ヒロキのドナー登録体験談


 ハッキリ言って、「骨髄バンクへのドナー登録にご協力を!」なんて、小説の中やホームページで声高に叫んでいる人間本人がドナー登録していないというのは、ちょっと笑えないジョークだ。
 自分でやれることすらやらない人間が、偉そうなこと語っても誰にも届かないと思うし。
 やっぱり、人の心を本当に動かせるのは行動を伴なった上での言葉だと思うし。
 そんなわけで、わたくしこと槇 弘樹は、この作品を執筆するにあたり、骨髄バンクにドナー登録をすることにしました。
 ここでは、その輝かしい奇跡を実録レポートしてしまいます。そうです。してしまうんです。
 ドナー登録って実際どんなものなのかな?とか……
 ドナー登録ってどういう風にやるのかな?とか……
 ドナー登録?実は検討してたんですよう!とか……
 まあそう言った方々の参考と手引きになれば、幸いです。

 私は、あなたの「道しるべ」になりたい……

 ぐ、ぐっは〜!!聞いた?今の聞いた!?
 我ながら、痺れるほどカッチョイイお言葉だったよ。
 ああっ、私大好きっ!!(バカ)


■ヒロキ、ついにドナー登録を決心す!之巻

 4月26日 深夜。

 まずは、情報が必要である。
 新世紀は高度な情報化社会だ。情報を持っているか、持っていないか。これで勝負が決まると言って過言ではない。
 よって、わたしくこと槇弘樹は、行動を起こす前には必ず入念な情報収集を心掛けている。
 恐らく、この辺りが私がナイス・ガイたる所以であろう。間違いない。

 ――さて、情報収集と一口に言っても色々と手段がある。
 1.サツ(おまわりさん)に駆け込む
 2.情報屋から買う
 3.インターネット
 4.ママに聞く

 まあ、ざっと思いつく限りでこのくらいは選択肢があるわけだ。
 個人的に、是非とも1度は『2番』を経験してみたいものだが、生憎と情報屋に知り合いはない。
 ……ので、無難に『3番』。インターネットをフル活用する程度で許してやることにする。

 そんなわけで、早速インターネットに接続。
 テレホーダイ+56KBアナログ回線という、旧世紀最先端な環境で果敢にネットにダイブする私は、草木も眠る午前3時、ひとり静かにキーボードを華麗にタイプする。
 まずは検索サイトとして近年有名な『Google』で、キーワードを <骨髄バンク> と定め検索。
 これで、(財)骨髄移植推進財団の公式ホームページを発見。即座にアクセスする。

 この『骨髄移植推進財団(骨髄バンク)』へのリンクは、「ぼくはチルドレン」の目次ページにも張ってあるから、興味がある人はそこからアクセス可能だ。参考にして欲しい。


■ヒロキ、ついに情報を入手す!之巻

 4月26日 深夜。

 さて、『骨髄移植推進財団(骨髄バンク)』の公式ホームページにアクセスした、わたくしこと槇弘樹。
 ここで様々な情報を入手する。
 まずは、 <骨髄バンク> 『ドナー登録』といった基本的な事柄への理解。
 まあ、このあたりの事情は「骨髄バンクとドナー登録」に詳しく書いておいたから、そちらを参照していただくとして。
 とにかく、必要な基本的知識はここで手に入る。

 その後は、どうやってそれを実行に移すか。これを検討する。
 同サイトには『地域情報マップ』なるコーナーがあり、ここに全国各地に点在する骨髄バンク関連の施設の所在地や電話番号などが記されている。
 まずは、ここを参考にしてみることにした。

 わたくしこと槇弘樹は、福岡県在住の明るく陽気なナイス・ガイだ。
 ここはナイス・ガイとして、あえて北海道の施設に乗り込むのも良いかと思ったが、残念ながら時間と旅費がない。
 仕方なく、渋々ではあるが、県内にある施設で我慢してやることにした。

 で、九州地方『福岡』の欄があったので、それをクリック。
 すると出てくるわ、出てくるわ。
 今まで知りもしなかった、骨髄バンクに関連した病院やら研究機関やら。
 で、私はこの内、比較的自宅から近い『福岡県骨髄データセンター』を華麗にチョイス。
 詳しいデータを参照する。

 これによると、受付は月〜金曜日。受け付け時間は、9:00〜12:00、13:00〜16:00となっていた。
 そして、住所と電話番号をチェックする。
 とりあえず、この電話番号に電話して、「ドナー登録の受け付け」をすればいいのかな?
 と結論付けて、その夜は寝ることにする。気が付けば、時間は午前4時。
 夜更かしはお肌の天敵。1日8時間は寝ないと、化粧のノリが悪いのだ。私は。


