作者あとがき


 主人公や物語の主要な登場人物が、過去に戻って人生を都合良くやり直すという類の話は、巷では「逆行もの」と呼ばれているらしいです。ハインラインの「夏への扉」とか、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」にも通じるところがあるかもしれませんね。昔から、そういう題材は人々に好評を以って迎え入れられるようです。
 でも、基本的にこの発想って少し不幸ですよね。こういう話が好きな人って、要するに良くそういうことを考えるタイプの人間だと思うんです。「あの時こうしていたら」とか、「もう一回人生やりなおしたい」とか。
 自分の未来に希望を持てずに後ばかり振り返って、人生を改善することではなく、やり直すことを夢見る。そんな後向きな姿勢だから、人生を精一杯生きるなんてことができるはずもなく、結果的に相当つまらない道を歩むことになる。きっと、生きていてあまり楽しくないのだろうな、と思わされます。……余計なお世話でしょうけど。
 だって、自分が今までの人生でやってきたことに自信や誇りを持っていたり、またこれから胸を張れる生涯を精一杯に演出して見せようなんて思う人は、安直に逆行なんて考えないでしょうから。

 だから逆行ものって、夢見がちで主人公ばかりに都合が良くて、全然面白くないんだと思います。タイトルと文体が違うだけで、あとは全部同じ話ですしね。本当に、ありふれてるな――と。
 考え方によっては、逆行とは自分は自分と自信をもって胸を張れない人間の、妄想とも解釈できます。だから、それを嬉々として描く物語に本当の感動が生み出せるはずもなく、人によっては全然面白くないというのも当然の話ですよね。
 逆行を弁護するように良く使われる「強すぎる意思」やら「魂の叫び」とやらですが、そんなものがあるなら、神の力借りて過去いく前に、つらい現実と結果を受け入れてそれでも生きていけと言いたいのは私だけでしょうか。
 確かに私も、今の記憶や知識を持ったまま小学生やりなおしたら面白いだろうなあ、なんて考えることはたまにあります。だけど、本当に逆行して人生やり直せと誰かに言われたら、きっと腹を立てることだと思います。
 満足する結果ばかりが出せたわけじゃないし、後悔したり、とりかえしのつかない間違いばかり犯してきた人生だけど、そこから覚えたこととか理解したこととかがあって、それを財産に私は今の自分を作り上げてきたわけです。それを全部なしにして、都合良くやりなおすなんて最悪の逃避だと思っています。私の目には、最も格好悪く見えます。
 輝かしい人生なんかじゃなく、結構さんざんな過去ばかりですが、それでもそれ相応の意地とかプライドとかあるものでしょう。過去を変えるより、今の自分を変える力の方が私には大事です。
 これは、そういう人間が書いた逆行の物語です。あなたの心には、なにが残ったでしょうか。



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