!」
下を見ながら必死にもがくネコリン。しかしベコちゃんは力を緩めません。
「大丈夫……あなたはもう死ぬのよ……ここで。そしてミルキーになるのよ……ママのように……」
ネコリンの首を両手で絞めたまま、薄気味悪い笑みを浮かべるベコちゃん。
「……こんな所で……あたしはまだ……まだ……」
ゥィパンッ☆
「……えっ!?ヒット……?」
ベコちゃんはネコリンを手放し、後ろを振り向きました。
ベコちゃんの背後には、SP2340を両手で構えているボコちゃんがいました。
一階からの狙撃をあきらめ、二人を追いかけて中二階に昇ってきていたのです。
「……ボコちゃん……」
ベコちゃんの手がネコリンの首から放れました。
「僕の勝ちだよ。だから……だからもうやめてよ!ベコちゃん」
「負けた……このあたしが……ボコちゃんに……」
ベコちゃんは力が抜けたようにその場に崩れ落ちました。
orz ガクッ
そんなベコちゃんに、ボコちゃんはゆっくりと歩み寄り。
「もう、やっちゃったんだね……?」
穏やかに語りかけるボコちゃん。
「……うん」
ベコちゃんの目から涙があふれ出しました。
「……だって、だって。そうするしかなかったもん。うちは違法行為がバレて……もう落ちる所まで落ちたもん。もうそれしか……他のお店が出せない味を出すしかなかったもん……そうしないと……そうしないと……」
涙は止まらず、頬を伝い床に落ちました。
「もうママもいない。あたしは、あたしはどうすれば……どうすれば……」
ベコちゃんは声を出して泣き出してしまいました。
ボコちゃんはベコちゃんの背中に手を置き、
「大丈夫だよ。きっと……僕も一緒に頑張るから、ずっと……」
赤く染まった空の下。
二人のネコが歩いていました。
工場での激闘を終えて、帰路についたネコ田さんとネコリンです。
「あの二人、仲がいいみたいだったにゃん」
横を歩くネコ田さんをやや見上げ気味に、ネコリンが言いました。
「にゃ〜」
「将来は結婚して二人で一緒に会社立て直すんだってにゃん」
「最近のガキんちょは、ませてるにゃ〜」
「ネコ田さんはあのぐらいの歳の時、誰か好きな人いなかったにゃん?」
「ん〜……」
ネコ田さんは立ち止まって空を見上げると……ちょっと時間を置いて答えました。
「いなかったことはないにゃ〜」
「へ〜、どんな人だったにゃん?」
「にゃ、おまえには関係ないにゃ」
そっぽを向くネコ田さん。
「今も会うにゃん?」
「にゃ、もう会わないにゃ。引っ越しちゃったしにゃ。それに最後の日に、ちょっとモメてにゃ……大泣きさせてそれっきりにゃ」
「泣かせちゃったにゃん?」
「そうだにゃ〜、今思えば馬鹿だったにゃぁ」
「今も変わらず馬鹿にゃん。それより、もっと磨きがかかってるにゃん」
「おまえに言われたくないにゃ〜!そもそもあの時おまえがいなかったらにゃぁぁ!!」
怒った表情のネコ田さんが腕を振り上げました。
そのの指から鋭いツメが飛び出しています。
「冗談にゃ〜ん」
ネコリンは両手で頭を覆い、かなり脅え気味です。
ネコ田さんは、振り上げた腕を下ろし、夕焼けで赤くそまった空を見上げました……
そして……
「あれからもう10年だにゃぁ……元気でやってるかにゃぁ……」
悲しげに呟きました。
−−−もしかするとさらに続くかもしれない−−−
あまりにあきれたのでメッセージを送ってみる。