風祭玲・駄文シリーズ






「バレリーナ 2」

作・風祭玲





始めに…
このお話は「010:バレエ教室」の別バージョンです。
ドコが違うのか読み比べてみてください。




アキオが姉のユキコより呼び出され、彼女が所属するバレエ団のレッスン場に着い たのはその日の夕方だった。

アキオはかねてからバレエに倒錯した感情をもっていて、

ユキコが公演などで不在 ときを見計らっては姉の部屋に忍び込むと、レオタードをこっそり身につけ、

そして鏡に自分のレオタード姿を映しては、バレエのレッスンを受けている自分を妄 想していたりしていた。

そして「バレリーナになりたい。レオタードを着てバレエのレッスンを受けたい。」 っと密かに願ってもいた。

そんなある日アキオが学校から帰ると、自分の机の上に1通の置き手紙を見つけた。

「なんだろう?」と思って開けてみると、差出人はユキコからで、

「アキオに重大な用があるから直ぐにバレエ団のレッスン場へ来い。」 と書いてあった。

アキオは「え?」っと一瞬不安になったが、

不安よりも憧れだったバレエ団のレッスン場に入れる言う期待で胸がいっぱい になった。

アキオはスグに家を出ると姉が待つバレエ団のレッスン場へと直行した。

しかし、アキオがレッスン場に到着するとその建物からは人の気配がなく、

近所の公園で遊んでいる子供達の声が響いているだけだった。

アキオは少し不安になり、建物に入るとレッスン室へと向かった。

建物の中はアキオが小学校の頃に姉のレッスンを見学に数回来たことがあるので、 レッスン室の位置は大方判っていた。

レッスン室に着くとアキオは大きく深呼吸すると、

「姉さん、僕だけど…」っと言いながらレッスン室のドアを開けた。

そこにはレオタードにトゥシューズ姿のユキコが外をみながら一人で立っていた。

アキオは間近に見るレオタード姿の姉に一瞬欲情したが、それをかみ殺すと、

「姉さん、ぼくに何か用なの?」と言った。

ユキコは振り返るとアキオを一瞬キッと睨んだ、そして、

「よくきたわね、アキオ」と言った。

アキオは姉の意外な目線にちょっとビックリしながら、

「手紙が置いてあったから着たんだけど、用って何?」と言うと、

「あなたをココに呼んだのは、あなたにバレエを教えてあげようと思ってね…」 と言った。

アキオは姉の言葉にドキッっとしながら「僕に…バレエを?」と尋ねると、

ユキコはアキオを再び睨むと、

「あら、あたしが何も知らないって思っているの?」

と言って一冊の本を床に放り投げた、

それはアキオがユキコの部屋から失敬して自慰行為のおかずにしていたバレエのパンフレットだった。

さらにそれには「バレエを踊りたい、バレリーナになりたい。」

と書いたアキオのメモを挟んでいたのだった。

ユキコはさらに付け加え

「あなたがあたしのいないときに、あたしのレオタードで ヘンな事をしているのも、ちゃんと知っているんだからね」と言った。

「バレタ…」

アキオの頭の中にその言葉が響くと一瞬の内に硬直してしまった。

ユキコはアキオの顔色が変わったのを確認すると、

「だから、あなたがこれ以上ヘンなことができないように、あなたにバレエの厳しさをみっちりと仕込んで上げるから、覚悟しなさい。」

っと言うと、トゥシューズの音を響かせてユキコは隣の部屋に行った。

そして、「なにそこで立っているの、早くこっちに着て着替えなさい」と命令した。

アキオはユキコの命令にビクっとしたのち、ユキコが向かった部屋へと行った。

そこは、更衣室だった。

アキオが更衣室に入ると、そこにはバレエで汗を流した女性達の臭いで満ちていた。

「なにボサっとしているの!」ユキコの強い声でアキオは我に返った。

ユキコは更衣室の中央で白い衣装を持って立っていた。

アキオには姉が持っているのがクラシック・チュチュであることがスグに判った。

ユキコはアキオの視線が自分の持っている物に向いているのを見ると、

それをアキオの足下に放り投げて「これ、なんだかわかるわね。」と言った。

