01年第4半期のTV表・3
番外編 『ヘルシング』

2001/11/10


 書いていたらベラボーに長くなってしまったんで、別ページにしました。


★『ヘルシング』

 これ、原作のコミックは読もう読もうと思いつつ未読だったんで、アニメ化で平積みされて買いやすかったこともあって、最近やっと読んだんですがね…。

 まあ、「その話」に入る前に書いておくと、今では一般コミック誌に連載されていますが、元々は確かエロコミック誌で読み切りで載ったマンガで(もちろん内容もエロです)、オレ、偶然それは読んでいたんですが、「面白いなあ」と思ったのが記憶に残ってます。

 内容は、イギリスの「対ヴァンパイア組織」である王立国教騎士団・ヘルシング機関に属する最強の吸血鬼・アーカードを主人公としたダークなアクション物。(なんで純粋の吸血鬼が吸血鬼狩りに手を貸しているのかは理由があるようですが)
 アニメではどうなるかわかりませんが、原作マンガでは敵として「ナチ残党の作った新組織・ミレニアム」ってのがヘルシング機関とローマ法王庁の異端暗殺セクション「13課」の前に立ち塞がります。
 ちなみにヘルシング機関はイギリスのプロテスタント。法王庁の13課はカトリック。双方(ただしアーカードは除く)とも生粋の信者なので、組織同士は会ったとたんに殺しあいを始めるほど敵対してます。

 んでこのアニメですが、シリーズメイン脚本は小中千昭。
 平成ウルトラマンとか、アニメだと『lain』とか『ビッグオー』やっていた人ですね。
 監督はOVA『機動戦士ガンダム 〜第08MS小隊〜』で「モビルスーツによる地上戦」を見事に描いて(ただしストーリー部分は……)評価された飯田馬之介。

 スタッフ的に若干不安。同時に期待を含みつつ、実は、今期のアニメの中では事前予想ではオレ的に一番楽しみにしていたんですよ。
 その時点で原作はまだ読んでいなかったんですが、雑誌記事とか見ていたらダークな雰囲気も良さそうだし、なによりキャッチコピーの「豚のような悲鳴をあげろ」ってのがいいじゃないですか。(^^)
 で、ワクワクしながら第1回を見たんですが…
 OPクレジットに出た「制作:GONZO」の文字を見た瞬間に、何か…やり場のない不安に襲われまして…。なんか「見ちゃいけねえ文字を見てしまった」とかそんな感じ。

 一言で評価してしまうと「ダークな雰囲気」だけはいいですね。
 作画は…まあまあでしょうか。深夜アニメとしては中の上レベルだと思いますが。(比較として書いておくと同じ深夜アニメの『バビル2世』の作画レベルは「下の上」くらいか?)
 ただ、画だけは良いGONZO作品群の中では「普通」程度でしょう。他の作品は「画だけ」ならもっといいのがありましたから。

 それ以外は……「作劇とか、そういうものを考えてくれ」と言いたいです。
 不安的中です。制作はGONZOなので、映像クオリティだけは相変わらず良好。だけど、原作モノでもストーリーはダメでした、この会社。
 もはやここまでくると、「ストーリー作り」に関して致命的な欠陥がある会社だと思わざるを得ません。(スタッフ全員が考えている「面白い」のベクトルが、受け手と相当ズレているとか。)
 これまでの作品は「オリジナル物」だからダメだったんじゃなくて、「原作物」でもダメなんですから。


 んで、こっから先は冒頭に書いた「その話」ですが…。

 これまでにもたびたび書いてきたように、オイラは映画もアニメも、原作物の場合「原作と出来上がった映像作品を比べる」というのが好きじゃありません。
 そもそも比較対照にしていいものかどうかも「?」ですし、その比較に意味があるのかどうかも疑わしいです。「原作を読んでいなければ楽しめない映像化作品」なら、それは初めから失敗していると言ってもいいでしょう。

 「原作だとアレにはこういう意味がある」とか言う人は良くいますが、でも映像化に際しそれが省かれているのは、映像化に際して作り手が「不必要だと判断した」「スリム化を図ったときに必要なくなった」「ムリに入れると破綻する(長さ的に)」「解釈が根本的に違った」「全く原作を理解していなかった」。このどれかではないかと思います。

