サバゲニッポン昔話

第一話:黒いネコ達


 むかしむかし、といってもけっこう最近のことです。なにせ電動ガンがあるぐらいですから。
 あるところで動物さんたちがサバイバルゲームを楽しんでいました。

 クマさんのクマノフさん、ウサギさんのうさぴょん、ネコのネコ田さん。そしてパンダの上野パン太の4人は、とってもお仲良しです。
 いつも週末の度に、撃ち合っています。

 今日も、サバイバルゲームを楽しんでいました。
 でも、今日はちょっとした事が起こりました。

 セフティゾーンでくつろいでいた4人の前に、突然、3人の黒猫さんたちがやってきたのです。
「やいやい、ここは今日から俺達のフィールドにゃ」
 3人のうち、一人の黒猫さんが言いました。

「……あぁ〜!ネコ山たちにゃ〜」
 ネコ田さんは、三人の黒猫さんを見て驚きました。そして黒猫さんたちもネコ田さんを見ると。
「ネコ田にゃ〜」
 と一斉に声を上げました。

「ネコ田さんの知り合いなの〜?」
 パン太が、ゆっくりと尋ねました。パン太のしゃべりは、いつもこんなふうにゆっくりです。
「そうにゃ、中学生の時の同級生のネコ山、ネコ川、ネコ林の三人にゃ〜。この三人、いつも一緒にいて、回りからは黒い三連星って呼ばれてたにゃ〜」
「へ〜。なんかかっこいいね〜」
「で、いつも悪さばかりしてたにゃ〜」

「とにかく勝負にゃ!うちらが勝ったらこのフィールドはもらうにゃ!文句はないにゃ!?」
「あるよぉ〜、いっぱいあるよぉ〜」
「うるさいにゃ!パンダのくせに生意気にゃ!」
「まあこの調子じゃあきらめてくれないぴょん。やっちゃうぴょん」
「えぇ〜」

「勝負はセンターフラッグでやるにゃ」
「センタ〜フラッグ〜?なにそれぇ〜?」
 パン太が素朴な疑問を投げかけました。
 クマノフさんが説明をします。
「フィールドの真ん中にフラッグを一つだけ置いて、それにタッチしたチームが勝ちクマ」
「へ〜」
「でも、それだと走り込んでタッチしたら一瞬で終わるぴょん」
 そこでネコ山さんがニヤリと笑いました。
「そんなこともあろうかと、こーんなものを用意したにゃ!」
 ネコ山さんは、バッグの中から缶ジュースを10本ほど取り出しました。
「これをフラッグの所におくにゃ。フラッグにタッチするんじゃないにゃ。フラッグまで行った後、これを一気飲みするにゃ」
「なるほど、飲む間に撃たれるかもしれないか。考えたクマ〜」
 クマノフさんが感心の声を上げました。
「これ、なんてジュースぴょん?見たことないぴょん」
 缶ジュースには「メッ●ール」と書いてありました。
「フッフッフッ、これは幻の飲み物にゃ〜。あんまりおいしいからどこに行っても品切れで、なかなか置いてないにゃ〜」
「へ〜」
 パン太は本気で感心しました。
「ちゃんと最後まで飲みきらないとだめにゃ。飲んでる途中で撃たれてもアウトにゃ〜。最後の一口まで飲みきるにゃ〜」
「は〜い」
「それと、時間内に相手を全滅させても勝ちだにゃ」

 ゲーム開始の時間がやってきました。
 パン太、うさぴょん、クマノフ、ネコ田さんの4人は、フィールド東側にひとかたまりになっています。
 フィールド中央にはフラッグが置かれ、そこには7本のメッ●ールが置かれています。
 フラッグの周囲、直径10メートルほどはブッシュがほとんど無い、開けた場所です。
 今、パン太たちが待機しているスタート地点からフラッグまでは30メートルほど、そして、その向こう側30メートルほどには、やはりこちらと同じように黒猫さんたち3人が待機しています。
「準備いいかにゃ〜!?」
 西側から大きな声が聞こえてきました。
「ええぞ〜」
 クマノフさんが大きな声で返します。
「いくにゃ〜!開始にゃ〜!」
 再び大声が聞こえ、ゲーム開始を知らせるホイッスルの高い音が響き渡りました。



「いくぴょん、先手必勝ぴょん!」
 うさぴょんが軽快に駆け出しました。その後をネコ田さんが追います。
「フラッグ周辺のブッシュの無い所までは行くなクマ」
 うさぴょん、ネコ田さんの後ろ姿に向かい、クマノフさんが指示を与えました。

 うさぴょん、ネコ田さんがブッシュの無くなる寸前まで来ました。
 森の中に、ぽっかりと開けた空間、直径20メートルほどのブッシュの無い空間が目の前にあり、その中央にはフラッグとジュースカン。
 広場に面したブッシュを見ても、黒猫さんたちの姿は見えませんでした。

 そのころ、ネコ山さんたち、黒猫さん3人は、フィールド西側から南側に向かって移動していました。
 ネコ山さんが先頭。その後ろ3メートルの位置にネコ川さん。さらにその斜め左後ろ3メートルにネコ林さんが続きます。



