『全日本妹選手権!!』を
マジメに評価してみる。
その2


text : 岡野勇

2002/06/08


 先日、作家の岡田斗司夫さんのサイトを読んでいたら、6月5日付けのトップページの「今日のヒトコト」というコーナーに以下のようなことが書かれていました。

 岡田さんに了承を得た上で、全文掲載させていただきます。

今日のヒトコト

 ここに書こうかどうか、迷ったんですが…。

 『全日本妹選手権』、面白いですよ・・

 ・・と書いたら、同人女性の方から怒りのメールをいただきました。
 「同人女はあんなのじゃない。オタク男が勝手に妄想してるだけだ」という、かなりキツい内容でした。
 言いたいことはわかるつもりです。でもねぇ、それはお互い言いっこナシにしませんか?
 オタク男がボーイズラブに対して「男子校寄宿舎はあんなんじゃない。オタク女の勝手な妄想だ」とか言ったら腹立ちますよね?「ほっといてくれ!」って。それと同じだと思うんですよ。
 『エロイカより愛をこめて』の男性像がアリなんだから、『全日本妹選手権』の同人女像もアリってことではダメでしょうか?
  お互い、いい歳してオタクなんだから。世間から奇異な目で見られる趣味をやってる、という点では大差なし。ここは「痛み分け」ということで。


 岡田さま。掲載許可ありがとうございました。


 この岡田さんの意見は、(少なくとも男子であるオレからすると)非常に納得のいくものでした。


 まあ、なんでこのように人のサイトに書かれていたことを引用しているのかと言いますと、もちろん、勢い余って前回の「オカノ通信」にあんな事を書いてしまったので、ちょっとドキドキしている次第だからなんですが。(^^;;)

 オレにもキツイ意見が来るのかしら? とか。
 ものすごい小心者ですね。>オレ
 だったら書かなきゃいいのに……。



さて本題。

 前回書き忘れたいくつかのこと…特に「『全日本妹選手権!』は「オタク性差」の中間…もしくは中立点で描かれているんじゃないか?」と書きましたが、これについてもう少し書いてみようと思います。


 オレも現実の「同人女子」が、あのマンガで描かれている「まま」だとは思っていません。

 それは前回も書いたように、あの作品中のオタク同人女子の描き方は「デフォルメ」がなされている描写だと受け取っていますから。

 で、「デフォルメ」もしくは「カリカチュア」というのは、「そのモチーフを極論的に部分的な特徴を特化して表現する手法」であるわけです。

 この部分が重要なんですが、例えば他にも書いた…

「男子オタには女子オタがこう見える」
「女子オタには男子オタがこう見える」

 …これらについて、「美化した方向性でデフォルメしたもの」というのは過去にいくつもあったわけじゃないですか。

 例えば「男子オタが美化した、女子オタ表現」としては、これはもうあらゆる商業作品なんかにも出てきますよね。
 具体例を出していけば、アニメ『トップをねらえ!』のタカヤノリコや、コミック『濃爆!おたく先生』の女子高生や、ゲーム『こみっくパーティ』に出てくるヒロイン全部…とか。

 反対に「女子オタが美化した、男子オタ表現」としては、あまり詳しくありませんが、コミケカタログなどのリポートマンガとか読んでいても時々見受けられますし、極北としては当サイトからリンク貼らせて貰っている小泉理紗子さんの書かれた同人誌のオタクボーイズラブ小説『OTAKUなハニー』などが挙げられると思います。


 つまり「美化」=「それぞれの性の側にとっての理想像としてのオタク」ってことですね。
 「こういうヒトがいればいいのになあ」みたいな。
 理想というか、妄想も巨大なんですが。(というかほとんど妄想ですけどね。)


 で、実際はそんなのいないのがわかってもいるから、理想像は理想像たりえているわけです。


 しかしここでふと思ったのが、この「美化した方向性で描いている物」って、男子側の物が圧倒的に多いように思うんです。

 上記に挙げた具体例だけではなく、例えば『ああっ女神さまっ』に出てくる脇役の女の子キャラクター達や、同じ藤島康介作品の『逮捕しちゃうぞ』の美幸なども、ある意味「オタク度が高く、都合のいい可愛さ」を持ち得ていますし、こういうキャラクターは脇役クラスでは他作品でもゾロゾロといます。『エヴァンゲリオン』の脇役・伊吹マヤちゃんなんかもそう。

 「オタク度が高く、オタ知識も豊富で濃くて、なおかつ可愛くて…」ってことですね。

 ついでに書くと、男性は女性に都合の良い「処女性」を求めるワガママな生き物ですから、こういうキャラクターにはそのへんもフォローされていたりします。

 『逮捕しちゃうぞ』の美幸も、中島という恋人がいながら「お互いに奥手で全然進展しない」という性格付けをすることによってそのフォローがされています。
 『エヴァ』のマヤも「潔癖性」。そして劇場版の最後では「男性よりも女性のリツコに望まれることを求めていたこと」が描かれていました。

