サバゲニッポン昔話・第二部


第1話:えへへ〜


「正面、20メートル!」
 叫びながらブッシュに潜ったのはトカゲでした。
 ただのトカゲではありません。
 首の回りにエリマキのついているトカゲ。
 エリマキトカゲです。

 バララララララララ☆

 そのエリマキトカゲに向かってフルオートでBB弾が飛んできます。
 しかしブッシュの後ろで姿勢を低くしているエリマキトカゲさんには到達しません。
 弾はエリマキトカゲの頭上を越え、森の中に消えていきました。
 エリマキトカゲさんは目を左右に動かしました。
 左右の状況を確認。
 右側5メートルの所にある木を見つけると、そこに向かって低い姿勢のまま素早く移動しました。
「動いてなければ、次で……」
 エリマキトカゲさんは右手にもっている曲線的なブルパップ式のアサルトライフルを正面に向け、構えると、そのままじょじょに姿勢を高くしていきます。
 木のすぐ横から姿勢を高くしていき、ブッシュの上にでたところでトリガーを引きました。

 バラララララ☆

「ヒット!」
 正面から敵の声が聞こえました。


「また一人倒したにゃ」
 森の中、右前方向を見ながら、ネコさんが言いました。
 MP5A5サブマシンガンを構えたネコさん。
 どこにでもいそうな雑種のネコさんです。
「エリーちゃんは遊撃でもなかなかやれるぴょん」
 ネコさんの左、3メートルほどの位置から白いウサギさんが言いました。
 ウサギさんはサブマシンガンやアサルトライフルといった大きな銃を持っていません。
 右手に小型の拳銃を持っています。
「僕たちも前進するぴょん。エリーちゃんだけに頼ってられないぴょん」
「そうだにゃ……これじゃまるでエリーが遊撃じゃなくて一人で本隊やってるみたいだからにゃ」
 左のウサギさんがブッシュをかき分け、慎重に前進していきます。
 それを見たネコさんも、同じように前進していきます。
 そのネコさんの後ろ、やはりネコさんが後を付いていきました。
 しかし、こちらのネコさんはどうも様子が違います。
 よく見ると縫い目があり、等身大のぬいぐるみのようです。
 といっても、まるで生きているように動いていました。
 このぬいぐるみネコさんが持っているのは拳銃。

「……いたぴょん」
 ウサギさんが前方、30メートルほどの位置に敵を発見しました。
 さらにその付近には、森の中の木の枝につるされた赤い布。敵フラッグが見えます。
 ウサギさんは左手で前方を指さしました。
 右側にいたネコさんもそれに気づきます。
「僕は距離をつめるぴょん。援護おねがいぴょん」
 ウサギさんはネコさんと、その後ろの猫のぬいぐるみに聞こえるように言うと、低い姿勢を保ったまま、やや左から迂回するように静かに前進していきました。

「どういうことにゃん?」
 後ろの猫のぬいぐるみが、すぐ前にいるネコさんに聞きました。
「一人で距離を詰めるのはとても難しいにゃ。でも交戦状態の敵を倒すには、そんなに難しい事じゃないにゃ。俺達がもうちょっとだけ距離をつめて攻撃するにゃ〜」

 ネコさんは手近な木を見つけ、そこまで前進します。
 その後ろをぬいぐるみネコさんも付いていきます。
「同じ木に隠れるのはよくないにゃ。お前は隣の木にいくにゃ」
「うん、わかったにゃん」
 ぬいぐるみネコさんは、右のほうに移動していき、別な木の後ろに張り付きました。
「これでいいにゃ〜ん?」
 ぬいぐるみネコさんが本物のネコさんのほうに尋ねました。
「OKにゃ。撃つにゃ」
 そう言って、ネコさんは姿勢を上げ、そして木の横から顔を出します。
 前方、25メートルほどのブッシュに、不自然な黒っぽい固まりを見つけだし。

 パララララララ☆

 トリガーを引きました。
 サブマシンガンから白いBB弾が、フルオートの連射で敵に向かって飛んでいます。

 ブッシュへの着弾。
 ブッシュ内の黒っぽい固まりが動きました。

「見えたらおまえも撃つにゃ」

「はいにゃん」
 右からぬいぐるみの返答。

 パンッ☆パンッ☆パンッ☆

 そしてガスブローバックハンドガンの発射音。

 パラララララララララ☆

 本物のネコさんのほうも、またサブマシンガンを撃ちます。

 カササササササ☆

 ブッシュへの着弾音。

 そしてブッシュから敵が立ち上がりました。
 ブッシュから敵の上半身が見えます。

 パララララララララララララララララ☆

 敵の反撃とともに、ネコさんたちのほうに弾が飛んできました。

 カンカンカン☆
 バリケードにしてる木への着弾音。
「反撃がきたにゃ」
 ネコさんたち二人は木の後ろにしゃがみ込みました。


 両足と左手を地面に付き、低い姿勢でウサギさんが前進していました。
 周囲はブッシュ。
 正面からは断続的にフルオートの発射音が聞こえてきます。
 ウサギさんはブッシュの隙間から前方を見ました。
 ブッシュの中から立ち上がって攻撃している敵の姿。
 ブッシュから上半身全てが出ています。

