サバゲニッポン昔話


第17話:走る人

 第2ゲーム開始前。
 グリ夫たちは南西側のフラッグに集合していました。
 ここからは見えませんが、ぐぅーちゃんたち4人もすでに北東側フラッグにいるはずです。
「今度は相手のフラッグ取るしかないんや。時間切れになって人数差で勝利した所で、ポイントは追いつかへん」
「フラッグか。相手は守ってくるのだろうかな」
「せやろな。意表ついて攻めてくるかもしれへんけど、攻めてくる意味が無いんや。素直に待ってるだけで勝ちやからな」
「……そうか」
「せやけど、ほんま万が一のために一人ディフェンスや。さっきと同じくチンドンに任せるわ」
「了解でんがな〜」
「あとはわいとグリ夫、うさぴょんの3人で西ルートや」



 ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

 ゲームが開始しました。
 トラ吉たち3人が、フィールド北北西に向かって走ります。そこからブッシュ内を北東に移動するつもりです。
 一気にダッシュし、フィールド中央、西側の林の中まで入り込みました。
 そこで走るのをやめて姿勢を低く保ちます。 
 この先は静かに侵攻するためです。
 やや薄暗い林の中、トラ吉が姿勢を低く保ちながら、静かに慎重に進んでいきます。

 10メートルも進んだところで、トラ吉は足を止めました。
 ブッシュの手前で、ゆっくりとM93Rを前方、北東方向に向かって構えました。
 そして……

 バババン☆

「ヒットッ!」

 トラ吉正面のブッシュ、15mほどの所から踊る人が立ち上がりました。

 しかし、次の瞬間。

 バララララララララララララララララララ☆

 トラ吉方向に向かって大量の弾が飛んできました。
 トラ吉の居場所を正確には把握していないのでしょうか。弾は広く散らばっています。
 トラ吉は静かに近くのブッシュの影に伏せました。
「ジゾーやな、あいつは確かP90を両手に持ってたはずや」
 トラ吉は伏せたまま、静かに北西方向へと移動を開始しました。依然、ジゾーがいるらしい北東方向には強く警戒をしています。
 1分ほど移動し、さきほどのジゾーの予測潜伏地点を見ると、やはり太い木の影に不自然な塊を発見しました。
 ジゾーはトラ吉に気づいてはいないようです。未だ、先ほどのまでトラ吉がいた位置を警戒しているのでしょう。
 ジゾーまでの距離は25メートル。
「……ちょいと距離が遠いわ……もう少し前進や……」
 トラ吉がさらに進もうとした時。

 パパパパパパン☆

 ジゾーより西側、トラ吉から北北東の方向から弾が飛んできました。
 トラ吉の位置を正確には捉えていないのでしょうか、弾はトラ吉には当たりませんし、伏せたトラ吉の頭上を通過していきました。
「あかん、草揺らしてもうたな……」
 トラ吉は伏せたまま、M93Rを前方に向け、いつでも撃てるように構えました。

「あのへんや、おそらくトラやで!」

 弾の跳んできた方向からぐぅーちゃんの声が聞こえました。
 声から推測すると、ジゾーよりも近い距離です。

 ジゾーがトラ吉の方を向きました。
 トラ吉とジゾーの間には深いブッシュはありません。

「あ、あかん。見つかった!」

 バララララララララララララララララララ☆

 ジゾーの両手のP90から大量の弾が発射されました。
 トラ吉は咄嗟に前方のブッシュ北西側のブッシュへと飛び込みます。そこがジゾーからの攻撃を逃れるのに最善の場所と判断したからです。

 ブッシュに飛び込んだトラ吉は、体勢を立て直し、すかさずM93Rを構えました。
 そして北東方向の、一番太い木に向かってトリガーを引きました。

 バババン☆カカカン☆ザッ☆

 敵の動く音が聞こえました。その木の影に敵、おそらくぐぅーちゃんがいたのでしょう。
 トラ吉は、さっきのぐぅーちゃんの声でだいたいの位置を推測し、さらに、そのあたりで一番太い木の影にいると読んだのです。
「やっぱり木の後ろや。セオリーやな」

 すかさずトラ吉は少しばかり西側へと下がりしました。
 静かにブッシュの影へと隠れます。

 バラララララララララララララララララララ☆

 ぐぅーちゃんとジゾーの二人が、派手にブッシュへと撃ちこんでいきます。
 それらのブッシュにはすでにトラ吉はいません。どこも、さきほどまでトラ吉がいたブッシュです。

「あかんな、この調子やと、いつかは当たりそうや……」



「トラ吉が危ないぴょん……」
 うさぴょんの前方では、ジゾーとぐぅーちゃんの激しい銃声が聞こえてきていました。
 トラ吉の後をついてきていたうさぴょんは、伏せたまま前進していきます。

