亀田鵬斎「墨沱梅荘記」の碑
 
年代1814年 高さ 187センチ幅105センチ
碑面の読み下し

裏面の文面・読み

 すみばいそう記                   窪世祥鐫

 墨沱のほとりかっ傍、こう鋤かれて新園成る。
これに梅一百株を植
う。
毎歳立春伝信の候より二月啓蟄けいちつの節にわたり、樹々花を満園雪のごとし。
これをのぞめばのり白浪しらなみ空にひるがえるがごとく、蓬莱ほうらいぎん水底みなそこりて近づくべからざるがごとし。
藍田
あいだ
美玉みたまそうそうならしてけむりを生ずるが若
ごとし。
つつみところの花海のごとしとはけだしこのたぐいならん。
すなわえんゆたかまくりてかまどふさぐをわらい、また大@みねのAかに三十かぶえて天下のしょうするをあやしむ。
 しょうしゅまりと日い、風流ふうりゅうしょう希有けうなり。
はじ
うめえしよりさいか十年、つい都下とか第一だいいち奇観きかんの場たるきょこじり大Bとなす。
ゆういん好事こうじきゃくみなみつるさけしてここにあそぶ。
また来りこれをること数なり。
ここの春、そのかいしゃさかえおとろてそのはじめまことしゅうきわめんとす。
ここにて、雪の日、月の夜、雨の朝、風の夕、清明せいめいかげつごもりあさひばんてらしみな来ってこれにぐう目す。
しこう
して花の喜怒きどゆめさとる形態けいたい性情せいじょうへんひつそのじょうきわめざるはなし。
一夕、月下にさけみこれをしょうす。
つい
うてたちまゆめむ。
一大ひめ自ら花じょうしょうし一百の美女びじょひきいて来る。
しま
たもと一同CD一斉いっせい帝釈たいしゃく王の天女をしたがこんしろりしがごとし。
これを環視かんしするに、はだとおるきてこおりほねえいきて玉のごとく、いんかく孤高ここうみな仙風せんぷうあり。
じつ外の佳人かじんなり。
じょういて日く、むかしりくほうおきな海棠かいどうあいし、自らしょうして海棠かいどうてんと日う。
今、先生こく梅花ばいかあいす。われ、先生にいのちけて梅花ばいかてんと日わん。
海棠かいどうつやなり。梅花ばいかきよしなり。
きよし
てんなるとつやてんなると、そのてんなるは同じといえどもそのおもむきのりことなる。先生のてんわがそのきよしを見る、と。
だい
ち一美人びじんをしてしょうりてこれをすすむめしむ。そのあじやまと漿しょうごとく、これをめばしゅくこうばしく体けいきをさとるゆるなり。
 枕頭ちんとうせき声あり、俄然がぜんとしてゆめさむるむ。
するに人し。
ただ
しょうしゅの、あかりいどはんうめばんきてこれをするを見るのみ。
だい
いて日く、先生だいおにを見るきや。何ぞこんぎんの長き、と。
夢中むちゅうに見しところもってこれに語り、いて日く、梅花ばいかてんの名はしょうしゅじつにこれに当る。
凡骨ぼんこつのうにんうるところあらず、と。
つい
にその言を書してる。
時に文化ぶんか十一年こういぬ春二月十五日なり。

                  ほうさい亀田かめだこう せんあわびに書

文化ぶんかこう戌年いぬどし春正月  美知みち  手えんおき 金れいしゃひこ
島田しまだ正三『百花園調査ちょうさ』により補足ほそく

解説かいせつ

くずつつみ葛飾かつしかがわの堤(あるいは、くず生い茂おいしげつつみ)か。
あらはたれたはたけ。
でんしん=ここではでんしん鳥(うぐいす)のことか。
啓蟄けいちつ=二十四せつの一。三月五日ごろ。土中の虫が動き出うごきだすころ。
蓬莱ほうらいぎん神仙しんせんにあるという想像上そうぞうじょう宮殿きゅうでん
藍田あいだ=中国きょう西しょうにある山の名。名玉をさんす。
むらくりかえし=むらがるさま。
なら=ならびそびえる。
けむりを生ず=藍田あいだ日にあたたまり玉けむを生ず(藍田あいだの地中にうもれた玉があたたかい日にらされてけむりを立ちあがらせている。おだやかにめでたいさま)からきているか。
かまどふさぐ=かまどのかすみ(かまどから上るけむり湯気ゆげかすみのように見える)を意味いみするか。
○大@みね=中国江西省こうせいしょうにあり、とうはりよわいが新けいひらうめうめみねと名づけた。うめ名所めいしょとなる。
○A=わず
こじり=1,くさり。てんじて、おもくて容易よういがたきさま。2,かねつづみの音。くしさす。3,なべかまのぞく。(ここでは1,のか)。
○B=はたけ。田うね
ゆう人=隠者いんじゃけてかくれる人。
いん風流ふうりゅうな人。「いん」は「いん」 に同じ。
みつるさけさけをもちゆく。
かいしゃ=花がひらくのとつぼむのと。
はじめまことしゅうはじめと中ごろとおわりと。
あさひばんてらし=朝日の光、夕日の光。
ぐう目=目をつけて見る。
ゆめ=「ゆめ」 の俗字ぞくじ
しまたもと=白ぎぬのたもと。
○Cしょううつくしく化粧けしょうする。(「D<米>」は「しょう」 のあやまりか)。
帝釈たいしゃく王=天竺てんじくかみ
しろはなれじょうこんはなれ国。インドFかわ北岸ほくがん釈尊しゃくそん伝道でんどうの地。
いんかく孤高ここう風格ふうかくがひとりかけはなれて超然ちょうぜんとしている。
仙風せんぷう仙人せんにん風采ふうさい
海棠かいどう=バラ科の落葉らくよう灌木かんぼく。四月ごろ淡紅色たんこうしょくの五べんの花をかせる。
てん=いただき(頂上ちょうじょう)。きちがい。専一せんいつ
やまと漿しょう仙人せんにんみもの。
うめうめについて書きしるしたもの。
おにれい。もののけ。ばけもの。
文化ぶんか十一年=1814年。
つつみ=蘇軾(そしょく)(1036〜1101)宋代そうだい詩文しぶんの大家。四川省しせんしょうまゆ山県やまがたの人。字は子またはなかごうは東つつみ。かの有名ゆうめいな「赤壁あかかべみつぐ」をはじ散文さんぶん韻文いんぶんにすぐる。とく取材しゅざい形容けいようとも多種多様たしゅたようそう詩人しじん第一だいいちぐらいくらいす。とうそう八大家の一人。
りくほうおきなりくゆう(1125〜1209)南宋なんそう山陰さんいんの人。字はつとむかんほうおきなはそのごうようにして文才あり、もっとに長ず。
まり佐原さわらまり(『墨田すみだ文化財ぶんかざい調査ちょうさ報告書ほうこくしょY』P94参照さんしょう)。
ほうさい亀田かめだこう=『墨田すみだ文化財ぶんかざい調査ちょうさ報告書ほうこくしょ[』P15参照さんしょう

規格外きかくがい漢字かんじ
@
A
B
C
D
姿すがた
読み