「そんなに高い姿勢してたら危険ぴょん。顔と銃だけが出てたらねらえるぴょん」

 ウサギさんは、後ろのほうにあった左足を前のほうに引っ張り、代わりに左手を地面から離しました。
 右手のやや小さな拳銃を正面、ブッシュの隙間に持っていき、左手を添えます。
「当てれるぴょん……」
 リアサイト、フロントサイトを敵に重ねていきます。
「相手の攻撃中に撃てば見つからないはずぴょん……」

 パパパパパパパパ☆

「ヒット!」

 敵のヒットコールがありました。
 ウサギさんがトリガーに指をかける前に。


 ウサギさんとは反対方向。
 フィールド右側でスコープを覗いているのは、先ほどのエリマキトカゲさんでした。

 最後のディフェンスが撃たれ。1分後にウサギさんによってホイッスルが吹かれました。


「さすがサバニポカップの準優勝チームですね〜」
 ゲームが終了し、セフティゾーンには10人の姿。
 ネコさん、猫のぬいぐるみ、ウサギさん、エリマキトカゲさん、パンダさん。ここまでが一つのチーム。
 そしてもう一つのチームは、犬さん、ネコさん、鹿さん、狐さん、狸さん。

「じゃあ今日はこれで終わりね。片づける?」
 エリマキトカゲさんが赤く染まった空を見ながら言いました。
「そうしましょう。次のゲームをしたら暗くなっちゃいそうですし」
 相手チームの犬さんが答えました。
 10人は、それぞれ銃をレジャーシートの上に置き、装備品を外し始めました。
「どうだにゃ?楽しかったかにゃ?」
 先ほどサブマシンガンを使っていたネコさんが、ぬいぐるみのネコさんに尋ねました。
「楽しかったにゃん」
 ぬいぐるみネコさんは笑顔で答えました。
 ぬいぐるみネコさんは、使っていた拳銃、ベレッタM92Fからマガジンを抜くと、まだ残っていた弾をBBボトルに戻し始めます。
 それを見ながら、本物のネコさんが、
「まあ、ハンドガンじゃつらいよにゃ〜」
「ネコ田さんがそれ使って、MP5貸してあげればよかったのにね」
 エリマキトカゲさんがネコさんに言いました。
 この雑種ネコさんの名前はネコ田さんというようです。
「それはイヤにゃ〜。だいたいM92Fも俺のにゃ。そんな事言うぐらいならエリーのAUG貸せばいいにゃ」
「ダーメ。どうせこれじゃ重し、使いこなせないでしょ」
 エリーと呼ばれたエリマキトカゲさんが言いました。
「じゃあ僕のMC51と交換しようよ〜」
 パンダさんが、ゆっくりとした口調でエリーに提案しました。
「イヤ」
 エリーの短い返答。
「ひどいよ〜。だって僕のMC51当たんないんだもん〜。それに比べてエリーちゃんのAUGは当たりすぎだよ〜。おかしいよ〜」
 パンダが不満を漏らします。
「パン太は狙ってないから当たんないぴょん」
 ウサギさんがパンダさんに笑顔で言います。
「狙ってるよ〜」
 パン太と呼ばれたパンダさんが否定します。

「あ、ところで、クマさんがリーダーじゃなかったんですね」
 相手チームの犬さんが尋ねました。
「クマノフさんは失踪しちゃったにゃ」
 ネコ田さんが答えました。
「前回のサバニポカップでは大活躍してましたよね。クマさんが……そういえば二人いましたっけ?クマさん」
「二人ともきえちゃったぴょん。どこにいったのかは僕たちにもわからないぴょん」
「そうなんですか。残念ですね」
「ところでさっきから気になってたんですけど、そっちの方って……?」
 相手チームの鹿さんが、ネコのぬいぐるみを見て言いました。
「あ?あたし?今日初参加にゃん」
「そうじゃなくて……ぬいぐるみじゃないんですか?それとも着ぐるみ?」
「あ〜。ロボットだから気にしないで」
 ぬいぐるみネコさんが明るく答えます。
「だそうだにゃ」
 横でネコ田さんが呆れた様子で言いました。
「まるで生きてるみたいに動くんですね〜」
「うんうん、すごいでしょ」


 完全に日が暮れた道を歩く二人の姿がありました。
「で、結局何人か倒せたかにゃ?」
「うん、3人倒したにゃん。5回はアウトになってるけど〜」
「サバゲ、ほとんどやった事ないってわりには、よくやるにゃ〜。借り物のハンドガンで」
「えへへ〜。すごいでしょ」
 ぬいぐるみネコさんは照れたような笑顔で返します。
「自画自賛だにゃ」
 夜道、帰路につく二人のネコの姿がありました。
 正確にはネコ一匹。ぬいぐるみ一体。