 さて、こういうことを自分の中で思い続けていたんですが……
 にも関わらず、この『ヘルシング』に関しては…

 おいおいおい…! ちょっとなぁーーーーーー………(ため息…)

 という感じです。
 まあ、これは最近、オイラが原作を読んでしまったからそう思ったというのも大きいんですが。
 もし読むことがなければ「原作はどうかはわからないが、アニメ『ヘルシング』はつまらないアニメだった」で終わっていたのでしょう。

 例えば、「ストーリーがダメ」と前述しましたが、素直に「アニメと原作は別物だ」という視点で評価すれば、まあ冷静に言えば夜中とかにやってるアニメではよくある「中の下」レベル程度の作品ではないかという気もするんですが、とにもかくにも「アクション物であるハズなんだけど、あの盛り上がりの無さ。見る側のテンションを上げさせない平坦さ」は、ある意味致命的と思えます。
 ハッキリ書けば「退屈」なんです。ダークな雰囲気だけで、そこそこ見てしまえるんですが、見ている間「面白い!」と思うことがないんですな。
 変な比較ですが「面白指数」的には前期までやっていた『ノワール』といいとこ勝負でしょう。
 まあ小中脚本というのはどの作品でも基本的にそういう盛り上がりとかがあまりなく、淡々としていることが多いんですが。
 『lain』などはそれが実に上手く作品の雰囲気を醸し出していたと思うのですが、『ヘルシング』に関しては良い効果を生みだしていると思えません。
 せめてガンアクション部分をもっと「盛り上がるように」見せてくれればだいぶ違うんでしょうが…。

 んじゃ「原作があるんだ」という視点ではどうか? というと、例えばオリジナル部分を入れるにしても「原作で物足りなかった、あるいはページ数の都合で無いのかも知れないけど、こういうやりとりや要素が入っててもいいのでは?」という風に、あくまで原作のストーリーに準じていれば、マシだったのかも知れません。
 まあ、第5話における「MI5の潜入捜査官が吸血鬼に殺される」というオリジナル部分はそれなりに雰囲気を出していたのではないかと思います。

 ところが…そういう問題じゃなく、もっと根本的な問題がありまして…(このせいで原作ファンがゲロ怒りになっているようなんですが)

 ヒトコトで言うと、全ッ然チガウのよ。
 いやもー、驚くくらい。


 そうねえ…。コレに比べたら、『家なき子』がカルピス劇場(だから「カルピス」じゃないって)でアニメ化されたときに、主人公のレミが「女の子になってしまっていた」ことや、『赤ずきんチャチャ』がアニメ化したとたん「原作にはない変身シークエンス」が入れられてしまったことくらい、些細な問題でしょう。

 むー…アニメと原作を比較しちゃダメだなあ…と思っているので「どっちがいい・悪い」とかは思いたくなかったんだけど…けど、あそこまで「原作をアニメ化する気がない」「原作の意図やニュアンスをブチ壊しちゃう」んなら、ハナから作らなければいいのに…と思いました。
 オリジナルでやればいいじゃん?
 「いや、原作ファンは関係ないんだ。アニメ版を独自に評価してくれ!」とかヌカすんであれば、それはやはり「だったらオリジナルでやれよ?」って話ですし、そもそもそれであのアニメを単体で評価しちゃったら(少なくとも今のところは)「面白くないよ」で終わりです。

 で、腹ただしい…というか、救いがたいのが、アニメの作り手はどうやらこの「オリジナル部分」を相当「イケている」と思いこんでいるクサい作りしてるよなあ…ってところです。
 これに関しては言い切りますけど、イケてません。
 原作マンガがどうだとかいうこと以前に、あれが仮にオリジナルのアニメだったとしてもイケてません。
 イケているつもりらしいんだけど、見ていてかなり恥ずかしい部分が随所にあります。(中途半端な決めセリフとかね。)