■ヒロキ、ついに電話&予約す!之巻

 4月26日 昼

 ズビズバ〜っと快眠した、わたくしこと槇弘樹は、その日の午後にメモしておいた電話番号を華麗にプッシュした。
 すると、3コールくらいで男性が応対にでた。
「骨髄バンクへのドナー登録を検討しているんですが……」と、自慢のハスキィ・ボイスで囁くと、男性はすぐにそれ系の係の方に電話を回してくれた。

 で、その係の受け付けの女性に、再び自慢のエンジェル・ボイスで要件を囁く。
 最初に聞かれたのは、『骨髄バンクのしおり・チャンス』を読んだか否かだった。
 この『チャンス』というのは、その名の通り骨髄バンクやドナー登録に関する案内で、確か例の骨髄移植推進財団が発行していたものだと思う。
 ホームページに行けば、郵送を無料で依頼できるので興味のある方は頼んでみると良い。

 で、私は「インターネットで、そのチャンスの内容は確認しました」と例のマニア垂涎もののハスキィ・ボイスで囁いた。
 そう。インターネットでは、オンライン版『チャンス』というのが公開されていたのだ。
 郵送を待つのが面倒だったので、私は財団のホームページでそれに予め目を通しておいたのだ。
 どうよ、この用意の良さ?この辺が、私がナイス・ガイたる所以だろう。間違いない。

 ――話を戻そう。
 インターネットで『チャンス』関連の情報を得たというと、受け付けの女性はすぐに納得してくれた。
 それならば、断然OKよん!と言うようなことを口走っていたような気がする。
 で、それから希望する日時、場所を問われた。

 つまり、何時何処でドナー登録をするかということだ。
 日時は選べるものらしい。場所は、あのネットで見た各施設や病院から近場をチョイスできるシステムらしい。
 私は、住所を告げ1番地理的に近い『福岡県骨髄データセンター』で、なるべく早く済ませたいという旨を告げた。

「1番早くですと、明日の午前が開いております」
「……あ、明日ですか。早速?」
 ちょっと狼狽する。確かにサッサと済ませておきたいが、いきなり明日の午前なんて言われても……
 ヒロキ、困っちゃう。
「ちなみに、それを逃がすとどうなりますか?」
「ゴールデン・ウィークの関係が御座いまして、しかもそれより前は研究者たちが多く」
 とか何とか言われて、暗に『明日にしとけ、ボウズ。な?』と脅迫される。

「じゃあ、選択の余地がないような気がしますが、明日予約します」
「分かりました。何時頃いらっしゃいますか?」
「午前中っていうと、12時までですよね」
「はい」
 私は暫く考えると、「じゃ、10時前後で」と答えた。
 自宅からの距離やタイム・スケジュールを考えると、その辺りが妥当だと思えたからだ。

 その後、名前、生年月日(ドナー登録は20歳以上からなのだ)、血液型、家族の同意の有無、住所、電話番号などを聞かれる。ちなみに、密かな自慢としているスリー・サイズは聞かれなかった。無念。
「それから、ついでに献血にご協力いただけますか?」
「アタシの血で良ければ、幾らでも吸っちゃって下さい」
 ……そんなわけで、わたくしこと槇弘樹は、なんと電話1本でドナー登録の予約はおろか、なんと献血の約束までしてしまった次第である。
 ……す、すげェ。


■ヒロキ、ついにドナー登録す!之巻

 4月26日 午前

 『福岡県骨髄データセンター』というのは、私の良く行く市民図書館(色々な本がタダで借りられるのだ!)の近くにあった。
 地理的にも詳しい一帯だったので、道に迷うことも無く無事に到着した。
 家から大体、自転車で30分弱。朝だったのに、汗をかいたのを良く覚えている。
 車で行く距離なのかもしれないが、私はなるべく健康のために車は使わないようにしている。ただでさえ、万年運動不足なのだから。これはある意味で、当然の心掛けだろう。

 さて、約束の時間は午前10時だったわけだが、その10位前には私は既に到着していた。
 結構大きな施設で、5階建てくらいかな。小奇麗で、清潔感のある建物だ。
 屋上に聳え立つビッグ・サイズのサイコロのような立方体には、でっかく赤十字のマークが刻まれていた。
隣は、警察署である。

 ……さて。いよいよ本番だ。
 高鳴る想いを胸に入り口の自動ドアを潜り、直ぐ正面にある施設内の案内板を眺めていると、右手の方から女性の声が掛かった。
 総合案内というか、インフォメーションというか。とにかく、カウンターの中に腰掛けた、スーツ姿の案内譲らしき人だ。

 彼女は、私が献血に来たと勘違いしたらしくて、「はじめてですか?」などと訊いて来た。
 そこで、『ドナー登録に来た』旨を知らせる。
 すると彼女は直ぐに頷き、私の名前を確認した。案内のカウンターには古ぼけた(DOSか!?)端末と書類があり、その開いたスペースに1枚紙が貼りつけてあったのだが、そこに私の名前が書かれているところを見ると、昨日電話が届いたのはこのカウンターの受話器らしい。