第2話:メンテナンス

 部屋の中、二人のネコがいました。
 片方は普通の、どこにでもいるような雑種のネコ。
 もう一人は、縫い目があるネコ。どうやらネコのぬいぐるみのようです。

 ぬいぐるみのネコは、ハサミやガムテープ、タオルを使って、なにやら作業をしていました。
 ダンボール箱の中にタオルを張り付けて……
「できたにゃん」
 雑種のネコのほうを振り返りました。
 出来たというのは、箱の中にタオルを張り付けた物。
 ダンボールの表の面は大きく開いた状態で、そこから中を覗くとタオルが張り付けられているのが分かります。
「簡易ターゲットにゃん」
「穴あいたりしないかにゃぁ」
 雑種のネコさんは不安そうです。
「大丈夫にゃん」
 ぬいぐるみは、裏面に何も描かれていない折り込みチラシに、マジックで丸を描くと、ガムテープでダンボールに張り付けました。
「この丸を狙って撃つにゃん。弾はタオルに止まってダンボールの中に落ちるにゃん」
 ぬいぐるみはそう言うと、ターゲットとなるダンボールを部屋の片隅に置きました。
「不安だにゃ〜」
 雑種のネコ、ネコ田さんがサングラスタイプのゴーグルをかけ、ターゲットが置かれた場所とは部屋の反対側に移動しました。
 ガスガンタイプのハンドガンにガスと弾を入れます。
「撃つにゃ」
「待って、あたしもゴーグルかけるから」
 ぬいぐるみもゴーグルをかけました。それを確認すると、ネコ田さんはターゲットにハンドガンを向けます。
 パカンッ☆パカンッ☆
 軽快な音を立てて、ハンドガンのスライドが前後に動き、弾が発射されていきます。

 パシッ、パシッ。

 ターゲットに穴が開いていきます。
 ぬいぐるみの言った通り、弾はダンボールの中のタオルに当たり、跳ね返ってきたり、貫通することも無さそうです。

「あたしも撃つにゃん」
 ぬいぐるみが言いました。
「大丈夫かにゃ〜。ダンボールからハズしたらダメにゃ〜」
「大丈夫にゃん」
 ぬいぐるみはネコ田さんからハンドガン、ベレッタM92Fを受け取ると、その場に座りました。
 左膝の上に左腕、右膝の上に右腕を乗せ、ターゲットに狙いをつけ、

 パカンッ☆
 パカンッ☆
 パカンッ☆
 パカンッ☆

 充分に狙いを付け、一発ずつゆっくり撃っていきます。
 発射音と共にマトに穴が一つずつ増えていきました。
「すごいにゃ。俺よりまとまってるにゃ」
 ネコ田さんもびっくりです。
 着弾点は、さっきネコ田さんが当てた場所よりも中心に近い位置に当たっていました。
「えへへ〜、すごいでしょ」
「ネコリンって謎な奴だにゃ。サバゲ経験は少ないって言ってたのに」
 ぬいぐるみの名前はネコリンというようです。
 ぬいぐるみのネコ、ネコリンはしばらくM92Fを撃ち続けると、
「これ、なんか当たらないよねぇ?」
「そうかにゃ?」
 ネコ田さんはターゲットを見ました。
 弾の殆どは中心に近い位置に当たっています。
 それでもネコリンは不満のようです。
「充分だとおもうんだけどにゃ〜」
 ネコ田さんの言うこととは対称的にネコリンは、
「ちょっと見てみるね」
 ネコリンはM92Fのマガジンを抜きました。
 テイクダウンレバーを回すと、アウターバレル一式を含んだスライドがフレームから外れます。
 さらにスライドからリコイルスプリングガイドやアウターバレルを取り出し、外したバレルをよく見ました。
「これ、インナーバレルとアウターバレルの間に少し隙間あるみたい」
「にゃ?どれどれにゃ?」
 ネコリンはアウターバレルの中でインナーバレルを動かして見せます。
 たしかに正面から見るとアウターバレルの中でインナーバレルがカタカタ動いていました。
「にゃ〜、でもこれって1ミリもないにゃ。このぐらい関係ないんじゃないかにゃ?」
「インナーバレルのガタは1ミリでも全然違うにゃん。ここでは1ミリでも10メートル先では何センチにもなるにゃん」
「そうなのかにゃぁ……」
 さらにネコリンはバレルの中をのぞき込み、
「バレルの中もかなり汚れてるにゃん……」
「にゃぁぁ……」
 今度はM92Fのスライド内のシリンダーを前後に動かし、
「シリンダーの動きも悪くなってるみたいにゃん……メンテしてる?」
「どこだにゃ?」
 ネコ田さんもシリンダーを前後に動かしてみます。
 ネコ田さんの感覚では異常は見あたりません。
 指でシリンダーを前進させ、手を離すとスプリングの力でシリンダーは後方に戻っていきます。
「おかしくないにゃ。正常に動くにゃ〜」
「ううん、ゴミがたまってる。スムーズに動かないもん」
「どうなればいいにゃ?」
「シリンダーを前進させた状態で手を離したら、シリンダーがパチンと音を立てて戻らないとダメにゃん。ドライバーと六角レンチある?」
「ちょっと待つにゃ」
 ネコ田さんは部屋から出ていき……
 1分程して戻ってきました。工具箱を持って。
「これに入ってるにゃ」
 工具箱を床に起きます。がしゃりという音がたちました。
「ずいぶん大きい工具箱にゃん……」
 ネコリンは工具箱を開けます。
 中にはドライバー、六角レンチを始め、各種棒ヤスリ、ラジオペンチ、ニッパー、スパナ等が揃っていました。
「すごいにゃん……全部揃ってるにゃん」
「親父のにゃ。親父はこういうの好きだからにゃ〜」
「そういえば……ネコ田さんのお父さん、そうだったよね」
 ネコリンはアウターバレルを分解し、インナーバレルを取りだし、インナーバレルの先端付近にテープを巻きました。
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「セロテープ?なんでそんなもの巻くにゃ?」
「テープの厚みでガタがなくなるにゃん」
「クリーニングロッドある?」
「それって何にゃ?」
「買ったときに付いてきたと思うにゃん。バレルの中を掃除する棒」
「ちょっと待つにゃ」
 ネコ田さんは押し入れをガサゴソあさると、M92Fの箱を出してきました。
 その中から一本のプラスチックの棒を取り出します。
「これのことかにゃ?」
「うん、それにゃん」
 ネコリンはクリーニングロッドを受け取ると、その先に細く切ったティッシュをつけ、インナーバレルの中に入れました。
「たまにはこうやって掃除しないと、インナーバレルの中が汚れて命中精度が落ちちゃうにゃん」
「はいにゃぁ」
 ネコリンはクリーニングロッドを取り出すと、インナーバレルの中をのぞき込み、
「綺麗になったにゃん。バレルまわりはこれで終わりにゃん」
 そして今度は六角レンチでM92Fの右セフティレバーを外すと、ドライバーでスライド内の金属板を外しました。
 左のセフティレバーを慎重に外します。
「なんでゆっくり作業するにゃ?そこだけ」
「ここはセフティレバーにクリック感を付けるためのスプリングが入ってて、外した瞬間飛び出しちゃうにゃん」
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「よく知ってるにゃぁ……」
 スプリングが飛び出さないように指で押さえながら、左セフティレバーを取り、スライド内からシリンダー、ピストンを取り出します。
「スライド内にゴミが溜まってるにゃん。オイルと混じりあって、ネバネバしてシリンダーの動きを悪くしてるにゃん」
 ネコリンはティッシュで汚れを綺麗に拭き取ります。
「オイルある?」
 ちょっと待つにゃ。
 ネコ田さんは再び部屋から出ていき、しばらくしてまた戻ってきました。
「持ってきたにゃ」
 ドン。
 オイルのスプレー缶を置きました。
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 カンには「CRC−556」と書いてあります。
「あ、これはダメェェェ!」
 ネコリンが拒否しました。
「どうしてにゃ?」
「このオイルはプラスチックに悪影響与えるにゃん。エアガン店で置いてるシリコンオイルじゃないとダメにゃん……」
「それはないにゃぁ……」
 ネコリンはしばし分解されたM92Fを見たまま。
「しかたないにゃん……今日はオイルなしでこのまま組み立てるにゃん。さっきよりは良くなったはずにゃん」
 ネコリンはさっきの逆の手順でM92Fのスライドを組み立てて行きます。
 ネコ田さんはそれを眺めるだけ……