 一体全体「どう違うのか?」というとですね、中でも驚愕したのは第4話でした。
 これはアニメのオリジナルストーリーだったんですが…
 この作品にはセラスという準主役のヒロインが登場します。
 元々は婦警(ミニスカで巨乳)なんですが、第1話で起きた事件の際に、アーカードに血を吸われ吸血鬼となっています。
 しかしマンガでは、セラスは吸血鬼となっても血を飲むことを拒否し続けています。(アーカード達が普段食しているのは倫理的に問題のない「医療用輸血液パッケージ」なんですが)
 これは、セリフ上は「飲んでしまうと人間であったことの何かが完全に自分の中で消えてしまうような気がするから」となっていますが、作劇的にはアーカード(最強の吸血鬼)・アンデルセン神父(13課の異端排除の最強の不死の暗殺者)・人造吸血鬼軍団というバケモノ達が跋扈する物語の中で、人間サイドとバケモノの「中間」としての存在として維持させたいのでしょう。
 上記のセリフは、こういったポジションであるための、また、作品の中での「セラスというキャラクターのアイデンティティ」の部分であり、物語全体を描いていく上で「おそらく何らかの意図が仕掛けられている」部分です。(3巻だか4巻だかで、血を飲んでいないがために弱った彼女が、機関の女性局長・インテグラの切った指から滴る血を「舐めさせられる」場面がありますが、これなんかはものすごくエロティックで良い場面です。)

 ところが! アニメでは第4話で、あっさり、それもガブガブ飲んでしまいました。
 続く第5話でも飲んじゃってます。しかしここで納得行かねえのは、一瞬「ためらう」んですよ。今更。先週ガブガブ飲んだのに。描写としてオレには意味不明で理解不能でした。
 で、結局飲みますが、それもごく普通に、平然と、缶ジュースでも飲むように飲んじゃいます。
 ちょっとビックリです。
 つまり、原作物のアニメ化とうたっておきながら、そのキャラクターのアイデンティティをブッ壊してしまったんですね。それも、おそらくは作り手は「イケてる」と思っているような見せ方で。

 解釈としては、マンガのセラスは精神的欲求と肉体的快楽の欲求に襲われながらも血を飲むことを拒み、人間であり続ける部分で吸血鬼を見つめています。
(この場合の「肉欲・快楽」ってのは、あくまで「吸血鬼にとって」です。人間のソレとは異なります)

 が、アニメにおける「血飲み」はその前に来るシークエンスなどからするに、「精神的にそれまで抗していたんだけど、目の前で行われたアーカードによる吸血行為を見ることによって、肉欲の部分で負けてしまった。あるいは肉欲的な快楽を求めてしまった」わけです。
(このシークエンスの直前に、アーカードの吸血行為を見ながら彼女が「自分の腕を噛む」という場面がありましたが、これはおそらく「自慰行為」に相当しているのだと思われます。)

 実は「セラスがアーカードに噛まれて吸血鬼になった」のは、彼女が「処女」だったからなんですな。(これはマンガではそのようになっています。非処女が噛まれた場合ゾンビのような存在になってしまいます。アニメではこの言葉は入っていなかったので、もしかすると第1話の段階で設定を違えていたのかも知れませんが)
 で、アニメでは言われていなかったけど、マンガと同じくセラスが処女だったとして、この「血飲み(あるいは肉欲的な快楽を求めた)」ってのは、その処女性が終わったことを表しています。

 マンガとアニメにおけるこの解釈・描き方の差は、「どっちがいい・悪い」とはいいませんが、セラスというキャラクターを描く上では実はメチャクチャ違ってしまう部分です。
 別の捉え方をすれば、この第4話はあるとあらゆる部分で「アニメは原作とはチガウ作品にしちゃいます」って宣言してるんですね。


 で、何度も書いてしまいますが、そういった部分を入れて、原作を全部ブッ壊してしまうなら原作物である必要はないですし、そもそも「それで面白くなっていない」のが問題です。
(マンガはこのさい置いておくとして、「面白い」んだったら「原作マンガはどうか知らないが、アニメ『ヘルシング』は面白かったよ」で済むんですが。もしくは「原作」ではなく「原案」という扱いになっているとかね。)

 で、よく書いてきたように「原作と映像化作品は別物だ」と受け取ったとして、んじゃ「そうした理由があるのだろうか?」と考えたんですが、あんまり考えたように思えないんですよね。特に4話と5話の前述したセラスの描き方を見た限りでは。
 あれがオリジナル作品だとしても、オレ的には納得がいかないです。
 「上辺だけのカッコヨサを描きたいのかなあ?」とも思うのですが、これまた中途半端だし、セラスを非処女にしたことで「少女が大人になる物語を、吸血鬼のドンパチアクションを装って見せていく」とか余計な(おそらくは誰も見たいと思っていない)ことを考えているのかなあ? とか。(すでに古い映画ですが『狼の血族』をアクション物でやろうと考えた…というような感じ?)


