HOW2
4.たかが作法、されど作法
"THE HOW2" by Hiroki Maki
講師:HOW世界ヘビィ級タッグ王座 鬼木・スティーヴンソン組





▼本当はどーだっていいんよ、そんなもん

Chris: いいか、ヒヨっこども。俺が、貴様らクズのクズをしごきあげて、そのケツから卵のカラを外してやる仕事を超嫌々ながら引きうけてやることになった、クリストファ・スティーヴンソン大尉だ。気軽に『クリちゃん大尉』と呼んでよし!
 ――では、まず最初に言っておく。良く聞け。お前等はクズだ。ゴミ以下だ。ダストだ。シュレッダーにかけちゃってポイっだ。時計合わせろっ!
鬼木: あのー、クリちゃん大尉。
Chris: 誰がクリちゃん大尉かっ。貴様、上官ナメてっと耳の穴から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わすぞ! 時計合わせろっ!
鬼木: ……はい、というわけで今回はいつもより余計に話になっておりません。
Chris: どうやらそのようである。この原因はただひとつ。時計あわ――
鬼木: それはもういいから。
Chris: そぎゃん言わんと。
鬼木: それでは、スティーヴンソン教官。
Chris: コーチと呼べっ! そして時計――
鬼木: コーチ。いつまでも冗談おコキになっておられる場合ではありません。そろそろ本題に入ってもらいませんと時計ズラすぞ、オイ。
Chris: ……やむをえん。では、作戦を開始する。
鬼木: 企画書によりますと、今回は文章における作法を扱うとか。
Chris: つまり、あれかね。原稿用紙の書き方とか、業界のルールにのっとった書き方とか?
鬼木: そのようで。
Chris: あー、パスパス。そんなのどうだって良いって。
鬼木: そうはいかんでしょう。
Chris: あれはね、そもそも出版業界が印刷うんぬんなんかをやりやすくするために、勝手に設けちゃったルールなのよ。つまり、印刷して本にしてだね、それを売りさばこうっていう連中が便宜的にのっとっていればいいものであって、それ以外の人間が従う義理なんてこれっぽっちもないわけだ。分かるか、ヒヨっこども。
 そんな些事に気を配ってる暇があったら、時計合わせてた方がよっぽど良いって。一秒足りとも狂っていない時計と、業界ルールに従ってる文章とどっちが世の中の役に立つよ。……前者に決まっちょる!
鬼木: じゃあ、なんで原稿用紙の書き方なんかを小学校で学習するわけですか?
Chris: そりゃまあ、嗜(たしな)みよ。全然知らないのと、とりあえず知ってるのとどっちが世の中渡っていく上でお徳よ。……後者に決まっちょる!
鬼木: だから、今回はそれをおさらいしましょう、と。こういうわけです。



▼知らないのと知ってやらないのは別

鬼木: それでは、コーチ。文章作法についてそろそろお願いします。
Chris: うむ。では、まず心構えから。確かに、行頭は一マス空けろだの、三点リーダは二つずつ繋げろだのというルールは、業界のプロ連中が手前の都合で勝手にでっち上げたものに過ぎん! だからして、ヒヨっこども、貴様らが無理に守る必要はありゃせんのよ。
 ただーし! この業界が定めたルールはすでにその枠を超えて、広く一般にも認知されるに至っちょる。つまり、実力のないヒヨっこが逆らうには結構大きな存在になってしまっちょるということだ。このことは良く理解しておくように。
 ……いいか、ルールを知らずに間違った作法で物を書くことと、ルールを知った上であえてそれに従わないのとでは全く話が違ってくる。ヒヨっこにはその違いが分からんでも、貴様らの文章を読んで点数付けたり評価したりする連中にはそれが分かる。そこが肝心なのだ。時計合わせろっ!
鬼木: つまり、時計がズレちょることを知らずにそのまま過ごすことと、ズレちょることを知った上でそれを放置することとは違うと。コーチはそういう深い意味を込めて、これまで「時計合わせろ!」と再三繰り返されていたわけですね?
Chris: んー……まあ、そういうことにしとく!
鬼木: とにかく、そのルールに従うかどうかは別問題として、そのルールの内容は理解しておいたほうが良いということですね。
Chris: そういうことになる。このルールの影響力は大きい。あえて逆らうのは、要するに法律を破るようなもの。破りたければ破ればいいし、それを止める気なんざ、時計をズラす気と同じくらいないが、リスクが伴うことも確かだ。
 読み手に「こいつは基本的なことも理解できていない」と一蹴されてしまうこともあり得る。単純に「読みにくい」と悪印象を持たれて読んでもらえないこともあり得るし、ほかにも様々な弊害が予想される。
 ヒヨっこというのは、ただでさえ文章が下手だ。内容も伴わん。よほど才能がない限り、「読んでください」とお願いして回らないと読み手さえつかんのが現実だ。作法くらい守って、誠意を見せとくべし。下手には下手なりに仁義がある。ただ……
鬼木: ただ?
Chris: ジンギスカンを相手にするときに限って、仁義は必要ない。
鬼木: そのこころは?
Chris: 仁義好かん(ジンギスカン)。
鬼木: …………
Chris: ぐわぁ〜っはっはっは!
鬼木: アンタ、何しに来たんですか。