(なんでこいつはこんなに慣れてるにゃ……??)
 心の中でそう思いました。
 当然です、たいしてサバイバルゲームの経験が多いわけでもなさそうなのに。
 今の分解、組み立ての様子を見た限りでは、まるでベテランです。

 スライド内のパーツを全て組み立てると、ネコリンは先ほどと同様にシリンダーを前に引っ張り、離しました。
 シリンダーはスプリングの力で勢いよく後退し、パチンと音を立てました。
「ね。音がするにゃん」
「本当だにゃぁ……」
「これがスムーズに動いてくれないと寒い時に給弾されない事が増えるにゃん」
 ネコリンは笑顔で言いました。

 ネコリンは再びターゲットからターゲットペーパーとなる広告紙をはがし、新たな広告紙を貼り付けました。
 組み立てたM92Fに弾を入れ、ゴーグルをかけると、再び部屋の隅に行きます。
「撃つにゃん」
「OKだにゃ」

 パカンッ☆
 パカンッ☆
 パカンッ☆
 パカンッ☆
 パカンッ☆

「にゃにゃっ!?」
 ターゲットペーパーあいていた穴は一つでした。
 5発の着弾点が近いため、全ての穴が亀裂で繋がっていました。
 当然、先ほどよりも遙かにまとまっています。
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第3話:10歳の希望

 二人の子供の声。
「やめようよ、そんな事。絶対良くないよ!」
「いやっ!もう決めたもん!」
「そんな……」
「もううちは何も残ってないもんっ!これ以上……これ以上怖いことなんて無いもんっ!」
「……け、けどっ」
「もう来ないで!あたしを止めようとなんかしないでっ!」


 とある人気の少ない河川敷。
 そこに二人のネコがいました。
 一人はどこにでもいるような雑種のネコのネコ田さん。
 そしてもう一人は縫い目のあるネコ。ぬいぐるみのネコのネコリンです。

 パパパン☆
 カカカン☆

 ネコ田さんのMP5から放たれた弾が、アキカンに当たり、甲高い音を立てます。

「あたるようになってきたにゃん」
「はぁ、狙えばあたるんだけどにゃ」
「サバゲ中には狙ってるヒマはないかもね〜」
「そうなんだよにゃぁ……相手に気づかれずに不意打ちする時も、狙わないで撃っちゃうにゃ」
「余裕もたなきゃにゃん」

「しかしなんか、俺のほうがネコリンから教えられる立場になってるにゃ〜」
「えへへ〜。でもそんなことないにゃん。サバゲに関してはネコ田さんのほうが先輩にゃん」
「なのかにゃ〜」

「にゃん?」
 ふとネコリンは何かに気づき後ろを振り向きました。
「どしたにゃ?」
 ネコ田さんも後ろを見ると。

 一人の男の子がいました。歳は小学生ほど。
 黄色い服と、青いズボンと青い帽子のその子供は、真剣にネコ田さんのほうを見ていました。
 そして、手には何かハンドガンを持っていました。

