『全日本妹選手権!!』を
マジメに評価してみる。


text : 岡野勇

2002/06/05


 先日、人気コラムサイト『ちゆ12歳』で取り上げられていた『全日本妹選手権!!』(堂高しげる 講談社)というマンガが気になり、さっそく買ってみました。

 ですが、これがタイトルに偽りアリというか…
 一見、絵柄は「よくありがちなオタク野郎向け萌えマンガ」です。

 が、「妹萌え」なのははじめの読み切り数話だけで…それもほとんどが「近親相姦未遂」なお兄ちゃん萌えしている妹とか、義理の兄に性的攻撃を与え続ける義妹だったりして、癒されるどころか犯罪スレスレです。

 でで、残りの基本は…

「やおいマンガを書くことに青春をぶつけている女子高の漫研」

 …を舞台としたギャグ4コマ漫画です。
 もはや別に「妹選手権」でも何でもありません。

 主人公達は男の尻を描くことに青春の全てを賭けていて、「異性に興味のある異性には興味がない」という有様です。
 飛び交うセリフもとにかく「下」。
(で、読み切りに出てくる「お兄ちゃん萌え」な妹たちはこの漫研部員なんですが)


 このマンガ、明らかに(『ちゆ12歳』で書かれていたとおり)「オタクによるオタクのためのオタクマンガ」なんですが、バカ丸出し。

 しかもネタの濃度が濃すぎて、ほとんど原液。「3倍くらいに薄めないとキツイ」感じです。
 当社比では『濃爆!おたく先生』の3倍くらいの濃度でしょうか。

 ぶっちゃけた話、わたしゃ「ここに書かれている事が全部わかる妹キャラ的女子がいたら是非とも恋人にしたい!」と思った次第ですが、まあ、おそらく地球上にはいないでしょう。


 なので『漫画ゴラク』とか『まんがタイム』とか『ガロ』とか『クイックジャパン』とかを読んでいる人にはお勧めできないってのはわかっちゃいるのに、最近、会う人会う人見境なしに見せびらかしたり、薦めたりしている困ったちゃん状態です。
(常にカバンに入れて持ち歩いている状態なので…)


 一体、このマンガの何がオレをそこまで駆り立てるのか?


 ちょっと冷静に考えたんですが、このマンガ、確かに基本は「大ヴァカ」なんですが、反面「オタであればあるほど」その描写に様々な価値付けが出来るという点で、実はかなり評価していい作品なのではないか? とか思ったりしているわけです。


 このマンガは前述のように「オタクによるオタクのためのオタクマンガ」なんですが、オタクの人にも勧めづらい…というか、薦めるべき相手を見極めないと完全に引かれちゃいます。

 どういうことか? というと「深夜、これを読んで笑っている自分の笑い声に気づいたときに、ふと死にたくなる」んですよ。

 これ読んで笑えてしまうと言うか、わかってしまう自分に恐怖を感じると言いますか。

 読んでも普通に「引く」「笑えた」くらいの人なら、まだ人生大丈夫だと思われます、

 しかし、「笑って」その後に「その、笑っている自分に問題を感じる」人は、すでに人生大ピンチだといえるでしょう。
 もしくはすでに人生の何かを捨てていると考えていいんではないかと。

 ま、だけどそういう「笑っていることに死にたくなる人」がターゲットでのマンガであることも事実なんですが。(矛盾したこと書きますが)


 ストレートに書くと「イタい」んですよ。何か。


 ここがこのマンガの評価ポイントでもあるんですが、なんで「オタクによるオタクのためのオタクマンガ」をオタクが読んでイタいのか? を考えてみるに、この作者の視点の独特さにあるような気がします。


 なんとなく「オタクを、どこか俯瞰した目線で見ている」んですね。ある意味ものすごく「客観的な視点」で。

 それでいて不思議なのは、作者が「非オタだから」というワケでもなく、明らかに「その中にズッポリ入り込んでいる」のも見えているところです。

 最近増加してきた「わかった風なことを言っている似非オタク」でも「サブカル君」でも「オタク市場を狙ってオタのフリをしているヤツ」でも「人に薦められてちょっとオタチックなものに首をつっこんでみたノンケ」でもなく、「本物」だからデフォルメできる部分。
 それがキチンと出ている。


 例えば、徳光康之のコミック『濃爆!おたく先生』や、ガイナックスの名作アニメ『1983・85 おたくのビデオ』などは、「オタクによるオタクのためのオタクファンタジー」をオタクの目線で描くことによって、感情移入と同時に「真綿で首を絞められているような恍惚と恥ずかしさ」が成立している素晴らしい作品だと思うんですが、このマンガ『全日本妹選手権!』の場合、その視線が小津安二郎映画の画角のように「オタク目線に対して水平を保っていない」んですね。
 どこか斜になっている。

 もうちっとわかりやすく書くと、『濃爆!おたく先生』や『おたくのビデオ』ってのもノンケな人(非オタクな人)には理解不能な作品だと思いますが

「オレたちはこうなんだ!! 悪いか!!」

 …ってスタンスで強気なんですね。
 ところが『全日本妹選手権!』の場合…

「オレたちが追っかけたり、ズッポリはまっているものや、その姿って、こういうコトなんだよ」

 …ってなスタンスなんではないか? と。

 で、このスタンスをオレが何で評価しているのか? というと、これまで「ありそうで無かった」と思うんです。そういう視点のオタクマンガって。


 「オタクを主人公にしたマンガ」そのものは、前述『おたく先生』だけでなく、『まにぃロード』など、近年のオタク市場の拡大や、オタクである世代が「リリースする側」に増加してきたこともあって、他にもいくつかの作品があります。