 原作の平野耕太は「アニメ化なんかされるもんじゃないわ」と発言したそうです。
 事実ならなんともスゴイ発言ですが、原作者があのアニメ見たら、そりゃ「言いたくもなるわ」とやっとわかりました。
 オレも同情を禁じ得ません。
 原作のあとがきで書かれていた「作者のイメージキャスティング」に、アンデルセン(野沢那智!)とインテグラ(榊原良子!!)だけは沿った形でキャスティングされているんですがね。
 まあ、榊原良子の声はそそられるんでイイんですけどね。(^^;;)
 命令して欲しい感じの声ですね。(バカ)

 まあ、なんつーか…「どうするつもりなんだか見届けたい」って感じです。
 その確認のために見続けようかと。(イヤな客だな…)


 マンガについて少し触れておくと、作者も「よく言われる」とあとがきに書いていたけど、なぜか『トライガン』に似ている印象を受けます。
 でっかい銃が出てきてドンパチやるからなのか、赤いロングコートに丸サングラスをしているからなのか、アメコミ風テイストが入っているからなのか、主人公が無敵に近いからそう思うのかはわかりませんが、確かに似たものを感じます。
 「ストーリーよりも、まずヴィジュアルイメージありき」の作り方が似ているのかなあ…。
 別の言いかたすれば、原作マンガは『トライガン』が好きな人なら気に入るんじゃないかと。
 なのでオイラは気に入りました。
 ただ「みんなに勧められるほど面白いと思うか?」つったら…そこまでは感じなかったんですが…。
 セリフが「コトバとして変」なのが多すぎるとか、画面構成があんまり上手くないような気がするというか(ハッキリ書けば「読みづらい部分が多々ある」んですが)…色々目に付いてしまい…。
 カッコいいセリフもいっぱいありますけどね。

 比較していいのかどうか疑問ですが、よく「似ている」と言われている上記2作品で比べた場合、オレは『トライガン』の方が圧倒的に(それもかなり)好きですし、マンガとしての完成度も高いんじゃないかと。

 こう考えると原作者も満足だったという『トライガン』は恵まれたアニメ化をされた作品だったんでしょう。
 ほとんどが「オリジナルストーリー」でありながら、原作のキャラクターのアイデンティティは決して壊さず、少なくとも現在進行形であるマンガから考えても「細部はチガウかも知れないけど、『トライガン』という物語が行き着こうとしている「もう一つの可能性」と考えても、何ら違和感がない」作品として完結していました。
 アニメ『トライガン』が作品的に成功したのは、脚本の黒田洋介自身が「原作のファンだった」ことも大きいと思いますが。これ書くために、他の仕事を調整して「26本かかりきりで書けるようにした」そうですし。 ←こういうこと考えると、『ヘルシング』は作り手があの原作マンガを好きでも何でもないんじゃないかと思わされてしまいます。いや、たぶんそうなんでしょう。少なくともオレはあのアニメから原作への愛は感じません。


 なんか一説には「GONZOは次回作で『戦闘妖精・雪風』をやるんで、その金集めのためのアテ馬に『ヘルシング』を使った。だからメインスタッフが全員「『雪風』の片手間仕事」でやっている」って噂も聞こえてきていますが…。
 噂ではなく事実だったとしても納得しますよ。あの出来は。

※『戦闘妖精・雪風』ちゅーのは、すでに10年以上前に神林長平が書いた日本SF小説の名作の1本で、オレも発表当時に読んだんですが、大好きな作品です。GONZOはこれをビデオアニメ化するようです。
 よりにもよって、原作物でもマトモにストーリーが作れないことが発覚したGONZOが『雪風』……。
 勘弁してくれと言いたい。他にも出来るアニメ会社はいっぱいあるだろう?
 オレ予想では原作を大幅に改編。「大空に夢をはせる、戦闘機パイロットの若者を主人公にしたヘボい青春物」とかにされてしまうのではないか?んで、GONZOだったらマジでそんくらいやっちまうんじゃねえか?と巨大に不安です。
 出来れば制作が頓挫して欲しい。


 むう。長かったワリに身があったんだか無いんだか不明な文章だ…。(^^;;)

【了】

もどる