「どうしたにゃ?」
「す、すごいね、あんなの遠くのマトが当たるなんて」
「ま、まあにゃ。でも電動ならこのぐらいあたるにゃ」
「でも僕のこれじゃ」
 男の子が見せたのは電動のSIG・PRO・SP2340。
 パワーの低い対象年齢10歳以上の電動セミオートハンドガンです。
「ここから撃ってみてにゃん」
 ネコリンが少しアキカンに近づいてから、男の子に言いました。
 男の子はネコリンの位置まで前進して、アキカンに向かって右手一本でハンドガンを構えました。
 アキカンへの距離は10メートルほど。

 ゥィパンッ☆

 黄色い弾が撃ちだされ、ゆっくりとしたスピードでフワフワと浮くように飛びます。
 弾はアキカンの横を飛んでいきました。

 ゥィパンッ☆
 ゥィパンッ☆

 一発も当たりません。

「やっぱりダメだよ」
 男の子はがっくりと視線を落とします。

「あたしがやってみてもいい?」
 ネコリンは男の子からSP2340を受け取りました。
「あたるかにゃぁ?」
 ネコ田さんが疑います。
「弾道自体は悪くないはずにゃん」
 ネコリンは両手でハンドガンを構え、アキカンに向けました。
 そして……

 ゥィパンッ☆

 ひゅん……

 弾はアキカンの上を通り過ぎていきました。
「やっぱり無理にゃ。そんなパワー無い銃じゃ」
 そんなネコ田さんに構わず、ネコリンが二発目を撃ちました。

 カーン☆

「にゃっ!?」
「えっ!?」
 青い帽子の男の子とネコ田さんの二人が同時に驚きの声を上げました。

「当たったにゃん」

 さらにネコリンは構えたまましばらく動かず、10秒ほどしてからまたトリガーを引きました。

 ゥィパンッ☆

 カーン☆

「また当たったにゃ?」
「えへへ〜。また当たったにゃん」
 ネコリンは笑いながら振り返りました。
「す、すごいや!なんでなの!?僕が撃っても当たらないのに」
 男の子は興味津々です。
「うん、いくつかあるんだけど、一つは狙い方、構え方にゃん」
「狙い方と構え方?」
「そうにゃん、片手で撃つより両手で撃ったほうがあたるにゃん」
「そういえば僕はいつも片手で……」
「それと、サイト通りに当たる保証はないにゃん」
「え?」
「弾速の遅いエアガンの場合、特に縦方向にはどうしてもズレちゃうにゃん。ホップと重力の影響にゃん。そこで距離と銃に応じて狙い方を変えてあげないといけないにゃん」
「そうなの……?」
「そうにゃん。この銃の場合、途中から一旦サイトより上に飛ぶみたいにゃん。その分を修正して撃たいといけないにゃん。どの距離でどのぐらい狙いを変えないといけないかっていうのは、銃によって違うから、その銃の弾道の特性をよーく覚えるにゃん」
「へぇぇ……」
 男の子は感心した様子です。
「もう一つは風にゃん」
「風?そういえば……」
 周囲にある背の低い草が僅かに揺れていました。
「今使ってる弾は0.12gでしょ?この弾は軽いから風の影響をかなり受けるにゃん。とくにここは河川敷にゃん。河川敷は風を遮る物が少ないから、いつでも風が強い傾向があるにゃん。風が止むのを待って撃たないとダメにゃん」
「すごい、すごいや!ねぇ!一つ頼みがあるんだ!」
 男の子は何かを期待するように話しだしました。
「にゃ〜?」
「実は……ある人を倒してほしいんだ」
「倒すにゃ?なんだにゃ?嫌いな奴かにゃ〜?」
 ネコ田さんが横目で男の子を見ながら推測を口にしました。
「違うよっ!」
「じゃあ好きな人かにゃ?」
 さらにネコ田さんが正反対の事を言うと……
「そんなんじゃないよっ!!!絶対にっ!!」
 さっきよりも強く否定しました。
「どうしたにゃん?」
「うん、僕の友達の女の子がいるんだけど、その子が……悪いことをしてて……」
「どんなことしてるにゃ?」
「そ、それは言えないよ!」
「言えないほど悪いことしてるのかにゃぁ」
「まあ、とにかく悪いことをしてて、それで……やめさせたいんだ!だけど……」
「だけどどうしたにゃ?」
「そこまでたどり着くにはサバゲがうまくないと!」
「にゃ?」「にゃん?」


 3人はとある建物の前にいました。
 その建物は工場。どうやら食品工場のようです。

「この中にいるんだ……」
「見たところ普通の食品工場みたいだにゃん」
 3人は入り口を見ました。
 そこに書いてある紙には。
「対象年齢10歳以上のエアガンのみ使用可能。チャレンジは一週間に三日に一度まで。一度に3人まで可」
「なんだにゃこれは?」
「あたし、行ってくるにゃん。銃を貸して」
「あ、うん」
「一人でいくにゃ?」
「だって他に対象年齢10歳以上の銃がないにゃん」
 ネコリンはゴーグルを付け、SP2340を手に工場の扉を開けると、中に入っていきました。

 内部は電気が消えていて、窓から差し込む明かりが工場内を薄く照らしていました。
「暗いにゃん……でもあたしはネコだから、このぐらいなら……」
 ネコリンの瞳孔が開かれていきます。
「人の気配は無いようだけど……」