 その斜め後ろをグリ夫がついていきますが、とてもグリ夫の銃はコルト.25オート。あまりにも射程が短すぎます。

 前方の敵二人の発射音は未だになりやみません。おそらく二人の三丁の銃を合わせると、すでに500発は消費しているでしょう。

 発射音に紛れ、うさぴょんは少しずつ前進していきます。

「トラ吉、当たらないで欲しいぴょん……」

 ズリズリ……ズリズリ……
 ジゾーが射撃をやめ、マガジンチェンジをして始めました。
 しかしうさぴょんは攻撃しません。
 距離は約25m。
 マガジンチェンジという、絶好のチャンスでありながら攻撃はしませんでした。

 そして、ジゾーがマガジンチェンジを終了し、射撃を再開した後。

 パカン☆

 うさぴょんがしっかりしジゾーにサイティング行い、発砲しました。
 うさぴょんは地面すれすれに伏せた状態から発砲したため、弾は残念ながら背の低いブッシュへとハジかれました。
 しかし、ジゾーはうさぴょんの発射音に気づきません。

 自分のフルオート射撃音によって、うさぴょんの発射音が聞こえていないのです。

 パカン☆

 再びうさぴょんが撃ちました。

 しかし、これも手応えがありません。

 パカン☆

 パカン☆

 カコン☆

 弾はジゾーの側頭部を捕らえました。

「ヒットじゃぞー」

 ジゾーはクールにそう言って、セフティゾーンへと歩いていきました。



 ジゾーが倒されたと知ると、ぐぅーちゃんは東へと移動しました。
 ジゾーがいなくなったせいで、フラッグへの直線ルートが開いたため、カバーに入るのでしょう。
 トラ吉はブッシュの隙間からぐうーちゃんの背中を見ると、M93Rを構えたままブッシュの上に顔を出しました。

「もらったで」

 トリガーに指をかけたその瞬間。

 ボッ☆

「なんやっ!ヒットやっ!」

 さきほどまでぐぅーちゃんがいた近くに、配る人が伏せていたのです。
 おそらく、今まで一発も撃たずにチャンスを待っていたのでしょう。



「トラ吉が撃たれたぴょん」

「な、なにっ!」

 うさぴょんとグリ夫は、二人とも適当な木の影にいました。
 正面30メートルほどの木には、ぐぅーちゃんがいるのが分かります。

「最後の一人は配る人だぴょん。まだ西側のほうにいたぴょん。グリ夫がフラッグに走るぴょん!そうすれば勝てるぴょん!」

「そ、そうか。しかし配る人がまだ西のほうにいるとしても、中央ルート付近にはぐぅーちゃんがいるぞ!」

「僕がぐぅーちゃんの注意をひくぴょん。その間にグリ夫はフラッグ取るぴょん」

「そ、そうか、分かった!」

 グリ夫はポケットからキャラメルを取り出しました。
 顔に穴の開いたキャラメルの箱を。

「いくぴょん!」

 パンパンパン☆

 うさぴょんがぐぅーちゃんの隠れている木に向かって射撃を行い、すぐに北西方向に向かって走り出しました。

 パパパパパパパパパ☆

 ぐぅーちゃんの射撃の弾道が、うさぴょんを追います。しかし、素早く移動するうさぴょんにはなかなか当たりません。

「父さん、見ててくれ。俺の勇姿を……」

 グリ夫はキャラメルを一粒取り出し、飲み込みました。

 ドクン、ドクン☆
 全身に力がみなぎってきます。

「……ぅ……ぅぉ……ぅぉぉぉぉぉぉぉぉ……!!」

「一粒300メートル!アターーーーーーーーーーーーーーーーーーーックゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!」

 グリ夫は地面を強く蹴り、駆け出しました。

 ぐぅーちゃんはうさぴょんを狙うのに必死だったせいで、グリ夫への反応が一瞬送れました。

「な、なんやて!?」

 ぐぅーちゃんの顔はグリ夫に向きました。
 しかし、依然、体と銃はうさぴょん方向を向いたままです。

 グリ夫が笑顔で、ぐぅーちゃんの左側を駆け抜けていこうとします。
 ぐぅーちゃんが抜かれたらフラッグが取られるのは明白です。

「さ、させへん!」

 ぐぅーちゃんは銃、M16A1をグリ夫に向けようとしました。
 しかし。

 ガチンッ!

 ぐぅーちゃんがバリケードと使っていた木にバレルがぶつかりました。
 今まで、木の右側からうさぴょんを攻撃していたせいです。
 木の左側を走り抜けていくグリ夫に銃口を向けることができません。



「な、なんやてっ!」

 グリ夫は笑顔のまま両手を上げ、疾風のように駆け抜けていきました。
 ぐぅーちゃんのすぐ左側、10mもない距離の所を。



 ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

 グリ夫たちは、フラッグゲットの勝利を収めました。
 これでポイントは2対2。
 決戦は第3ゲームへともつれ込みました。

−−−もしかするとさらに続くかもしれない−−−

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