※ここで「男子オタにとっての女子オタへの理想と現実のギャップ」を描いた作品として、ケヴィン・スミス監督の映画『チェイシング・エイミー』を挙げたいところですが、話がややこしくなるので割愛します。


 反面、これはオレの勉強不足などもあるかも知れませんが、女性側の具体例がなかなか思いつかなく、その中で小泉理紗子さんの『OTAKUなハニー』が目立つのは、やはり「あまり女子側がそういった理想のオタク男子像を描いたことがない」からなのではないか? と思ってしまうのですよ。
(それゆえオレは、小泉さんの書かれた『OTAKUなハニー』は同人小説でありながらもエポックだったと思うのですが。)



 さて、前述であえて「美化した方向性でデフォルメしたもの」という書き方をしましたが、じゃあ「美化していない、もしくは悪化させた方向性でデフォルメさせたもの」ってのはナニか? というと、これがオレが『全日本妹選手権!』を評価している部分に繋がっていくんですが…

 これもそれぞれの性の側にとっての例で書いていくと、「男子オタが悪化して描く、女子オタ表現」って、前述の逆であまり商業作品などで描かれていることが少ないんですね。

 一見「悪い見本」みたいな形で登場しても、実は…みたいなことになったり。
 具体的に書けば「眼鏡をかけていて、見た目イケていないと思ったオタクの女の子が、実は眼鏡を外したらスゲーカワイ子ちゃんだった」とかそういうことなんですが。


 反面、「女子オタが悪化して描く、男子オタ表現」ってのは、少女マンガなんかでもよく出てきますね。
 なんかイケてないモテないオタク野郎がいたりして、それがヒロインの周りうろちょろしていたりして。
 で、絶対にメインになれないというか、「キショイ」とか「ギャグメーカー」で終わっちゃうか。
 そんなヤツ。

 『セーラームーン』の、はじめうさぎを追いかけていたけど、その後脇役のなるちゃんとくっついちゃったヤツなんかもそのラインに入ると思います。
 まあ、その程度で終わりゃいいですけど、もっと露骨に「人間のクズ」的にまで描いちゃっている物もありますね。

 これは「美化」と反対で女子側サイドの描写に多いと思うんです。


 TVドラマなどでも、いまだに「オタクキャラ」がダメ男くんとかそんな感じのネガティブイメージで描かれたりすることが多いのは、「自称:健全」である作り手側のオタクへの不理解などもあると思いますが、多くのドラマが「女性層をターゲットにしている」ということも大きいと思われます。
 意外に思われるかも知れませんが、「結果的に男性にも人気が出た作品」はありますが、ほとんどのTVドラマは基本ターゲットが女性です。さらにその中から世代別のターゲット向けになって行くわけです。
 あの本放送後に大ヒットとなったドラマ『踊る大捜査線』も…
「本放送の視聴率が良くもなく悪くもなかったから好き勝手出来た。
 あれより視聴率が良かったら女性層向けに青島と雪乃の恋愛物要素に走らざるを得なかった」
 …とはプロデューサー氏がインタビューで語っていたことです。


 ちょっと話がそれてしまいましたが、つまり「美化描写」と「悪化描写」の割合が、これまで男女オタそれぞれの中で反比例だったんではないか? と。


 なんかね、男子側があまりソレを描かなかったってのは、「あんまり悪く描いちゃイケナイ」みたいな心理があるんですかね。
 「オレたち、ただでさえモテないのに、さらにモテなくなっちゃうのはイヤだ!」みたいな心理とか。


 で、『全日本妹選手権!』って、不可侵領域とも言えたそのへんに踏み込んじゃった作品なんではないか? と思うんですよ。

 これがオレの評価ポイントなんですが。

 なので、岡田さんの書かれていたことと似てしまいますが、「女子側だって、これまで男子オタを悪く(もしくは「笑い」として)描いてきていたんだから、男子がだってそういう風に描いたってイイじゃないか!」というのがオレの意見です。


 で、これだけなら『全日本妹選手権!』は「ただ、男の側から女子オタクを笑いのネタにしたマンガ」で終わってしまいますし、それではただの「男子側から描いたマンガ」で明らかに男子寄りです。


 では何で、この作品に対してオレが「「オタク性差」の中間…もしくは中立点で描かれているんじゃないか?」と思っているのか? そのような評価をしたのか? というと、「確かにこのマンガは同人女子を悪化する方向性でデフォルメすることによって笑いとしている」。
 しかし同時に「男子オタも悪化する方向性でデフォルメして笑っている」んですね。