 ガガガガ……

「侵入者発見……侵入者発見……コレヨリ攻撃ヲ開始スル……」

「にゃんっ?」

 何者かが近づいてきました。
 ネコリンが見た物、それは……

第4話:防衛ロボット

 とある河川敷で会った男の子に頼まれて、とある工場にやってきたネコリンとネコ田さん。
 対象年齢10歳以上の電動SP2340を手に、ネコリンはたった一人で薄暗い工場へと入りました。

「侵入者発見……侵入者発見……コレヨリ攻撃ヲ開始スル……」

「にゃんっ?」
 ネコリンの前に現れた物、それは人形でした。
 1メートルを越える大きさの人形。まるで人間のような大きさです。
 移動の時に足が動いてないところをみると、足の下に車輪でもあり、それで移動してるのでしょう。
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 ゥィパンッ☆

 相手が手にもったハンドガンを撃ってきました。
 銃口が光ったかと思うと、緑色に輝く弾がネコリンを襲いました。
「にゃんっ!」
 ネコリンはとっさに横に飛び退き、近くにあった棚の影に隠れます。
「モーターの回る音がした……電動ハンドガン?それに光る弾?発光装置と発光弾にゃん……」
 蓄光性の材質で出来た弾を発射する際、強力な光を当て、光る弾を撃ち出す装置です。

 ゥィパンッ☆パンッ☆パンッ☆

 ネコリンの隠れている棚の横に緑の線が浮かびました。
 緑の発光弾が、緑のビームのように飛んできます。

「棚のこっちがわはマークされてる?それなら反対側からにゃんっ」

 ネコリンは棚の反対側に回りました。
 ロボットらしき人形にSP2340を向け、トリガーを引きます。

 ゥィパンッ☆パンッ☆

 弾はロボットの左上と左側を抜けていきました。
「……焦ったにゃんっ……」
 ロボットの顔と腕がネコリンのほうに向いてきます。
 ネコリンは修正撃ちをやめて、さらに横に飛び退きました。

 パンッ☆パンッ☆

 敵の攻撃がネコリンを襲います。


 パンッ☆パンッ☆

 まけじとネコリンも連射しますがあたりません。
 ネコリンは近くに積まれたダンボールの影へと駆け込みます。

 バシッ☆バシッ☆

 敵の攻撃がダンボールに当たりました。

「……攻撃してこないターゲット相手なら外さないはずなのににゃん……実戦じゃ……」

 ネコリンは目の前には積み上げられたダンボール。
 そこに少しだけ隙間を発見しました。

「ここにゃん」
 ネコリンは隙間から覗きます。ダンボールの反対側には敵のロボットの姿。
「今にゃんっ!」
 ネコリンは銃を隙間に入れ、トリガーを引きました。

 パンッ☆パンッ☆

 パシッ☆

「ヒット!」

 ロボットは声を上げます、そして動きが止まりました。

「作動停止したにゃん?」
 ほっとした瞬間。

 ……ガガガガ……

 音がしました。
 背後から。

「にゃんっ!?」

 パンッ☆パシッ☆

 ネコリンの背中で緑の弾が跳ねます。
 ネコリンが振り向いくと、そこには先ほどと同じロボットがいました。

 ……ガガガ……

 さらにロボットが現れます。
 あちこちから。
 合計5台ほど。

 5台のロボットはネコリンをつまみ上げると、入り口の方へ向かいました。


「何してるんだろうにゃ〜」
 工場の前でネコ田さんと男の子が待っていると。
 ふと扉が開きました。
 そして、人間ほどもある人形のようなロボットが現れました。
「な、なんだにゃ!これは!?」
 ロボットはネコリンをかかえていました。
 そのネコリンを入り口の外に落とすと、ロボットは工場の中に消えていきました。
 それと同時に扉が再び閉じられました。

「あ、あれって何にゃんっ!?」
 地面に倒れたままのネコリン。
「あれは防衛用ロボットだよ」
 工場の方を見ながら、男の子が答えました。
「防衛用ロボットにゃ?」
「うん、ベコちゃんを守ってるんだ。誰もベコちゃんのところまでいけないように」
「ベコちゃんっていうのがこの奥にいる奴だにゃ?」
「うん」
「どうしてそんなのロボットがいるにゃん?」
「言ったでしょ。ベコちゃんは、とってもいけないことをしてるんだ。だからだよ」
「にゃ〜。でもロボットが守ってるんじゃにゃあ、そのベコちゃんを止めることなんて出来ないにゃ」
「だからサバゲの強い人が必要なんだよ。ベコちゃんの所まで辿り着くために。だってあのロボットは……」
「撃たれると動きが止まる。でしょ?」
 立ち上がったネコリンが尋ねます。
「うん。そう、でもこっちも撃たれると強制的に外に追い出されてしまうから。ベコちゃんの所まで撃たれずに行かないと」
「でもネコリンはあっというまに追い出されたにゃ」
「一台は倒したにゃんっ!」
「でもダメだよ。一台だけじゃ。相手は多いよ。何十台もいるんだ。だから……」
「でもこれってまた挑戦できるんでしょ?」
「うん、今は無理だけど。また三日経てば」
「えへへ〜」
「なんだにゃ?またその笑いかにゃ?」
「またするにゃん」
 ネコリンは笑顔です。
「こりないにゃ〜」
「大丈夫、次は一人じゃいかないにゃん。3人でいくにゃん」
「俺もかにゃ?」
「当然にゃん」
「そういえばにゃ。まだ名前聞いてなかったにゃ」
 ネコ田さんは男の子に言いました。
「あ、僕はボコちゃんって言うんだ」
「自分に『ちゃん』付けるなにゃぁ」