アキオは姉の質問に答えないで居ると、再び強い声で「言いなさい」と命令した。

アキオはやや小さい声で「チュチュです。」と答えた。

ユキコは「はい、これがタイツと、これがトゥシューズ」と言って次々をアキオの 足下に投げた。

そして「チュチュはちょっと古くて飾りも取れちゃっているけど、あなたの体のサイズには合うはずよ、早く着替えなさい」と言った。

アキオは一瞬ためらったが、観念して着替え始めた。

着ている物を全て脱ぐと、タイツを履き、チュチュの肩紐を通したが、背のホック がなかなか止められなかった。

ユキコは仕方が無くそのホックを止めてあげたが、その時「へぇ、サイズぴったり じゃない」と言った。

チュチュを着終わると、アキオはトゥシューズを履いてシューズの紐を足首に巻い て止めた。

アキオが着替え終わると、ユキコは「さぁ、レッスン場に行きなさい」と命令した。

チュチュ姿になったアキオは、慣れないトゥシューズの音を立たてながらレッスン場 に出ていった。

ユキコがレッスン場に行くと、チュチュ姿になったアキオがばつの悪い顔をして待 っていた。

ユキコはそんなアキオに容赦なく、「さぁ始めるわよ!!」と言ってアキオにバレ エの初歩であるポジションを次々を教えていった。

アキオは大汗をかきひぃひぃ言いながら姉が要求するポジションをこなしていった。

やがて日は落ち満月がレッスン場の窓を飾る頃、アキオはようやくポジションを覚える とユキコは続いてパを教え始めた。

そしてアキオがパをこなす様になると、ユキコはこれでもかと今度はバリエーションを教え始めた。

月の光を受けながら、アキオは賢明にバリエーションを踊った。

ところがユキコは全くのシロウトであるアキオが、完璧なバリエーションを こなしているコトに疑問を持ち始めた。

「へんねぇ…なんで、あの子がこんなに踊れるの?、それに、体もあんなに 柔らかくなって」と思った。

そぅ、アキオがユキコから最初にポジションを教わっていた時はろくにポアントで立つことも出来ず

足も満足に開かなかったのが、いまでは楽々と開脚ができ、 アラベスクも優雅に決まるようになっていた。

アキオもまた同じようにバレエを踊れる自分を不思議に思っていた。

「一休みしましょう」と言うユキコの声でアキオは踊るころから解き放たれた、

そして、その時になって自分の胸が膨らんでいるのに気づいた。

「えっ」っとアキオは手を自分の胸に持っていった。すると「フニッ」とチュチュ越し に柔らかい感触が手に広がった。

その感触にアキオは驚いた。

そして「おっ、お姉ちゃん」と声を出した。

しかし、その声色はアキオのではなく鈴のような音色の少女の声だった。

ユキコは意外な声にビックリしてアキオを見た、

すると彼が着ているチュチュが月の光 を受け優しく真珠色に輝きだした。

そして、その輝きの中でアキオの体が徐々に丸みを帯 び、肩幅が狭くなっていった。

アキオはその場にへたり込んだチュチュはさらに光を増し、やがて彼の体は光の中へ沈んでいった。

やがて光は徐々に弱まり、まぶしさのために目をつむっていたユキコはようやく目を開 けた、

そして弟の無事を確認しようとしてアキオの姿を見て驚きの声を上げた。

そこには細かい羽根飾りと宝飾が施された真珠色のチュチュを身につけ、

頭には羽根飾 りと王冠を飾ったバレリーナが立っていた。

「あの話って本当だったんだ…」

可憐なバレリーナへと変身したアキオの姿を見たユキコはそうつぶやき、

そして、アキオに着させたチュチュにまつわる話を思い出した。

「まさか、こんなことになるなんて」

ユキコが呆然としていると

「お姉ちゃん?」

アキオが不安そうな顔をしてユキコの表情を見ている。

「えっ?あぁ…」

ユキコはアキオに気づくと返事をした。

「大丈夫よ…アキオ、あなたは念願のバレリーナになれたのよ」


それから、数ヶ月後ユキコのバレエ団による公演が開かれた。

そして、メンバーの中にアキオの姿もあった。





戻る