 笑っているというか、「嫌がらせ」に近い。

 ほじくられたくないところを、あえてほじくって、なおかつ「これまでの作品が美化したデフォルメで見せていた部分に、あえてこちらの理想を裏切る設定を持ち込んでいる」。
 (なので、オレは初めて読んだときに一瞬、「この作者、実は女性なんじゃないか?」とすら思ったんですが。)


 具体例を書きますと、前回も書いたように例えば「恵美ちゃん」という13歳の妹キャラクターは「お兄ちゃんが大好き!」です。
 可愛くて、お兄ちゃんのことを好きで、しかも適度に初心者なまだウブな同人女子の新人です。

 これだけなら「美化したデフォルメ」なんですが、ここにこの作者は「実の血の繋がりのある兄に、兄妹愛以上のものを感じてしまっている」という設定を持ち込んじゃっているんですね。
 前回も書いたことですが、「妹萌え」作品の設定の大前提は「実は血が繋がっていない」ってことです。
 これによって「近親相姦じゃなくて…」っていうエクスキューズにしているんですが。
 具体例出せば、あだち充の名作『みゆき』とかね。

 だけどこの恵美ちゃんは、登場人物中一番「萌え」な記号で造形されたキャラクターであるにもかかわらず、「相手が実の兄妹な分、登場人物中一番危険なお兄ちゃん好き」になっちゃっています。

 さらに「まなみちゃん」という、お兄ちゃんとは腹違いの妹…というキャラクターは、まあ「血の繋がりが半分なぶん、恵美ちゃんよりはマシ」ですが、法律的・医学的に近親相姦であることに変わりはありません。
 困ったことにお兄ちゃんもまなみちゃんに劣情を抱いています。
 しかも恵美ちゃんより発育も良く、年齢も高校1年生とちょっとオトナなぶん、思わず「いいよ…」とまで。
 いつ、人生踏み外してもおかしくない状況です。

 3人目の「操ちゃん」は、冒頭に書いたような「オタク度が高く、オタ知識も豊富で濃くて、なおかつ可愛くて…」に適合する、ある意味「オタ男子にとって理想的な女子オタキャラ」と成り得る資質をもった造形がされているんですが、「好き好き!」なお兄ちゃんが「義理の兄」ということで血の繋がりが無いため、これまた冒頭に書いた、こういう「オタ男子にとっての理想像としての女子オタキャラ」に求められる「男性にとって都合の良い処女性」を欠如させています。
 それはもう、具体的にエロなことをしちゃっているわけです。

 そういう意味で、操ちゃんは「対お兄ちゃん」という部分では何をしても安心なんですが、「オタクマンガの主人公」としては「男子の理想をうち破る反則技」の設定を背負うことによって、男子オタの「理想」を壊してくれているわけですな。
(このあたりが、オレが「嫌がらせ」に近いと感じている部分です。笑えますけどね。 ^^)


 つまり「一見、男子オタ向けであるように見えていながら男子オタの理想を壊し、女子オタをも悪化したデフォルメで笑いにし、なおかつ女子側から見た男子オタの悪化デフォルメも描かれている」。

 そのせいだと思うんですが、随所に「萌えの記号」はふんだんにちりばめられているにもかかわらず、この作品は『あずまんが大王』のような男性読者の「萌え心」を掻き立てないんですよ。不思議なくらい。


 そのあたりが、オレがこのマンガを「男女オタにとっての性差の中立点で描かれているのではないか?」と思い評価した部分です。

 まあ、このテキスト自体が「男子であるオレの側」の感想だけで書かれちゃっているので、本当にそうなのか? はいまだ判断が難しいのですけどね。


 ま、悪い書きかたしちゃえば「どっちつかず」の作品とも言えるんですが、明らかにソレを狙っていると思える描写が多いので、そのへんを狙っているのか? はたまた、それがこの作者・堂高しげる氏の作家性なのかなあ? とか思っているんですが。


 とかなんだかんだ笑いもないまま書いてきてしまいましたが、小難しいこと考えながら読むマンガじゃないですよ。ホントは。(^^;;)
 まあ、「読む人を限定する作品」であることは間違いないですが。


 まさか、こんなマンガについて2回も書くことになるとはオレ自身予想もしなかったなぁ…。(^^;;)


【了】


※『OTAKUなハニー』

 文中で触れました小泉理紗子さんの同人誌『OTAKUなハニー』は、小泉さんのサイトから「メールで問い合わせていただければ通販しております」とのことです。
 また、夏のコミケでは
8月10日(土) 東地区”C”07a サークル名「TR2工房」
 で委託販売される予定だそうです。



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