裏表のある人


 ネコ田さんの部屋。
 ネコ田さんとネコリンがいました。

「……でもにゃぁ……対象年齢10歳以上の銃なんてもってないにゃ」
 ボコちゃんの頼みで、ベコちゃんの食品工場への突入をすることになった二人。
 しかし使用できる銃は対象年齢10歳以上の銃だけ。
 普段使っている対象年齢18歳以上のエアガンは使えないのです。
「買うか借りるかにゃん」
「買うって言ってもにゃあ……一度しか使わないと思うしにゃ」
「じゃあ借りるにゃん」
「誰からにゃ?」
「誰でも、もってる人からにゃん」
「うさぴょんもエリーちゃんも、パン太も10禁は持ってないしにゃ〜」
「……にゃん……」
 ネコリンも残念そうです。
 しかしネコ田さんはふと思い出したように、
「あ……トラ吉に聞いてみようかにゃ」
「トラ吉って誰にゃん?」
「俺達のライバルチームのリーダーだにゃ」
「へ〜」
「ちょっと電話かけてみるにゃ」
 ネコ田さんは携帯電話を持ち、電話をかけ始めました。

 ぴぽぱぽ、ぷるるるるるるるるるるる。

 がちゃっ。

「わいや、トラ吉や」
 電話の向こうから激しく関西なまりの声。
「あ、俺、ネコ田にゃ」
「なんや、ネコ田か、電話なんて珍しいやないかい。どないしたんや?」
「対象年齢10歳以上のエアガン持ってないかにゃ?貸してほしいにゃ」
「あ〜、もってへんな〜」
「そうかにゃ……わかったにゃ……」
「なんや、どしても必要なんかい?」
「そうなるにゃぁ」
「それやったらチンドンに頼んでみてもええで?あいつは銃ぎょうさん持っとるからなあ。10禁のもあるかもしれへん」
「いいのかにゃ?」
「まあ言うだけ言うみるわ。後でわいから電話するわ」
「よろしくにゃ」

 ネコ田さんは電話を切りました。
「借りれるにゃん?」
 ネコリンが期待して問いかけます。
「トラ吉は持ってないって言ってたにゃ、でもかわりにトラ吉のチームメンバーのチンドンに聞いてくれるってにゃ」
「へ〜、トラ吉さんっていい人にゃん」
「口は悪いけどにゃ〜」


 数分した後、ネコ田さんの携帯電話がなりました。

 ネコ田さんは電話をとります。
「ネコ田にゃ〜」
 案の定、電話はトラ吉からでした。
「チンドンからOKでたで〜、取りあえず来てみぃとの話や」
「わかったにゃ〜」
「ほな場所言うわ。メモ用意できてるやろな?」
「できてるにゃ〜」


 晴れた天気の下、住宅街を歩く二人の姿がありました。
 ネコ田さんとネコリンです。
 ネコ田さんは手に紙を持って歩いています。
 その紙には、チンドンのアパートにいくまでの道のりが書かれていました。

「チンドンってどんな人にゃん?」
「アホを絵にかいたような奴にゃ〜。赤と白のストライプ模様の変な帽子と服きてるにゃ」
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 二人はあるアパートの玄関の前にやってきました。
「このアパートかにゃ」
「そうみたいにゃん」

 ぴんぽーん☆

 がちゃり☆

「お、来たかい」
 ドアを開けて現れたのは、チンドンとは似ても似つかない普通の青年でした。
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 帽子もメガネもかけてなく、ごく普通の……
「おまえは誰にゃぁぁ!?」
「あ、なんだよ?忘れたのか?チンドンだよ」
「にゃにゃっ!?」
「あぁ、まぁ上がれよ」
「にゃ……おじゃまするにゃ……」
「おじゃまするにゃん」

 綺麗に整ったリビングルーム。
 壁には大型のテレビ、部屋の中央には大きな円いテーブル。
「コーヒーでもいれようか」
 チンドンはキッチンのほうに向かいました。
「しかしなんかにゃ〜。チンドンのイメージとは違いすぎるにゃ。本人もそうだし、部屋の中もにゃぁ……」
「そんなに違うにゃん?あたしは今日初めて見たから」
「サバゲ中のあいつを一度見てみたほうがいいにゃ」
 チンドンは3つのコーヒーカップを持ってくると、テーブルの上に置きました。
「まあギャップが激しいとはよく言われるよ」
「そりゃ誰でも言うにゃぁ!」
「ん〜、まあね。けどサバゲってそういうもんじゃないかな?」
「にゃ?」
 コーヒーをすすりながらのネコ田さん。
「普段とは違う雰囲気を持つ遊びだからね。一種のコスプレみたいな物だよ。こう、戦場でのかっこよくて強い兵士にへの変身願望というか。そういうのって誰にでもあるんじゃないのかな」
「……おまえは自分でかっこいいと思ってるのかにゃ?サバゲの時の姿を」
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 チンドンは照れ笑いを浮かべながら、
「ははは、まあね」
 固まるネコ田さん。
 やはりチンドンのセンスは、どこか一般人とズレているようです。
「それで、話はトラ吉から聞いたんだけど、10禁のエアガンを貸してくれだって?」
「そうにゃん。あたしたち、そういうの持ってないにゃん」
「しかしこの部屋って一つもエアガン見あたらないにゃ〜。おまえ実はあんまりエアガン詳しくないんじゃないかにゃ」
 ネコ田さんが疑いの眼差しでチンドンを見ました。
「この部屋には邪魔かなって思ってさ……そこの扉の向こうにあるんだ」
 ネコリンは立ち上がり、扉の方に向かい、
「ここ?開けるけどいい?」
「ああ、いいよ」


