サバゲニッポン昔話
第16話:信じること
「トラ吉が撃たれたぴょん……」
セフティゾーンに歩いていくトラ吉を、うさぴょんはフィールド中央よりやや北側の林の中で見ていました。
姿勢は低く、伏せたまま。
完全な待ち伏せ姿勢です。
その右前方方向には、姿は見えないもののグリ夫が潜伏しているはずです。
その時、うさぴょんの視界の左側に、素早く動くものがありました。
ぐぅーちゃんと踊る人の二人です。
二人はフィールド南側から、東側への高台の上へ走っていきました。おそらく高台の上に上るつもりなのでしょう。
二人は高台の影に入り込み、うさぴょんからは見えなくなりました。かりに見えていたとしても、うさぴょんの場所から攻撃して当たるとは思えない距離です。
うさぴょんは高台の上に目をやりました。
高台の上にはブッシュがほとんどなく、その上を北側に向かって移動してゆくぐぅーちゃんと踊る人の頭が見えました。
そしてさらに、高台の上に少しだけ存在するブッシュに、不自然な塊を見つけたのです。
狙撃手までの距離は30m以上。
こちらからの攻撃は届かなくても相手からの攻撃は届く距離です。
「スナイパーだぴょん……」
おそらく、高台のブッシュに伏せて策敵しているのが配る人なのでしょう。
そしてぐぅーちゃんと踊る人の二人は、フィールド東側から北東側に抜け、そのままフラッグに向かうつもりなのでしょう。
このままだと、フラッグを守っているチンドンが敵二人、または三人と戦うことになります。
ガサリッ☆
うさぴょんの右前方のブッシュが揺れました。
グリ夫が立ち上がったのです。おそらくフィールド東側を進行している二人に気づいたのでしょう。
「やばいぞうさぴょん、敵二人がフラッグに向かっている!ついてこいっ!」
グリ夫は軽快にフラッグ方向に走り出しました。守備に戻るつもりです。
うさぴょんはグリ夫についていかず、返事も返しませんでした。
下手に動いて高台の上の狙撃手に見つかることを避けたかったからです。
グリ夫がフラッグ方向に走り、適当な木の西側に隠れた時です。
ボッ、ボッ、ボッ☆
高台の上の狙撃手が発砲しました。
「ヒットだ!どこからだっ!?」
グリ夫がアウトになりました。
うさぴょんからは見えませんが、もうぐぅーちゃんと踊る人の二人はすでに高台を降り、フィールド北東部に到達している頃です。
しかし、二人を倒しに下手に動けば、高台の上の狙撃手、おそらく配る人に見つかってしまいます。
現時点で狙撃手に見つかっていないだけでも不思議なくらいです。なにせそれほど離れた距離でもなく、相手は見下ろしなのです。
うさぴょんの体は伏せたまま南西方向に向いています。
方向を北西方向向きに変えようとすれば、おそらくその動きで配る人に発見されてしまいます。
とはいえ、このままじっとしてれば、ぐぅーちゃんと踊る人にチンドンが倒され、フラッグが落ちるのも時間の問題でしょう。
うさぴょんは少しばかり考え、思い切って立ち上がり、西方向へと全力で走りました。
背中の方から狙撃手の発砲音が聞こえてきますが、走っているため当たりはしません。
うさぴょんは狙撃手から充分な距離を取り、ブッシュに飛び込みました。
狙撃手からの攻撃がすでに来なくなっているのを確認し、今度は南へと素早く進みます。
一か八かフラッグを取るつもりなのです。
しかし、その時、北東方向からフルオートの発射音が聞こえ、ゲーム終了の笛が鳴り響きました。
チンドンが倒され、フラッグが取られたのです。
ゲームが終了し、全員がセフティゾーンへと戻ってきました。
ぐぅーちゃんチームは、グリ夫たちから少し離れた場所で盛り上がっています。
ぐぅーちゃんは「楽勝楽勝!」と自信に満ちあふれた笑顔。
踊る人は勝利のダンスを踊り、配る人もさわやかな笑顔を浮かべています。
ただ一人、ジゾーだけは無表情です。
逆にトラ吉たちは4人は意気消沈でした。
「あ、あかん……」
がっくし……と言ったかんじのトラ吉。
「トラ吉が最初に撃たれるとは思わなんかったわ〜」
チンドンが言いました。
「すまん、油断しとったわ。しかしあんなドンピシャの場所におるとはなぁ……」
その時、グリ夫がカクカクと震えていることに、皆が気づきました。
「……う、うさぴょん……」
グリ夫はカタカタと震え、目に涙を浮かべていました。
「おまえ、狙撃手が高台の上にいたことを知っていたのだろっ!?だから俺についてこなかったんだろっ!?なぜ狙撃手の存在を俺に教えなかったっ!?」
「高台の上に配る人がいたのは知ってたぴょん。だけど、あのタイミングで動いたら僕まで撃たれてたぴょん」
「……う、うさぴょんっ……!」