 はじめにやらされたのは、ドナー登録用の書類に名前や住所を書き込む作業だった。
 傍らに案内の女性がやってきて、詳しく説明してくれる。
 私はそれに沿って、パッパと記入を済ませた。
 ちょっと困ったのは、『ご家族の了解はありますか?』という質問だった。

 実はドナー登録には、家族の了解というか賛同が必須なのである。
 ところが、私はこの了解をとってなかったのだ。
 ドナー登録ができるのは20歳から。法的にも成人と認められた人間のみだ。

 精神的にも法的にも大人である人間が、自分の意思と決意に基づき『ドナー登録する』と決めたことに、何故家族の了解が必要なのか。
 物語の本編中にも、これに関しては問題定義してあるが……私は納得できない。
 骨髄バンクがやっていることは評価できるし、賛同もする。
 決められたルールも、それなりのワケがあってのものだということは理解できる。
 だが、『人権の尊重』と『ことなかれ主義』を混同してもらっては困る。

 誰が反対しようが、私は力尽くでも自分の意思は通す主義だ。
 相手が家族だろうと両親だろうと関係ない。
 自分がやるときめたからには、覚悟を決めるし、犠牲も厭わない。それに対する責任もとる。

 実際の医療現場では、『インフォームド・コンセント』はおろか、『ムンテラ』すらまともにできない日本の医療が、こういう時にだけ不必要なまでにインフォームド・コンセントにこだわるのは、見ていて滑稽だ。

 ……話が脱線した。
 とにかく、周囲の連中の同意なんて、後から取り付ければいいものである(間違ってます)。
 なにしろ患者の命がかかってるのだ。反対するようなやつは実力を行使してでも黙らせるし、それができないようなら替え玉を使ってもいい。
 そんなわけで、「ええ。もちろんですよ。両親はノリノリです」と案内の人に笑顔で告げる。
 ウソばっかりだ。

 それから、問診表のようなものの空欄を全てうめると、実際の『ドナー登録作業』に入った。
 まず簡単な個室に入れられて、医者とマンツーマンで話をする。
 いや、話というと正確ではない。医者は先ほど書いた問診表を眺めながら、血液型や健康状態などの質問をし、それに私が簡潔に答えていく……というものだ。
 これは2〜3分で終わる。

 すると次は、すぐ隣にあるカウンターに座らされて看護婦さんに左腕から血を抜かれた。
 ルージュがリップくらいの長さのミニ試験管に私の血が注射器を通して採取されていく。
 作業時間は5分かかっていないだろう。
 これが終わると、ドナー登録作業の全行程は終了した。

 ……え、ちょっと待て。もう終わり?
 そう思われるかもしれないが、本当にこれで終わりなのだ。
 10〜15ccの採血。これで、ドナー登録に必要な作業は終わりだ。
 あとは、血液センターの仕事。採った血から、色々なデータ(HLAタイピング)を引き出し、それをコンピュータに登録する。もちろん、これは職員たちの仕事であり登録者には完膚なきまでに関係ない。

 私はこのあと1時間ほど『血小板献血』というちょっぴり手間のかかる献血に協力したが、こちらはまた別のはなし。
 ドナー登録に献血所に来たから、ついでにやっていこう……と、ただそれだけのことである。
 因みに、私はこの献血を行いながら、骨髄移植に関する説明ビデオ(15〜20分)を見た。
 実に合理的でよろしい。
 そんなわけで、オマケの長ったらしい献血に協力したとしても、かかった時間は60分程度。
 実にアッサリしている。

 問題は、実際に患者と自分のHLA型が一致し、実際に「骨髄移植に協力して!」と頼まれた場合だが、これは宝くじに当たるくらいに確率が低いだろう。
 多分、数万分の1。ヘタすれば数十〜数百万分の1程度だと思う。
 私なんかは実際に骨髄提供できればいいな〜なんて思う(病院や歯医者に全くの恐怖心がない)タイプの人間だが、それでも現実的に考えて実際に骨髄提供することには至らないだろう。

 ……あまり参考にならなかったかな。
 私の場合は凄くスムーズに進んだ極端な例であり、「おいおい、血液センターよ。それでいいのか!?」と思わせるほど簡単なものだったが、大都会だとこうもいくまい。
 色々と待たされることもあるだろうし、手続きや作業の仕方も違ってくるに違いない。
 実際、住民票を取得するにしても土地の役所によって手続きの方法は全然違ってくるものだし。
 それと似たようなものだ。
 だけど、血をとってビデオ見てお終い……というのはどこでも一致しているだろう。
 骨髄移植という言葉に勝手にヘヴィなイメージを持っていると、あっけにとられること請け合いだ。
 まあ、そんなわけですから。皆さん、そんなに不安を抱える必要もなく登録はできると思います。
 是非とも、ご協力を。




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