風祭玲・駄文シリーズ






「一粒の薬」

作・風祭玲





「はぁ〜っ、あたしってやっぱダメなのかなぁ」

レオタード姿の少女が体育館のドアの前でため息をつく。

「なにかお困りのようですね。」

「えっ?」

突然の声の京子は辺りを見回す。

と、柱の影から大きな鞄を持ったスーツ姿の男性が現れた。

「キャッ、チカン!!」

「あぁ…驚かせてごめんなさい。」

「実は私こういう者です。」

と言って一枚の紙を渡した。

その紙を読んだ京子は「セールスマン…さんですか?」と言った。

スーツ姿の男は「まぁ、そういうものです。」と言うと

「なにか、お悩みのように見受けましたが」と言った。

京子はしばらく考えると、口を開いた。

「あたし、新体操に向いていないのかなぁ〜」

「え?」

「一生懸命頑張っているのに、ドジばかりで」

「そんなことはないでしょう、人間頑張れば何でも出来ますよ」

「でも…あたしと同じように始めた”ともちゃん”なんてすっかり上手になっているし」

セールスマンがしばらく考えた後

「そうだ、あなたの演技を私に見せていただけませんか?」

「え?」

「私これでも、スポーツ用品関係のセールスをしているので、そこそこは判りますよ」と言った。

京子はちょっと考えると、

「いいわ、じゃぁ見せてあげる、中に入って…」

とセールスマンを体育館の中に入れると彼の前で演技を見せた。

一通り見た後で、セールスマンは「なるほどねぇ」と言って頷いた。

「え?、何がいけないのか判ったんですか?」

と京子が尋ねると、

「あなた、スタミナがないですね。だから演技の最後になると身体がへたばってしまって、思うように動かなくなるんですよ」

「そんなことはわかっているわよ、でも………」と言ったところで

「それなら、これを寝る前に一粒飲みなさい。」

と言って丸薬が入った瓶を京子に渡した。

「これってなんですか?」

「あぁ、これは、元気が出る薬のようなモノですよ、 というより、スタミナドリンクの成分を濃縮した。と言った方がいいかも知れませんね。」

「へぇ………飲んでも害になりませんか?」

と京子が聞くと、

「あぁ、すでに広く使われていますから、大丈夫ですよ」

「でも、これって高いんでしょう?」

「いえいえ、試供もかねてますので取りあえず飲んでみてください。」

「利かなかったら、返品なされて結構ですから」

「わぁ〜、ありがとう」

「で、試してみて良かったらお代はそのときに…」

と言って腰を上げようとしたとき、

「あっ、そうだ一つ言い忘れていましたが、必ず一日一粒にしてくださいね。」

と京子に忠告してその場を去った。



それからしばらくすると、京子の演技力は急速に磨きが掛かり、ついに県の大会に 出場することになった。

大会の前の夜、京子は残った7粒の丸薬を眺めると、

「この薬のお陰だわ…そうだ明日最高の演技が出来るように全部飲んじゃえ」

と全てを飲んでしまった。



大会当日、京子の成績は熾烈な優勝争いの一角に顔を出していて、

次の彼女の演技で全てが決まるところにまでこぎ着けていた。

体育館の隅で、京子が精神を統一していると、

「ここよろしいですかな」

背後からの声にびっくりして京子が振り向くと、 そこには大きな鞄を持ったあのセールスマンが立っていた。

「あら、この間のセールスマンさん。」

京子は相手が知っている人だったので、安心すると腰を浮かして場所を譲った。

セールスマンは腰を落として彼女の様子を見ると

「大分調子がよろしいようですね」と言うと、

京子は笑みを浮かべながら、

「えぇ、この間いただいたこの薬のおかげで、優勝できるかもしれません」

と言って丸薬が入っている袋を見せた。

「おぉ、それは良かったですね…」

「自分が進めた商品でお客が喜ばれることが、もっとも幸せですよ」

と言ったところで、彼女の身体がさっきよりも大きくなっていることに気づいた。

彼は少し不安になると、

「あのぅ失礼ですが、ちゃんと処方は守っていらっしゃいますか?」と訪ねた。

「あぁ、1日1粒と言う話ね」京子が答えると、

「はい、そうですが」を探るようにセールスマンが言うと、

「今日大会でしょう?」

「だから本番で失敗しないように、昨日残った7粒飲んじゃった。」

とサラっと答えた。

「えっ、7粒も飲んでしまわれたんですか?」

セールスマンがびっくりして聞き返すと、

「そうよ、おかげでいますっごく力が湧いてきているわ」

「じゃっ、これから最後の演技があるから…そうそう、お金は終わったら払うからココで待っててね。」

と言うと京子は立ち上がり、駆け足で競技会場に向かっていった。

「あっ、あのちょっとぉ〜」

っと呼び止めたが京子の姿は彼の視界から既に消えていた。

セールスマンは頭をかきながら、

「あ〜ぁ、行ってしまった。」

「まぁ7粒も飲んでしまったのなら仕方がないなぁ。」

と言うと「どっこいしょ」と腰を上げ、

大きな鞄を持って体育館から出ていった。

そのころ京子は走りながらも懇々と沸き上がってくる力に確かな手応えを感じていたが、

そのとき既に彼女のレオタードは盛り上がって きた筋肉でパンパンに張っていることにまだ気づかなかった。

京子が競技会場に着くと、ちょうどアナウンスで彼女の名前を呼んでい るところだった。

「コーチ、遅れてすみません。」

京子はそう言うと、ふと自分の声が妙に低くなっていることに気づいた

「あれ?、のどの様子が変」

しかし、彼女はそう思いながらも手具を取ると演舞台へと向かった。

そのとき何故かコーチからも仲間からも声がかからず、 みんな唖然とした様子で京子を見送っていた。

それもそのはず、そのときの京子の身体はまるでボディビルダーの様に 筋肉が盛り上がり、

レオタードは引きちぎれんばかりの状態になっていた。

「あれ、どうしたんだろうみんな…」

京子は不思議に思いながら演舞台に立った、

ざわめいていた会場がまるで水を打ったように静かになる

しばし遅れて、曲が流れ始めると、京子は手具を操りながら舞った。

「行ける!!」

京子はコレまででもっとも良く動く自分の身体に自信を持った。

しかしそのとき彼女の股間がムクムクと膨らみだしキノコのような物体が、

彼女の伸びきったレオタードを下から押し上げ始めていた。

「あと少し…」

京子はまだ自分の身体の変化に気がつかずに演技を続ける。

そして、最後のフィニッシュを決めたとき、京子のレオタードは悲鳴を上げるように引きちぎれ、

筋肉の塊と化した彼女の身体が大衆の目の前 にさらけ出された。

股間に逞しくそびえ立つ男根と共に…

その数秒後、体育館はこの世とも思えない悲鳴と叫び声に包まれた。

「あ〜ぁ、だから言ったのに」

セールスマンは騒然としている体育館に振り向くと、そのまま何処へと去っていった。





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