 これらは基本的にオタクである生き方をポジティブ・肯定的、そしてある種のファンタジーとして描くことによって、現実にはあり得ないカッコイイおたく像を提示してきたと思うんです。

 カッコイイってのは語弊があるか。(^^;;)

 別の言い方すれば、オタク同士の格付けの一つに「相手は濃いか?ウスいか?」ってのがあるわけですが、作品中でもそれでキャラクター同士の格付けを設定することによって「濃い主人公=凄いヤツ」って風にしている作品がほとんどなわけですね。


 ところが『妹選手権』では、まあ確かにそういう「濃い・薄いネタ」は出てくるわけですが、これまでの「オタク主人公物」と違って、その価値基準を作品の価値の中核に設定していないのが斬新だと感じました。

 キャラクターによって「濃い・薄い」はいるんですが、それを主人公像の価値基準の中核に持ってきていないから、「薄いキャラクター」でも意味がある。(ギャグマンガ足り得る人物となっている。)

 じゃあ、それで読んでいるターゲットであるオタク層が「冷めてしまうのか?」…というと、これがNO! でして、自分たちが萌え(燃え)ているものへの情熱のベクトル。もしくは「その正体」というものを、的確な描き方をすることによって「独自の作品価値」を形成しているのではないかと。


 では、その「このマンガの価値基準」とは何なのか?


 実はここ数年、いろいろ気になってちょこちょこ調べているのですが、一口に「オタク」といっても「男子オタ」と「女子オタ」というのは、その「萌えのベクトル」や、好きな作品が現れ、のめり込んだ時の「行動」の方向性がだいぶ違うというのがわかってきました。
 実はオタクにも「性差」による違いというのがあるんですね。


 よく「オタク男女によるカップリングは上手く行くか? 行かないか?」という話題がありますが、実はこの「オタク性差による行動情熱のベクトルの違い」を考えると、必ずしも上手くいかないんじゃないか? と。
 いや、上手くいくこともあるのかも知れないけど、そこにはやはり「オタク性差の問題」はついて回るのではないか? と。


 で、なんでこんな話を書いているのか? と言いますと、この『全日本妹選手権!』って、ちょうどその「オタク性差」の中間…もしくは中立点で描かれているんじゃないか? と思ったからなんです。

 前述したように、このマンガは「オタク男子である作者」が描いているにもかかわらず、主人公達は「やおい同人女子オタク」です。
 この点もある種「特異」だと思うんですが、内容的にも、例えば冒頭をはじめ時々描かれる「妹選手権」の様子や、作品中で主人公の女子オタ達に罵倒される男子オタ像ってのは、ある意味ステレオタイプですが、反面「女子オタには男子オタがこう見える」というのを上手く笑いとして描いていると思います。

 また、やおい同人女子オタク達の考え方…というのはまだ自分の中でもハッキリと理解できているわけではないのですが、ここ数年、少しですが勉強してきた中で「それほど外れているわけではないんじゃないか?」と思えます。

 つまり上記の逆で「男子オタには女子オタがこう見える」ってことも上手く笑いとして描いているのではないか? ということですね。
(まあ、それが本当に正確かどうかは、現在、実際のヤオイ同人女性の感想を待っているところなんですが。)

 もちろんその描き方は「ギャグマンガ」である以上デフォルメされているわけですが、デフォルメの基準となる部分の「魂」や「思想」・「思考形態」はオリジナルを失わないはずです。

 実際、「妹選手権」の描写でも、「妹萌え属性」にはクるシチュエーションをてんこ盛りにするという「魂や思想」の根本は保っています。
 そしてそれを保った上で、デフォルメとして「実は血の繋がったお兄ちゃんに兄妹愛以上のものを感じてしまっている」という反則技を「笑い」として持ち込んでいます。
(何でコレが反則技なのか? というと「妹萌え物」の場合、普通大原則として「兄妹は実は血の繋がりがない」という設定が持ち込まれるのが常套だからですが。)


 つまり、これらによってこのマンガは「自分たちを客観視させられたときのみっともなさ」と同時に「オレたちは確かにいわゆる<一般的>な部類じゃないかも知れないけど、楽しいライフスタイルを保っているんだ」ということを描くことに成功しているのはないか? と。
 そして「オタク男女の性差問題の中間」からリリースされている…という点でも、高い評価が出来るのではないか? と考えます。

(ああ、なんかすげーオーバーな表現してしまったような気がするなあ…。
 本気そこまで過大評価みたいなことを思ってるのか?>オレよ…


 簡単に書けば「萌えな人々」を客観的に描いたギャグマンガであるのかなあ…」と。
(だから笑いつつも「イタタタタ…」な感じなんですが。 ^^;;)


 まあ、前述したように「オタク以外の人」には全くオススメできないし、理解することも不可能な作品だと思いますが、「自分はその中の人種の1人」だと思う方には一読をオススメしたりなんかしちゃったりして。

 んでわ。

【了】


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