▼「編」ってなにさ

鬼木: では、さっそく原稿用紙の書き方という、基本から。
Chris: その前に、ちょっと豆知識みたいなのを入れておいちゃる。
 まあ、これはヒヨっこどもと言えど耳にしたことがあると思うわけだが、小説なんかはその分量によって「短編」だとか「長編」だとかに分類されることがある。
鬼木: ありますね。
Chris: あれには特に基準がないのだが、大雑把な範囲のようなものは大体決まっちょるような気がしないでもない。そのことについて、少し触れておこう。
鬼木: 私が思いつく限りでは短い順に、掌編、短編、中編、長編……の四つくらいでしょうか。
Chris: まあ、日本では大別するとそんな感じになるかな。『超』をつけて超長編などと表現することもあるが、まあ今回はそういうのは除外することにして。
 まず『掌編』だが、これは辞書を見ると「短編よりさらに短い小説の形態」と説明されちょる。俺の次ぐらいに偉い評論家である、千葉亀雄というおっさんが命名したという説があるらしいが、そんなことは鬼木の存在そのものと同じくらいどうでも良い。
 鬼木なんてクズだ。ゴミだ。ダストだ。ミカズキモだ。
鬼木: コーチ……
Chris: それで、この掌編。原稿用紙でいうと一枚から一〇枚程度、文庫本で言うと五ページにも満たないような恐ろしく短いものを指す……ような気がする。
鬼木: こういうのって、出版社や作家とかによっても違ってきますし、結構アバウトなんですよね。
Chris: その次に短いのが、『短編』。良く聞く言葉だとは思う。
 この短編というのは、大体一〇本まとめると一冊の本になるような文量の作品だと考えて良さそうだ。原稿用紙でいうと、五〇枚以内。長くても八〇枚程度までか。文庫本でいうと四〇〜七〇ページ未満といったところではないだろうか。
鬼木: 中編は?
Chris: 三本から四本で一冊の本になるようなもの。一冊の本が二五〇〜三五〇ページくらいだからそれを三で割るなり四で割るなりして算出してみて欲しい。
 原稿用紙でいうと、一〇〇枚から一五〇枚くらいか。文庫本で言うと八〇〜一三〇ページくらい?
鬼木: この辺になると、もうほとんど正確な定義みたいなのはないですよね。大体とか、おおよそとか。
Chris: 長編は簡単に、本まるごと一冊かそれを超えるものだな。最低限、原稿用紙で二五〇枚は欲しい。
鬼木: 一番簡単で、一番範囲が広いですね。一冊で完結する話から、一〇〇冊近くまで連載が続く物語もありますから。
Chris: 日本と同様に、海外でもこのような分類はある。たとえば、世界で最も有名なサイエンス・フィクションの文学賞である「ヒューゴー賞」では、その長さによって『ショートストーリィ』『ノヴェレット』『ノヴェラ』『ノヴェル』と作品を分けちょる。順に短編、中編、中長編、長編となるかな。ヒューゴー賞にはないが、日本でいうところの掌編は『ショートショート』となる。これは、聞いたことがあるヒヨっこも多いかと思うが。
鬼木: まとめてみましょう。

▼小説の分類
分類原稿用紙ページ数文庫本海外
長篇250枚〜200頁以上1冊以上novel
中長篇150〜200枚150頁前後1/2冊以上novella
中篇80〜150枚70〜100頁1/3〜4冊novelette
短篇50〜80枚30〜70頁1/10冊前後short-story
掌篇1〜10枚1〜5頁short-short
(表内の数値や分類は参考程度の便宜的なものです。普遍的なものではありません)



▼それは真実なのか?