グリ夫の目から涙、鼻から鼻水が流れました。
「やっぱりお前は俺のことを嫌いだろっ!?恨んでいるんだろっ!?」
グリ夫は力強く言い放ちました。
「そんなことないぴょん」
うさぴょんはいつも通りの笑顔で返しました。
「う、嘘だっ!お前は俺を嫌っている!俺の事を、ただ走ることしか脳がない麻薬中毒ランナーで、計画性がなくて、そして過去をいつまでもウジウジと引きずっていて、顔が平面チックで、いつも道頓堀にいる奴だと、そう思っているんだろっ!!!!!????」
「そんなことないって言ってるぴょん」
「も、もういいっ!」
グリ夫は駆けだして行きました。
「どこ行ったんやろな〜」
グリ夫は一人、近くの海岸にいました。
あまりに都合が良いですが、このフィールドは海の近くだったのです。
険しい地形の海岸で、波の音に、グリ夫のすすり泣く声が聞こえてきています。
「う……ううぅぅぅ……」
グリ夫は海岸に体育座りをしたまま、うずくまって泣いていました。
「と……父さん……」
「俺は父さんのトロフィーを……あのトロフィーを……父さんがくれた箱だけじゃなくて、トロフィーまでを……ごめん、父さん……」
グリ夫は、手元に落ちていた石を掴み。
「くそううぅ!」
っと海に向かって投げました。下を向いたまま。
「痛てっ!」
その声に驚き、グリ夫は顔を上げました。
グリ夫が見た先、海の上に……
なんとグリ夫の父、グリ郎が浮いていました。
両手と片足をあげたグリ郎が。
グリ郎の顔には、うさぴょんに穴をあけられたキャラメル箱のイラストとそっくりの穴が開いていましたが、グリ夫は気にもとめませんでした。
「と、父さん……」
グリ夫は目をキラキラさせながら、涙と鼻水を垂らし、目の前にいる父の亡霊らしき物に声をかけました。
「グリ夫よ。元気しておったか……?」
「あ、ああ、元気だ。父さんは元気かっ!?」
「父さんは元気なわけないよ。なにせ死んでるからな。わはははははは」
グリ郎が明るく返しました。今のグリ夫にとって、その父の明るい声は、とても勇気づけられるものでした。
「父さん……俺、父さんの形見を……」
「分かっておる。グリ夫よ。私はいつでもおまえを見てるよ。まるでストーカーのように。地獄から」
「そうか。父さん。地獄か。地獄はどうだ?暮らしやすいか?」
「そうだな、おまえの生活と、あんまり変わらない。わはははははははは」
「父さん……案外ひどいな……」
「まあ、家賃光熱費払わなくて良いのは助かるぞ。わははははは」
「父さん、あまりに現実味ありすぎだよ。それは」
すでにグリ夫の顔には笑顔が戻ってきていました。
「グリ夫や。金と友達は、大切にするのだぞ」
「金と友達……!?」
「そうだ。グリ夫よ。いつまでも過去にとらわれてはいかん。前を見て歩け。犬も歩けば棒に当たると言うではないか。前を見て歩かないからそうなるのだ」
「それは……それは……」
一瞬の時間を置き……
「うさぴょんのことかーーーーーーーーーーーーーーっ!!??」
グリ夫は絶叫しました。
「そうだ。グリ夫よ。お前が友を信じなければ、相手もお前を信じてはくれないぞ。信ずるのだ。友と神とフォースは信ずるべきだ」
「父さん、だんだん意味不明だよ!」
「まあよいのだ。グリ夫」
「父さん、良くないよ!」
「とにかく友を信ずるのだ」
「父さん、話ごまかしてるよ!」
「う、すまん、グリ夫。私はもう時間切れだ。カラータイマーが点滅している。私はこの世にいられるのは3分間だけなのだよ」
見ると、グリ郎の胸のカラータイマーが点滅していました。
「父さんっ!」
「すまんな、グリ夫。また会おうな」
「と、父さんっ!分かったよ父さんっ!その時は、地獄土産もよろしくだよ!」
「わーーーーーーはっはっはっはっ……」
そして、グリ郎の声と姿は、だんだんと消えていきました。
「負けないよ父さん。俺は、俺は、俺は負けない!俺はうさぴょんを愛するっ!」
少し方向性が違ってきたかもしれませんが、どうやらグリ夫はうさぴょんを許したようです。
第二ゲームの開始直前。
セフティゾーンにグリ夫が駆け戻ってきました。
「なんや、グリ夫、どこいったのかと思ったで!もうすぐ次のゲームが始まるっちゅうのに」
トラ吉は心配していたようです。
「すまなかった。トラ吉。そしてみんな。得にうさぴょん」
「な、なんや、何があったんや〜」
チンドンは不思議そうです。当たり前ですね。
「やろうぜ、次のゲーム。勝つさ。絶対に!」
グリ夫はさわやかな笑顔で言いました。
そう、これからが本当の戦いです。
−−−もしかするとさらに続くかもしれない−−−
あまりにあきれたのでメッセージを送ってみる。