作家の栗本薫(享年56)が2009年5月26日、すい臓ガンで死去。
これにより、単独の作家における世界最長記録を持つファンタジー巨編「グイン・サーガ」は未完が確定した。
グインサーガは、1979年に発表された長編ファンタジー小説。
2009年4月には126巻「黒衣の女王」が刊行されており、この時点において一人の作家が執筆した長編シリーズとしては世界最長だった。
ちなみに複数作家(ゲストを含めれば36人体制)が手がけた長編シリーズとしては、海外のSFスペースオペラ「ローダン・シリーズ」が最長である。ギネスにも認定されており、こちらの既刊数は(日本語翻訳版で)360冊を超えている。
個人的な話をするなら、グインサーガは学生時代――記憶が確かなら高校時代に30冊ほど読んだ覚えがある。
すべて図書館が借りてきたのだが、芝居がかった語り口に若干の抵抗を覚えたいこと以外はおおむね楽しめたものだった。
長く続けることを許されただけありエンターテイメントの基本はきちんと抑えられていたし、キャラクターや主人公の正体などを含めた様々な謎には充分な魅力があったように思う。
当初、著者は100巻での完結を予定していたそうだ。
だが、これが物理的(広がった風呂敷の大きさ的)に不可能であることが判明した時点で、私はシリーズの追跡を一時凍結することに決めたのだった。
これは完結しないかもしれない、という嫌な予感が芽生えたからだ。
案の定、2005年に第100巻が刊行された時、シリーズの完結はもはやいつになるのか分からない状況にまで至っていた。
(もちろん、これは私自身が読んで確認したのではなく、数多の書評から総合的に判断してのことだったが)
このことは、著者がシリーズの手綱をコントロールしきれなくなり、物語が良い意味においても悪い意味においても暴走しはじめたことを意味する。
終わりが見えない大長編ほど付き合うのにリスクが伴う物語もない。
それでも著者がまだ若かった――この時点で、まだ50になったばかりであったはずだ――ため、まあ小説などというものは80歳になっても書ける物だから、という希望的観測をはさむ余地もあったにはあった。
それだけに、56歳という若さで著者が亡くなったことは多くの読者にとって衝撃であっただろう。
特に私などは彼女が闘病生活にあったことすら知らなかったのだ。
寝耳に水というか、青天の霹靂というか、とにかく驚かされた次第である。
残念なのはグインサーガが大方の予想通り、しかし予想外の速さで未完になってしまったことだ。
クリスティのように、自分がいずれ死ぬことを計算にいれてシリーズにあるべきピリオドを用意してくれていたのなら救いもあるのだが、今回の場合はどうなのだろうか。
もし自分が彼女と同じような状況に置かれたら――と考えると、私なら間違いなく未完の長編シリーズに関しては完結までのプロットを形に残して、死後公開するように手続きするだろう。自分の性格を考えても、これは間違いなくやると思う。
が、他人の場合まではどうなるか保障はできない。栗本薫が現実に対し、どのような認識を持っていたのかも然りだ。
作家の場合、死んでも作品は残り、キャラクターたちは生きつづける。
これほど恵まれた立場もそうない。
その意味で、私はあまりクリエイターの死に同情を抱かないタイプなのかもしれない。
それでも訃報を聞けば、これだけ色々なことを考えさせられる。
栗本薫とはそういう作家だった。