 3人は、ゲーム開始直後はフラッグへの警戒をあきらめました。
 センターフラッグ戦では、フラッグに駆け込まれたらそのままタッチされやすいのですが、あえてフラッグ警戒に一人もつけなかったには理由がありました。
 黒猫さん3人は、メッ●ールの力を信じているのです。
 黒猫さんたちの狙いは、パン太チームの全滅にありました。
 初めからメッ●ール一気のみをするつもりはありません。なぜなら、それは動物として出来るはずのないことだからです。
 仮に相手チームの人間がフラッグにたどり着き、一気飲みをしたとしても、センターフラッグ戦の狭めのフィールドなら、たいていどの位置からでもフラッグを攻撃できます。
 一気のみの最中に狙撃して倒すこともできるのです。
 ゲーム開始後5分で、黒猫さんたちはフィールドフラッグの真南、20メートルほどのブッシュの中にたどり着きました。
「このままネコ田たちの側面に回って一気に叩くにゃ〜」
 ネコ山さんは笑みを浮かべてそう呟きました。

 ゲーム開始から5分、今まで一つも発射音は聞こえません。
 もっとも先頭にいるネコ田さんも、うさぴょんも、敵を一人も発見できていません。
「いないにゃ〜。どこだにゃ〜、にげたかにゃ〜」
「そんなわけないぴょん」
 二人はフラッグ方面と、さらにその奧側にある西側のブッシュを警戒していました。

 クマノフさんとパン太さんは、別方向へと進行しました。
 クマノフさんはブッシュ内を北方向から、パン太は南方向から進行していきました。

 フィールド南側を静かに進行していた黒猫さんたちの方に近寄ってくる音が聞こえてきました。
 ガサ、ガサガサ……と、その音は、だんだんと近づいてきました。



 先頭を進行していたネコ山さんは移動をやめ、ゆっくりとしゃがみこみました。
 そして、そちらのほうへ、ゆっくりとM16A1の銃口を向けます。
 ネコ山さんのその行動を見て、後ろのネコ川さん、ネコ林さんも足を止めました。
「来たにゃ……」
 ネコ山さんが呟きました。
 待つこと30秒、ネコ山さんの前方5メートルのブッシュが揺れて、その間から白と黒のツートンカラーの顔が表れました。
 ネコ山さん視界の中で、リアサイト、フロントサイト、そしてツートンカラーの顔が重なります。

 パパパン☆という発射音に続き、パン太のヒットコールが聞こえました。
 うさぴょんも、ネコ田さんも、クマノフさんもそれに気づきました。
「南側ぴょん」
「パン太がやられたにゃ」
 うさぴょん、ネコ田さんの二人はフィールド南側に警戒方向を変えます。
 耳の良いうさぴょんは、パン太が撃たれた時の発射音から、敵の位置がなんとなく掴めたようです。
 けれども、その一帯にいる敵が一人なのか、二人なのか。それとも三人いるのかはわかりません。
「行ってみるぴょん」
 うさぴょんは、ネコ田さんにそう言うと、南東方向へと移動しました。
 うさぴょんは、フィールド外周に近い位置すると、今度はフィールド内側に向かうように慎重に西に移動を始めました。



 パン太がアウトになった位置周辺までいくと、ブッシュの切れ目にネコ山さんの姿が見えました。
 ネコ山さんは、どうならうさぴょんに気づいていないようです。
 うさぴょんはグロック26のサイトをネコ山さんに合わせ、2回トリガーを引きました。
 ネコ山さんの右肩と右腕で、白いBB弾が跳ねました。
「にゃ!?ヒットにゃ〜!」
 ネコ山さんが立ち上がり、セフティゾーンへと戻り始めます。
 と、同時にうさぴょん方向へと弾が飛んできました。
 今の発射音でうさぴょんのだいたいの位置を掴んだネコ川さんの探り撃ちです。
「ここらへんにゃ〜」
 ネコ川さんは、姿の見えないうさぴょんに向かってXM177E2を向け、数発ずつのフルオート射撃をしています。
「牽制射撃たのむにゃ」
 ネコ林さんは牽制射撃をネコ川さんに任せて、フィールド外側へと移動を始めました。

 まばらな牽制射撃が続く中、うさぴょんの南側でガサガサと草をかき分ける音が聞こえます。



「回り込まれてるぴよん。こまったぴょん」
 アンラッキーヒットを避けるため、地面に伏せたままのうさぴょんが呟きました。
 このままじっとしていると、側面から回り込まれて見つかり、移動をすると牽制射撃を行っている相手から見つかってしまいます。
「こまったぴょん。しかたないぴょん……」
 うさぴょんは射撃がやんだ瞬間、北側に向かって走り出しました。
 背後からフルオートの二人分のフルオート射撃音がしましたが、走ってるうさぴょんを捕らえることはできません。
 うさぴょんは敵との距離を取ると、ブッシュに潜り込みました。
 一端足を止めた後、うさぴょんは思いました。
 一人を倒して、今の場所に残り二人の敵。つまり他に敵はいません。
 敵チームでフラッグを警戒しているプレイヤーはいないのです。
 うさぴょんはチャンスと思うと、フラッグに向かって駆け出しました。
 思った通りでした。フラッグに到達し、そこに置かれている缶ジュースを手にとっても、射撃は来ません。
 「これでおわりぴょん」
 うさぴょんは、メッ●ールを手にとり、プルタブをあけると、一気に口の中に流し込みました。