鬼木: では、いよいよ本題である原稿用紙の書き方に――
Chris: と思ったのだが、我々に残された作戦時刻はあまりに少ない。ちょっと最初にハイブロウなジョークをかまし過ぎたのが原因であるような気がしないでもないが。……てへ。
鬼木: おいおい。
Chris: 仕方がないので、原稿用紙の書き方なんてつまらないお題は次回に回すことにしちゃる! 時計合わせろっ!
鬼木: コーチが時計とけい言わなければ、もっとスムーズに進んでいたはずなんですがね。
Chris: やかましい! いいか、ヒヨっこども。しかたがないから以下の中途半端に余ったスペースで、今から貴様らクズの中のダストに小説などにおける主なジャンルについて教えてやることにする。これなら少しで済むから。しっかりついて来い!
鬼木: ジャンルですか。ミステリとか現代ものとか?
Chris: それ以前に、「フィクション」と「ノンフィクション」というものがある。今回はこれに限定して説明しちゃる!
 これはもう基本中の基本なのだが、もしかすると漫画しか読んだことのない中学生やら小学生やらは知らないかもしれん。ちなみに高校生以上のヒヨっこがこれを知らない場合、もうどうしようもないので、喉にモチを詰まらせて午前と午後二回に分けて死んでよし!
鬼木: 無茶苦茶言ってますよ、この似非軍人。
Chris: フィクションというのを辞書で調べてみると、たとえば広辞苑第五版の場合だと「作り話、創作、小説」などと説明してある。要するに、作者が自分のオツムで考えた作り話のことだ。小説のほぼ一〇〇%近くはこれに相当する。分かるか、ヒヨっこども。
鬼木: 本当の話ではない、作り物の物語ですね。
Chris: ノンフィクションというのは、このフィクションに否定を意味するノンを付けたものだ。つまり、ノン物語。ノン作り物の話。そういうことになる。
鬼木: 要するに、実際にあった話を読み物にしたものですね。
Chris: そうだ。たとえば、新聞の記事なんかは基本的にノンフィクションだ。ときどき記者による「でっちあげ」の記事があったりするが、これは例外だ。最近、ニューヨークタイムズでこのフィクション記事が話題というか問題になったが、こんなのばかりだと流石の俺も困る。
 考えてもみろ、ヒヨっこども! 新聞の記事が記者による作り話のトンデモ物語のみで構成されていたりしたら大変愉快だろうが。……むしろ、そういう新聞も一つや二つあってもいいと俺は思うが、世の中の人間は俺のように器が大きくない。俺が大宇宙だとすれば、連中の心などポリバケツだ。ペットボトルのキャップだ。分かるか、ヒヨっこども。
鬼木: そう言えば、聞いてくださいよ。昨日の朝刊に、『鬼木・DE・ミッチェルに逮捕状! 長年にわたる痴漢容疑で、警視庁は都内在住の本誌記者、鬼木(32)の逮捕状を請求した。逮捕され次第、鬼木容疑者は即処刑される予定』……とかなんとかいう記事がデカデカと書かれてたんですよ。
 もうね、食べかけていたパンを喉に詰まらせて、午前と午後二回に分けてショック死するところでしたよ。結局、あれは誰かのイタズラ。フィクション新聞だったわけですけどね。
Chris: それは俺が書いて、お前の家のポストにいれた。
鬼木: お前かッ!


収録:2003/06/25


※(HOW=エロガッパ・オヴ・ザ・ワールド)
世界最強のエロガッパが腰に巻くことのできるチャンピオンベルト。鬼木・スティーヴンソン組は、ヘビィ級タッグ王座の第28代チャンピオン。1998年国立競技場で行われた選手権試合で、27代王座「クリントン・ゴルバチョフ組」を破って初の栄冠に輝いた。現在4度防衛中。