 ガチャッ。

 ネコリンが扉を開け……少し膠着しました。
「どうしたにゃ?」
 ネコ田さんの場所からは扉の向こう側は見えません。ネコ田さんはネコリンのほうに歩き……
「まるで武器庫にゃぁぁ!?」

「いろいろ買ってたらたまっちゃってね」
 3人は、扉の向こうの部屋に入りました。

 リビングルームとはうってかわって様々な物が散乱している部屋です。
 壁にはたくさんの棚が置かれ、ハンドガンや工具、パイプやホース。金属やプラの板。塗装用のスプレー。
 床に置かれた緑のエアタンクがいくつか。
 そして、壁には金属のメッシュのラックに、大量のエアガンがかけられていました。
 ぱっと目につく範囲だけで30はありそうです。
 ハンドガン、サブマシンガン、アサルトライフル、ショットガン、ボルトアクションライフル、分隊支援火器まで、さまざまな種類の銃があります。
 隣の綺麗に整ったリビングルームとは大違いです。
「すごいにゃん。M60やUXスーパー9まであるにゃん……」
「いったいいくつあるにゃ?」
「数えたことないなぁ」
「……なんでもある……あ?」
「どしたにゃ?」
「電動が一つもないにゃん!」
「よく気づいたね。実は電動はどうも好きになれなくて、でも普段使ってるのは電動だよ」
「普段使ってるのって……あの太鼓銃かにゃ?」
「そうそう、これこれ」
 部屋の片隅にある太鼓のような銃を指さして言いました。
 腹部につける太鼓。しかしそこの全部には2つの穴があり、中にはインナーバレルが見えます。
 ネコリンはその太鼓銃に歩み寄り、
「これって電動?発射はどうやって……?」
「主電源を入れた後、バチで太鼓を叩くと一発ずつね」
「ぇ……叩くと一発ずつ?」
 ネコリンはちょっと考えこみ……
「それって作るのがすっごく難しいんじゃ……?」
「にゃ?叩かれた瞬間だけ電気通してるんじゃないのかにゃ?」
「違うにゃん。それだと一瞬しか電気が流れないから、ギアがちょっと回り始めた時点で電気がカットされちゃうにゃん」
「にゃにゃ?」
「電動ガンで一瞬だけトリガーを引いた状態に似てるにゃん。ほんの一瞬だけトリガーを引くと、弾が一発も発射されないうちにモーターもギアも止まっちゃうにゃん」
 チンドンは驚いた様子で。
「すごいな。そこまで分かったなんて……実はこの太鼓銃を作るときに一番苦労した部分がそこだよ」
「でしょ」
「太鼓の表面部分は一瞬だけ電気を流すだけ、その電気信号を受けると、セクターギアが一周するまでは電気が流れっぱなしという仕組みなんだ」
 チンドンとネコリンの会話はかみ合っています。
 しかし、ネコ田さんには何の事なのかいまいち理解ができませんでした。
「にゃ〜、それで10禁止の銃ってどれにゃ?」
「いちおうここにあるハンドガンがいくつか10禁だね」
 棚の一つを指さしました。
「電動ハンドガンは無いにゃん?」
「それはないな。電気で動くのはそこの太鼓銃だけだね」
「ハンドガンならこれがいいと思う」
 チンドンは一つ、細身のハンドガンを持って言いました。
 アウターバレルが剥き出しで、実銃はかなり古いモデルのようです。
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「それって南部14年式にゃん?」
「うん、これが好きでね」
「南部にゃ?」
「昔の旧日本軍の銃にゃん」
「かなり古いにゃ〜」
「渋いにゃん。これってホップあるにゃん?」
「いちおう自作ホップが入ってる、弾は軽量弾の0.12gに合わせてる」
「ライフルで何か無いのかにゃ?」
「そこのワルサーMPLはどうかな?そっちもホップがあるよ」
「ワルサーMPLにゃ?」
 チンドンが指さした先にあるのは、サブマシンガン。
 MP5にやや似ている感じを受けます。
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「これもまたなんか古くさいデザインにゃ〜」
「ははは、最近の銃のデザインがあまり好きじゃなくてね」
「借りれるのはエアコキだけかにゃ〜」
「10禁だとそうなるね。18禁ならいっぱいあるけど」
「18禁じゃ意味無いしにゃぁ〜」
 ネコリンはあたりを見渡し。
「やっぱりこれかにゃん……」
 MPLと南部を見ながら言いました。
「これって当然MPLのほうが戦力になるかにゃ?」
 チンドンは少し考えて、
「んー。南部じゃないかな?」
「え!?南部がそんなにつよいのかにゃっ?」
「うん、好きだからね。銃の強さは使い手の愛に比例するものだよ」
 沈黙の時間がしばし過ぎ……
「わ、わかったにゃ……ネコリンはどっち使うにゃ?」
「あたし南部でいいにゃん」
「なんでにゃ?」
「ネコ田さんは狙って撃たないから、装弾数が多くて連射もしやすいMPLのほうが向いてるにゃん」
「そ……そうだにゃ……」


−−−もしかするとさらに続くかもしれない−−−

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