 そして、その場に倒れ、動かなくなりました。
 うさぴょんの手から、まだ半分以上残ったままのメッコールが落ち、地面を塗らしました。

 「うさぴょん!生きてるかにゃ!?」
 ネコ田さんが、10メートルほど離れた所で倒れているうさぴょんに声をかけました。
 しかし、返事はありませんでした。まるでただの屍のようでした。
 その声に気づいたネコ川さん、ネコ林さんがネコ田さんの隠れている位置を推測し、射撃を開始しました。
 負けじとネコ田さんが撃ち返します。



 ネコ川さんとネコ林さんの姿が確認出来ました。
 ネコ田さんは立ち上がり、ブッシュの上に顔を出し、フルオートで数発だけ射撃をすると、すぐにしゃがみ込み位置を変えます。
 そしてまた別の位置から顔を出して射撃を加えます。
 ネコ川さんとネコ林さんもフルオートで撃ち返し、一気に激しい銃撃戦となりました。
「クマノフさん、援護たのむにゃ!」
 1対2では不利と考えたネコ田さんが叫びました。 「クマーーーーーーーーーーー!」
 フィールド北側から声が聞こえました。
 そして、フィールド北側からの突然の射撃音が聞こえると、ネコ川さんがヒットコールをしました。
「にゃにゃ!?ヒットにゃ!」
 信じられない。といった声でネコ川さんがヒットコールをしました。
 クマノフさんがフィールド北側から、ネコ川さんを倒したのです。距離は40メートル以上でしょうか。
 クマノフさんはAK47を空に向けて「クマーーーーーーーーー!」と勝利の雄叫びを上げました。



「クマノフさん、まだ一人残ってるにゃ!」
 ネコ田さんが勝利の余韻に浸っているクマノフさんに注意を促した瞬間。ネコ田さんのゴーグルでBB弾が跳ねました。
 ネコ林さんの攻撃で、ネコ田さんはアウトになってしまいました。
「あと一人にゃ!」
 ネコ林さんはさらに前進して、勝利の余韻に浸っているクマノフさんに狙いを定めます。
 ネコ林さんの銃、M4A1からクマノフさんに向かってフルオートでBB弾が飛び、そして当たる寸前、クマノフさんはブッシュに潜りました。
 ネコ林さんはブッシュに潜ったクマノフさん見失ってしまいました。
「逃げられたにゃ……」
 ネコ林さんがつぶやいた瞬間。
「クマーーーーーーーーーーーー!」
 さっきクマノフさんが潜った場所とは別な場所、そこから東に10メートルほどずれた場所から、クマノフさんが顔を出し、ネコ林さんに向けてフルオート射撃をしてきました。
 ネコ林さんは、間一髪、ブッシュに伏せました。
「速いにゃ。いつのまに移動したにゃ!?」
 断続的にフルオートの射撃が行われ、ネコ林さんは伏せたまま動けなくなりました。
 その間にも射撃位置は、だんだんと近寄ってきているようです。
 ネコ林さんがブッシュから顔を覗かせ、クマノフさんの位置を確認しようとしても、弾は正確に飛んできました。
「まずいにゃ〜、固められてるにゃ〜。あのクマ、強すぎだにゃ」
 ネコ林さんは、ここで一つ、作戦を思いつきました。
 それは逃げ切ることです。
 時間切れまでネコ林さんが生き残れば、とりあえず引き分けには持っていけます。
 このままクマノフさんとやり合うのは、あまりに分が悪いと踏んだネコ林さんは、フィールド南側に向かって逃げ出しました。
 そしてブッシュに潜り込み、タイムアップを待つ用意をしました。
「どうせ、メッ●ール飲みきることはできないにゃ」

 敵の最後の一人、ネコ林さんを退散させたクマノフさんは、フラッグに向かって歩き出しました。
 そして足下に倒れていたうさぴょんの耳を踏んでいるのも気にせず、メッコールの一つを手にとると、プルタブをあけ。そして、一気に飲み干しました。
「うまかったクマ。ロシアにこんなうまい物はないクマ」

 ゲーム終了し、全員がセフティゾーンに戻ってきました。
 メッ●ールを飲み、意識を失っていたうさぴょんも、なんとか息を吹き返しました。その耳にはクマノフさんの足跡がくっきりと残っていました。
「というわけで、ボクたちの勝ちだよ〜」
 パン太が、いつもどおりゆっくりとした口調で言いました。
「というわけで、さっさと帰れにゃ」
 ネコ田さんが黒猫さんたちに冷たく言い放ちます。
「そもそも、なんでフィールド奪いにきたクマ?」
 クマノフさんが素朴な疑問を投げかけました。
「それは……」

−−−続くかもしれない−−−

あまりにあきれたのでメッセージを送ってみる。

なまえ

つくったひとへのメッセージ


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